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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
SS①

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70/162

年末SS 今年の終わりはみんなと

「むぅ……忙しいなぁ」

「今回は、遊びに行きたい。じゃないんだな」


 大晦日である12月31日。

 この日において星見月乃(つきの)は遊びに行こうとは言わなかった。というよりも、その言葉の通りとても忙しそうにしていた。


 セブンスターズの面々はその拠点である事務所において、時折出動要請を気にしながらも各々がやるべきことをやっていた。やはりその動きは忙しない。


「なんで今日まで残してたんだよ。大掃除」

「だって、やる気が起きなくて。それに能徒(のと)がいつもやってくれているからいいかなって思ってさ」


 能徒(かなう)。このセブンスターズにおける万能メイドだ。

 彼女はまるで家政婦かと思えるくらいに家事は何でも出来る。それに掃除だって毎日しているので基本的に事務所は綺麗だ。だが共有スペースが綺麗というだけで、それぞれの個人スペースは別だ。

 

 さすがの万能メイドでもそこには立ち入らない。ゆえにその持ち主に完全に任せているのだ。

 その個人スペースは別に個室があるとかではなく、事務所にあるそれぞれの机周りである。


「お、終わらないですぅ……」


 全員にはそれぞれ大きなデスクがあてがわれている。

 もちろん抽斗(ひきだし)が多く、それに加えて机に収納スペースを作っている人がいたり、置き物や各々が好きな物を置いたりしているのだ。


 そんな中で嘆いている小牧悟利(さとり)は特に物が多い机上だ。それに加えて抽斗の中にも色々と入れている。お菓子とかお菓子とかお菓子である。そこはまるでお菓子BOXと化している。


「これ、賞味期限は大丈夫なのか?」


 と無波(ななみ)静也(せいや)が問いかける。


「大丈夫です! 全部ちゃんと覚えてるです!」

「ほぅ。それじゃ、これは?」

「来年の六月四日です!」

「こっちは?」

「明後日です!」

「これとこれは?」

「来年の七月五日と、十月十七日です!」


 全て正解だった。

 なら大丈夫だろうと、静也は次に深見愛枷(まなか)のところに行った。


「……ぅ…すて…られ……ない」


 愛枷は一番大きな抽斗に顔を突っ込んでいた。まるで頭隠して尻隠さずの犬のようだ。

 ちなみに既に机上にも色々と出されていた。それらは藁人形や五寸釘、梵字のような文字が書かれたお札といったようにまさに愛枷らしいものが並んでいた。


「思いきって捨てないと片付かないぞ?」

「……む…むり……どれもかわいい」


 すると愛枷がぬぅと顔を出してその迷っているものを静也に見せた。


「…こっちの藁人形はね……ここのハネ具合が…かわいいの。こっちは…ね、首のここが……絶妙に細くて……きゅってしてて…かわいい…の……」

「いや分からん」

「静也くん……つめたい…でも…それなら……教えてあげる……ね」

「いや、それもいいから。というか、埃が舞ったらくしゃみが出るからこれあげるよ」


 そうして静也がマスクを渡した。それを受け取った愛枷はなんだか嬉しそうだ。


「月乃を見てみろよ。あの前髪で顔の上半分が書かれているのに、マスクを着けてるものだからもう完全に顔が見えてないぞ」

「本当…だ……」

「静也、聞こえてるよ。むぅ…くしゃみが嫌だから着けてるだけなんだけど、やっぱりこうなっちゃうんだよね」

「前髪を上げるか分けるかしたらどうなんだ?」

「それはなぁ……」


 良い反応ではない月乃。しかし静也は流石にこれでは面白すぎて不意に笑ってしまうと思い、ポケットからあるものを取り出した。


「月乃。少しじっとしてろよ」

「えっ」


 そして静也は月乃の前髪の右側をヘアピンで留めて分けてやった。すると露わになった黒曜石のように黒く円な瞳が少し驚いて静也を見ていた。

 久々に普通の時の瞳を見た静也は、自分でやっておきながらその可愛らしさに少し戸惑ってしまった。


「……ありがとう。でも私には似合わないと思うよ?」

「そんなことないぞ。昔に見たままの綺麗で可愛い目だな」

「そんなこと言われると悪い気はしないんだよなぁ」


 月乃は頬を僅かに赤くすると、次に自分の視線をどこにしようか迷い始めた。なにせいつもは前髪で隠れていて相手からは見えなかったのだ。だがこうして露わになって見られていると実感するとどうしてもその向け先に困ってしまうのだ。

