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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
イッキ読み 第1~2話

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イッキ読み 第2話 みんなの居場所(前編)

 静也(せいや)星条院(せいじょういん)高校の生徒会に入って一ヶ月が経過した。


 今は庶務として生徒会の仕事をする一方で、セブンスターズの構成員として日々Greedと戦う任務を遂行中である。

 とはいっても、まだ駆け出しなので誰かのサポートだったり雑用ばかりをしている。それでも要所要所で能力と欲を使い、それでいて大きなミスも無いので組織の一員として役に立ってきている。


「みんな。大変なことが起きた」


 そんな中、今日も生徒会室に集合した一同が校内の事柄について仕事をしていると、生徒会長の星見(ほしみ)月乃(つきの)がおもむろに口を開いた。

 直後全員の動きが止まり、その視線が最奥に座る彼女へと向けられた。


「一体何があったんだ?」

「……中間テストが………近い」


 妙に静かな間が生まれ、それを切ったのは副会長の姉ヶ崎(あねがさき)(ゆい)だった。


「あらあら。もうそんな時期ねぇ」

「なんだ、そんなことか。僕には関係ないね」

「テストォォ! テストォォォ! キィィィィィッッッ!!」

愛枷(まなか)()ぇがご乱心ですぅぅ!」


 三者三葉。いや、六者六葉にその反応を示す。

 ちなみに静也は無反応で、一つ学年が下の能徒(のと)(かなう)はまるで微動だにせず全員にお茶を淹れている。


「静也。緊急のお仕事だよ。中間テストを排除してきて」

「無理に決まってんだろ」

「それなら先生達を一人残らず排除してきて」

「大人しい顔で恐ろしいことを言うな」

「テストォォォテストォォォォ!! ィィィィィッッッ!!」

「まだまだご乱心ですぅぅ!」


 どんだけテストが嫌なのだろう。いや、好きな人なんていないか。

 生徒会室が次第に混沌に包まれようとしているのに、金錠(きんじょう)狩人(かぶと)と唯は冷静だった。


「金錠。お前は平気なのか?」

「ふん。学校のテストなど、この僕にかかれば余裕さ。理数科目だろ?」

「いや、五教科だが」

「なん……だと……?」

「馬鹿だろ」

「馬鹿とはなんだ貴様!」

「あらあら。狩人くんは理数系は出来るけど、文系科目はまるっきり駄目だもんねぇ」

「そういう姉ヶ崎はどうなんだ? まさか余裕だなんてことはないだろうな?」


 動揺を隠せない様子の狩人の問に唯は一切崩れない余裕の表情で言う。


「大丈夫。お姉さんはやるときはやるから。だって、保健体育のテストでしょぉ? 余裕よぉ」

「五教科だって。国数理社英だから」

「そん…な……」


 静也はこの日このタイミングになって初めて唯の表情が蒼白になったところを見た。


 ちなみに星条院高校は毎年難関の国公立大学に進む人が多いため、そのテストは他の高校と違って特殊だ。


 高校生の国語といえば、現代文や古典、漢文。数学であれば数IAにIIB、ⅢC。社会は現代社会に日本史と世界史。理科であれば化学と物理、そして生物といったように一科目に対して複数分野がある。

 しかしこの高校ではそれら数種類を全てまとめて国語としていたり数学としている。もちろん理科や社会も同じだ。


 つまり、各科目でその包括的な学力が求められるがゆえに星条院高校のテストは毎回高難易度と言われているのだ。


「貴様。姉ヶ崎には馬鹿だと言わないのか?」

「言ったら色々と問題になりそうだから言わねぇよ。馬鹿は金錠。お前だけだ」

「んだと!」

「みんな落ち着くです! 大丈夫です! 給食の科目ならわちが教えられるですっ!」

「だから五教科だって言ってるだろ。給食って科目はどこの学校にもねぇよ」

「わちは……わちはこれからどうすれば……」


 手に持っている菓子パンを落として絶望の表情へと変わる小牧(こまき)悟利(さとり)

 ちなみに、悟利が食べ物を落とす様子も静也はこの時になって初めて見た。

 静也を除き、六人中三人が馬鹿であると確定。


「国ゥゥ数ゥゥッッ! 理ィィィッッ! 社ァァァ英ィィィッッッ!」


 今なお狂乱の叫び声をあげ、真っ黒な長い髪を振り乱している愛枷には聞くまでもないだろう。


「月乃……?」


 窓の外に広がる青空を見上げる月乃。


「……静也。テストなんて最初から無かったの。私達はきっと悪い夢を見ているんだよ」

「現実逃避をするな」


 そんな月乃にはもはや生徒会長の威厳も余裕も、いつもの地味な声音も無く、あるのはただの虚無だけだった。


「大体、お前はどうなんだ。無波(ななみ)。テストが怖くないのか?」

「金錠様。お言葉ですが、無波様はどんな時でも常に学年の平均点を出しております。恐らく今回も難なく出されることでしょう。ですので問題ないかと」


 混沌とした生徒会室で淡々と全員の前にお茶を出し終えた能徒が冷静に言った。


「そういうことだ金錠。残念だったな。結局馬鹿はお前だったんだ」

「くっ……だが、たかだか平均点だろう? 理数なら僕が上だ」

「テストは勝ち負けじゃない。全教科の赤点をどう回避し、いかにしてその後を普通に過ごせるかだ」

「それで面白いのか? 普通でいることが、平均でいることが」

「まぁ。俺はこれがデフォルトだからな。それで、どうするんだ? 中間テスト」


 静也は狩人だけに言ったつもりだったが、その声は今ここにいる大多数の人の心に深く突き刺さった。


「静也くんは人をいじめるのが好きなのねぇ……」

「終わりィィ! 終わりィィィィッ! この世のォォッ! 終わりィィィッッ!!」

「ううん。まだだよ。私達には最後の希望が残されてるよ」

「そうでした!」


 月乃の一声にはっとした一同。そしてその希望に満ちた視線がある一点に集中した。


「能徒。私達にはもうあなたしかいないわ」

「待て待て。能徒は一年生だ。俺達二年の範囲なんて分かるわけがないだろう?」

「そんなことないよ。ね? 能徒」


 次は室内の掃除をしていた能徒は手を止め、まるでこのやり取りに慣れているかのように口を開いた。


「はい。恐れながら、私は既に文理問わず難関国立大学の入試までは対応出来るように備えております。ですので、なんなりと私めにお尋ねください」

「ほら。能徒は凄いんだよ。秀才なんだよ。これで何回赤点を回避出来たことか」

「誇って言えることじゃないぞ、月乃」

「……英雄………メシア………」

「ふん。僕は一人ででも余裕だ」

「あらあら。お姉さんも色々教えてほしいわぁ」

「完璧なのです! わち達は救われたのです!」


 まるで『光あれ!』とでも言ったかのような能徒の言葉に全員が安堵し、この教室が息を吹き返したかのように活気づいた。


「あ、ちなみに静也。今回は静也にも教えてもらうからね?」

「なんで俺が?」

「だって平均点を意図的に出せるってことは、言い換えれば赤点を絶対に回避出来るってことでしょ? だからまず静也が私達に最低限の赤点回避の勉強を教える。そのうえで能徒が強化することで、晴れて生徒会は学年上位を総なめに出来るってことになるんだよ」


 さっきの現実逃避はどこにいったのやらと言わんばかりに月乃は高らかに言った。


「ということで、静也。今回の任務は私達全員の赤点を回避すること。能徒は底上げをすること。お願いね」

「承知しました。星見様」

「ちょっ…ちょっ……」

「無波様。星見様がそうおっしゃっています。私達は任務を全うしましょう。何卒、よろしくお願いします」


 能徒の目にはもはややる以外の選択肢は無いという強い意思が宿っていた。そしてその意思は静也ただ一人に向けられており、決して断れるような雰囲気ではなかった。


「……分かったよ。でも俺は自分に出来ることしか出来ないからな? それこそ上位なんて夢のまた夢だ」

「はい。ありがとうございます。これで今回も生徒会は安泰です」


 今回も。

 その言いようからして、もはやこれは恒例行事と化していることなんだろうなと静也は悲しくも思ったのだった。


 それから一行は下校時刻となったので生徒会室を出た。すると校門へ向かう途中でその男に会った。


「おや? 誰かと思えば生徒会ご一行様じゃないか」

才木(さいき)君。何か用かな?」


 彼は才木秀生(しゅうせい)というらしく、この時期になると度々生徒会に絡んでくる奴だ。


「何か用? 決まっているだろう? そろそろ中間テストだ。生徒会ともあろう人達が毎回この僕に負けているんでね、少しは励ましてやろうと思って来てやったのさ」

「うん、ありがとう。みんな、帰るよ」

「ちょっちょっ」


 月乃は特に何かを思うでもなく、その言葉を冷淡且つ華麗に受け流して再び歩きだそうとする。


「逃げるのか? 生徒会。それとも、生徒会長の星見月乃は僕の圧倒的な実力を前に腰を抜かす臆病クソ女なのか?」

「あぁ? 今なんて言った?」


 その言葉には静也が反応し、その体の奥からは沸々と欲が湧き上がってくる感覚を得ていた。そしてそのまま才木に詰め寄ろうとした時、月乃が制止した。


「で。本当は何の用? 才木君」


 仕方なくといった調子で月乃が才木に問いかけると、彼はにっと笑う。


「素晴らしい提案を持ってきたんだ。この僕を生徒会に入れてくれないか? 優秀な僕ならこの学校をもっと良く出来る。この圧倒的な頭脳で素晴らしい学校にしてみせるさ」

「うーん。却下だね。生徒会は頭さえ良ければいいわけじゃないし、適任者がこの前入ったばかりだから役職の椅子は空いてないの」


 才木は自らをプレゼンするように言うが、対して月乃のテンションというか声のトーンは変わらない。


「ほほう。それがその無波静也ってわけか。聞くところによると、そいつは平均点しか出せないただの凡人だそうじゃないか。そんなのよりも僕にしておいた方がよっぽど有意義だと思うがね」

「思いあがるな(やから)。僕達生徒会は星見が自らで選んで揃えた精鋭だ。この形が最適なのだ」

金錠(きんじょう)狩人(かぶと)。幼い頃から自らで財を成し、今ではその歳で貿易会社の社長と株トレーダーを兼任する経営と金融の秀才。でも学校の勉強は出来ないポンコツ」

「んだと?」

「テストでは学力が全てだ。結果が全てだ。その結果の前では弱者(バカ)は意見することすら許されない。逆を言えば、強者(エリート)は何を言い、求めてもいいのだよ。もう一度聞こう。僕を生徒会に入れる気はないか?」


 自らの学力を説く才木は、まるで成績というものに憑りつかれた悪魔のようだった。

 無論そんな異様な様子に反応しない生徒会、いや、セブンスターズではなかった。なので月乃が条件を提示した。


「うーん……それじゃこういうのはどう? 次の中間テストで才木君が私達生徒会二年生の誰か一人にでも五教科の合計点で勝てたら入れてあげる。でももし負けたら、その時は金輪際生徒会に入りたいなんて言わないこと。それと、一つだけ何でも言うことを聞いてもらうからね。それでいい?」

「二年? 一年もだ。学年なんて関係ない。結果のみが全てを語るのだからな」

「いいよ。その代わり、才木君が負けたら必ず条件を飲んでもらうからね?」

「臨むところだ」


 そう言うと才木は去って行った。


「なぁ月乃。あんなこと言って良かったのか?」

「……まずいことになったね。売り言葉に買い言葉っていうんだっけ? 良くないね」

「あわわわ……大変ですぅぅ……」

「きひひひ……いざとなったら……みんなのために……才木を消す…」

「それは駄目かな。みんなも気付いたと思うけど、多分才木はGreedになる可能性があるの。生徒会として、セブンスターズとして見過ごせないよ。ということで、静也、能徒。しっかりとお願いね」

「承知しました。必ずや生徒会に勝利を」


 それを聞いた静也は、横にいた能徒にふと目を向けた。

 表情こそ読めないが、それでも彼女は言葉の通り生徒会を勝利に導く決心をしたようだ。


「やっぱりやるしかないみたいだな」


 と静也はやれやれといった様子を見せるが、さっき月乃を()()()()()呼ばわりしてきた才木を許すわけにはいかないので覚悟を決めたのだった。



***



「というか思ったんだけど、あの才木を排除しちまった方が早いし平和に終わるんじゃねぇか? 月乃を臆病クソ女呼ばわりしたんだし重罪だろ?」

「同感だな。それが一番効率的だ」


 セブンスターズの事務所に到着する。

 これから勉強会という時に珍しく静也と狩人の意見が合った。


「こぉらっ。そういうこと言わないのっ」

「そうです! とりあえずご飯を食べて落ち着くです!」

「でも()()はどうするんだ? こっちに来てからずっとあんなんだぞ?」


 そう言う静也が指差した先では、自分の武器である大鎌を研いでいる愛枷がいた。

 長い髪を下に垂らして研いでいる手元や表情は見えないが、しゅ…っしゅ…っという砥石の音を鳴らしながら不気味に呟いている。


「みんな……守る……私が…守る……他の人……いらない……鬼死死死(キシシシ)……」

「愛枷ちゃん。そろそろ勉強するから戻っておいでぇ」

「キシシ……ふひっ……ふひひひ……」

「愛枷。こっちにおいで」


 唯の呼びかけに少し反応を示したようだがそれでもしゅ…っしゅ…っという音を止めず、月乃が呼んでやっと席に着いた。

 静也にとってこの光景は新鮮そのものだった。

 今まで勉強をするとしても一人でやるか、いても月乃くらいだったのでここまで大人数でというのは初めてなのである。


「それじゃ、静也始めて」

「分かった。まずは赤点回避からだな」


 ということで、即席で用意された円卓に静也と能徒以外が座る中で静也はこれまた間に合わせで用意された、足にコロコロが付いているホワイトボードに書き連ねていった。

 今回は初回なので大まかにおさえておきたい範囲と予想される難易度、あとは問題傾向くらいをである。それを見ているみんなは、各々で分かりやすくメモをしていたり集中を絶やさないようにそれぞれで工夫しているようだった。


「―とまぁ、今回の中間テストだとこれくらいが平均なんじゃないかなと思う」

「ちなみに、無波の言う平均ってのはどれくらい信用出来るんだ?」


 素直な疑問をぶつける狩人。


「大体は。そこそこ信用していいと思う」

「それじゃ分からん。それに、()()を張って失敗したら取り返しがつかないだろう」

「狩人。それは私が保証するよ。静也は今まで平均とか普通関係の予想を外したことがないからね」


 月乃がそう言うと、どこからか静也の勉強ノートと過去のテスト問題を照らし合わせたデータを全員の前に示した。


「あらぁ。見事に全部平均ねぇ」

「す、凄いです。何を食べたらこんなことが出来るですか?」

「……きひひ」

「……ふん。まぁ、信用に値するということか」

「どうも。テストまで残り一週間だから、最低限これを完璧にしておけば赤点は免れるはずだ。でも、全員が平均じゃ才木には勝てないんだよなぁ」


 静也が困ったように言う。

 才木の学力の高さは学年の誰もが知っている。

 具体的には、五教科全てにおいて常に九十点以上をマークし、今までの定期テストでは合計450点以下をとったことがない。学年順位ではほぼ毎回上位三位以内に入っているというまさに秀才なのだ。


「皆様。その平均をさらに底上げするために私がいます。必ずや皆様に勝利をもたらしてみせましょう」


 と能徒が冷静な口調で言う。


「ほほう。なら、才木でも()ってくれるのか?」

「ご要望とあれば」

「こらこら、それじゃ駄目でしょぉ?」


 軽い冗談を言う狩人の額を小突く唯。


「それじゃ能徒。あらためて仕事をお願いするね。私達全員の五教科平均点を九十五点以上にして」

「承知しました。必ずや」

「おいおい。流石にそれは無理だろ。 生徒会で上位全てを獲るレベルじゃないか」

「こうでもしないと勝てないと思うよ? 今回ばかりは向こうも本気でくるだろうし、せっかく集めた仲間を解体されるのは嫌だもん」

「………みんなで……勝つ……誰も…とらせない……ひひひ」


 月乃の一声に呼応するように全員の顔には強い意志が宿った。


「……そうだな。月乃が言うならたまには俺もちゃんとやるか」

「え? いつもちゃんとやってなかったの?」

「当たり前だろ? 俺は優劣とか競走が嫌いなんだ。普通が一番。だから平均を取ってたんだ。でも……」

「でも?」

「いや、なんでもない。俺が言うのもあれだけど、絶対に勝とうな」


 静也が一瞬だけ見せた影を含んだ表情に月乃は違和感を得た。

 しかし今は追究しないでおくことにして口を閉じた。


「それじゃ、能徒。ここからはお願いね」

「承知しました。では―」


 能徒は一年生とは思えないくらいに理路整然と話し、尚且つ全員が理解しやすいように説明している。

 さらに、その話し方といい教え方といい、全てにおいて個々人を飽きさせることのない見事なものだった。同時に今後も億劫に思わせないようなスケジュールと、日ごとの明確な目標まで掲げてみせた。


「分かったです。明日からも頑張れそうです!」

「お役に立てて光栄です」

「これじゃ無波の方はいらないんじゃないか?」

「金錠様。お言葉ですが、私の方はあくまで基礎と普通が出来てこそ活きるのです。ですので無波様の基礎に関する教えは必要不可欠なのです」

「そうだよ? 基礎をしっかり固めてこそ応用が強くなるんだよ?」

「まぁ、金錠がそこまでして俺の方はいらないって言うなら応用で盛大にコケるといいさ。お前のことは忘れないぜ」

「負けみたいに言うな。くっ……仕方ない。僕だって生徒会から抜けるのは嫌だからな。今回はお前のも信じてやる」


 狩人は眼鏡をくいっと上げると、再び集中モードに入った。

 それを見るやいなや、他の全員もその視線を能徒と静也に向けた。


「いかがなされたのです? 本日のカリキュラムは終了となりますが」

「能徒。みんなはまだ頑張りたいみたいだよ? もう少しだけやらない?」


 そんな中で時刻は既に十九時を過ぎていた。

 最初からとばすと後々息切れして長続きしない可能性がある。能徒はそう思って今日はきりあげようとしているのだが、目の前の仲間達の嬉々とした視線を前になかなか断りづらくなっていた。


