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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
SS①

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69/162

クリスマスSS みんなで過ごすクリスマス会は波乱の予感

「遊びに行きたい」

「また急だな」


 本日12月24日もGreedの殲滅に出たセブンスターズの面々は拠点である事務所に集まっていた。そしてついさっきそれを終えたところで、全員が事務所に戻ってきて万能メイドである能徒(のと)(かなう)が淹れたお茶で一息ついているところだった。


 人の欲望が暴走し制御出来なくなった挙句、化け物のように力の限り暴走してしまう存在。それがGreedと呼ばれ、星見月乃(つきの)を筆頭とした欲祓師(よくふつし)達、セブンスターズは日夜その殲滅をおこなっているのだ。


「遊びに行きたいって言っても、やっぱり今から遠出は無理だぞ? もう夕方だし。って、この前もこんな話をしたよな」

「今回も分かってるよ。でもそろそろまたみんなで遊びに行きたいなって」


 最奥の椅子に座っている月乃が幼馴染の無波(ななみ)静也(せいや)にそんなことを言った。


「ついこの前に行ったばかりだろ?」

「それは私と静也、あと唯と静也だよ?」

「わちも遊びに行きたいです! 静也()ぃと行きたいです!」


 と小牧悟利(さとり)が両手にお菓子を持って無邪気な笑みで行った。


「わ……わたし……も………」

「お姉さんもまた行きたいわぁ」


 続けて深見愛枷(まなか)と姉ヶ崎唯も言った。残りの金錠(きんじょう)狩人(かぶと)は我関せずと言った様子でパソコンをいじっており、能徒叶もまた相変わらず月乃の横に佇んで給仕をしていた。


「今回は行かなくていいんじゃねぇか? 寒いし。どこも混んでるだろう」

「関係ないね。そう思うでしょ? みんな」


 月乃のその声に一同は頷く。もちろん狩人と能徒を除いてである。

 それに気が付いた月乃が二人に問いかけた。


「二人も行きたいよね?」

「私は星見様が思うままに。行くのでしたらどこにでもお供いたします」

「ふん。僕は興味無いね。みんなで行ってくるんだな」


 いつも通りそっけない狩人。静也もあまり乗り気でもないので月乃が二人に揺さぶりをかけることにした。


「そんなんじゃ私達だけで行ってきちゃうよ? そんなことになったら静也と狩人は事務所でお留守番だから、二人きりでクリスマスの聖夜を過ごすことになるよ?」

「それは……」

「それは……」


 二人は同じく嫌な顔をして動揺した。そして静也が口を開いた。


「月乃。どこに行きたいんだ? 金錠が留守番をしてくれるみたいだからみんなで行こう」

「き、貴様! 逃げる気か?」

「俺は何からも逃げてねぇよ。月乃が行こうって言ってんだから行くだけだ。お前は行きたくないんだろ?」

「そんなことは言っていない。興味は無いが、行かないなんて言ってないぞ」

「無理すんなって。ここで一人で聖なる夜を過ごすのも一興だぞ? まぁ、Uberでも出前館でも好きなところを選べよ。クリスマスチキンとピザとケーキを頼んでおいてやるから」

「それを独りで食えというのか? そんな悲しいことがあるか!」

「仕方ないな。サンタ帽とクラッカーも用意してやる。なんなら小さいクリスマスツリーでも置いてやろうか? ジングルベルのオルゴールと一緒にさ。クラッカーはちゃんと鳴らすんだぞ?」