 だが、最終的に落ち着いたのは一回だけ目が合ってから俯くことだった。


「静也くん。どうしてヘアピンなんて持ってるの?」


 と姉ヶ崎唯が話しかけた。

 彼女もまた自分のパーソナルスペースを掃除中で、今回はその長い髪を後ろで一つにまとめていた。


「あぁ、いつでも愛枷の前髪を上げたり分けたり出来るように持ってるんだ」

「……ぇ…わたし…あげられ…ちゃう…」


 愛枷が反応し、この超絶長い黒髪を手で押さえた。


「そうなんだぁ。それじゃ、お姉さんの前髪も分けて欲しいな。そうしたらじっと見つめて欲しいな」


 すると月乃が静也の手からヘアピンを取って唯に付けてやった。


「これでもう大丈夫だね」

「月乃ちゃんにじゃないよぉ?」

「ほら、唯も早く片付けて。というかさ、静也はもう終わったの?」


 唯を自分の場所に追いやった月乃が首を傾げて問いかけた。やはりその円らな瞳は新鮮で、静也はそれを見るたびに目線を逸らしてしまっていた。


「あ、あぁ。大丈夫だ。俺は物をほとんど置かないししまってもいないからな。ほら、綺麗になってるだろ?」


 静也が指差した自分のデスクは、まるで誰も使っていないんじゃないかと思えるくらいに物が無く、それでいて綺麗さっぱりになっていた。


「綺麗だけど、なんか寂しいね」

「そうか? ごちゃごちゃしてるよりはいいだろ?」

「うーん……せめてこれを置いてよ。少しは可愛いくなるよ」


 と月乃がその机に置いたのは、自身が愛用し何個も机に飾っているしいたけの置物だった。


「なんか湿っぽくて生えてきたみたいで嫌だなぁ…」

「こっちもあるよ? お鍋に入れるみたいに笠に十字が入ったやつ。こっちも可愛いんじゃないかな」

「これもこれで鍋に入れられる直前か、余ったから置きっぱなしになっているみたいで嫌だなぁ」

「むぅ…注文が多いね」

「やっぱり何も置かなくていいよ。そのうち何かしら置くだろ」


 ということで、殺風景なままで落ち着いた机上はやはりなんとも寂しげな雰囲気を発していた。


金錠(きんじょう)は?」

「そういえば、どこに行ったんだろう」


 狩人(かぶと)はいつの間にか姿を消していた。ちなみにその机上は完全に整理整頓されており、パソコンや各種書籍や書類が入るラックが1ミリのズレもなく真っ直ぐに置かれていた。そして眠気覚ましのガムや目薬なんかも置いてあって、なんだか会社員のようなデスク周りとなっていた。


「まさか犬小屋か?」

「そうかもね。やっぱり犬小屋が好きなんだね」

「ここには犬小屋なんかないだろ!」


 すると狩人の声がどこからか聞こえた。だが二人の視界にその姿は映っていなかった。


「なんか下の方から聞こえた気がしたぞ。ここって地下に犬小屋があるのか?」

「あるよ。狩人には見えない犬小屋が」

「だから無いと言っているだろ! 少し待て。今出るから」


 すると狩人がその机の足元、椅子が収納される場所から出てきたのだ。


「いくら自分が眼鏡をかけているからって、そこにはタイムマシンはないぞ? それと万能狸型ロボットもいないぞ?」

「突っ込んでやりたいことは多々あるが、これを見ろ」


 すると狩人が机の下を指差した。


「この部屋のネット回線を新調したのだ。この先なにかと必要になることもあるだろう。設備は最新型だ」


 そこには最新鋭のネット回線を約束する機器があった。一見ルーターのように見えなくはないが、実際はモデムというものでそこには最新のLANケーブルが差さっていた。その先はデスクとデスクの間を抜けて上、つまり全員から等距離にある位置に置かれたルーターに繋がれており、今もなお起動中だった。