「ならあと一時間だけな。いいだろ? 能徒」


 そこで静也が追加の時間を告げてそんな彼女を見た。


「無波様。……まぁそうですね、皆様が望まれるのでしたら私は使命を全うするまでです」

「やった」

「これでまた賢くなれるです! アイムハングリー精神です!」


 やれやれといった顔を見せる能徒であったが、どこか嬉しそうな表情も浮かべていた。

 それは静也も同じで、その細い糸目の表情もどこか和らぐ。


「それじゃ、基礎からの応用の順でいくからな?」

「はいです!」

「うん。よろしくね」


 勉強というのは本来つまらないものである。

 でも大勢でやる勉強会がこんなにも楽しいものだったなんて静也は知らなかった。

 それもあって静也はもちろん、みんなは時が経つのを忘れてこの時間を楽しんだのだった。




 それからの日々はあっという間だった。

 日中は学校で授業を受け、生徒会やセブンスターズの活動があればすぐさま終わらせて放課後は事務所で勉強会。

 そんな毎日が過ぎること五日。中間テストを明後日に控えた日となった。


「うーん……分かるようで分からないような……」

「そうねぇ……」

「エネルギー切れですぅ……」

「…限………界……」


 各教科を満遍なく勉強していてもやはり個人の得意不得意が大きく影響するため、大詰めになればなるほどその苦悩は増していく。

 それを順番で教えていく静也と能徒も自分の勉強もやらなければいけないので大変だ。


 ちなみに月乃と唯は理科の化学分野、悟利は数学、狩人は国語の古典分野、愛枷は社会の歴史分野で躓いていた。ただ、全員に共通して伸び悩んでいる教科があった。

 英語である。

 やはり大多数の人が苦手とする科目なだけあって、いまいちしっくりとこないといった状況だ。


「小牧様はこの公式で考え直してみてください。星見様はこのページを参考に。姉ヶ崎様は化学式を見直していただければ解決出来るかと。金錠様は文章をよくお読みください。文系科目はどこかに答えのヒントがある場合が多いです。深見様は語呂合わせでしたり、出来事を物語と思って覚えるとよろしいかと」

「…なんと殺伐……平城京…… 泣かぬなら……泣かせて殺せ……キヒヒヒヒ……」

「そこは範囲ではありません」


 そんな中でも能徒は一切疲労の色を見せずに的確にアドバイスをしている。

 事実、全員の実力は既に赤点回避を確実なものとしている。

 あとはどこまで詰めて伸ばせるかや、才木に勝つためにどれだけ頑張るかである。


「無波様。いかがなされましたか?」

「いや、何も」


 静也はひたすらに頑張る仲間達の姿をまるで何か思うところでもあるような目で見ていた。


「静也。ちょっと来て」


 そんな時、静也は月乃に呼ばれて廊下に出た。


「どうした? 月乃」

「どうしたもなにも。何か悩んでる?」

「悩んでるというか……」


 長い前髪で隠れた月乃の瞳ははっきりと見えないものの、静也を心配しているようだ。


「前にちゃんとやるかって言った時も何かあるみたいな顔してたよね? もし何か心配なことがあるなら話してほしいな」


 月乃は責めるでもなく威圧的とかでも決してなく、ただ昔からの幼馴染みとして心配しているといった様子で問いかける。

 その様子に静也は少しの間迷っていたが、意を決したようにようやく口を開いた。


「俺がちゃんとやったらみんなはどうなるのかなって」

「?」

「出る杭は打たれるって言葉があるだろ? 覚えてると思うけど、俺は中学二年生までは常に学年トップだったんだ。傍から見ればトップはみんなから羨望の眼差しを向けられるはずなんだけど、実際は年々妬みが増していって、次第に自分にとって都合のいい時にしか頼ってこない卑しい人ばかりが俺の周りに集まったんだよ。試しに順位を落としてみたら、みんなは見限ったかのように急に離れていったよ。俺はそんな汚い人達をたくさん見てきたんだ」


 静也はあの日を思い返すように窓の外の庭に目を向けた。

 そこには蟻にたかられてもがく虫がいた。


「だから波風立てずに、普通で平均的にやっていこうって決めたの?」

「そう。人間は皆一様にどこかしらに醜い部分を持っている。俺はそれが嫌で嫌で仕方ないんだ」


 もしかしたら今いる生徒会も、月乃でさえも自分が本来の実力を示したらあの時の人達みたいな醜悪な姿を見せてくるかもしれない。

 そんなのはもうまっぴらだ。

 静也はそう思うが、口には出さなかった。いや、出せなかった。

 なぜなら次に言葉が出そうになった時には既に月乃がそれを否定していたからだ。


「私達生徒会は、セブンスターズはそんなことは絶対にしないよ。だって私達は強い人や優秀な人を常に求めてるから。静也はさっき、出る杭は打たれるって言ったよね? ウチはその逆、出る杭は伸ばせなの。優秀であれば優秀な程いい。能ある鷹は爪隠すなんて言葉もあるけど、能があるなら爪を隠すな、堂々としていなさい。それが私達だよ。みんなそうだよ? だから私達は大丈夫。何も恐れることはないんだよ?」


 静也は地味で大人しい月乃がこんなにも真剣に真っ直ぐとした声で言葉を発したのを初めて聞いた。

 それゆえに、その言葉は静也の心の芯に深く刺さった。


「そうか。分かった。ありがとうな月乃。そう言ってくれて肩の荷が下りたよ。俺も才木に負けるわけにいかないし、せっかく出来た仲間達の誰か一人が欠けるのだって見たくない。俺も本気を出すことにするよ」

「うん。その意気だよ。みんなで一緒に生徒会を守ろう? それで才木君を()()()()と言わせてやろうよ」


 前髪が靡いて一瞬だけ見えた月乃の瞳はとても嬉しそうだった。

 そしてそれは再び覆われた前髪の奥から静也に期待の眼差しを向けていた。


「当然だ。いつも平均の俺が本気を出したらどうなるか教えてやらないとな。よし、俺も基礎だけじゃなくて確実に点数が取れて理解も出来るとっておきの方法をみんなに教えてやるかな」

「そんなのがあるの? なら私の英語と理科をどうにかしてよ」

「もちろんだ。完璧にしてやる」


 静也の顔にはもう迷いや憂いは無い。

 あるのは今から少し先の未来へ向けた希望と、それに立ち向かう覚悟だった。


「みんな! 静也がとっておきの勉強法を教えてくれるって! これでみんな満点だよ!」

「ま、満点ですとぉ!です」

「あらあら、お姉さんも知りたいわぁ」

「満点……ま…満点満点満点………っ!」

「ふん。僕はいい。どうせろくなものじゃないだろう」

「それじゃ金錠は無しな。今まで楽しかったぜ」

「だから一人だけ負けたみたいにするな。分かった。仕方ないから聞いてやる。とっとと話せ」


 戻って来た静也と月乃を囲むようにワイワイと活気付く。

 それを見ている能徒もとても楽しそうだ。


「では、ここからは私ではなく無波様に。今日までの分で要注意の箇所と出題の可能性が高い部分は全て終了です。確認としまして、後ほど無波様含め皆様には模擬テストを行っていただきます。明日はテスト前最終日なので、その復習と深い所の対策を行います」

「うん、分かった」

「ちなみにですが、模擬テストの難易度は少し高めに設定してあります。本物の中間テストだと思って取り組んでいただきますようお願いします」


 間もなくして静也の教えが始まり、目から鱗といった情報や勉強法、詰め方を教わり、終わった頃にはみんなは自信に満ち溢れた顔になっていた。


「ではよろしいですか?」

「いつでもいいよ」


 そして終了後、能徒以外はみんな席に着いて模擬テストを始めた。

 この部屋にはもうペンを走らせる音しかしない。

 全員がこの数日間でやったことを思い出し、模擬とはいえ良い点数が出るように真剣な面持ちで挑んだ。




「お疲れ様でした。ではこのまま採点に入りますので、皆様はしばらくお待ちください。休憩等、ご自由にしていただいて結構ですので」


 対中間テストによる模擬テストが終了した。

 それから能徒は一旦部屋から出て行った。


「静也兄ぃ。なんかさっきのテスト、よく出来た気がするです! ありがとうです!」

「そうねぇ。お姉さんも、すごい出来たわぁ」

「…私……も……ふひ……」

「ふん。気のせいだと思いたいな」


 みんなはどうやら自信があるようだった。

 素直な感謝を向けられた静也は嬉しそうにしているものの、少し落ち着かないといった様子である。

 さらにしばらくして、能徒が戻ってきた。


「皆様お待たせいたしました。ではお一人ずつ五教科まとめてお返しいたします」


 能徒はさながら教師のように一人一人に答案用紙を返却していく。

 それぞれは受け取る寸前まで緊張し、全てが終わると全員の顔には安堵の色が現れた。


「おめでとうございます。皆様揃って全教科九十点以上でございます。そして無波様。お一人だけ全教科満点でございます。誠に感服いたしました」

「静也兄ぃ凄いですぅ!」

「ばっ…馬鹿な。平均しか出せないんじゃなかったのか?」

「出せないんじゃない。()()()()()()んだ」

「あらあら。これは本番が楽しみねぇ」


 静也はやはり少しだけ心配していた。

 もし自分が誰よりも良い結果を出したら周りはどう思ってしまうのだろうかと。

 月乃に励ましてもらったとはいえ、やはり少しばかりは恐れを抱いてしまっていたのだ。しかし、今周りにはまるで自分のことのように喜び、賞賛してくれる仲間達がいた。その様子を見て杞憂だったとやっと実感出来た。


「みんな。ありがとう」

「それは私達のセリフだよ。能徒もありがとう。これで本番は十分に戦えるよ」

「私は皆様のお役に立てて光栄でございます。無波様のご教示は特にお見事でございました」


 能徒も月乃も同じくとても嬉しそうである。


「それじゃ、間違えたところを復習するです! より完璧を目指すです!」


 今まで見たことが無かった良い結果がとても嬉しかったのか、悟利は一層活気づきそのまま欠点を補いたいと申し出た。

 しかし時刻はもうそろそろ夜の九時を過ぎようとしていた。


「小牧様。続きはまた明日に。明日は皆様とご一緒に答え合わせと最後の調整をいたしましょう」

「むぅ。丁度ノってきたところですのに。分かったです。明日を楽しみにするです!」


という事で今日は解散となった。



****



 才木秀生は自室で勉強をしていた。


「秀生」


 するとそんな呼び声とともに彼の父が入室した。


「勉強は捗っているか?」

「まぁね。これで僕も生徒会に入れるんだ」

「そうか。やっとか」


 机から目を離さずに答えた才木。

 そんな様子を後ろから見てはその机に近づく父。彼はその出来を確認するかのように息子が書き記していく練習問題の解答を覗き見た。


「ここ、間違っているぞ」

「あ……」


 すると父は才木へ侮蔑の眼差しを向けた。


「秀生。高校程度の問題を間違えるな。お前はこの俺の子なのだ。俺の子であれば生徒会に入り、優秀な成績を修め、主席で卒業していかなければならないのだ。分かっているな?」

「も、もちろんだよ。父さん。これはたまたま間違えただけで、普段はこんなミスはしないんだ」

「どうだかな。見たところ、こっちも間違えているではないか」

「これは……」


 すると父が深くため息をついた。


「やはりお前は秀勝(ひでかつ)とは違うんだな」


 秀勝。秀生の兄だ。

 兄もかつて星条院高校に在籍していた。そして生徒会長を務め、他を圧倒する成績を修めると主席で卒業していった。

 ちなみに今は東京大学医学部に在籍し、そこでも主席の地位をわが物にしている超エリートである。


「そんなことはない。僕だって兄さんの弟なんだ。エリートの血が入っているんだ」


 必死になって弁明する息子を父はまるで期待すらしていないような目で見ている。


「あなた。お電話です」

「分かった。すぐに行く。秀生。もしお前が俺の子でエリートの血が入っているなら、次のテストは全教科満点を獲れるに違いない。不動の学年トップだ。そして生徒会に入り会長になるのだ。分かったな?」

「……うん」


 それから父は退室し、まもなくして扉の向こうから話声が聞こえてきた。


「くそっ……」


 才木は震える程の力を込めて握った手を机に叩き付けた。しかし、どんなに悔しくても才木には父を見返せる程の実力はなかった。

 兄は日本一の学力を誇る東京大学で主席。父は世界一の学力を誇るハーバート大学を主席で卒業したのちにIT企業を立ち上げ、今では誰もが知る最大手企業の社長だ。


「くそっ……くそっ……僕だって………」


 才木は机に置いてある時計に目を向けた。

 既に日付が変わり、運命のテストまで残り一日となっていた。


「僕だってエリートなんだ。あんな生徒会になんか負けるはずがないんだ。満点を獲って会長になるんだ」


 父の言葉による悔しさと、なぜ今自分はこんなにも苦しい思いをしているのだろうかという、どこに向けていいか分からない感情がその心の中で渦巻いた。


 再びペンを取って勉強に励むもそこで才木は気付いてしまった。いや、思い出してしまった。


「満点なんて無理だ……」


 星条院高校のテストでは毎回一問だけ超難問が登場する。

 一説によれば各担当の教師達が生徒達に満点を獲らせないようにするためのものらしく、その問題を才木は毎回間違えてきたのだ。

 試験範囲内の知識を使えばどうにか解けるようにはなっているものの、そもそものテスト自体が難しいのでその難易度は難関大学の受験レベルまで跳ね上がっている。

 

 出来ても一問のみのミス。それが才木の限界だった。それゆえに今まで一度も満点をとったことがなかったのだ。

 しかし、ここで父の言葉を思い出す。


「満点……主席……」


 すると才木はあることを思いついた。

 しかし、でもと幾度も考えを改めようとするが、もはや今の才木にはそれ以外に考えられなくなってしまっていた。

 そして決断した。


「やるしかない…… 僕はエリートだ。教師達に疑われることなんて無いだろう。大丈夫だ。僕ならやれる」


 才木の目は濁っていた。

 まるで成績という重圧に支配された悪鬼のように。



*****



 次の日、中間テストの最終確認を済ませた生徒会一行は、出来ることは全てやったという思いと緊張感を抱いてセブンスターズの事務所に残っていた。


「緊張するですぅぅぅ……」

「あらあら悟利ちゃんったら。今から緊張していたら本番はもっとすごいわよ?」

「唯姉ぇ……」


 悟利が唯の大きな胸に埋まるようにして抱きしめられ、頭をよしよしされている。

 そんなことをしている唯は一見冷静そうに見えるものの、その表情にはいつもの柔和さというか余裕が見受けられない。


「ふん。たかが中間テストだ。今更どうこうなるものでもないだろう」


 と金錠狩人が言う。


「なぁ、金錠。どうして足震えてんだ?」

「なっっ! これは、武者震いだ!」

「怖いんだろ? 無理すんなって」

「う、うるさい。だいたいお前はどうなんだ? 無波」

「俺はもう覚悟を決めた。出来ることは全てやったし、もしこれで駄目ならそれまでだったってことだ」


 静也は強がる狩人にどっしりとした雰囲気を見せる。


「そうだよ? 私達はみんなで頑張ったんだよ? だからきっと大丈夫だよ」


 月乃がいつもの調子で言う。

 例のごとく長い前髪で両目が隠れているのでその表情は分からないが、落ち着いているように見えた。


 静也はふと全員を順番見る。

 悟利は未だに唯の胸の中。唯も表情が強張っている。狩人は分かりやすく動揺しつつも必死に強がっている。月乃は落ち着いて見えるだけで、恐らく落ち着いていない。

 だがそんな中でひと際静かな人がいた。


「能徒は大丈夫そうだな」

「はい。あとは運命を天に任せるのみですから」


 月乃の隣で静かに立っている能徒叶はいたっていつも通り冷静に答えた。

 静也と能徒は二人で生徒会の面々に勉強を教えたのだ。それゆえにお互いの実力をしっかりと熟知しており、この二人においてはお互いに心配していない様子だ。


 そしてもう一人、奇妙なほどに静かな人がいた。


「愛枷。大丈夫か?」

「……」


 深見愛枷である。

 いつもは奇声を上げたり、自らの武器である大鎌を研いだりしている彼女が今日のこの時は壁際でぼぅと佇んでいた。


 白いワンピースと月乃以上に長い前髪。毛量も多く後ろ髪は裕に腰の位置を超えていた。

 これだけ見るとやはり某ホラー映画のアレのように見えてしまう。


「大丈夫だよ」

「そうか」


 あれ? 今普通に答えたな。

 静也はその返答に少しばかりの違和感を抱いた。


「やっぱり愛枷も緊張してるみたいだね」

「いや、今普通に答えたろ?」

「うん。愛枷が普通に答えた時は何かある時なの。いつもの感じが愛枷にとっては()()なんだよ」


 月乃がそう言うと、愛枷がわずかにこくりと頷いた。


「あ、そうだ。愛枷。悪いんだけど、一つお願い頼めるかな? きっと気分転換になると思うから」

「なに?」


 すると月乃は愛枷の耳元で何かを言うと、愛枷はこくりと頷いた。


「それじゃみんな。明日は泣いても笑っても中間テストだから今日はもう帰るよ」


 月乃の一声により解散となると各々は帰路に立った。

 静也はそんな月乃と夜道を歩く。

 すると、ふと


「きっとみんな大丈夫だよね……?」


 と月乃が不安そうに呟いた。

 それはこの夜闇に消えてしまいそうな声だった。


 さっきはみんなの手前いつも通りを装っていたものの、やはり月乃も不安でいっぱいなのだ。

 それゆえに顔にかかる影がいつもよりも濃く、ただでさえ暗く地味に見えてしまう顔が一層暗く陰気に見えてしまっていた。

 だからこそ静也は


「大丈夫だよ。この勉強会でみんなは確実に良くなったんだ。だから絶対大丈夫だ」


 と幼馴染を元気づけた。

 それを聞いた月乃は静也を見て僅かに口角を上げると


「そうだよね。生徒会は、セブンスターズは誰も負けないよね」


 と、どこかほっとしたように嬉しそうに言うのだった。

 