「余計に悲しくなるわ! どこの世界にそんな惨めなクリスマスをしている男がいるのだ!」

「数時間後のお前だよ」

「そんなわけがあるか! あってたまるものか!!」


 そこで月乃が()()()()と二人の間に入った。


「それじゃ、狩人も行くってことでいいね?」

「う…… まぁ、仕方ない。惨めになるよりはマシだ」


 そうして結局全員で出かけることになった一行は早速プランを立て始めた。

 だが時刻は十八時を示していた。さっき静也が言ったとおり遠出は不可能な時間だった。だがそれでも月乃が提案した。


「今から泊りがけで行ける宿はないかな」

「と、泊まりですと!? みんなでお泊り、嬉しいです! 絶対に楽しいです!!」

「あらあらまぁ……いいんじゃないかしらぁ。ねぇ、静也くん?」


 その時唯がペロリと舌なめずりをし、その瞳をピンク色に発光させた。それはまるで獲物を狙う捕食者のようだった。


「やっぱ無しで」


 とそれを見た月乃がすぐに撤回した。


「えぇ、そんなぁ。悟利ちゃんも行きたいって言ってるし、お姉さんも行きたいわぁ」

「行きたいです! みんなで遅くまでトランプをして美味しいものを食べて、最後はみんなで寝るんです! わちはやってみたかったです!」

「ほら、そう言ってることだし。今日は、いいでしょ……?」


 唯が妖艶な様子で再び静也を見てから月乃を見た。


「今日だから駄目なんだよ? 今日は一年の内で唯が一番強くなる時間があるでしょ?」

「そうねぇ。月乃ちゃんよりも強くなっちゃうかも。だから、この際はっきりさせちゃう?」

「何をはっきりさせるんだ?」


 二人の中で話がかなり進みそうだと察した静也が口を挟んだ。


「静也は知らなくていいことだよ」

「ふふふ。知りたかったらお姉さんが教えてあげるわよ? 手取り足取り、腰取りねぇ」

「腰はいらないよ」

「まったく。無波は本当に鈍感な奴だ。いいだろう、もう僕の口から教えてやる。それはな―」

「狩人」


 月乃のそのぴしゃりとした一声で狩人が口を閉じた。


「言ったら、駄目だからね?」


 そんな月乃の長い前髪に隠れた瞳が紅色に光ると、口元がにこっと笑った。


「僕は…何も言わない。何も知らない」

「うん。いい子だね」

「まぁ、いいや。それで、結局どうするんだ? 時間も時間だからどの店も閉まっていくぞ?」


 そんなこんなで何も決まらないまま時間だけが過ぎていき、出かけると決まった時からそわそわしている悟利の落ち着きがさらになくなっていった。

 愛枷もいつのまにか着替えたのか、いつもの白いワンピースから白いニットワンピになっていた。だが持前の黒髪超ロングヘアによって、やはり某ホラー映画の怨霊のようにしか見えないのだった。


「皆様。このような急な状況でも宿泊が出来てクリスマス会も出来る場所が一つだけあります」

「そんなまさか。どこもかしこも人でいっぱいだぞ? それに、あったとしてもかなり金がかかるんじゃないのか?」

「無波様。ご心配にはおよびません。お食事と入浴は付いていませんが、宿泊費が完全無料の場所があります。しかも貸し切りです」

「なお一層信じられねぇって。ちなみに聞くだけ聞くが、どこなんだ? 秘境とか言うなよ? 行けないし絶対に行かないからな。それなら一人寂しくクリスマス会をする狩人を見ているほうが十分に面白いんだからな」

「なんだと貴様!」

「二人とも静かにね。それで、結局そこはどこなの?」

「はい、その場所は―」


 能徒のその答えに全員の視線が集まった。


事務所(ここ)です」

「あぁ…なるほど。たしかにそうだね」

「ここでお泊り会をするですか? 楽しそうです! やるです!」

「そうねぇ。他にお部屋はあるし、お布団もあるわよねぇ。みんなで川の字で寝るのもそれはそれで……いいわねぇ」

「お泊り……会……初めての……お泊り……嬉し……」


 セブンスターズ事務所での宿泊は静也が入るまでの間でもしたことがなかった。そもそもハロウィンや他のイベントにおいても、前までのセブンスターズでは特に何もしていなかった。なにせリーダーである月乃がその日は静也と出かけていたり、食事に行ったりしていたからだ。それか生徒会活動であえなく何も出来ずに終わるかだったのだ。