「これはすごいね。これなら時間のかかる処理だとか、今後の水晶髑髏(クリスタルスカル)の捜索にも最適だね」

「そうだ。生徒会室だけでは効率が悪いからな。思いきって取り付けたのだ」

「なぁ、金錠」

「なんだ? そんな顔をして」


 そこで静也が問いかけた。


「それは必要なのか?」

「お、おま……っ」


 それに目を丸くした狩人。そして、呆れたと言わんばかりに頭を抱えた。


「静也。今じゃネット回線はみんなの命といえるくらいに大事なんだよ? それこそ、動きが悪いだけでGreed化する人もいるくらいだし」

「そんなバカな。たかがネットだろ?」

「されどネットだよ? この処理速度と対応スピードによって私の生死が関わるって言ったら?」

「最優先事項だな」

「つまりそういうことだよ。狩人、ありがとうね」

「造作もない」


 静也がスマホでやることといえばLINEくらいだった。それとセブンスターズとの連絡か月乃としか連絡をすることはなかった。

 ネット検索はするものの、それこそゲームや各種SNSとは無縁だったのでネット回線の知識については酷く疎いのだ。


 そんな静也を見た狩人は、掃除を終えた自分の椅子に座ると少し誇らしげに静也を一瞥してから雑誌を読み始めた。

 それを見た静也は特に何を思うでもなく、残りの能徒と唯のほうに目を向けた。

 まずは能徒からだ。


「能徒は心配することもなさそうだな」

「はい。私は常に整理整頓を心掛けておりますので。それに、普段は椅子には座っておりません」

「そういえばそうだ。能徒が座っているのを見たことがないな。だいたいは月乃の横か後ろにいるもんな」

「はい。私は皆様のために在ります。ですので皆様の前で座ってくつろぐなど不敬なのです」


 相変わらずの忠誠心を掲げる能徒。

 その志は立派なものだが、そうなってくると静也は不安を抱かざるをえないのでこれだけは言った。


「セブンスターズはブラック企業じゃないからな? 別に座りたい時は自由に座っていいんだからな?」

「それはもちろんです。しかし、その時がこないのです」

「ほぅ。でもクリスマスの時みたいに、夜に寝るのは誰と一緒でも変わらず寝てくれるんだな」

「それは、はい。ですが、もし星見様や皆様が私に寝ないようにとお申しつけされるようでしたら寝ません」

「なら、もしも俺が、今夜は寝かさないぜ。なんか言ったら本当に寝ないんだな?」

「それは……その……」


 直後、能徒は一瞬目を見開いてから頬を赤くすると、何かを考えているというか恥ずかしがっているのか、うつむいてもじもじとし始めた。

 また、この事務所内の空気も変わってしまった。特に唯と月乃が静也と能徒を見て不敵な表情を浮かべていた。


「静也。もちろんそんなことは言わないよね?」

「そうよぉ? 静也くんは能徒にそんなことは言わないもんね? 別の意味があるんだよねぇ?」

「別の? 本当の意味が何なのかは分からないが、俺はただ、もしも今後またみんなで宿泊になってゲームとかやるとしたら夜通し出来るのかなって思っただけだ」

「ふーん。そう」

「本当、静也くんは……」


 それを聞いた月乃と唯が安心したような少し残念というか呆れているような様子を示した。


「なぁ、能徒。さっきの俺の言葉には何の意味があったんだ?」

「それは……ご一緒に遊ぶという意味であっていると思います。無波様。もしも今後そのようなことをおっしゃるのでしたら、時と場合を間違えないほうがよろしいかと…… 私は、いえ、私にはもったいないです。星見様と姉ヶ崎様がいらっしゃるので」


 その言葉に一層訳が分からなくなった静也。だがこれ以上の追求はしなかった。なぜなら能徒がもう耳まで赤くしてしまっていて、言葉もたどたどしくなっていたからだ。


「そうか。なんか分からないまま言って悪かったな」

「いえ、私は……大丈夫ですから」

「能徒。どうしてそんなに顔が赤いの?」


 そう言った月乃はにっこりと怪しく笑っていた。


「申し訳ございません。私にはそんなつもりはありません。常に純潔でいる所存です」

「うん。いい子だね」


 と月乃の表情が元に戻った。

 それから少しして部屋の空気が掃除モードに戻ったので静也が唯の方を見ると、唯もまた掃除に整理整頓に苦戦しているようだった。


「唯。大変そうだけど、終わるのか?」

「大丈夫よぉ。ねぇ、静也くん。これ、貰ってくれないかなぁ」

「まぁいいけど、何を貰えばいいんだ?」

「これよ。お姉さんが使ったものなんだけど、箱の中に入っているから大丈夫よ。もし気になるなら見てもいいけど、そっと…ね?」


 ということで一つの箱を渡された静也は、疑問の表情を浮かべながらそっと箱を開けて中を覗いてみた。するとなんだか楕円形のピンク色の物にコードがついていたり、小さなリモコンのようなものがあった。