 夜道を照らす月は満月だった。

 その光がみんなの帰り道を明るく照らしていた。



******



 ついにやってきた中間試験当日。

 通学路を歩く生徒達の手には最終確認の為にと教科書やノートが握られていた。


「月乃は余裕か?」

「そんな事ないよ? 昨日はあまり寝られなくて目の下にクマが二匹もいるよ」

「クマは()な。というか、そんなこと言われても目が隠れてるから分からないって」

「ほら。クマさんだよ」


 月乃はそう言って長い前髪を上げてクマの存在をアピールした。

 その凛々しくも黒曜石のように澄んだ目の下には、確かに立派なクマが生息していた。


「立派なことで」

「でしょ? そう言う静也はやっぱり余裕なの?」

「やるだけのことはやったからな。それに、本音を言えば、頑張るのはもう疲れたんだ」

「そっか。静也らしいね」


 それから二人が校門をくぐると、その先には生徒会の面々がやはり教科書やノートを見ながら歩いていた。その様子はまさに必死そのものだったので二人は声をかけなかった。


 教室に到着すると、それぞれがそれぞれの教室で緊張した。

 するとまもなくして試験監督の教師が教室に入り、注意事項を説明し始めた。


「では、これから試験を始める。教科書やノートはしまうように」

「先生!」

「小牧さん。なんだね?」

「おやつはいくつまで出しておいていいです?」

「一つも駄目です」

「そんな……」


 一年生の教室ではそんな会話があり、


「深見さん。それは何かな?」

「…きひっ……わら……人形……かわいい……」

「関係無い物はしまいなさい」

「きひひ……」


 二年生の教室でもそんな会話があった。

 やはりそれぞれは緊張しつつも、どうにかそれをほぐそうとしていた。

 だが、それでもついに運命の時が訪れた。


「では始め」


 その一声の直後、各教室にはペンを走らせる音しかしなくなった。

 月乃、唯、狩人、愛枷、悟利、能徒、そして静也。みんなそれぞれが今日のために励んできた努力を解答用紙へ記していく。

 その目は真剣そのもので、試験結果はもちろんのこと、才木との勝負で誰一人負けるわけにはいかないという強い思いが宿っていた。


「そこまで。では答案用紙を回収する」


 それにより緊張の糸が一つ解れた。

 しかし、それから少しの休憩をはさんで次の教科の試験が始まる。

 そこでまた全員が緊張し、己の持てる全てを出しきった。

 

 再び終了の一声が教室に響く。

 開始と終了が繰り返され、まずは午前中の分が終了した。

 午後の開始時刻が通達されると、一時の休息に入った。


「静也。ご飯食べよ」


 月乃が静也のところに行くと、続々と生徒会のメンバーが集まった。

 どうやらみんなそれぞれが共に頑張ってきたみんなと一緒にいたいようだった。なので場所を生徒会室に移動した


「金錠。なんか不服そうだな。教室で食べてきてもいいんだぞ?」

「勘違いするな。僕はたまたま生徒会室に用があっただけだ」

「そうか。なら用は済んだだろ? さぁ、戻ろう」

「飯くらい食わせろ。というか無波こそ何の用だ? もう飯は食い終わっただろ?」

「俺はいいんだよ。月乃が誘ってくれたんだからな」


 と相変わらず静也と狩人がいがみあっている。

 それを他のみんなは微笑ましく見ていた。


「悟利ちゃん。いっぱい食べるわね」

「はいです! 午後も頑張らなきゃなので、たくさん食べて挑むです!」


 悟利の前の机には購買で買ってきた大量のパンによる山が出来ていた。

 それをどれも美味しそうに食べているのだから、この食欲は目を見張るものがある。


「それじゃみんな。残り二教科だから最後まで頑張ろうね。終わったら、そうだね。今回はスイパラにでも行こうね」

「スイパラですと! 行くです! 頑張るです!」


 月乃はいつもの調子でそう言うと、まもなくして予鈴(よれい)が鳴った。


 午後も午前と同じく滞りなくテストが進み、みんなは最後の最後まで全力を出しきった。

 そしてやっと


「そこまで。これにて中間テストを終了とする。回収が終わったら今日は解散だ。結果は一週間後、返却とともに順位を職員室前の掲示板に張り出す。以上」


 回収と試験監督教師のその言葉が終わると、ついに全員から全ての緊張の糸が解かれた。

 

 帰宅の準備を終えた静也は、いつものように月乃と帰ろうとその席へ向かう。

 すると月乃は窓の外を見て何やら物思いにふけっていた。


「どうした? もしかして微妙だったのか?」

「そんなことないよ? ただ、ここからが勝負だなって思っただけだよ」

「あぁ、でも結果は来週だし、それまではゆっくりしようぜ」

「そうだね。うん、帰ろうか」


 二人が教室を出ると、またしても生徒会の面々が集まっていた。

 静也はつくづく仲が良いなと思いながらも全員で帰ることにした。

 それからは特に予定はしていなかったが、全員の足はセブンスターズの事務所へと向かいひとまずのお疲れ様会を行うこととなった。


「みんなはどうだったんだ?」


 ふと静也が全員にその自信の程を聞いた。


「そうねぇ。お姉さんは平気よ。しっかりと最後まで出来たわ」

「わちも大丈夫です! 今回は自信あるです!」

「きひっ……問題……無し……」

「ふん。余裕だ」

「私も上々にございます」


 その言葉を聞いて静也は当然のこと、月乃が最も安堵したようで口元がほころんだ。


「そうか。なら安心して結果を迎えられそうだな」

「はい。全ては無波様のお陰でございます」

「能徒も頑張ってくれただろ?」

「そうだよ? 能徒と静也がしっかりと教えてくれたお陰だよ?」

「星見様……」


 能徒は周りを見渡した。

 すると、自分を見るみんなの目には感謝が溢れていることに気が付いた。


「皆様……ありがとうございます。私などに良くしていただいて」

「当然だよ。能徒もセブンスターズの仲間なんだから、みんな一緒だよ」


 月乃がそう言うと、能徒は感極まって目に涙を浮かべた。


「ありがとうございます。これからも私は皆様と一緒にあり続けます」


 今回は珍しく唯が能徒の頭を撫でては優しく抱きしめた。

 そしてそれにつられるようにして悟利も能徒に抱き着いた。


 それからこのお疲れ様会はそれぞれが思うままに進行し、日が落ちた頃に解散となった。




「完璧だ…… これで僕は誰にも負けない。真のエリートとして生徒会に入れるんだ。会長になれるんだ……」


 才木秀生も試験が終了すると帰路に立っていた。そしてそう呟くとともに怪しく笑った。

 その瞳は濁り、それでいて仄かに妖しげな光を発していた。



*******



 中間試験が終了してから返却日までは長いようであっという間に過ぎ去っていった。

 そして迎えた運命の日。

 それぞれの教室では各教科の答案用紙が返却された。


「ふん。まぁ当然だ」

「あらあらまぁまぁ」

「きひひひ……」

「こ、これはです……」

「うん。そうだよね」

「皆様。私は……」


 と各々が感想を抱く。

 静也は眉一つ動かさずにその答案用紙を鞄にしまった。

 

 そして放課後になると、静也と月乃の教室に生徒会の面々が終結した。

 どうだったかはその顔を見れば一目瞭然で、二人はみんなとともに順位が張り出される職員室前の掲示板へと向かった。


「おや? 生徒会ご一行様じゃないか。どうだね? テストの出来は?」

「そう言う才木くんこそどうなの?」


 まるで待っていたかのように現れた彼を前に月乃は相変わらずの調子で答える。

 きっとその長い前髪の奥では自らの出来を隠すことに必死なのだろう。僅かだが口角が上がっていた。


「僕かい? 僕はエリートだからね。今回は楽勝だったよ」

「そう。それじゃ、みんな行こうか」

「また僕を蔑ろにするのかい。まぁいいさ。ところで、あの約束は覚えているかな?」


 試験前に生徒会と才木は約束していた。

 生徒会の誰か一人でもテストの点数で才木に負けた場合、彼を生徒会に入れるというものだ。

 そして生徒会側も望みを言っていた。もしも生徒会が勝った場合は何でも一つ言うことを聞くことと、金輪際生徒会に関わらないということである。


「もちろんだよ。言っておくけどね、生徒会(私たち)は誰一人として負けることはないよ。これはもう絶対だよ」


 月乃は振り返って最後にそれだけ言った。 

 それから一行はそのまま掲示板へと歩みを進めた。


「さっきのあれは大丈夫なのか? 月乃」

「いいよ別に。才木くんが何て言ってももう結果は出てるし」

「当然だ。生徒会があんな奴に負けるわけがないだろう」


 冷静に言う月乃と既に勝ち誇った様子の狩人。

 そして他の面々も決して口には出さないが、以前とは違って才木秀生という脅威を全く気にしていない様子だった。


「終わったらスイパラだね」

「楽しみです!」


 掲示板の前には既に人だかりが出来ていた。

 そんな中でも月乃はいたっていつも通りだった。


「では、中間テストの順位を張り出そうと思う。これを見て次回の目標にしてもらいたい」


 と教員が言うと、まもなくして各学年の結果が一斉に発表された。

 そこへ全員の目が集まり、一喜一憂の声が沸き上がった。


「や、やったです! 学年二位です!」


 悟利が喜びの声を上げる。

 一年生の順位表に生徒会の視線が集中すると、確かに二位のところに小牧悟利の名前があった。そして一位のところには


「流石だな。能徒」

「いえ。皆様のお陰です」


 堂々たる結果として能徒叶の名前があった。

 能徒は五教科を総合して各教科において一問ミスに留め、悟利は各教科二問ミスに抑えたのだ。


「みんなはどうでしたですか? やっぱり静也兄ぃが一位ですか?」


 悟利は無邪気な笑みで生徒会二年生へと問う。

 しかしそれに対して誰一人として答えることはなかった。


「どうしたです……?」


 そんな雰囲気を察した悟利と能徒は二年生の順位表へ視線を向けた。


「そ、そんな……」

「これは……」


 そこには確かな結末が記されていた。


「才木秀生、500点……」

「ふっ…ははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」


 才木が満点という現実を全員が知った時、この場所には全てを嘲笑うかのような高らかな笑い声が響き渡った。


「どぉだぁぁ! これがエリートの力だ!! 僕こそが正真正銘のエリートなんだァァッ! 君達のような凡人生徒会とは()()が違うのだァァ!」


 その笑い声が、侮蔑の言葉が止まることを知らずに生徒会をただただ容赦なくなじり続けた。それはここに集まっている人や、少し離れたところにいる人達の視線さえも集めた。


「才木……」

「惜しかったなァ! 無波静也! 君は498点。僕は500点! 満点だ! 僕こそが真の最強。いくら君達が努力をしたところで所詮は馬鹿の集まりに過ぎないんだ! さぁ僕にひれ伏せ! 僕を崇めるんだ!」


 才木の瞳はもう完全にどす黒く濁りきり、生徒会へ向ける眼にはもはや人間らしさの欠片も無くなっていた。

 それはまるで獣のような目。冷たく鋭く、そして己の欲望に支配された獰猛な眼だった。


 下された結果を前に一同は落胆し、彼の言葉に反論出来る者はいなかった。

 だが、それでも月乃と愛枷は凛として才木を見ていた。


「才木くん。言いたいことはそれだけ?」

「はぁッ!? 負け犬ごときがこの僕に何か文句でもあるのか?」

「……そう。愛枷」

「きひひ…… 才木…… 生徒会は……誰一人…負けることは……ない。きひひひ……」


 愛枷が怪しく口角を上げたその時だった。


「才木秀生君。至急職員室に来なさい。繰り返します。才木秀生君。至急職員室に来なさい」


 と校内放送が響き渡った。


「それで才木くん。言いたいことはそれだけかな……? 今ならまだ話を聞いてあげるよ?」


 月乃は長く漆黒の前髪の間から紅に光る瞳を覗かせて再び問いかけた。

 その目と先の放送があってもなお才木の表情は変わらず、月乃の問いを黙殺した。


「才木」


 その時、この騒ぎを聞きつけてやってきた数人の教師が才木を発見すると、その肩に手をかけた。


「何です? 僕が何かしましたか? 僕は模範的でエリートの一生徒ですよ?」

「模範だと? 自分が何をやったのか覚えていないのか?」

「さぁ。何を言っているのか分かりませんね」


 教師の厳しい顔に対して才木が向けたのは、まるで見下したかような笑みだった。


「とにかく来てもらう。ほら、他の生徒は結果を見たら帰りなさい」


 教師がそう言うと野次馬のように集まってきていた生徒達は解散し、教室やら昇降口へと去って行った。そして才木は教師達に連れて行かれた。

 その時でさえも彼の顔には笑みが張り付いていた。


「みんな、私達も行くよ」

「でもそっちは職員室だろ?」

「うん。今回の、ううん。こういう時はセブンスターズが介入出来ることになってるの。特権ってやつだね。それに、私達も無関係ってわけじゃないんだよ」


 静也は頭に疑問符を浮かべながら生徒会の面々について行く。

 そんな中で静也は、月乃が一瞬自分達のことを生徒会ではなく()()()()()()()と呼称していたことが気になっていた。



 それから職員室ではなく、その奥にある応接室に到着した。

 担任教師、生徒指導の教師、そして校長が革張りの椅子に座り、その対面に才木が座った。

 生徒会は壁際で静聴することになり、その顔には真剣みというか神妙さがうかがえる。


「それで何です? そんな大人数でこの僕に何をしようというのです?」

「とぼけるな。これを見ろ」


 と生徒指導の教師が目の前のテーブルに置いたのは、才木の解答用紙のコピーだった。


「正直に言え。お前は今回の試験問題を予め知っていたな?」

「知りませんよ。第一、全生徒には当日になるまで知る手段はないはずです。そもそも僕はエリートで模範生徒ですよ? 普段の行いからして先生方に目を付けられるような人ではないですよね? それは先生方がよく分かっているはずです」

「こんな事が無ければお前は真面目な生徒だ。だが今回は話が違う。いくら普段が模範的でもこれは見過ごせない」


 才木は余裕と、全てを見透かした表情をしている。

 

「そこまで言うのでしたら、何か証拠でも? 各教科に超難問が出題されるのはウチではもはや恒例。それが全て解かれたから気に食わないだけなのでしょう? 解けるはずがないと高をくくり、生徒達を侮っているからこそ満点の僕を疑っているのでしょう? いいですか? もしも確固たる証拠を出せなければ、先生方のやっていることは教師としてあるまじき行為ですよ?」


 それを聞いた生徒指導の教師が校長を一度見ると、彼は頷く。

 そしてなぜか生徒会の、それも月乃を見た。

 月乃は僅かに頷くと、彼は懐からあるものを出して才木に見せた。


「これで知らないとは言わせないぞ」

「これは……」


 直後、終始余裕の顔だった才木がついにその表情を崩した。


「才木。しっかりと説明してもらおうか。もちろん出来るよな?」


 テーブルの上に数枚の写真が並べられ、それらはみな暗がりの中を写していた。そしてその中には紛れもない一人の男が写っていた。


「これはお前だな? こんな夜遅くに職員室で何をしていたんだ?」

「なぜ言う必要があるのです? 黙秘します」


 その写真は生徒会が立っている位置からでも見ることができ、それを見た一同は驚きながらも、なるほどと納得の様子を示した。


「月乃。これってもしかして」


 と静也が彼女に視線を向けた。するとそれに対して月乃はこくりと頷いた。


「そうか。ならこれでどうだ?」


 彼が次に出したのは、中間テストの答案用紙を写真に収める才木の姿がしっかりと写った一枚だった。しかも顔まで写っており、もはやそれは言い逃れが出来ない確信的なものだった。


「お前は前日の夜に職員室に侵入して答案用紙を盗み見た。だから満点を獲ることが出来た。そうだな?」

「……」


 才木は焦りの表情を表に出さないように必死になっているが、もはやそれも限界そうだった。それでもなお黙秘を続けているので、校長が月乃を見た。

 それに応えるようにして月乃が才木のすぐ横まで行くと、いつもの静かな口調で問いかけた。


「才木くん。そんなに学力が大事なのかな? こんな不正に手を出してでも得る価値があるものなのかな?」

「……さ…い」

「ん?」

「五月蠅い! お前らに! 他の奴らに僕の何が分かるってんだ!」


 その声はこの応接室に響き渡り、空間すらも揺らした。


「分からないよ。そんなの。でも才木くんだって、私達が本気で頑張って勉強して正々堂々と得た結果と、今までの努力をそんな不正で踏みにじられた私達の気持ちなんて分からないでしょ?」

「お前らの気持ちなんてどうでもいい。テストとは、現実とは結果が全てだ。それまでの思いがどうであっても結果が伴わなければ努力なんて意味を成さないほどに(むな)しいものなんだ!」

「でも、そんな手段で得た結果なんていつかは見破られて破綻する。今の才木くんみたいにね」


 静かに語る月乃。

 しかしその雰囲気は異質、というよりも感情の憤りを必死に抑えているかのようだった。


「破綻……か。でもな、僕はそうはならない。なぜだか分かるか?」


 すると才木の瞳がまた少しずつ濁り始めた。そして不敵な笑みを浮かべると、テーブルに置いてあった写真をぐしゃりと握り潰した。

 それからその身からは禍々しい妖気のようなものが溢れ出し、それは次第に室内へ充満していった。


「……それはやめておいた方がいいと思うよ? だって才木くんは逃げられないし、私達を相手にするにはあまりにも小物すぎるよ」

「小物だと? 僕は最強だ。エリートの血筋だ。そもそも、このことを知っているのはここにいるお前らだけだろ? なら口を封じてしまえばいいだけの話だ」

「エリートは関係ないよ。だからね、もう才木くんはエリートでもなければ最強でもないの。不正をした最低のクズで、ただの凡人なんだよ。だいたいね、この世界にはー」


 その時だった。

 月乃は話を終える前にどさりと床に倒れた。


「月乃!」


 倒れた彼女の首からは大量の血が流れ出し、それは床を血の海に変えた。


「もういい。僕の敗北を知っている奴らは全員殺す。そうすれば僕は最強で誰にも負けないエリートのままでいられるんだ!」


 才木の手にはカッターナイフが握られていた。

 長く出されたその刃には赤い鮮血が付着し、才木の顔や制服を返り血で染めていた。さらに今さっき人を切りつけたにも関わらずその表情には一切の罪悪感は無く、むしろ邪魔者を消したことに対する達成感や喜びに満ちた顔をしていた。