 だからこそこうして静也が入ったことで月乃が積極的に動き、全員で楽しめることを企画し始めたのだ。


「まぁ、それならいいだろう。部屋は前に全員で勉強会をした大部屋と今いる事務所。残りは二部屋だ。その残りの二部屋を男女別の寝室にするとして―」

「狩人」

「狩人くん」


 月乃と唯がその言葉に強く反応した。


「その目はなんだ? 僕は何か変なことを言ったのか? 何も言ってないよな? 無波」

「なんで俺に聞くんだよ。確かに今回だけは何も変なことはなかったと思うが」

「まったく、仕方がないね」

「本当ねぇ」


 と月乃と唯がため息一つ。

 そんな様子を見た静也が能徒に()()()()()という視線を向けるも、能徒は何も言わずに視線を逸らした。どうやら私は何も言いませんということなのだろう。


「いい? せっかくみんなで泊まるんだよ? どうせなら部屋割りも考えようよ。みんなはセブンスターズの同志なんだよ? 誰が誰と同じ部屋で寝てもそれは仲間だから大丈夫だよ」

「そうよ? そこに男女の壁なんてないのよ? あるのは遠慮だけなの。固い絆で結ばれた私達にそんなものは今さら必要無いものなのよ」

「だ、だが……男女は流石に……」

「そんな寂しいことを言うなら、狩人だけ外の犬小屋で寝かせるよ?」

「犬小屋なんか無いだろ」

「狩人には見えない犬小屋だよ」

「結局何も無いじゃないか!」

「いいんじゃねぇか? 狩人は犬小屋でケーキとチキンを食べてクラッカーを鳴らしてオルゴールを聞くといいさ」

「余計悲しいわ!」

「まぁ、でもね―」


 そこで月乃が仕切りなおした。


「この際だから全部ごっちゃにして部屋割を決めるもの面白いんじゃないかな。もちろん、各部屋の人数割合もね」

「七人なんだから、三人と四人だろ。それか男女別の二人と五人だろ」

「金錠と同じ部屋は嫌だなぁ。むさ苦しそうで。一人と五人と一犬小屋だろ」

「犬小屋はもういいだろ」

「そういうことだから、どうしようかな。ここは生徒会長兼リーダー権限で二人と五人でいい? もちろん男女混合でね」

「お姉さんはいいと思うわよ」

「いや待て」


 さすがに静也が止めた。それに対して月乃が首を傾げた。


「もし仮に俺や金錠が女子の誰かしらと二人部屋になったとしたら、それはいいのか?」

「いいんじゃないかな? 私と静也が被るなら」

「そうねぇ。お姉さんと静也くんが被るなら」

「わちもいいです。静也兄ぃと寝るです!」

「わ……わたし……も……静也くん…が…いいなら……」

「俺ばかりじゃねぇか。金錠にもかまってやれよ。可哀そうだろ」

「その言葉がもう可哀そうなんだよ?」


 すると静也が狩人の肩をぽんと叩いてやった。狩人はなんとも言えない顔になっていた。


「なぁ、能徒。この人数割りをどう思うんだ? せめて何かまともな意見をくれ」

「無波様。私は皆様のご意見に従います。万一私と無波様が同室となった場合でも、私はいっこうに構いません」

「そんな……」

「そういうことだから、満場一致で決まりだね。これは一世一代の大勝負の予感がするよ」


 それじゃ、と月乃は小さな箱とくじ引き程度の大きさの紙を取り出した。そして能徒に渡すとその七枚あった紙の内、二枚にだけ星印を書き込み全てを四つ折りにして箱に入れた。


「箱には星印が二枚と無印が五枚入っています。箱は見てのとおり外から中を見ることは出来ませんし、紙には変な折り目や細工も一切ございません。皆様にはお一人ずつ手を入れて引いていただきますが、ここからは先は運のみが左右します。よろしいですね?」