 また、卵型のケースというかそんなものがいくつかあって、それは新品のようだった。


「なんだこれ?」


 と流石に不思議に思った静也がピンクの楕円形のものを取りだした。いや、取り出してしまった。


「静也! それは駄目だよ!」

「えっ?」


 そんな声をあげたのは唯ではなく月乃だった。そして月乃が尋常じゃない勢いでそれと箱を取り上げると、それを自分の体の後ろに隠してしまった。


「あらぁ、月乃ちゃん。静也くんへのプレゼントだったんだけど駄目だった?」

「駄目に決まってるでしょ。こんなものをあげてどうするつもりだったの?」

「もちろん、そういう知識を蓄えてもらうためと、いつかお姉さんに使ってもらうためにね」

「使う? なにかに使うものだったのか?」

「そうよぉ。()()()に使うの。興味、ある?」

「無いよね? 静也はそんな玩具(おもちゃ)には興味ないもんね」

「玩具? 遊び道具なのか?」


 つい口が滑ってしまった月乃はハッとするももはや遅いということに気が付いた。だからそれを跡形も無く消し去ってしまおうと箱に照準を定めると、かのブラックホールを出現させようとしていた。もちろんその意向に気が付いた能徒がその箱を囲うようにして結界を張ろうとしていた。

 だが―


「そんなことしたら、駄目よ?」


 ブラックホールと結界が完成する直前、唯もまた特出した速さでそれを回収すると大事そうに箱を自らの胸の前に抱いた。


「せっかくお姉さんの愛情がたっぷり浸み込んだプレゼントだったのに」

「浸み込んでいるのは愛情じゃないでしょ?」

「ん? それはなにかなぁ?」

「愛―……」


 そこで月乃の口が閉じた。いや、焦って閉じたという感じだった。そしてこのやりとりを見ている静也に目を向けると、途端に顔を真っ赤にして羞恥に俯いてしまった。


「この手の話題はお姉さんには勝てないわよぉ?」

「で、でもその箱を静也に渡すのは駄目。駄目だからね?」

「なぁ、その中身って俺にとってなにかまずいものなのか?」

「そうだよ。有害だよ」

「有害なんてひどいわぁ。有害なら、これを使ったお姉さんが悪い人みたいじゃない? なんなら、月乃ちゃんも使ってみる? くせになっちゃうかもよ?」

「つ、使わないよ。そんなの無くても―」

「無くても?」


 そこでまた月乃の口が閉じられた。そしてもう勝てないと悟ったのか、悲しそうで助けてほしそうな目を静也に向けた。まるでむぅぅ…とでも言っているかのようなその様は静也の庇護欲を刺激した。


「まぁ、もういいんじゃないか? あぶない物なら唯には悪いけど受け取れないよ。月乃も十分に困っているみたいだし」


 月乃はしゅんとし、静也の後ろに隠れるようにして小さくなっていた。そして唯を見る目は今でも悔しそうだった。


「……そう。それじゃお姉さんの勝ちってことで、今回は手を退いてあげるわねぇ」

「むぅぅ……」

「でも静也くん。どうしてもこれが欲しかったら言ってね。その時は使い方を実践付きで教えてあげるからね」

「助かる。実際に見たほうが分かりやすいと思うし。でも有害なんだもんな……」

「静也にはまだ早いんだよ。だからいらないよね?」

「いや、気にはなってい―」

「いらないよね?」


 月乃からの有無を言わさない圧と、紅色の瞳を受けた静也はそのまま黙って頷くしかなかった。


「星見様。各種飾りつけが終了しました」


 と、そこに能徒がやってきた。

 あの後、月乃と唯と静也の三人がメインで話すようになったことを察してその際にすっと姿を消していたのだ。それを静也は気が付いていたものの特に気にすることはなかった。どうやら能徒は月乃から仕事を依頼されていたようだ。