「テメェッッ!」


 静也は才木の話の途中で既に地面を蹴っていた。


「よくも俺の前で月乃をやってくれたなァ! 今までは我慢してたけどよ、今回は駄目だ。徹底的に排除してやる!」

「排除だァ!? やれるものならやってみろ! お前もこの女みたいに殺してやるよ!」


 静也が赤く光らせたその瞳をもって彼に襲い掛かった。

 それが合図だったかのように、唯と悟利が三人の教師達を速やかに室外へ避難させ、次の瞬間には能徒がこの応接室全体に結界を張った。


「まったく、無波の奴め。星見が死なないことは知っているだろうに」

「いきなり酷いことするなぁ。死なないって言っても、痛みはあるんだよ? 服が血だらけだよ」


 と月乃の横で不満をこぼす狩人。

 ちなみに月乃は既に回復して立ち上がっていた。


「まぁ、静也は昔からそういう人だから大目に見てあげて。ということで、みんな。私はもう平気だから、ここからはセブンスターズのお仕事といくよ」


 前方の静也にその声は届いていない。だが他の人達には届いたようで、生徒会もといセブンスターズは戦闘態勢に入った。


「無波ィ! お前には痛みというものが無いのかァ!?」


 静也は才木のそんな言葉を無視して応接室の壁、もとい能徒が張った結界に鈍い音を与え続ける。

 これが無ければ今頃応接室の壁は全て崩壊し、他の部屋にまでその被害を出していたに違いない。


「そんなものは無い。俺はテメェを排除するまで止まる気はねぇんだよ!」


 静也は重い拳を才木に向けて放ち続けるが、才木も才木で避け続けているためになかなか一撃を与えられずにいた。

 攻撃を外す度に地面や壁にあった結界の一部が崩壊し、その度に張り直す能徒の顔にも次第に疲労の色が見え始める。


「月乃ちゃん。私達の出る幕なくない?」

「そうです。わち達が出来ることといったら、静也兄ぃの流れ弾を受けないようにするくらいだと思うです」


 唯と悟利がそう言うと、月乃も確かにと頷く。

 二人の言う通り、静也以外が今にいたるまでに何かをしたかと聞かれれば何もしていないのだ。いや、その猛攻が激しすぎて何も出来ないのだ。

 それでも唯一何かをしているといえば、能徒が必死に結界を張り直しているくらいである。


「静也。結界の修復がそろそろ限界だよ。あんまり壊しすぎないでね」


 能徒の疲労の様子と、一向に攻撃を与えられない静也を見かねた月乃が喚起した。

 その言葉は聞こえたようで、静也の攻撃に無鉄砲さが無くなった。だが勢いも弱まったので才木の反撃を許してしまう結果となった。


「!?」

「いくら痛みが無いとはいえ、これは効くだろ!」


 その一撃は静也の股間に向けた蹴りだった。それはまさに予想外で、静也はまともに食らってしまった。

 その様子を見た狩人は、自分には何も起きていないのにもかかわらず反射的に顔を歪めた。

 だがそんな表情も次の瞬間には晴れることとなった。


「だからよォ。俺は痛くねぇんだって」

「なん…だと…… お前、それでも男か!?」

「これでも男なんでね。ほら、お返しだ」


 まもなくして静也は全く同じ事を才木にしてやった。唯一違ったのは、その威力だった。

 直撃の後、誰もが聞いたことがないような破裂音にも似た轟音が室内を一瞬にして支配した。

 それと同時に、狩人の表情が再び歪んだ。


「―……ッ――……ッッ!!!」


 直後才木は声にならない声を上げて地面に倒れ、股間を押さえながら悶絶した。また、その瞼は限界まで見開かれガタガタと顎を揺らし、尋常じゃない発汗により制服をぐしょぐしょにした。

 過呼吸を起こした才木の頭のすぐ横に静也の足が置かれた。


「エリートだったか? これで打ち止めだな」


 静也はその足を上げると、何も言えずに悶え苦しんでいる才木の頭部に狙いを定めた。


「静也。待って」


 そこで月乃が止めた。


「こいつは月乃を切り付けた。排除だ。そうだろ?」

「どうするかは私が決めるから、今は少し待って」


 排除欲求をその身に宿し、赤き瞳を開眼させた静也を制止させることが出来る唯一の存在、月乃。

 彼女の一声によって静也はその足を静かに床に置いた。


「才木くん。痛いよね? でももし助かりたいなら、そんな状態でも答えるよね? ちなみに、これから言うことに何も答えなかったら、静也が本当に才木くんを排除するからね?」


 才木は血走った状態の眼球を月乃に向けた。

 そしていまだ続く激痛の中で何か反応を示すこと無くその言葉を聞いた。


「どうしてそんなに成績に固執するのかな? エリートってそんなにいいものなのかな?」

「……ッ! ―…っっ……」


 その問に才木は必死に言葉を発しようとする。だが、続く過呼吸により言葉にならずいた。


「月乃。こいつはGreedだ。早く排除しないと面倒だ」

「静也。私の言うことが聞けないの? もう少し待って」


 早まる静也を再び制止させる月乃。

 他のセブンスターズの面々も静也の意見に同意を示し、少なからず焦りの雰囲気を出していた。


「ぼ……ぼく……は…」


 歯を食いしばり、どうにか言葉を発するまでになった才木は月乃を見た。いや、見上げた。

 長い前髪の下にある瞳が、まるで全てを見下すかのように見えた才木はそこで唇を噛んだ。


「どうしたの? 続き、言わないの?」

「ぼく……は……」


 そこでまた言葉を切った。

 そんな様子をただ静かに見ている月乃。

 床に這いつくばっている才木は、そんな月乃の、自分を蔑んでいるように見えた瞳を前にふと脳裏にある光景がよみがえった。


―やはりお前は秀勝とは違うんだな。


 父の言葉と、期待すらしていないあの目だった。


―違う。僕は、僕にだってエリートの血が入っているんだ。入っているはずなんだ。

―お前が俺の子でエリートの血が入っているなら、次のテストは全教科満点を獲れるに違いない。


 そう言うなら、僕にだって少しは期待した目を向けてくれてもいいじゃないか。

 どうして兄さんにばかり期待するんだ。

 兄さんがエリートだからか?

 僕は兄さんの弟なんだぞ。僕も父さんの子なんだぞ。

 どうして兄さんばかり……


「エリ……ト……は。僕の……存在……」


 才木はこみ上げてきた全ての想いを胸に、歯がギリッと鳴るくらいに食いしばりながら言う。

 そして血の涙を流しながら月乃を、その侮蔑に思えた目を睨みつけた。


「月乃!」


 その時、才木の全身からは黒く淀んだ瘴気が放出し始めた。


「成績は……エリートは、僕のッ!」


 才木は立ち上がると同時に、月乃の眼球目掛けて指を突き出してきた。

 しかしそれにいち早く気が付いた静也が月乃を抱えてその範囲外に抜けた。

 それでもその頬に爪が掠り、そこからは血が流れ出した。


「エリートはッ! 僕の、僕のッ! 存在意義なんだァッッ!」


 空間を支配するが如く叫んだ才木は、次の瞬間にはその瘴気によって体が飲み込まれてしまった。それは蛇のように絡みつき、次第に全身が紫色に変色していった。


「月乃、大丈夫か?」

「うん。でもやっぱり駄目だったみたいだね」


 目の前で繰り広げられる瘴気の放出と才木の変貌。その光景は月乃を落胆させ、他のセブンスターズの面々に一層の焦りの色を浮き出させた。

 まもなくしてその現象が収まると、その渦中にいた才木が鋭い眼光を向けてきた。


「僕は最強のエリートだ。誰にも負けはしない」


 さっきまでの痛みは完全に消えたようで、今はもう悠然とそこに立っていた。また、自分の存在の大きさを示すかのような威勢に満ちていた。


「こうなっちゃったらもう仕方ないね。みんな、才木をやるよ」


 その言葉に全員が頷いた。


「だからすぐに排除すべきだったんだ」


 直後静也が苦言を漏らす。


「そうは言ってもね、これでも私は優しいんだよ? Greedになるまでその人を救えないかなとか、事と次第によっては慈悲をかけてもいいかなとか考えてるんだよ?」

「月乃姉ぇの最終審判です。毎回こうなのですっ」


 悟利はいつものことのように言った。

 だが、それでも静也は納得がいっていない様子だ。


「まぁ、()()()救いは無かったわけだ。こうなった以上は結末は明白だ。こいつの命を取る。それが僕達の役目だ」


 狩人は既にその瞳を碧色に染めていた。

 その言葉に呼応するように他の面々の瞳にも多種多様な色が宿り、この結界の中の空気に圧が加わった。


「戯言は済んだか?」

「テメェが排除されるまでの時間を延ばしてやったんだ。感謝の一つや二つしたらどうだ?」


 挑発するように言った才木に対して、相変わらずの荒々しい調子で言い返す静也。

 その赤い瞳が才木を捕らえて離さず、そんな才木もまた濁った瞳で静也を見ている。

 

「感謝、ねぇ……」


 才木が白い歯を怪しく見せた次の瞬間、その姿が消え、再び姿を現したところは月乃の目の前だった。そしてそのまま一切の予備動作も無く醜悪な拳が月乃の華奢な体に迫った。

 それでも月乃は一切表情を変えずに普段の物静かな様子で佇んでいた。あまりに突然の出来事で動けなかったからではなく、その目が既にある光景をとらえていたからだった。


「だからよォ、俺の前で月乃に手を出せると思ってんじゃねぇよ」


 鋭い眼光を発した静也がもうその背後に立っていたのだ。

 直後、月乃に迫っていた拳を腕ごと掴み、引きはがすようにして勢いよく後方へ引いた。それにより拳が月乃の体に触れることはなく、才木はその勢いのままに結界の端まで吹き飛んだ。

 だがー


「あのスピードについてこれたなんて、やっぱり君は目障りだ」


 才木は飛ばされた方の壁に対して垂直に両方の足裏を接地させると、そのまま膝を折ってバネのように収縮させた。まもなくしてその膝の力が解放されると、一瞬にして静也のところに戻ってきた。

 そこからは拳や蹴りといった無数の連撃が静也を襲った。


「くっ……」

「この反撃は予想外だったようだな」


 静也は最初こそ巧に防いでは反撃を入れていたが、徐々に速さを増す猛攻により次第に防戦一方となってしまった。

 それからも才木の攻撃は止まることを知らず、豪雨のようにその全身を襲い続けた。


「仕方のないやつだ」


 そこで狩人が機を狙って応戦した。

 獲得欲求の彼が狙うのは、無数の連撃を放ち続ける才木の四肢関節。

 かつて静也にやった関節を一瞬にして外す技だ。相手がどんなに速かろうが、どんなに剛力だろうが関節さえ外してしまえばそれらは全く意味を成さなくなるのだ。


「欲しい…欲しい欲しい……」


 狩人がその身に欲求を宿し、ついにその手が目標に近づいた。

 もらった。そう思った時だった。


「金錠狩人。見えているぞ」


 静也への攻撃で気を取られているはずの才木が狩人に不気味な笑みを見せたのだ。

 それを狩人が見た時には既にその身に反撃の連打が打ち込まれていた。


「ぐっ……」


 狩人は自身の手が届くこともなく、肺の中の空気を全て吐き出してしまった。そしてそのまま結界の端まで飛ばされると、背中から激突して地面に堕ちた。

 才木がほんの一瞬静也から目を離したにも関わらず、静也は反撃を入れることが出来なかった。それほどまでに連撃が激しく、それでいて狩人に向けた反撃が一瞬すぎたのだ。


「つきー」


 静也は月乃を呼ぼうとして口を閉じた。

 あの宣教師を葬った際に見たブラックホールが頭をよぎったが、あの時セブンスターズは全員が結界に守られるようにしてその中にいたのを思い出したのだ。

 その後結界の外にいた宣教師を含む多くの人は、月乃が発生させたそれに飲まれて消え去った。

 

 あの時の様子から察するに、発動するには()()()()()()()()()()()()()()()()()に違いない。

 しかし現状として、標的である才木を含めた全員がその結界の中にいるため、あのブラックホールを使えないのある。


 それに気が付いた静也の表情を読み取った唯は、その手に己の武器である大きなハンマーを顕現させて地面を蹴った。

 唯は静也の目を見た。静也はそれが何を意味しているのかを察していまだに猛攻を続ける才木へ強引に反撃を試みた。それとともに能徒にもアイコンタクトをすると、彼女は頷いた。


「無駄だ。僕は強い! 僕は最強のエリートだ! 僕に勝てる奴などいないのだ!」


 その攻撃は静也の胴体をとらえ始め、顔面や胸等にダメージを与えていく。だがそれでも静也は唯が来るまで反撃の手を緩めなかった。

 そしてついに唯が到着し、豪快にハンマーを才木の脇腹に命中させた。それと同時に静也が後退して才木から距離をとった。


「唯!」

「まかせて!」


 唯はそのままハンマーを振りぬこうと一気に力を込めた。

 これで才木が吹き飛んでくれればその隙に結界を解除し、すぐさま才木以外が中に収まるようにして結界を再構築。そうなれば後は月乃のブラックホールで決着だ。


 どうだ?

 祈るような目で事の行く末を見守る一同。

 しかし才木はまるでそんな思いを嘲笑うかのようにハンマーを受け止め、完全にその勢いを殺してみせたのだ。


「そんな……」


 これには普段はおっとりとしている唯の表情すらも曇った。

 まもなくしてそのハンマーは才木によって抱えられ、逆に唯をハンマーごと投げ飛ばした。

 まだ解除されていない結界に激突した唯はそのままへたりこむようにして地面に崩れた。


「だから何度も言わせるな。僕は最強なんだ。最強のエリートなんだ」


 才木はまだまだ余裕と言っているかのように笑っていた。


「月乃。これはどうなってんだ? あいつはいったい何者なんだ……」

「やっぱり静也の言う通りすぐに排除すべきだったよ。あれは、才木くんの欲は自己顕示の欲。自分を良く見せ、同時に自分に強い暗示をかける。最強と言えば本当に最強になれる厄介な欲だよ」


 僅かに揺れた月乃の前髪の奥に見えた瞳には動揺の色がうかがえた。


「生徒会。名前のわりには大したことないな。烏合の衆とでも言おうか。残りは四人。今日で生徒会は解散だ。これからはこの僕が会長に君臨する。最強でエリートの僕がね」


 狩人と唯の二人を下した才木が余裕の顔で言った。

 そんな二人は今は結界の端で倒れて気を失っていた。


 濁った瞳がセブンスターズの面々に向けられる。

 その威圧と全身から放たれる瘴気にあてられても月乃と静也と能徒は平然としていた。だが悟利だけは怯えてしまっていた。

 なぜなら


「月乃姉ぇ…… わちは……」

「大丈夫だよ。今の悟利には()()()()()()()()事は知っているから。それにあそこまで欲が暴走しちゃったら食欲で食べて減らすことも出来ないもんね」

「ごめんなさいです…… 今のわちは完全に足手まといです……」


 悟利は特に非殺傷に特化した欲祓師なのだ。

 先の宣教師との闘いにおいても、殺してはいけない人の欲を己の食欲で吸い取って無力化していた。

 誰かを捕らえる、もしくは生かさなければならない場合にはこの上ない戦力となるが、今のように敵に処分が決まった者しかおらず、食欲で無力化することも叶わない場合においては完全に戦力外となってしまうのである。


「そんなことないよ。悟利には悟利にしか出来ないことがあるよ」

「月乃姉ぇ……」

「今から私と静也で才木くんをどうにかするから、その間に狩人と唯を引きずってでもいいから別室に避難させておいて」


 そして月乃は次に能徒の方を見た。


「能徒。悟利が二人を応接室の出口まで運んだらその部分だけ結界を解除して。それで外に出すのを手伝ってあげて。そしたら悟利は結界の外で二人の治療、能徒は結界の維持。分かった?」

「はいです。今のわちに出来ること、しっかりとやるです」

「承知しました」


 二人が頷くと、今度は静也を見た。


「俺が下がってろって言っても、どうせ聞かないんだろ?」

「よく分かってるね。でも大丈夫だよ。静也も知っての通り、私は死なないから」

「それでも月乃が傷付くのは嫌なんだがな」

「うーん……分かった。それじゃ、ここから私は才木くんの攻撃を一回も受けない。それならいいよね?」


 静也が少し渋い顔をする。


「ほう。僕の攻撃を一度も受けないだと? 僕も随分と嘗められたものだ」

「うん。もう食らわないよ。それにね、才木くんは今日が命日になるの。その事実だけは変わらないよ」


 月乃は相変わらずの物静かなトーン且つ、至極冷静に言った。

 対して才木は自己顕示の欲による()()という暗示のせいもあって、その言葉が気に食わなかった。

 見下されている、小物に見られている、なにより自分よりも愚かで弱い存在に見透かされた気がしたのだから。


「いいだろう。ならば食らったら最期、その命が散るということを教えてやろう」

「おいおい、俺を忘れてないか?」

「無波、お前もこいつと同じく一撃で死ぬ。ただ順番が違うだけだ」


 もちろんお前もな。という目で倒れている二人の救出のタイミングを見計らっている悟利を睨んだ。

 しかし悟利は自分にしか出来ないことがあるゆえにもう怯まなかった。


「それじゃー」


 才木はそう言うと、一瞬にして月乃の目の前まで移動し凶悪な拳を向けた。


「なに……?」

「言ったよ? もう食らわないって」


 しかし月乃は余裕の様子でひらりと躱した。

 そこまで大きな動作ではなく、それこそ飛んできた物をすっと避ける程度の動きだった。

 才木の注意がそこに向いている隙に悟利が狩人と唯のところへ走った。同時に静也が才木の隙だらけの背後をとった。


「くっ……」

「最強じゃなかったのか? 自称エリート」


 静也が放ったのは回し蹴りだった。

 月乃の件で虚を突かれたためか、それはすんなりと入り、才木は結界の端の方へ飛んでいった。もちろん、その方向は悟利が向かって行った二人の方とは真逆の位置だ。

 距離をとってもらった悟利はその小さな体でまずは唯から運びにかかった。


「おっと、他所見はいけねぇぜ」


 と静也の追撃が続く。


「静也。無理しちゃ駄目だからね。私と違って静也は何かあったら死んじゃうんだから」


 その言葉は届いてはいるものの、欲により最強となっている才木に隙を見せないようにするためか静也は返答しない。

 本当は自分も戦って狩人と唯が安全圏に行くまでの時間稼ぎをしようと思った月乃だったが、奮闘し才木を抑えられている静也を見て悟利の方へ走った。


「月乃姉ぇ。唯姉ぇが……」


 悟利は体が小さいゆえに唯の体を抱えることが出来ず苦戦していた。そこで月乃と二人でその両腕をそれぞれの首に回して背負うと、どうにか動かすことが出来た。


 二人が小走りで移動している最中、唯の豊満かつ非常に我儘な大人サイズの胸が上下左右に揺れるものだから二人はバランスを取り直すために時折立ち止まり、また時には顔のすぐ横にある爆乳が迫ってくることによる視界の回復をせざるを得なくなってしまっていた。


「同い年なのに、どうしてこんなに差があるのかなぁ」

「月乃姉ぇ、何か言ったです?」

「なんでもないよ。早く行こう」


 そしてやっと応接室の出口にたどり着くと、能徒が結界を一部解除した。

 だがその時、静也の攻撃の合間を縫うようにして才木が何かを飛ばしてきた。

 それは先に月乃の首を切り裂いたカッターナイフだった。さらには手当たり次第に投擲してきた。

 しかし


「私がただ結界を張っているだけだとは思わないことですね」


 それらは次々と能徒によって弾かれ、地面に堕とされていった。


「お二人とも、お気にせず」

「ありがとう。流石は能徒だよ」


 そこから二人は未だに気絶している唯を外に出すと、すぐさま狩人のところへ向かった。


 静也は苦戦していた。

 