「うん、いいよ」

「お姉さんもいいわよぉ」


 他の人も頷いた。

 なんかギャンブルのディラーみたいだなと思った静也も頷く。

 そして全員が一枚ずつ引いた。


***


 その後、一行は街に出ていた。

 どこを見てもクリスマスカラー一色に染まっており、道行く人の目はみんな輝いていた。


「すごいです! 綺麗です! 愛枷、能徒、あれを見るです! おっきなクリスマスツリーです!」


 と悟利はそこに飾られている巨大なクリスマスツリーの所に駆けていくと満面の笑みで指さした。


「悟利、あんまり走ると危ないぞ?」


 と静也と愛枷と能徒がそれに追いつくと、同じように見上げた。


「き…綺麗……だね……」

「はい。とても素晴らしいです」


 周囲のイルミネーションも相まって三人の表情も輝いていた。

 だがそんな中で浮かない顔の人が三人。その内の一人はいつも通りなのだが、二人のほうはなんとも残念そうな様子だった。


「どうしてこんなことになっちゃったかなぁ……」

「それはお姉さんのセリフよ。まさか月乃ちゃんと二人部屋になるなんてね。これだけは無いと思ってたのに」

「そうだよ。二人揃って七分の二、一人ずつ引くから私が当たりを引いた時点でもう六分の一か。先に引いた時は勝ったと思ったのにな…… 逆によく唯も引いたよね」

「我ながら感心するわよ。五人部屋でも別に静也くんがいたらそれで良かったのに。何か悪いことでもしたのかしらねぇ」

「唯はあの日に約束を破って静也を変な所に連れ込もうとしたからじゃないの?」


 そう言った月乃もまた、能徒を巧みな話術で納得させて静也の部屋に宿泊した挙句に二度同じベッドで寝たことを思い出した。


「ずるいことはするものじゃないね」

「月乃ちゃんも何か心当たりがあるのかしら?」

「私は何もないよ」


 と月乃が誤魔化した。


「でもまぁ、お互いに片方だけが静也と同じ部屋じゃなくて良かったんじゃない? 向こうには能徒もいるんだし、愛枷も悟利も変な気は起こさないでしょ。唯と違って」

「それはお互い様よぉ」

「唯()ぇも月乃姉ぇも早くするです。みんな行っちゃうです!」


 そんな二人に何も知らない悟利が言う。その無邪気な顔が多くの光に照らされて輝いており、それを見た二人は心が痛くなった。


「それで、何を買うんだ?」

「はい。定番のクリスマスチキンとケーキでしょう。ピザは既に注文済なので帰る頃には届くと思います」

「さすがは能徒だ。毎回手際が良くて助かるよ」

「いえ……私は皆様のために在るので」


 静也から不意に褒められた能徒は一瞬頬を赤くした。


「安心、なのかしらね」

「多分、安心だよ。前におしおきしたし」


 それを見た月乃と唯が言った。もちろんそれは他の人達には聞こえていない。

 そんな時、月乃はいつまでもうじうじしているわけにもいかないとして前方を歩くみんなに合流した。


「色々してたらもうこんな時間だな。買ったら帰ろう」

「そうだね。お腹も空いてくるわよね」


 時刻はもう二十一時。あの部屋割りに時間がかかったためにこんな時間になってしまったのだ。

 ふと静也が隣にいる月乃を見た。


「ん? どうしたの?」

「いや。周りはこんなに輝いているのに月乃はいつも通り地味なんだなって」

「それはさすがの私でも傷つくんだよなぁ。今日は少しだけオシャレしたんだよ?」

「そうだな。いつもは付けないヘアピンで耳を出してるし、そのピンは確か昔俺が月乃の誕生日にあげたやつだったな」

「気付いてたなら何か言ってくれても良かったんじゃないかなぁ」


 そこで月乃の口元がむっと強張った。両目がもっさりとした黒髪で隠されているのでその感情を図るための唯一の指標が口元だ。今の様子だと不服のようだ。


「ごめんごめん。でも月乃の地味な感じが俺は落ち着くんだ。もちろんヘアピンも似合ってるぞ」

「むぅ……そう言われたら悪い気はしないけどさ」


 すると月乃の口元が少し緩んで頬もほんのりと赤くなった。