「うん。ありがとう。みんなはどう? 片付け終わった?」

「終わったです! 抽斗に入りきらなかったお菓子は食べたです!」

「藁…人形……供養……する……悲しいけど……供養…」

「見ての通りだ」

「お姉さんも玩具、片付けたわよぉ。静也くん。ここに入ってるからね。いつでも開けてね」

「開けなくていいからね? 静也」


 それぞれが片付けを終えて自分達の席でくつろいでいた。すると能徒が全員にお茶を淹れ始めた。

 そんな時、ふと静也が気になったので月乃に問いかけた。


「結局月乃は片付け終わったのか?」

「うん。ちゃんと終わったよ」


 そう得意げに言っているので静也がその机上を見ると、少し前に静也と一緒に出掛けた時に買ったダイオウグソクムシのグッズが分かりやすい場所に置いてあった。あとは作業スペースを確保しつつも、所々にはしいたけのグッズやらガチャガチャの置き物が並んでいた。


「物はそれなりにあるのに、散らかっている感じがしないな」

「並べ方によって受ける印象が違うからね」

「ちなみに抽斗も大丈夫なのか?」

「うん。大丈夫だよ」

「そうか。少し見てみよう」


 静也がそこに手をかけて引いてみた。だが、そこには鍵がかけられており開くことはなかった。


「鍵なんてあったんだな」

「自分で付けたんだよ。それじゃみんなも終わったみたいだし、そろそろ出ようか」

「どこかに行くのか?」

「あ、そうだ。みんなに言ってなかったね。今日は大晦日だから夕食に蕎麦屋に行くよ。予約はしてあるからそろそろ向かうよ」

「お蕎麦ですと!」


 ()()の悟利は目を輝かせながら月乃を見た。

 時刻は既に十九時を過ぎており、全員に空腹の波が押し寄せる頃だ。だからこそ全員の意識に蕎麦という存在は大きく、魅力的な食事という事に違いなかった。


「食べ放題です?」

「食べ放題というかね、この辺じゃ珍しくわんこ蕎麦が出来る店なんだよね。東北にしかないのかなって思ってたんだけど見つけたんだ」

「確かに東北にはわんこ蕎麦が有名な所があるよな」

「うん。でもそれなりの値段はするけど、年末だしいいかなって思って。全部セットになってるから以降はいくらでも食べていいんだよ」

「いくらでも! なんていい響きなのです!!」


 悟利はまさに歓喜をその身に宿し、すぐにでも出発しようと準備を進めていた。

 それにつられるようにして他の面々も準備をすると、防寒対策を完璧にして玄関を出た。


「うん。正月飾りがいい感じだね」

「ありがとうございます。これで今年も年を越せます」


 玄関には鏡餅、外にはお飾りもあって来たる正月を迎える準備は万端だった。

 それを見た月乃が感慨深い様子で言った。


「去年は30日に生徒会でご飯に行って、31日には静也と私でご飯に行ったんだよね。一年が経つのは早いね」

「そうだな。俺は今年も月乃と一緒にいられて楽しかったぞ。来年も楽しくすごそうな」

「うん。そうだね。一緒だね」


 既に月乃はヘアピンを外しており、いつも通りの長い前髪で両目を覆っていた。だが、その奥の瞳はなんだか笑っているようなそんな気がしたのだった。もちろんその口元はにこっとしていた。