 追撃に反撃を繰り返すもそれに呼応して才木の迎撃に襲われ、それらは人体の急所を的確に狙ってきているからだ。

 いくら自身の能力であるところの、()()()()で痛覚を遮断しているとはいえ急所への攻撃は危険なのである。

 知らないうちに死んでいる。そんなこともありえるからだ。


「どうした? 無波? どんどん弱くなっていっているぞ」

「うるせぇ。時間をかけていたぶってやってんだよ」

「見事な虚勢だ」


 その時、静也に生まれた僅かな隙に才木の蹴りが入った。

 それは脇腹。肝臓の位置を的確にとらえていたのでそのまま体に変な音をもたらせると、静也を横方向へ大きく吹き飛ばした。


「くっ―…」

「痛みは無くても顔が嫌そうだな。―なるほど。察するに死なないわけではないのだな」


 才木はその得た情報により静也が月乃とは違って死ぬ可能性が十分にあることを見抜いた。


「なら、ひたすらに殴り、切り刻むだけだな」


 そう言った直後、才木は懐からカッターナイフを取り出した。


「さっき投げたんじゃなかったのか」

「エリートは不測の事態が起きないようにしているものだ。常に二本三本は持っているのだよ」

「学校で襲われる予定でもあるのかよ」

「妬み、僻み。人の感情というのはどこで暴発するか分からないものだからな。それこそ、僕みたいな最強エリートは特に気を付ける必要があるのだよ」

「それは自意識過剰というやつだ。現に今まで襲われてこなかっただろ?」

「奴らにそんな勇気が無かっただけさ。優秀な人には羨望だけではなく、常に嫉妬の感情が付きまとう。今回のテストの件で確信したさ。無波、お前は元は優秀だった。いや、優秀だがそれを隠して生きている。そうだろ? 羨望と嫉妬、お前にも理解出来るんじゃないか?」


 静也は過去の記憶を呼び起こした。

 優秀だったがゆえにこれからは平均的に生きようとと決めたあの日。

 優劣に対する人の汚れた感情と、受けた仕打ち。

 それらが残酷にも脳裏によみがえったのだ。


「……理解、出来なくはないな。だがな、その感情や行為は人であれば当然なんだよ。自分よりも優れた者には嫉妬し、時には貶めようと徒党を組むことだってある。人間の嫉妬とはそういうものだ。でも、そんな優秀な奴を求め、良しとしてくれる人だっているんだ」

「ほう。それが生徒会であると」

「そうだ。生徒会はそんな奴を貶めたり、嫉妬の凶刃に沈めたりはしない。才木。お前はエリートに固執し過ぎだ。エリートだから何だ? エリートじゃなきゃいけないのか? そんな事の有無でお前の価値が変わるものなのか?」

「価値……だと……?」


 才木はその言葉を聞いた途端、その身から放出される瘴気が増した。


「あるに決まっているだろ。僕は、才木家はエリートの家系だ。兄さんも父さんもみんなが超一流のエリートだ。だから僕もエリートなんだ。エリートのはずなんだ。学校ここでも全学生のトップ、生徒会長を務めるべきなんだ。テストでは満点が当然なんだ。なのに、お前らのせいで僕は生徒会長はおろか、生徒会に入ることすらも出来ない。これがどれだけ屈辱な事かお前に分かるか?」

「分からねぇよ。俺はとうの昔に優秀というものを捨てた人間だからな」

「無波静也。波風立てずにただ静かに生きる。平々凡々を体現したお前にはやはりこの僕の野心と屈辱が分からないか。なら―」


 直後、才木はノーモーションで地面を蹴って静也との距離を侵略した。


「もう死ね。お前の次は生徒会全員だ」


 その手にある凶刃が静也の喉元に迫る。

 だがそれは手ごたえを得ずに空を切った。

 寸でのところで静也が避ける事に成功したのだ。


「お前にそれは出来ねぇよ。月乃が言ってただろ? お前の命日は今日だって。月乃が言う言葉は絶対だ」

「黙れ」


 才木はカッターナイフを縦横無尽に振り続ける。

 対する静也は得物を何も持っていないので避けるしかなかった。だがそれでも反撃の隙を虎視眈々と狙っていた。


 その時静也の頬が切られ、そこから鮮血が迸った。

 それを見た才木はにぃ…っと不気味な笑みを浮かべてさらに加速した。


「無波様!」


 その時少し後ろにいた能徒が静也に何かを投げ渡した。

 それは的確にその手に納まり、一瞬のうちに反撃の一撃が入った。


「チィ……ッ!」


 才木の頬も切れ、直後には以降の追撃を恐れて距離をとっていた。


「助かったぞ、能徒。これで十分に戦える」


 静也は攻防を重ねながらも周囲を冷静に見ていた。

 エリートと才木の価値を問うた時からその視線が自分にだけ集中していること、そして背後で能徒がさっき才木が投げては弾き落としたカッターナイフを拾うために動いていたこと。全てを認識していたのだ。さらに


「静也! ありがとう。こっちは終わったよ!」


 と別の方向から聞こえた月乃の声。

 月乃と悟利が気絶をしている狩人を結界の外に運び出そうとしていることも見えていたのだ。そして、それは今丁度完了したところだった。


「生徒会、お前ら……」

「エリートが聞いて呆れる。本当に優秀ならどんな状況でも周りには常に気を配っておくべきだ」


 才木の近くにはもう静也しかいない。

 他の面々は既に静也の後ろに行ってしまっている。


「俺を殺したら次は他の奴らなんだろ? なら、この俺を越えていくしかないよな」


 静也は才木に蔑みを込めた挑発的な目を向けた。

 そしてその目は才木の奥底にある屈辱に火を点けた。


「いいだろう。次でお前を殺す。生徒会もすぐに殺してやる」

「出来るといいな。自称エリートさんよ」


 再び向けられた侮蔑の視線。そして嘲笑とともに放たれた言葉。

 直後、才木の目が獣のように獰猛になった。

 殺意と自己顕示の欲に支配されたその体が爆発的なスタートをきった。


「僕は最強のエリート! 最強! お前を越えることなんて容易いんだよ!」


 獰猛な大猪さながらの勢いで静也の懐を侵略した才木は、初めの一刀を繰り出した。

 そのカッターナイフの刃は標的の首を突こうと向けられる。だが静也はそれを寸でのところで避けた。


「残念。これを外したのは大きいぞ」


 静也は間髪入れずにその隙だらけの脇腹へ蹴りを入れた。


「ぐっ……!」

「まだいくぞ」


 僅かに怯んだその体は静也から少し離れた。

 直後、その距離を侵略するように静也がスタートをきり、胴体へ向けてカッターナイフが走った。

 なぜ胴体なのか。それは首や頭といった局所的な部分とは違って的が大きく、仮に避けられたとしても他のどこかに被弾する可能性が高いからだ。


「甘い!」

「最強を自称するなら、そりゃ簡単にはいかないよな」


 才木は強引に立て直した体勢で己のカッターナイフの刃を射線に入れて受けた。

 二人が扱っているのがどこにでもある一般的なカッターナイフということもあってやはり耐久力に乏しく、それぞれの刃が砕けては星屑のように散った。


「やっぱり最後は(こっち)だよな」

「何だろうとこの僕には勝てない。僕は最強だからな。お前らとは格が違うんだよ」

「やってみなきゃ分からねぇだろ」


 そこからは拳と蹴りによる怒涛の打ち合いだった。

 自己顕示の欲による暗示で確かに強化されている才木の連撃はやはり常人のそれではなかった。打ち出される一撃一撃はどれをとっても凶器といって間違いない。


「うっ……ぐっ……」

「苦しそうだな。無波。自分の身が壊されていくことはそんなに嫌か?」

「当たり前だ。こんな腕じゃ月乃を守れなくなるだろ」

「どうせもう守れなくなるんだ。気にすることでもないだろ?」

「よく喋るな。そんなんじゃ舌が飛ぶぞ?」


 俺はそのよく喋る顎に下から拳を走らせた。


「おっと」


 それが見えていた才木は瞬時に体を後ろへ引いて避けきった。


「残念。僕の舌はまだくっついてるぞ?」


 才木はその舌をべぇっと憎たらしく出してきた。

 次の瞬間、才木の目が鋭くなった。


「お返しだ」


 生意気な顔に目を奪われていたため静也は下方から迫る反撃に対応出来ず、逆に顎に一発貰ってしまった。

 その一撃の衝撃は顎の骨を通じて脳を揺らし、そのせいで視界が一瞬暗転してしまった。だがせめて倒れまいとふらついた脚で耐えてみせたのだ。

 もちろんそんな好機を見逃す才木ではない。

 追撃として拳によって頬が打ち抜かれた。


「う……お………」


 例によって痛くはない。しかし再び視界が揺れ、今回はそれに耐えきれずに地面に尻もちをついてしまった。


 ―まずい


 静也がそう思った時には掠れている視界の中に才木がおり、瞬く間に目の前に迫ってきた。

 俺はどうにか立ち上がろうとするが、軽い脳震盪を起こしているせいか体の自由が利かなかった。


「動けなくしてしまえばこっちのものだ!」


 既に才木は拳を振り上げていた。

 それは間違いなく俺の脳天を狙っていた。


 脳震盪に脳震盪を重ねるのはまずい。

 内側から破壊される。


 そう思っていてもいまだに体の自由が利かなかった。


「やはり僕は最強! これで終わりだ! 無波静也ァ!」

「くっ―……」


 命を狩り取る一撃が迫りくる。

 これを食らっては駄目だ。食らったら死ぬぞ。月乃を、月乃が好きな生徒会を守れなくなるぞ。


 その時、静也の体の自由が戻った。

 拳が到達するコンマ数秒前のことだった。

 その感覚を得た途端、静也はすぐさま地面を転がって間一髪で避けることに成功した。


「避けたか。だが―」

「なん……だと……?」


 避けた直後で体勢が整っていない静也に向けて才木は追い打ちの動きを見せた。

 しかし今回向けてきたのは拳でも蹴りでもなかった。


「もう無いんじゃなかったのかよ!」

「言っただろ? ()()()()()()()()()()()()と」


 才木がその手に握っていたのはカッターナイフだった。

 初めに能徒が弾き飛ばし、静也に拾い渡してきたのが一本。その後の攻撃で散ったのが二本目。そしてこれが三本目だった。


「真の最強を語るなら、物の数くらいは常時把握しているものなのだ。さぁ、これで本当に終わりだ!」


 凶刃を携えた腕を大きく振り上げ、その鋭利な刃先を静也の脳天目掛けて振り降ろしにかかる才木。


「静也!」


 しかしそれは突如響いた少女の声とともに回避され、静也の視界から才木が消えた。それとほぼ同時に香った馴染みのある匂いが静也の鼻腔をくすぐった。


「月乃!」


 動けずにいた静也に月乃が飛びつき、その勢いのまま刃の射程圏内から脱出させたのだ。

 背中から地面に倒れた体勢になっている静也。その上に覆い被さるように月乃がいて、その頭がもぞっと動いた。すると長い前髪の間から円らな瞳を覗かせた。


 静也には命拾いした状況に安堵している暇なんてなかった。なぜなら才木がもう静也達の方を見ていたからだ。


「ちょこまかと小賢しい。いいかげん死ねよ! 最強の僕に殺されろよ!」


 そう言いながら地面を蹴り、今度は二人を一気に殺す勢いで刃を振り上げた。

 だがそんな様子を見ている月乃は冷静だった。


「それはこっちのセリフだよ。いいかげんに死んでもらうよ」

「たわけ!」

()()()()()()


 その言葉が聞こえた直後、攻撃に集中している才木の後ろに黒い何かが出現した。

 それは長い黒髪で顔全体を隠し、両手で持った己の武器を体の後ろまで大きく引いていた。その存在が持っているのは大鎌。容姿も相まってさながら死神のように不気味で、死と畏怖の象徴のようだった。

 二人の視線に気が付いた才木は、そこに目を向けた途端思わず驚愕した。


「そんな……お前は()()()()()()()だろ……」


 その言葉に答える間も無く、銀色に妖しく光る大鎌が振り下ろされた。

 突然の背後からの襲撃に才木は成す術もなく、刃が背中を深く抉った。

 その一撃はあまりに重く、明らかに致命傷のそれをもろに受けた才木はカッターナイフを落としてそのまま地面に倒れてしまった。


「ご苦労様。()()


 鮮血を纏った刃を下ろした深見愛枷はその場にぼぅと佇んだ。

 直撃した才木にはまだ息があったものの、その出血量は凄まじく周囲の床を真っ赤に染めた。


「……」

「ゴフ……ッ」


 盛大に血を吐いた才木の傷は裕に脊髄にまで達していたため、そこから再び動くことは出来そうもなかった。


「よく我慢してくれたね。お陰で完璧なタイミングだったよ」

「……才木……許せなかった…… みんなの努力……踏みにじった……殺したかった。でも……月乃ちゃんは……私に()()()と……言わなかった。だから我慢した。頑張って……殺さないように……我慢した。でも……こいつ、まだ生きてる。……殺す?」


 既に立ち上がっている月乃を前に愛枷はいつもの調子で言った。


「そうだね。でももう一つだけ聞きたいかな」


 すると、まだどうにか生きている才木のところに月乃が歩み寄ってしゃがんだ。


「どうしてだ……? 深見はここにはいなかっただろ……?」

「ずっといたよ? ただ、()()()()()()()()()()だよ」

「見えていなかった……?」

「よく思い返してみなよ。真夜中の職員室での事って誰が写真を撮ったんだろうね。才木くんの顔が見えるように撮るってなったら、普通なら才木くんは気付くでしょ? でも愛枷なら絶対に気づかれないようにすることが出来るんだよ?」


 かく言う静也も愛枷の存在を忘れていた。

 なぜなら応接室に来た時には既にその姿が見えていなかったからだ。しかし、月乃はここに来る前に生徒会全員に向けて『みんな、行くよ』と言っていた。

 会長でありセブンスターズのトップである月乃の言葉を無視する人なんてここにはいないということは今までの出来事により明白だった。

 であれば、なぜ才木はおろか静也にも愛枷の存在が見えていなかったのか。


非認知(インビジブル)か……」


 静也がそう言うと、月乃が静かにこくりと頷いた。


 愛枷の能力だ。

 人から自分の存在を認識されなくなり、結果的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()という固有スキルを使っていたのだ。


 静也がまだ生徒会に入る前、才木と同じように欲のままに人々の排除をしているところを撮られたことがあった。その時も自分と標的以外は誰もいなかった。いや、いないようにしか見えていなかったのだ。

 それをやられたのかと思った静也は、敵ながら才木を気の毒だと思ってしまった。


「才木くんは唯と狩人を下した後、私達に向けて()()()()って言ってたよね? その時になって初めて愛枷が非認知(インビジブル)を使っていることに気が付いたんだよね。だって、()()()愛枷が見えていたから」


 その言葉に静也は愛枷を見た。

 すると、愛枷は否定をせずにゆっくりと頷いた。


「本当は()()だったから奇襲で殺せると確信したのか…… 狡い女だ」

「先に狡いことをしてきたのは才木くんでしょ? だからこれでおあいこだよ。まぁでも、不意打ちばかりはエリートだとか最強とかは関係なかったね。そもそも、才木くんの自己顕示の欲は()()()()()()()()()()()()()最強になれるものだから、あの状態の愛枷には通用しなかったんだよ」


 ところでさ、と月乃が聞きたかったことを問いかけた。


「才木家って、そんなにエリートである事を強いているの?」


 月乃がもう一つだけ聞きたいこと。それはそんなことだった。

 その問の意味を静也はもちろん、他の人達も理解が出来なかった。

 てっきり最後に何か言っておくことはある?とか、そういうものかと思っていたからだ。


「……もはや宿命なのだ。本物のエリートである父には…誰も逆らえない。父がエリートであれと言うならそうなるしかないんだ。母もそんな父を恐れて口を出すことが出来ない。それが…才木家だ」

「……そう」


 すると才木は大きく血を吐いた。

 それは制服の胸元を赤く染め、染みていくとともに次第に冷たくなっていく才木を包んでいった。


「……僕だって、頑張ったんだ。才木家の子として……エリートだって認めてもらうために……頑張ったんだ…… 僕は……父さんに…兄さんに、みんなに認めてもらいたかった…… それだけ…それだけだったんだ……」


 たどたどしくもずっと胸に秘めていた想いを語ると、その目が今度は月乃と静也、生徒会の方へ向いた。


「生徒会……星見、無波。……すまなかった。みんなの努力を…踏みにじってしまって…… 本当に……すまなかった」


 小さくなっていく声の中でそう謝罪をした。

 エリートになれというプレッシャー。そしてそうなるために日々努力をしていた。そんな努力を生徒会は気付いていた。真のエリートであれば毎回必ず満点を獲ってくる。しかし、今の生徒会になってからは全校生徒において誰一人として満点を獲った人はいなかったのだ。


 才木はエリートではなかった。

 だからこそ努力を重ねては度々生徒会に挑み続け、入会を目指したのだ。


 たゆまぬ努力、そして日々重圧をかけられ続けた才木に月乃は


「よく頑張ったね」


 と言ってやった。

 それは幾度となく挑んできた好敵手へのせめてもの手向けだった。


 途端に才木の目には涙が溜まっていき、様々な感情がとけた雫が流れ落ちていった。

 直後、才木は再び血を吐いた。


「……星見。僕の、回答用紙……を……」


 月乃はとっておいた回答用紙を血に滲んだ才木の胸に置き、そこに被せるようにしてその手を置いてやった。


「あぁ……僕は………………」


 才木は満点のそれを胸に抱えると、それからその唇が再び動くことはなかった。

 そんな才木を月乃は静かに見ていた。

 それから一度手を合わせると、能徒に目を向けた。


「能徒。ありがとう。もう結界を解いていいよ」

「承知しました」


 月乃が戦いの終わりを告げて立ち上がると、まもなくしてこの応接室を保護していた結界が解除された。

 完全に守られていた壁や床、そして椅子や棚の置物類。その真新しさと高級そうな香りは激闘を繰り広げたセブンスターズの姿との間に見事なギャップを生じさせた。


 ふと静也が床に膝をついた。


「静也?」

「いや、大丈夫。少し疲れただけだから」


 思い返せば静也はずっと戦い続けていた。自己顕示の欲を身に宿し、()()という自己暗示の下で強敵となった才木を相手にかなりの奮闘をみせていた。

 その猛威を一手に引き受けていたからこそ悟利と月乃が唯と狩人を安全なところまで運ぶことができ、能徒もまた結界の維持に集中することが出来た。

 さらには才木の意識が完全に静也に向き続けたことにより、愛枷の存在を最後まで思い出させることも、警戒されることもなく終幕の一撃を入れることが出来たのだ。


「お疲れ様。今回の功労賞は間違いなく静也だよ」


 とそこに歩み寄った月乃が言った。

 すると、悟利を呼んだ。


「静也を治してくれる?」

「はいです。静也兄ぃ。少し変な感じがすると思うですけど、我慢するです」


 そして静也の横に座った悟利がその腕を取ると、そこに噛みついた。

 小さな唇と、案外しっかりとした歯の感触がそこに生まれ、同時に少しの違和感を得た。


「悟利?」

ふごはないふぇ(動かないで)ふふぁふぁい(ください)