「それじゃ、行こうか」


 そうしてセブンスターズは完全に大晦日の空気となった夜道を歩いて蕎麦屋に向かった。

 年越し蕎麦をこんなに大人数で食べるというのが初めてだった静也は、少し動揺しつつも今まで一緒に過ごしてきた仲間達を見て落ち着きを得た。それとともに温かさを感じた。


「今日はたくさん食べるです! お蕎麦美味しいです!!」


 入店して食事が開始されると、悟利がまたこの店でも店員を涙目にさせたのは言うまでもない。


***


「美味しかったね」

「そうだな。悟利は相変わらずもの凄い食べたな。満足か?」

「もっと食べられたです! でもお店の人が困ってたので控えたです。だからまた来年もみんなで行きたいです!」


 その言葉は帰路につく全員の心に浸透した。そして一様に微笑むと


「そうだね。また来年もみんなで来ようね」


 という月乃の言葉に同調したのだった。


「それじゃ、みんな。私と静也は今日はこのまま事務所に行くけどどうする?」

「事務所に行ってどうするんだ? というか、俺も行くことになってるのね」

「何も予定無いでしょ?」

「確かに無いけども」

「それじゃ決まりだね。で、みんなはどうする?」


 事務所でどうするのかについては回答されなかった。だがここでもちろん追求がされるわけで


「事務所でどうするのかしらぁ? まさか二人だけのお泊まり会でもする気?」

「そうだよ。みんな来ないなら私と静也でお泊まり会するね」


 直後、他の女子達からピリっとした空気感が発せられた。


「それならわざわざ事務所じゃなくて俺の家でいいだろ」

「そうだけど、年末だし雰囲気を変えようと思ってね」


 その時、月乃が唯の方を向いて()()()()()()という顔をしていた。

 だがそれで退かないのが唯である。だから静也の腕に抱き付くと


「それじゃお姉さんもお泊り会に行くわぁ。特に何も無いし。熱い夜を過ごそうね?」

「熱い夜です!? またトランプをするですか! わちも行くです!」

「わ……わたし……も…お泊り会……たのし……」

「皆様が行くのでしたら私もお供いたします」


 と女子は意見が固まった。だが狩人は今回も素直じゃないのだった。


「僕はどちらでもいい。みんなが行くなら行ってやってもいいぞ」

「それじゃ金錠は帰宅だな。家で一人除夜の鐘を百八回聞いて煩悩を消していくんだな。あ、今年も紅白がやるからテレビを点けて踊ってでもしていれば寂しくないからな?」

「何が楽しくて一人寂しくBling-Bang-Bang-Bornをやらなければならないんだ! 僕はそんな悲しい男じゃない!」

「なら狩人も参加だね?」

「まぁ、いいだろう」


 ということで全員参加となった大晦日のお泊り会。

 事務所に到着するとさっそく開始された。


「あ、静也()ぃ。開始の言葉が欲しいです!」

「どうしてまた。月乃がいいんじゃないか?」

「今回は静也兄ぃがいいです! さっき能徒に言ってたあの言葉がカッコ良かったです! あれを開始の言葉にしたいです!」


 無邪気に嬉々として悟利が言うと、まさにそれに異論は無しと言った様子で女子達の視線が集中した。


「なんか恥ずかしいけど、それでいいなら。それじゃみんな、今夜は寝かさないぜ」

「やっぱりなんかカッコいいです!」

「もぅ……静也くんってば。でもお姉さんは…いいよ?」

「……なんか……照れ…る……」

「無波様……私なんかが……でも……」

「むぅ……でも、いいと思うよ」


 皆がそれぞれ赤面し、その内にある心を映しているかのように頬を赤くするとまるで何かをねだっているように静也を見つめた。


「な、なんだ?」

「それでおしまい? 今日は何回するの……?」


 と唯が言った。


「そりゃみんなの気が済むまで何回でも」


 直後女子達の目には一様に情欲すらも感じられるものが宿った。


「無波。トランプとかゲームのことだと明言しておいたほうがいいぞ。でないと勘違いが進み続けるぞ」

「え? 最初からそのつもりで言ったんだが。俺とみんなとでは考えていることが違うのか?」

「やはりお前ってやつは……」


 狩人がまたもや頭を抱えた。だがもう呆れたという様子で何かを言うことを諦めたのだった。


「気が済むまで………はぁはぁ……いいの? いいんだよね…静也くん……? お姉さん、容赦しないよ?」

「なんでそんなに息が荒いんだ? それにみんなも何かがおかしいぞ」

「おかしくないよ。全部静也が言ったことだよ?」

「……ふふ……ふふふ」

「私は、皆様のメイドです。でも無波様が求めるのでしたら……」

「わちも遊ぶです!」


 その異様な空気に気圧された静也はたじろいで事務所を出ようとした。だが全員がそうはさせずにすぐに部屋の最奥に戻してしまった。


「さぁ、静也くん。みんなで気が済むまでしようねぇ」

「今夜は寝かさないんだもんね?」


 唯の目が、月乃の目が、そして全ての女子の目が怪し気に光っていた。

 無論この状態で狩人に助け船を期待しても無駄なのだった。


「わ、分かったよ。早くトランプをやろうな」

「また勝った人の言うことは何でも聞くってルールでいいよね?」

「異論無しよ」

「やるです!」


 そうしてセブンスターズは年末もみんなで楽しく過ごし、疲れ果てるまで遊び続けたのだった。

 その途中で煩悩を消していく鐘が鳴ったものの、全員の耳に入らなかったのは言うまでもない。

年末SSをお読みいただきありがとうございました。

2024年はこれにて終了です。


年明けは4日か5日頃に更新の予定です。

来年は新章に入り、物語は加速していきますので引き続きよろしくお願いします。

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