 静也は大丈夫なのかという目を月乃に向けるも、その表情や様子に特に変化はないのでそのままにしておくことにした。

 すると、静也の身に変化が現れた。


「怪我が……」


 戦闘中に負った打撲や切り傷などの数々の生傷が見る見るうちに治癒していったのだ。


「……おしまいです。これでもう大丈夫です!」


 腕から口を離した悟利が元気にそう言うと、その頃にはもう静也は完治していた。


「これはいったい……」

「セブンスターズには戦闘が出来る人はいるのに回復系がいなかったら致命的でしょ? 悟利は怪我人に噛みつくことで日々の食欲で蓄えたエネルギーをその人に移して治すことが出来るの。すごいでしょ?」

「確かに」


 以前に静也と狩人が戦った後、二人ともが元気な姿でいられたのは気絶している内に悟利による治療があったからだった。

 ということはと、静也が応接室の出口に寝転がされている唯と狩人に目を向けた。


「二人はもう平気です。今は寝ていますです」


 既に治療済だった。

 これも静也が戦っている時に終えたことだった。


「そうか」


 その一言により静也の肩の荷が降りた。

 結果的にセブンスターズは自己顕示の欲に支配された才木に勝利した。

 今では完治はしているものの怪我人が多いことから察するに、才木は間違いなく強敵だった。

 もしも悟利がいなければ、もしも愛枷がいなければどうなっていたのだろう。と少し前の事を思い出す静也の前に愛枷がやってきた。


「静也……くん。ありが……とう」

「いや、俺こそありがとう。実はかなりきつかったんだ」

「そうじゃ……なくて……テスト……とか。まだ……お礼…言ってなかった……から……」


 静也はなんだそんなことかと立ち上がると、その長い黒髪の中の瞳がじっと静也を見ていた。


「私………この生徒会…が、みんなが…好き…… 静也くん……が勉強を…教えてくれて……みんなで出来て……楽しかった。頑張れて……楽し…かった。戦って……才木…から…生徒会を……守ってくれた。だから……ありが…とう」


 ぎこちなくもいつも通りの調子で話す愛枷。そこにはつい先程までの死神のようなおどろおどろしさは無くなっていた。


「いいんだ。俺も久しぶりに勉強に夢中になれたんだ。みんなには感謝しかないよ」

「静…也……くん……」


 すると愛枷は不気味にではなく、まるで普通の女子高校生のように無邪気に口角を上げて笑った。


「さてと―」


 と月乃が一言。


「まだセブンスターズの仕事は終わってないよ」

「他にも何かあるのか? 才木はもう死んだだろ?」

「うん。そうだけど、危険な芽は早めに摘んでおく必要があるんだよ」

「というと?」

()()()だよ。特に才木くんのお父さんかな。なんか危険な感じがするんだよね」


 先に才木が語っていた才木家の環境。

 その中心にいる存在こそ才木の父であり、才木家トップのエリートである。


「家族がお父さんを恐れて口出しも出来ないなんて、今のご時世ではおかしいよね? 一昔前の日本じゃないんだからさ。だから、私はお父さんも怪しいと思う。そもそも才木くんは完全な加害者じゃないと思うんだよね。あんなことになるまでに追い詰めてしまった才木家こそが真の加害者で、むしろ才木くんは被害者だと思うんだよ」

「だからといって、何かするつもりなのか? まだGreedでもないんだろ?」

()()ね。でも確実に進行していくと思うの。ううん。実はもういくところまでいっていて、今まで私達みたいな機関に幸い発見されなかったから生き残っているだけなのかも」


 月乃は考えている素振りを見せる。また、揺れる前髪の奥からには既に紅の瞳が開眼していた。


「でも俺達には何も証拠が無い。急に行って急に襲撃したら警察に捕まっておしまいだ。何か策はあるのか?」

「もちろん。だってここにはいい()()があるでしょ?」


 月乃は不敵に笑った。そしてさっき息を引き取った才木秀生の死体を指さした。


「才木くんの死体があるじゃん」


 口調こそいつも通りの大人しい調子ではあるものの、その佇まいには何かえも言えぬ狂気が宿っているようだった。


「その死体を、どうするんだ?」


 静也が少し躊躇いがちに問いかけた。


「だからね、才木くんを利用するんだよ。だってさ、才木家って()()()()に強い執着があるんだよ? ならさ、そのエリート家系の一員が、傍から見れば普通の私達にやられちゃったんだよ? それに、その真相が本人の欲の暴走で、それを止めるために私達が一役買ったなんて向こうが知ったら、誇りの高い一族ならどうにかして周りに広めないようにするはずじゃない? それに才木くんの不正の件もあるし」

「確かにそうかもしれないが、それよりもまずは家族がやられたことに対して怒ると思うけど?」

「それはないんじゃないかな」


 即答する月乃。


「どうして?」

「だって才木くんの話を聞くに、そのお父さんから見たら子なんて一族を総じてエリートにするための駒なんだよ。なら家族よりも社会的な評価を大事にすると思うんだよね」


 才木秀生は才木家のエリートという評判を守るための駒にすぎなかった。


 死ぬ間際に言っていた宿()()()()()()()()()()()()という言葉。

 それはまさしく一族が社会的立場を守るための宿命と、才木個人がただ認めてもらいたかったという純粋な思いがぶつかり、そんな大人の、それこそ一族の歯車を知ってか知らずか乗せられてしまっていた彼の悲しき運命の象徴に違いなかった。


「才木家は自分達の失態を絶対に世に出そうとしない。これは断言してもいいね。そこで問題。そんな一族の汚点ともいえることを知ってしまっている人が七人もいるわけだけど、さて、才木家当主はバラされる心配もなく今後も平和に過ごすためにはどうするでしょう?」


 突然始まったクイズ。だがこれが示す答えはきっと穏便なものではない。

 静也と愛枷、そして近くで聞いていた能徒が感付く。しかし悟利だけはそんなことを思いつくわけもなく


「お話合いです。人は話し合えば必ず分かり合えるのです」


 と平和そのものの答えを発言した。


「そうだね。みんながそうだったら私達みたいな欲祓師なんかいらないのにね」


 少し悲しそうに言った月乃は、次の瞬間には冷たい雰囲気を纏って口を開いた。


「社会的立場の失墜、一族の誇りを損なわせる可能性のある人達には早くに消えてもらった方が安心だよね」

「……たしかに。なんて……業の…深い……」


 月乃以上に長い前髪で顔全体を隠している愛枷も悲しそうに言った。


「才木家の当主は王手企業の社長だっていう調べはもうついてるの。権力があってお金もある。高校生を七人くらい行方不明か転校ということにして処分するのは難しくないよ。―つまりね、私達はそんな向こうの感情を逆撫でするようにして才木くんのお話をするの。で、襲ってきたらそこからはもう正当防衛的に返り討ちにしておしまい。これなら自然的に済むと思うんだよね」


 才木家当主が死んだとして、残る兄は弟の時と同様に一族の汚点を隠すために奔走し、もしかしたら同じように襲ってくるかもしれない。しかしそれも返り討ちにしてしまえばいい。

 さらに、当主に逆らえない才木の母もまた一族の威厳を下げないように何かをしてくるかもしれない。もちろんそれも返り討ちにすればいいだけのこと。

 

 月乃はそんなことを続けざまに流暢に言った。


「才木家は誇りと社会的名誉の維持によって欲が高まりつつある。近い未来でGreedになりそうな人達には早めに退場してもらおう。善は急げ。ということだから、これから才木くんの死体を持ってのりこむよ」


 やはり今の月乃は様子が変だった。

 一見すれば普段と同じだが、会話の内容からしていつもの地味で大人しいという印象からはかけ離れた好戦的な印象を与えていた。


「つき―」

「それは止してもらえますかな」


 静也がせっせと準備を進めている月乃に対して何かを言いかけた途端、とある声が応接室の入り口から全員の耳に入った。

 一同がそこに目を向けた時、そこにはまるで枝のように細い体躯に白髪混じりの中年の男が立っていた。


「どうしてここに……」


 そんな彼を前に月乃が困惑した。

 困惑、というよりかは迷惑に近い雰囲気を出していた。


「才木秀生君の死体は私が引き取ります」


 穏やかに言ったその表情からは感情が一切読めない。ただ言えるのは、静也と同じように糸目で不敵な笑みを見せているということだけだった。


「どうしてですか? 千取(せんじゅ)さん。才木くんの処理はセブンスターズの手柄です。あなた達に渡す道理はありません」


 月乃が反論した。

 しかしその声音はいつもの平坦で穏やかなものではなく、どこか感情的になっているというか、排他的な意思すらもこもっていた。


「月乃。この人は誰なんだ?」

「静也は知らなくていいよ。いてもいなくても変わらない人だから」


 やはり月乃は酷く動揺していた。

 その長い前髪の奥の瞳はまっすぐと千取を睨み、じわじわと殺気を放出していっていた。


「酷いですねぇ、月乃さん。かつてのあなたを助け、ここまで強くしてあげた師に向かってそんなことを言うなんて。私はとても悲しいですよ」

「師……?」

「私はあなたを師だと思ったことは一度もありません。ですので帰ってください。もちろん才木くんの死体は渡しませんし、私達はこのまま才木家へ突入します。私達が始末したんですから、とやかく言われるいわれはありません。ですから―」


 月乃が言葉を続けようとした途端、その言葉が喉の奥に引っ込んでしまった。

 なぜなら


「突入はよしなさいと言っているのですよ」


 千取の目が僅かに開かれ、それは発光はしていなかったものの強烈な重圧が波紋となって全員に襲いかかったからだ。

 月乃は黙り、静也と愛枷はふらつき、能徒と悟利は床に尻もちをついてへたりこんでしまった。


「あわわわわ……」

「星見様……」


 能徒と悟利は一様に動くことが出来ず、困惑の目で月乃を見ていた。


「この程度で動けなくなってしまうとは。セブンスターズは鍛錬が足りないのではないですかな? 月乃さん」

「……」

「おっと、愛枷さんでしたか。非認知(インビジブル)、見えてますよ?」

「…ぅ……」


 千取は来た時から一歩も動いていない。

 対してセブンスターズは愛枷のように何かをしようとしていたりするのを言葉で抑止され、さらには無力化されたりとされるがままである。


「……どうしても帰らないんですか?」

「もちろんです。才木君の死体を回収するまではね」

「そうですか……」


 すると月乃はスゥゥっと紅の瞳を開眼させた。


「能徒! 千取以外に結界を!」

「ですが―」

「いいから! 早く!」

「はい、すぐに!」

「月乃、まさか……」


 直後、月乃が仕掛けた。

 この場にあのブラックホールを出現させようとしているのだ。

 結界が完成すると地鳴りが発生し、千取の目の前に全てを飲み込んで消滅させるブラックホールが顕現した。

 だが今回は周囲のものを飲み込もうとせずに、その強烈な引力をその内にだけ留めていた。


「やはり実力行使できましたか。ですが―」


 かつての宣教師の時のようにその暗黒の球体がぬぅっと千取に近付いた。

 これに飲み込まれてしまえば誰であろうと一巻の終わりだ。


 全員がその行く末を見守った。

 ついにブラックホールが標的を飲み込もうとその体に接触した。

 だが―


「こんなもの、ただのお遊びですよ」


 千取の体を通過したはずのブラックホールが突如跡形もなく消え去ってしまったのだ。

 それと同時に能徒の結界も消滅した。


「そんな……星見様の……」


 能徒と同様に全員が絶句した。


「なかなかの精度でしたが、まだまだですね。見たところ月乃さんの本気だったようですが、この通り私は生きていますよ。……では、もう力量の差を理解したところで、このへんでいいでしょう。才木君の死体はこちらが回収します。よろしいですね?」

「……」


 彼の問に対して月乃はただ項垂れるだけで、何も返事をしなかった。

 千取は今初めてその場から一歩踏み出し、才木の死体の方へ悠然と歩き始めた。

 そのまま月乃の横を通り過ぎ、もうまもなく到達するその時だった。


「おい!」

「なんですか? あなたは?」


 静也がそこに立ちはだかったのだ。


「月乃の言った言葉が聞こえなかったのか? これはセブンスターズの手柄だ。北千住だか南千住だか知らねぇけどな、ここじゃ月乃の言葉が絶対なんだ。だからとっとと帰れ!」

「静也……」


 静也は既に排除の赤い眼を開眼させ、重圧と殺気を放出していた。

 正面に見据える千取はそれに対して一切臆することなく、その赤眼を見ていた。


「ほう。あなたが排除欲求の無波静也君ですか。お話は聞いていますよ。けっこうお強いんですってねぇ」

「あぁ。ならここでやってみるか?」


 静也の殺気と圧が上昇し、その瞳の輝きが増した。


「静也!」


 すると月乃が、今にも飛び掛かりそうな静也を制するように声を上げた。


「……いいよ、もう。才木くんは、渡そう」

「それでいいのかよ! 俺達みんなの手柄だろ?」

「……いいよ」


 そう言った月乃の声は酷く悲しそうで、とても悔しそうだった。

 静也はそんな様子の彼女を見て、それから目の前の千取を見た。

 そしてギリ…ッと音が鳴るくらいに強く拳を握ると、その赤眼を閉じた。


「感謝しますよ」

「千取さん、一つだけいいですか?」

「どうぞ」

「どうして私達じゃ駄目なんですか?」


 千取は月乃の方を振り返って穏やかな口調で言う。


「セブンスターズが、ましてや月乃さんが行ったら全員を殺してしまうでしょう? それでは駄目です。才木家は政財界や多くの大物とのコネクションがあります。それを一夜にして消し飛ばされてしまうと、いたるところに弊害が生まれます。まぁ、そうですね。簡単に言うと、沢山の大人達が困るのですよ。物事には順序というものがあります。才木家を消すのにはまだ早いのです」

「……そう、ですか」


 千取はその細い体躯に似合わず才木の死体を軽々と持ち上げて肩に背負った。


「では、またどこかで」

「もう……来ないでください……」


 その言葉に千取は何も返さずにふっ…と消えていった。


 Greed化した才木秀生を始末したという手柄、そして才木家への突入と未来のGreed発生の防止という手を奪われてただ立ち尽くすだけしか出来なくなったセブンスターズ。


「月乃……」


 静也は特に悲しそうな月乃に声をかけたが、彼女はその声に反応を示すこともなくゆらりと一人応接室から出て行ってしまった。


 静也は残された仲間達に目を向ける。

 しかし、誰一人として口を開く者はいなかった。



********



 次の日。月乃は学校を休んだ。

 静也のLINEには『今日、休む』とだけメッセージがあり、彼は昼休みにそれを生徒会室に集まっていた面々に伝えた。


「月乃姉ぇ、心配ですぅ……」


 悟利は菓子パンを食べながら言う。

 その心配の様子は他の人達にも表れており、一様にして落ち着きがなかった。


「どうせ風邪だろう。明日か明後日には来るだろう」


 狩人も同じく心配しているようだが、それを表に出さないようにしていた。


「随分と素直じゃないことを言うな、金錠。本当は心配なんだろ? 真っ先に気絶したから早く謝りたいんだろ? いいんだぜ? そう強がらなくて」

「なっ! 僕は強がってなどいない。まぁ確かに、早々に離脱してしまったのは情けないと思っている。だが、聞くところによれば奴は自己顕示の欲と自らへの暗示で強くなっていたそうじゃないか。何も情報が無いのに勝てるか」


 狩人はそう弁明しつつも、やはりセブンスターズの一員として申し訳なさそうだった。


「ごめんなさい。静也くん。お姉さんが不甲斐ないばかりに」


 同じくして早々に気絶してしまった唯が頭を下げた。


「いや、あれは才木の力が未知数だったからで、月乃も早めに処理すれば良かったなんて言ってたし、唯が悪いわけじゃないよ」

「貴様! 僕とは態度が全く違うじゃないか!」

「俺に女子をおちょくる趣味は無いんでね。やっても月乃に地味だとか、目が無いとか言うくらいだ」


 狩人と言い合いをしている静也はふと周りを見た。

 やはり静也が一人こうして気丈に狩人をおちょくっていても他の人達の表情は晴れなかった。

 悟利はチョコスティックの菓子パンを暗い顔でもそもそと食べ、能徒はそんな悟利に牛乳を用意しつつも、普段月乃が座っている会長の席に度々目を向けていた。


「……わたし……が……もっと……強け……れば………千取を……ヤれた……わたしは……弱い…」


 と愛枷にいたっては、ずっと机に突っ伏してそんなことをぼそぼそと呟いていた。

 長い黒髪が机上に広がり、尚且つその後ろ髪は制服すらも隠すほどに背中に乗っていたため遠目からでは黒い何かが机にかじりついているように見えてしまう。


「ところで、千取って何者なんだ? 月乃の師匠だとか言ってたけど」


 静也のその問いに一同は一瞬その答えを渋った。

 だが唯が口を開いた。


「千取さんは確かに月乃ちゃんの師匠よ。でも実際はそう呼んでいいのかは微妙ね。静也くんは昔から月乃ちゃんと一緒にいるって聞いてるけど、月乃ちゃんの過去について何か聞いたりしたことはない?」

「いや、何も。俺は聞こうとしないし、月乃も自分から話そうとしなかったな」

「そう…… でも私から詳しく言っていいかは分からないから、これだけ。月乃ちゃんのご両親は昔Gleedになって、その殲滅を月乃ちゃん本人がやったの。まだ陰陽院に入っていなかった頃ね。それで、それを知った陰陽院の千取が月乃ちゃんをスカウトして、断った月乃ちゃんと闘って勝利の末に無理矢理引き入れたの。それから何があったかは知らないけど、月乃ちゃんは千取の英才教育を受けさせられて今の強さを手に入れたのよ」


 幼馴染みである静也でも知らないことを唯は少し辛そうに語った。


「そうか。でもその『何があったか』ってところに千取と月乃の確執がありそうだな。他には何か知らないのか?」


 と静也が問うと、唯は首を横に振った。

 そのまま静也は他の面々に目を向けるが、誰もそれに答えることはなかった。


「分かった。正直あの千取を前にした月乃はおかしかったし、Greedでもない人に躊躇なくブラックホールを使ったのはいつもの月乃なら絶対にしないことだったから、あれは完全にどうかしてた」

「そう思ったところでどうする気だ? まさか千取とやりあうつもりじゃないだろうな?」


 狩人が真剣な声音で言った。


「まさか。セブンスターズの誰よりも強い月乃の技が効かなかったんだ。俺に勝ち目なんてないよ」

「だろうな。実際のところ千取の真の実力は定かじゃないが、無波が入る前に星見がぼやいていたことがある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってな。だからお前の入会は大きな戦力として当時の星見は喜んでいた。だが今のこの有様だ。昨日のことで星見は、このセブンスターズでも勝ち目はないって思ったんだろうな」


 いつもの静也ならここで言い返しの一つでも入れていたところだが、あまりにも真剣に言うその様子に何も言うことが出来なかった。


「月乃は今いったい何を考えているのだろう」


 静也は掴むことの出来ない問の答えを胸に月乃の席に目を向けた。


「……星見様は何度か私に、『最強を倒す最強は何か』と問われました。無論私には分かりかねましたので答えることは出来ませんでしたが、きっと星見様はいつか千取を討ち取ろうとしているのではないでしょうか」

「仮にそれが本当だったとして、その理由は?」

「それは……分かりません。私の勝手な予想です」


 生徒会の万能メイドであり、月乃の傍によくいる能徒でもその答えは分からないようだった。


「……なら、俺が月乃に会って聞いてくる」

「いくら無波様でもそれは無理があるのでは……」

「そうです。今はそっとしておいた方がいいと思うです」


 能徒と悟利が止めるも、静也はそんな幼馴染みをこのまま放っておくことは出来なかった。

 だが


「静也…くん。月乃ちゃんは……きっと心を…整理……しようとしてる…… だから…もう少しだけ……待って……あげて……」


 と愛枷が言った。

 いつもなら対象を抹殺するために即行動をするそんな彼女が静也を止めたのだ。しかもその長い前髪の奥には、自分も待つという決意が宿っていた。


「……分かった。それなら来週まで待ってみよう。それでも学校に来なければ俺が月乃に会いに行ってくる。それでいいな?」


 その言葉に全員が頷いた。



 それからさらに一日、二日と経っていき、ついに七日が経過した。

 結局月乃が学校に来ることはなかった。

 さらには静也へのLINEすらも無くなって完全に音信不通となった。




 そしてある日、静也は一週間学校に来なかった月乃の家を訊ねた。

 無論、生徒会の面々も同行を名乗り出たのだが、静也が『二人で話す』と言って断った。

 だから月乃の家の前にいるのは静也だけである。


「月乃。いるんだろ?」


 インターホンを鳴らしても反応が無かったのでそのまま呼びかけているわけだが、窓のカーテンには人影はおろか気配すらも無かった。

 ということで静也は一か八かで家の扉に手をかけて引いてみた。

 すると開いたのだ。


「不用心すぎるぞ。ここは田舎じゃないんだから」


 そうして静也が家の中に入った。もちろん扉にはちゃんと鍵をかけて。

 淀んだ空気と、真っ暗でしんと静まり返った室内がそこにはあった。

 現時刻は昼の十二時。

 素直に月乃が出てきてくれたらそのまま昼食に引っ張り出そうとしていたのである。


「ここか?」


 静也が一階にある扉に手をかけて開けようとしたが、それは開かなかった。

 だがその隙間からは風が出てきており、その先があることだけは分かった。そしてその扉に耳を当てた時、そこはひんやりとして気のせいか奥から声のような音が聞こえたのだった。


 まさかここにはいないだろうとその扉をスルーすると、それからくまなく一階を探した。しかし他に鍵のかかった部屋は無く、どの部屋にも誰もいなかった。


「にゃ~…」


 静也はそんな鳴き声と何かをひっかいている音が聞こえたのでその場所に向かうと、そこはキッチンだった。

 電気を点けて見渡すと、その一ヶ所の扉を猫がひっかいていたのだ。

 静也がその猫に近寄ると、猫は初めは警戒していたものの少ししてその足にすり寄った。


「にゃ~……」


 その鳴き声とその視線はさっきの扉に向けられてから静也に向けられた。

 気になった静也がその扉を開けてみると、中からはチャットフードの缶詰が出てきた。


「腹が減っているのか?」

「にゃ~………」


 猫がその内の一つを手で突いたので、静也はそれを適当な皿にあけて床に置いてやった。

 それはみるみるうちに少なくなっていき、まもなくして無くなってしまった。

 猫は皿を手で突いておかわりをねだった。


「月乃、飯をあげてなかったのか?」


 台所のゴミ箱が目に入ったのでその中を見ると、中にはいくつかの空のキャットフード缶が洗われた状態で捨ててあった。

 しかしその数は不自然なほどに少なかった。

 ビンと缶のゴミの日は週に一回。それは明日なので、つまりここには先週の分も混ざっているということになる。


「缶が乾いている。これはしばらく飯をあげてないな」


 皿を押して静也の足元まで持っていった猫。

 静也はもう一つ缶詰を皿にあけてやった。

 それもたちまち無くなっていき、猫は最後に一度鳴くとどこかに行ってしまった。


「にゃ~」


 静也が皿を洗い終えると、また猫の鳴き声が耳に入った。

 なんだろうとそこへ向かうと、猫は階段の前にいて静也の姿を見るやいなや上って行ってしまった。


「一階は探し終えたし、二階に行ってみるか」


 と階段に足をかけた時、気のせいかさっき開けようとして開かなかった例の扉から物音が鳴ったので振り返って目を向けた。だがやはり気のせいだろうと、静也はそのまま暗い階段を上って行った。


「にゃ~…」


 静也はそのまま二階を捜索していると、一つの扉をひっかいている猫を発見した。

 そして猫は静也を見ると、再び鳴いた。


「ここに月乃がいるのか?」


 扉の隙間から光が漏れ出していないことから、中は暗くカーテンすらも開けられていないということが予想出来た。


「月乃?」


 呼びかけるも返事は無かった。

 そして静也を見上げる猫の目には心配の色が浮かんでいた。


「お前も心配なんだな」

「…にゃ~」


 静也がドアノブに手をかけた。

 そこは鍵がかかっておらず、回すと玄関の時のようにすんなりと奥へ開いた。


 中は真っ暗で静也には何も見えなかった。

 猫が先に中に入るとカーテンに飛びついて揺らした。すると一瞬だけ室内に光が入り、それは僅かに人影を照らした。

 それは床に横たわっていた。


「月乃!」


 静也はその場所に駆け寄った。

 それが少しだけ動いたのを確認すると、すぐさまカーテンを開けて室内に陽光を入れた。

 瞬時に明るくなったためその差に静也の目が慣れるまで少しの時間を要した。


 やっと慣れてきた時、静也はその手に抱きかかえているのが月乃であることをあらためて確認し安堵した。

 そして彼女はゆっくりと顔を傾けていき、長い前髪の奥の瞳を静也に向けると


「……おなか……すいた……」


 と唇を動かした。

 再び安堵した静也が一度月乃を寝かせると


「待ってろよ。すぐに何かを持ってきてやるからな」


 と言って階段を降り、戸棚や冷蔵庫を開けて食べ物を探しまわった。

 そして発見したのは冷凍ごはんと卵だった。

 すぐさまレンジで解凍し、簡単な玉子かゆを作って月乃の部屋に持っていった。


 あれからまったく動いた様子のない月乃は、人形のように横たわっていた。

 静也はそんな彼女の近くにあったテーブルにおかゆを置くと、一口すくって口に運んでやった。


「おいしい……」


 すると、月乃はむくっと起き上がってテーブルの上のおかゆを見た。


「ほら。たくさん食べろ。一人で食べられるか?」

「うん。平気」


 静也がテーブルを寄せ、窓を開けて換気をしていると月乃はもくもくと食べ始めた。




「おいしかった」


 綺麗に平らげた月乃は心なしかさっきよりも血色が良くなっていた。

 それからそのまま何も言わずにうつむいていたので、静也が問いかけた。


「それで、どうして何も食べなかったんだ?」


 まずは学校に来なかったことや連絡が途絶えたことではなく、答えやすそうなところから聞いてみることにした。


「なんか、面倒くさくて」

「猫は? さっき缶詰あげたけど、かなり腹を空かせてたみたいだったぞ」

「それは……起き上がるのも面倒くさくて」

「そのパジャマは?」


 月乃はただでさえ地味なのにも関わらず、着ているそのパジャマも地味なものだった。


「しいたけ。しいたけってなんか可愛いよね」


 山吹色の生地に小さな椎茸の絵がランダムに散りばめられていた。しかも上下。

 さらにクッションかと思っていた茶色の丸いものを持ってくると、それを頭に被った。


「帽子もあるよ」


 その茶色の帽子は頭頂部に十字の模様が入っており、それはまるで鍋とかに入っている椎茸の笠のようだった。


「静也。今日はありがとうね。またね」

「いや、ちょっと待て。俺は帰らないぞ。まだ聞きたいことを聞いてない」


 ?と椎茸笠を被ったまま首を傾げる月乃。

 地味ではあるがなんだか独特な愛らしさを放つその雰囲気に構わず静也が問いかけた。


「どうして学校に来なかったんだ? みんな心配してたぞ」

「それは……ちょっと考え事をしてて」

「才木のことか?」

「うーん……」

「千取か?」


 その時月乃の雰囲気が変わった。

 どこか重く威圧的、というよりもそれには触れるなと言っているかのような無言の圧を放っていた。

 しかし静也は踏み込む。


「唯から少し聞いたぞ。千取は月乃の師匠なんだってな。いや、師匠というよりかは陰陽院に引き入れた人だったんだろ?」

「……」

「それから強くなったんだろ? 俺にはその時何があったかは知らないが、月乃は今もその強さで―」

「この力は千取のお陰じゃない」


 その言葉はぴしゃりと遮られた。


「この力は私が自分で手に入れたもの。千取は関係ない」

「ならあいつは月乃に何をしたんだ?」

「千取は……」


 それから月乃は俯いてしまった。

 その椎茸の帽子で顔全体を隠すようにして。


「なぁ月乃。俺の欲は知ってるだろ? あの時月乃の言葉に背いて俺達の手柄を奪っていったあいつを俺はまだ許してないんだ。排除してやりたい。月乃だってそうだろ? でもあのブラックホールが効かなかった奴だ。相当な手練れで間違いない。それに、月乃はブラックホールを躊躇なく出しただろ? あいつはそれほどまでに消したい男だったんじゃないのか?」

「……」


 月乃は答えない。

 だが静也もまたその場から動こうとせずにただ月乃の言葉を待った。


「…………千取は悪人だよ」


 月乃はむくりと帽子を被った頭を上げ、それでもまだ静也と目を合わせずにボソッと言った。

 声は小さかったものの、その声音には月乃の本心がこもっていた。


「私は、千取を絶対に許さない」


 月乃は怒気すらも孕んだその声音に相応しくない椎茸の帽子を取って床に置くと、その瞳は紅色に発光し始めていた。

 黒く長い前髪の奥から覗く二つの双眸は、ゆっくりと静也の方に向けられた。


「このお話、どうしても聞きたい……?」


 静也はまるで心臓を掴まれたような重圧を感じると、いつの間にか呼吸が浅くなっていた。

 それでも、あの時の月乃の様子とましてや今こうして幼馴染みにまで狂気的な眼光を向けているゆえに、ただ事では無いと思った静也は


「当然だ。俺はそのために来たんだ。聞くまでは帰らないぞ」


 とその深淵を覗く決意をすると、その禍々しい瞳をまっすぐと見つめた。


「……分かった。なら、教えてあげる。私と千取の出会いと決意を」


 月乃は紅色の瞳を閉じると、次に開かれた時には既に元の黒い瞳に戻っていた。

 その時、窓から入ってきていた風が止んだ。

 そして月乃は語ることを拒んでいたその唇を動かした。


「私の両親はもういないの。私が小さかった頃に二人ともGreedになっちゃって、私が二人を始末したの。それでその時それを見ていた千取が私を、()()()()()()に招待したの」

「アウルの楽園?」

「うん。みんながいるセブンスターズ、表向きは星条院高校の生徒会だけど元々私が創った組織なの。それに、セブンスターズは上位組織の陰陽院に属してるのね。で、アウルの楽園は陰陽院のさらに深部。言うなら最上位組織なの」

「そんなところから幼い月乃が招待されたのはすごい事なんじゃないか?」


 しかしその言葉に月乃は首を横に振った。


「最上位組織って言葉だけ聞けば確かにそうだけど、実際は何をしているのか一切明かされていない謎の組織なんだよ。それでそこから千取が来た。それまでは一度も会ったことがなかったのに、突然私の前に現れたの。怖いと思わない?」

「確かに。で、その誘いには……いや、こうして今もここにいるんだからのってないよな」

「うん。断ったよ。でも千取はどうしても私を引き入れたかったみたいで、自分に一回でも触れたら引き下がるって言ってきたの。で、必死に触ろうとしたけど出来なかったの。それで千取はただ避けていればいいのに、私が何かをする度に暴力を奮ってきてね、死なない程度に痛めつけてからもう一度楽園に誘ってきたの」


 静也はその言葉に反応するかのように体の奥からドクリと排除の欲求が沸き上がっていくのを感じた。そして気が付くとその瞳は赤く開眼していた。


「今更欲を昂らせても仕方ないよ? それでね、まだ私が断るものだからこんなことを言ってきたの。『幼馴染みの無波静也君。あの子は将来的に生かしてはおけませんねぇ』って。もちろん静也のことなんて当時の千取が知っているはずがないんだよ。でも容易く人を殺しそうな目がはったりで言っているなんて思えなくて、この人はなんとしても静也に近づけてはいけないって思って殺す気でかかったよ。でも…やっぱり勝てなかった」

「それで、なし崩し的に楽園を受け入れるしかなかったのか?」

「そうなんだけど、千取は何を思ったか私を楽園に入れるのをやめる代わりに二つ条件を出してきたの。一つは、星条院高校で自分達の最強の組織を作ること。それともう一つは私が千取の下で強くなること。もしそれが出来なければ本当に静也を殺して私をすぐに楽園に幽閉するってね」

「幽閉? 誘っていたのに今度は幽閉かよ。どうしてそんなことを」

「それが分からないんだよ。でも後々知ったことだけど、千取も千取でアウルの楽園に完全な忠誠を誓っていないみたいで、むしろ反逆心をもっていていつかは楽園の全てを手に入れるなんて言っていたの」

「であれば、千取の目的は月乃を使ってアウルの楽園を攻め落とすってことか?」


 多分、でも正確には分からないと首を横に振った。


「千取は今でも静也を狙っている。もちろん私も。もしかしたらセブンスターズも狙っているのかもしれない。それで、手に入れた人達と一緒に本当にアウルの楽園を乗っ取ろうとしているのかもしれないの。そうしたらせっかく私が集めたみんなが悪人になっちゃう。それだけは絶対に許されないの。だからそうなる前に、私は千取を殺そうと決意したんだよ」


 その時静也の脳裏には以前に能徒から聞いた、()()()()()()()()()()という言葉が過った。


「まさか月乃は、出された条件を飲んだふりをしてセブンスターズとして最強のメンバーを揃えた後、みんなで千取を殺そうと考えているのか?」


 それに対して月乃は、少しの間を空けてから


「そうだよ。千取は必ず殺すよ」


 と抑揚の無い声で言った。

 セブンスターズは月乃によって集められた精鋭達だった。そしてそれはいつか千取を殺すために存在し、その目的を静也は今初めて知ったのだった。


「仮にアウルの楽園が千取に乗っ取られたとして、それは俺達に何か影響はあるのか?」

「あるよ。アウルの楽園は実質何をしているのか分からない組織だけど、陰陽院がかなり大きな組織だからその最上位の実態はとても大きいに違いないの。それこそ、陰陽院は世界中に存在していて支部なんてものもあるんだよ。つまりね、その上位組織を手に入れるってことは、世界各地の陰陽院を支配下におくってことなの」

「陰陽院は活動として、発生したGreedを討伐しているわけだろ? なら一見して問題無さそうに思えるんだが」


 月乃は首を横に振る。


「人間の欲望ってね、簡単に操ることが出来るの。簡単な例でいえば、空腹の人の前に美味しそうなものを持っていったら食べたいって思うよね? むしゃくしゃした事があれば好きなことでもして発散したいって思うよね? どうしても嫌な人がいてその人が心身ともに追い詰められていたら、その嫌な人を殺したいって思うよね? それで、そういう人のところにそういう機会をもたらしたり、心を刺激するものを出すことでその人の欲望を増幅させて行動に移させることだって出来てしまうんだよ。逆もそう。欲が高まったところで何か鎮静化させるもの出して落ち着かせることも出来るの」


 つまりね、と月乃が続ける。


「人間ってのはね、欲望に弱い生き物なの。陰陽院はその中で欲望を暴走させた状態の人、Gleedだね、それを排除する組織。もしも陰陽院が正常に機能しなくなったら? 欲望を増幅させるものや機会を人工的に大量生産出来たら? ね? 恐ろしいでしょ?」

「確かに」


 人々の欲望の暴走。

 数えきれない人が欲に支配され行動に移せば、そこには大量のGleedが発生する。だがそれを殲滅する陰陽院は千取によって機能せず、当然警察やそれに準ずる公的機関は彼らを抑え込むことは出来ない。

 同じく、そこに所属しているセブンスターズのような欲祓師はその膨大な量のGleedを前にいずれ疲弊し、数の暴力に圧殺されるだろう。

 そうなってしまえば日本は、いや、世界は破滅の一途を辿るのだ。


「千取はアウルの楽園を手に入れることによって人間達の欲望を支配し完全管理、もしくはある特定の人物が邪魔になった場合は欲望を増幅させてわざとGleed化させてあくまで正統的に始末するかもしれない。そんな私益で完全管理される世の中が訪れてしまう危険性があるの。それか、完全管理の前に一度世界を滅ぼして再構築するのかもしれないよ」

「それを月乃は止めたいと?」

「うん。あの時は結局私を楽園に引き入れなかったけど、もしも本気で私を引き入れに来た場合は次は実力行使になると思うの。なんなら私だけじゃなくセブンスターズのみんなも吸収されちゃうよ。そうしたらみんなも千取の悪行に手を染めることになるのは明白だよ」


 幼い頃の月乃はアウルの楽園に勧誘されつつも、当時は引き入れられなかった。

 だがそれから千取の下で強くなったということで今がある。もしもこの先セブンスターズが千取の手に落ちた場合は他のみんなもその教育を受ける可能性は十分にある。であれば、セブンスターズのメンバーは確実に強くなる。だがその強さはアウルの楽園の奪取と世界の完全管理、及び破壊と再構築に利用されるに違いないのだ。


「よくないね」


 静也ははっきりと言った。


「セブンスターズは月乃が集めたメンバーだ。それを機が熟したら吸収なんて非道のやることだ」

「でも、そう思っていてもこの前の一件で今の私達がたとえ全員でかかったとしても勝てるかどうか分からないって思ったの。ううん、勝てない可能性の方が高い。私はそれでずっと―」


 そこで月乃は口を閉じた。

 きっとこの一週間は千取との実力差を思い知って悩んでいたに違いなかった。


「静也がセブンスターズに入ってくれて本当に良かった。これで千取にも勝てるって思っていたのに、これじゃまだ勝てない。誰かの実力が千取に匹敵するくらいになっても、他のみんながそれについてこれていなければ千取は必ずそこを突いてくる。だから全員が強くなければ勝てないの。一番の最善手は私が単身で会って勝てればみんなに迷惑をかけずに済むんだけど、あのブラックホールが効かなかったからそれも無理そう。あの時は本気で殺す気で力を込めたんだけどなぁ……」


 月乃はまた少しうつむいてしまった。


「なぁ月乃。千取は今すぐに殺さなきゃいけない人なのか?」

「今はまだそんなことはないよ。昔、まだ私が千取の下にいた時に聞いたことがあって、アウルの楽園を完全に支配するためには十三個の……えっと、()()が必要みたい。千取はそれを集めているの」

「その何かって?」

「それが思い出せないんだよね。何かすごいものだったってのは知ってるんだけど、とにかくまだそれを集めきっていないんだよね」

「なんでそう言いきれるんだ?」


 すると月乃が静也をじっと見た。


「だって、私が最後の鍵だからだよ」

「最後の鍵?」

「うん。私がアウルの楽園を手に入れるための最後の鍵なの」


 月乃は静也をじっと見つめると、その口角を僅かに上げた。

 両目は前髪で隠されていて静也からしてみれば見られているのかは定かではないが、それでも直観的にその奥の瞳が自分をまっすぐと見ていることを察したのだった。


「千取は私以外の、つまり残り十二個数の()()を先に揃えてからいつでも回収出来ると思っている私の鍵を取りに来るみたい。それまでは私は安全なの。でももし揃ってしまったら、その時は戦いを避けられないだろうね」

「なら、その鍵を先にどこかに隠しちまおう。絶対に見つからない場所にさ。それなら月乃や俺たちセブンスターズだって戦う必要はなくなるだろ? それか、もういっそ壊してしまおうか? 鍵が無ければ奴はアウルの楽園を支配出来なくなるだろ?」

「そうだけど、そういうわけにもいかないんだよ」

「どうして?」

「だって鍵は簡単には取り出せないところにあるの」


 それはどこに? と静也が言おうとした時、月乃はその腕をゆらりと動かした。

 そして人差し指を立てると、その先を自身の頭に向けた。


「まさか……」

「そうだよ。最後の鍵は、私の頭の中。もしも取り出すのなら、私を殺さなきゃならないんだよ」


 これは本格的にまずいことになった。

 静也はその先にある最悪の未来を予見してしまったのだ。


「千取が他の十二個を手に入れて月乃の前に現れたら、月乃は……」

「確実に死ぬの。いくら私が死なせない能力を持っていても、こればかりはどうにもならないよ。そもそもこの能力は私に埋め込まれたこれがもたらせたものなの。それを取り除くってことは、普通の人間として普通に死ぬことを意味するんだよ」


 その時、静也の中に大きな焦りが生まれ、それに呼応するように瞳が赤く変化し始めた。


「落ち着きなよ。なにもすぐに来るわけじゃないんだよ? 多分千取は今もそれらを集めることに難航してるはずだよ。でなければ、私は今頃死んでるしね」

「……あいつは今いくつ持ってるんだ?」

「多分二つか三つじゃないかな。小さい時に見たのが一つで、流石に追加で見つけていないってのはないと思うからね」

「それを見たのか? ならその正体っていったい」

「ちょっと待ってね。今思い出してみるから」


 そういうと月乃はしばらく黙ってさっきの椎茸の帽子を被った。


「丸かったような、角ばってたような。でも透き通ってたような……凹みがあったんだよね」


 と独り言を重ねながらその帽子を僅かに揺らす。


「再生と復活…… ううん。千取は、なにかこう…ロストテクノロジーだとかなんとか…」

「オーパーツ?」

「!」


 その時、悩んでは揺れていた月乃の頭が上がった。それとともに椎茸帽子が少しずれた。


「オーパーツだよ。綺麗で、丸くて、ごつごつしてるの。手に乗るくらいの大きさだったよ。何か知らない?」


 静也も一緒に頭を抱えて考えてみることにした。

 だが一向に思い浮かばない。


「その一つが今月乃の頭に入ってるんだろ? 違和感とかはないのか?」

「それが全く。きっと存在が分からないように中で溶けてるとか浸透してるのかな」


 とりあえず静也は状況を整理することにした。

 丸くてごつごつしている。透き通って凹んでいる。

 しかもそれはオーパーツで、全部で十二個あるらしい。


「再生と復活…」


 不思議とその言葉が静也の頭に残っていた。


「あと千取は何か言ってなかったか?」

「うーん…… あ! 私の中のやつは一番強力らしくて、他の十二個が集まるともっと強くなるらしいの。それで、別次元の扉が…とかなんとか。思い出せるのはこれくらいだよ」

「そうか。よく思い出したな」

「まぁ。こうして考える機会になったわけだし、そろそろ私の中のこれが何なのか思い出したくなったからね」


 そしてまた二人は考え始める。


「にゃ〜…」


 するとどこかに行っていたらしい猫が部屋に戻ってきた。そしてその口には何かを咥えていた。


「なんか遊んでほしそうだぞ?」

「ごめんね。もう少し待っててね」


 という月乃の言葉を無視してか、猫は棚を物色し始めた。するとその拍子に上から何かが落下し、猫は危うくぶつかりそうになった。


「んにゃ!」


 そしてその落ちてきたものをつんつんとしては月乃のところまで持っていった。


「DVD?」

「あぁ、これね。たまに観てるの。こういう冒険映画って面白いよね」


 今まで知らなかった月乃の趣味を知ったこと以上に、静也の目はそのパッケージに釘付けになった。


「これは……」

「インディジョーンズ? 音楽もいいよね」

「そうじゃなくて。これ」


 静也は有名なBGMを口ずさもうしていた月乃の制すと、それを手に取ってまじまじと見た。


「これだ、月乃。もしかしてこれなんじゃないか?」


 静也はパッケージに描かれているあるものを指差した。

 その直後、月乃もはっとしてスマホで検索をかけた。


「……正解かもしれない。ううん。間違いないよ。私が前に見たのはこれだよ」


 月乃が映し出したスマホの画面にははっきりとそれが映っていた。


水晶髑髏(クリスタルスカル)。これは間違いなくオーパーツで、特に強力なものは十三個。その中の一つは他とは比べものにならないエネルギーを持っているらしい。それで、その名はー」


 スクロールしていくと、そこで静也の目線が止まった。


()()()()()()()()。まさか実在していたとは」


 ヘッジス・スカル。

 最強の水晶髑髏(クリスタルスカル)で、それは他十二個のそれとともに揃えると時空をも超える力を発揮するという。


 そんなとんでもないものが月乃の頭の中にあるのだ。


「なんかこんな大きそうなものが入っているなんて、全然違和感とか無いよ?」

「さっき自分で言ってたじゃないか。もしかしたら本当に何かしらの力で透過しているのか、それとも形状が変化して埋め込まれているのかもしれないって」

「確かに。でも自分で言っておいてあれだけど、そんなことはありえるの?」

「無いとは言えないと思う。だってこれは最強のクリスタルスカルなんだから」


 月乃曰く、月乃の回復力もブラックホールも全てこれが起因しているのだから、それこそ存在するための形状なんてものは微々たるものなのかもしれない。


「それで静也。私のこれが分かって、千取がまだ他のクリスタルスカルを集めきっていないって知ったからといってどうするの? もしかしてこの隙に千取を殺すつもりじゃないよね? 言っておくけど、流石の静也でも勝てないと思うし、本当に行くなら私が全力で止めるよ?」


 月乃は椎茸帽子ごと首を傾げると、長い前髪の奥にある瞳で静也をじっと見つめた。

 仕草は愛らしいものの、その目は本気で静也を止めると言っていた。


「確かに、月乃のそれを狙っているあいつはすぐにでも排除したい。いや、排除しなきゃいけないんだ。でもいくらこの俺でも単身であいつに挑もうなんてそんな馬鹿なことはしないよ。それこそ無理ゲーというやつだ」

「だよね。安心した」


 静也はその言葉に少しだけショックを受ける。

 だが事実、静也は目の前の月乃よりも弱いのでそれにとやかく言うことは出来なかった。


「さっき月乃は、千取が持っているクリスタルスカルは二つか三つって言ってたよな? ならあと十個か九個のクリスタルスカルが各地に眠っていることになるわけだ。なら、俺達が先にいくつか集めてしまうっていうのはどうだ?」

「一個は私の中にあるんだよ? それなのに他を集めるメリットは?」

「よく考えてみてくれ。ヘッジス・スカルが頭の中にあったから月乃の能力が強力なんだろ? なら、もしかしたら他のクリスタルスカルだって誰かの体内にあるかもしれないし、もし本当にそうならその人も凄く強いんじゃないかって思ったんだ」

「あ、なるほど。他を探しつつそれを宿した人がいたら千取討伐に協力してもらおうってことだね」

「そういうこと。それなら俺達にも勝機はあるんじゃないかって思うんだ」


 静也のそれはもちろん現状では確証がない。

 だが絶対にあり得ないかと言われれば、月乃の存在ゆえにそれもまた否定が出来ない。

 

 月乃は少し考えている様子を見せた。


「もしも人に宿っていなかったら、それはそれでこっちで保管すればいいだけだもんね。まぁ、やってみる価値はありそうだね」

「だろ? でも問題はそれをどうやって探し出すかなんだよな……」

「そうだよね。案を出すのは簡単だけど、実際に動くとなるとね。闇雲に動いても時間がかかるだけだし、それこそ千取に先に見つけられたら時間の無駄になっちゃうもんね」


 二人して頭を抱える。

 そんな中で静也はさっきの猫に目を向けるが、月乃の愛猫は今はもうベッドの上ですやすやと寝てしまっていた。

 月乃の部屋を見つけた時といい、クリスタルスカルの存在を思い出した時といい、この猫は意図とせずに活躍を見せていた。二度ある事は三度ある。そんな思いで目を向けていた静也は、一向に起きる気配のない猫を見てため息をついた。


「猫の手も借りたい。そんなふうに見えるよ?」

「そりゃ。何かいい方法はないものか」

「うーん…… このまま二人で考えていても効率が悪い気がしてきたよ。みんなで考えよう。そうすれば誰かしらいいことを言うかもしれないよ。能徒とか」

「確かに」


 そこで静也の口角が上がった。


「それじゃ、今から一緒に学校に行こう。呼べばみんな来るだろうし」

「それは……」


 静也の目的の一つに、月乃を学校に連れてくるというものがあった。それが月乃本人の言葉によって今まさに叶えられようとしていた。

 そしてそれを悟った月乃はハッとして、もう取り消すことが出来ない言葉を前にため息一つ。


「でも今からは無理だよ」

「どうして?」

「だって私はご飯も食べすにこの部屋に引きこもってたんだよ? キッチンの様子を見たのなら、それなりの日数このままだったってことは分かってるよね?」

「それはもちろん。でも飯はもう食っただろ?」

「だから、そういうことじゃなくてね」


 月乃は少し恥ずかしそうに、それでいて言いにくそうにその言葉を発した。


「お風呂、入ってないんだよ?」

「なんだ風呂か。大丈夫じゃないか?」

「何言ってるの? いくら私でも数日お風呂に入っていないまま学校に行けるほど女として終わってないよ」

「世の中には二週間風呂に入っていない女子がいてだな、その人達は体にファブリーズをまき散らすらしい」

「あれは別だよ。今の私さ……」


 その時、月乃が服の襟を持ち上げて香ってくる自分のにおいを嗅いだ。


「うん。変な臭いがするよ。女として出しちゃいけない臭いがするよ」

「そうか? こうして近くにいても臭くないぞ?」


 そうして静也が月乃に近付こうと体を寄せた。

 だがそれと同じ幅で月乃が距離をとった。


「臭いもん……」

「キノコは元々独特な匂いがするものだろ? でもそれがいいんだ」

「このパジャマは関係ないよ。とにかく、今の私は臭いから学校には行けないよ」

「そうか。でも明日は一緒に行こうな」

「それは、そうだね」


 月乃の言葉にはどこか元気が無い。

 その理由は明らかで、それには静也も察しが付いた。


「確かにみんなは心配してたし、正直行きにくいのも分かるけど、でもみんなは月乃が来るのを待っているよ。俺も一緒に行くし、仮に金錠の奴が何か言ってきてもどうにかしてやるからさ。事情を話せばみんな納得してくれるさ」

「静也……」


 椎茸帽子に埋もれるようにして少しだけ俯いていた月乃が顔を上げると、口元をにこっとして静也を見た。


「ありがとう。それじゃまた明日から学校に行こうかな」

「おう。そしたらクリスタルスカルの事をみんなで考えよう。あ、でもそうなると月乃の中にあるヘッジス・スカルの事も話さなきゃいけないんだよな。それは、大丈夫なのか?」

「まぁ、仕方ないよね。みんなが理解しやすいようにするには話すのが一番だよ」


 月乃の中に埋め込まれているそれは、いくらセブンスターズだからといって今まで知ることのなかったことだ。だからこそ、打ち明けた時には全員が動揺し驚くに違いない。

 そう月乃は思ったのだった。


「何にしても、こうしていつもの月乃に戻ってくれて良かったよ」

「心配性だね」

「まぁな。やっぱり月乃は地味で大人しくて、地味で地味じゃなきゃな」

「地味すぎてもなぁ…… こう見えても私だってオシャレをする時はするんだよ?」

「しいたけパジャマで言われても説得力が無いんだよなぁ。まぁいいや」


 そして静也が立ち上がった。


「それじゃ明日は一緒に学校に行こうな。迎えに来てやろうか?」

「いいよ。いつも通り私が静也の家に行くよ」

「そうか。それじゃ、そろそろ帰るよ」


 その時、開けていた窓に張られていた網戸に蝉がぶつかってジジジと激しく鳴き声をあげた。

 静也と月乃はもちろん、寝ていた猫も飛び起きるほどに驚いた。

 猫はその勢いのまま、歩き出そうとした静也の足元を走って部屋を出て行ってしまった。そして急な出来事により静也はバランスを崩してしまった。


「おっと、やばい」


 そのまま態勢を整えきれずに月乃の方に倒れてしまった。

 床には人が倒れた音が二つ重なって鳴った。


 静也は月乃を押し倒すようにして覆い被さってしまった。そして意図とせずに静也の鼻先は月乃の首筋、もっといえば鎖骨辺りにあった。

 そこで静也が無意識に一呼吸をした。すると、ボタンがいくつか開けられていた襟の辺りから月乃の香りがもわっと静也の鼻腔をくすぐった。


「静也……」

「月乃」


 月乃はそんな状況と、静也が自分のにおいを嗅いでしまったことに対して顔が真っ赤になってしまった。

 終わった。月乃は確かにそう思った。だが


「臭くないぞ?」


 静也からは思いもよらない言葉が返ってきた。

 それから静也が確かめるように何度もその香りを嗅ぎ、その頭がそのまま横にずれていくと、もうまもなく脇に到達しようとした。


「そっちは本当に駄目!」


 珍しく月乃が大声を出して静也をビンタにて突き放した。

 それから腕で体を抱くようにして小さくなった体で()()と睨みつけた。


「いてて。でも大丈夫だ。月乃は臭くない。むしろいい匂いだった」

「……変態」


 月乃は正直女の子として終わったと思った。だがそんな反応を見せた静也に対してほっとしたのと同時に、やはり恥ずかしさを感じてその表情をさらに険しくした。


「すまなかったって。それじゃ、本当に帰るからな。また明日な」


 そう言って静也は帰っていった。


 静かになった部屋で月乃はまた自分のにおいを確かめた。

 やはり自分には臭いと感じてしまったようだ。さらに続けて脇のにおいを確かめた。それに関しても、静也に嗅がれなくて良かったと心底思うようなにおいだった。


「やっぱり臭いよ……」


 静也に対する恥ずかしさはあったものの、今日こうして自分を心配して家に来てくれたことは嬉しかったので、さっきの行為はかなり大目に見てやることにしたのだった。



 後日、月乃が静也の家に迎えに行くと、静也は既に登校の準備を終えていてすぐに出発出来る状態だった。


「今日は早いね。何かあったの?」

「もしも月乃が迎えに来なかったら俺から行くつもりだったんだよ」

「流石に昨日の約束を破ったりしないよ」


 静也の目には月乃がいつもよりも綺麗に見えた。

 黒く長い前髪はいつも通りであるものの、その髪の艶というか漂う雰囲気はまるで清楚美人のようだった。

 また、肌艶も良く美白のそれは硬派な印象を与える黒髪の存在も相まって、そのコントラストを際立たせつつも肌の柔らかそうな弾力を感じさせるには十分だった。


「なんかいつもと違うな。まさか地味な月乃が化粧を?」

「化粧はしてないよ? 昨日あれからお風呂に入ってご飯を食べて寝ただけだよ」


 両目が隠れた顔が傾げられ、頭の上にハテナマークが浮かんでいるようだった。


「月乃は元の素材がいいもんな」

「素材とか言わない」

「それじゃ、少し早いけど学校に行くか」

「そうだね」


 ということで二人が揃って玄関を出ようとした時、ふと静也の鼻腔を桃のような甘い香りがくすぐった。


「今、におい嗅いだでしょ?」

「香ってきたんだ。なんかいい匂いだな。まさか地味な月乃が香水を?」

「香水なんて付けないよ。これでも生徒会長だし。というか、私の匂いばかり嗅いで、静也はいつからそんな変態になったの?」


 どうやら月乃は昨日のことをまだ気にしているようだ。


「今も昨日も不可抗力だ。でも、どっちもいい匂いだったぞ」

「本当に変態になっちゃった、ううん、なり果てたんだね。でも他の人達にはしちゃ駄目だよ? 本当に通報されるから」

「通報って…… でも月乃にならしてもいいのか?」

「それも駄目。私が通報するから」


 と言っている月乃は特にむっとしている様子ではなく、どこか楽しそうな雰囲気を出していた。

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