「こんばんは」

「ん? あぁ、トナカイ」


 そんな時、ふとトナカイの格好をした男の人が一行に話しかけると、月乃が反応した。


「静也。トナカイのお兄さんだよ」

「本当だな。で、俺達に何か用ですか?」


 月乃により袖を引かれた静也はその話しかけてきた男を見た。そしてその隣にいるサンタクロースの格好をした美人も把握した。

 だがその二人は何ともいえない妙な圧というか、一言でいえば只者じゃないオーラを出していた、なのでセブンスターズは一様に警戒をした。


「いや、何ってわけでもないんですけど、時間的に遅くなりますのでそろそろ家に帰ったほうがいいと思って。特に、その子は()()()でしょう? 親御さんが心配すると思いますので」

「わちですか? わちもみんなと同じく高校生です! 小学生じゃないです!」

「えっ」

「こら、椎名くん。すいませんね。私達はここで警備をしている者です。なので一応声をかけさせてもらいました。でも確かにもう遅くなって危なくもなってくるので、早めのご帰宅をお願いしますね」


 そうやってサンタクロースの方の美人が言うと、そんな彼女に連れられてトナカイの彼が去って行った。


「わちはやっぱりまだ小学生に見えるみたいです。でも伸びしろなのです! もっと食べれば大きくなれれるです!」


 悟利はポジティブだった。


「静也くん、さっきあの綺麗な女の子を見てたわよね? あんな感じの子はきっと学校一の美少女って子だと思うんだけど、静也くんはあんな子が好きなのかなぁ?」

「そうなの? 静也?」

「いや、別にそんなことは」


 月乃と唯がじっとりと静也を見る。対して静也は大人しい様子の狩人に目を向けた。


「僕に助けを求めるな。たまには罰を受けるんだな、ラノベ主人公」

「そんな。俺は主人公っていう器じゃねぇぞ」

「静也ってさ……」

「本当、静也くんってさ……」

「無波様……」

「なんだ? 三人そろってそんな目をして。俺は何か変なことでも言ったのか?」


 そして三人は何度目かのため息をついた。


「……皆様。そろそろ目的地です。ここではクリスマスチキンを買います。その後は隣の店でケーキを買います」

「はいです! すごく美味しそうです!」


 ということで入店した一行がチキンを買うと、そのままケーキも買った。


「あ、買い忘れたものがあったわぁ」

「なんだ? 大事なものか?」

「そうよぉ。それがないとこの後すごぉく困っちゃうものよぉ」


 薬局の近くを通りかかった時、唯が急に行った。その目はどこかピンク色の光沢を帯びていた。


「それなら買わないとな。どこで買うんだ?」

「そこの薬局よ。でもそれにはそれぞれのサイズが大事だからぁ、静也くん。一緒に行って自分のを選んでほしいの」

「自分の? 俺の何かを買うのか?」

「静也。なんでもないから早く帰るよ」

「え、でも大事なものみたいなんだけど」

「たしかに大事だけど、それは今じゃないよ。唯も、今日は駄目だからね?」

「残念。五個入りだったらみんなで楽しめると思ったのに」

「静也はそんなに出来ないと思うよ? だから今日は帰るよ」

「え、何が出来るんだ? 五個って何の話だ?」

「静也は何も知らなくていいんだよ。知らないし見てないし、聞いてもいない。それでいいんだよ」


 と月乃が静也の腕を引いて先を急いだ。


「なんか、今日という日なのにGreedを見ないわね」

「そうだね。歩きながら見かけたんだけど、私服警官とかさっきのトナカイだとかサンタクロースみたいに只者じゃないオーラを出している人がいて、その人達が取り締まっているみたい。だから今日はセブンスターズの役目は無いみたいだね。良かった良かった」


 そうして用事を済ませた一行は街を出て帰路についたのだった。


****


「寒い寒い……」


 すっかりと冷えたセブンスターズの大部屋には暖房が点けられた。そして部屋全体が温まる前に買ってきたものをテーブルに並べ始めた。

 そんな時、インターホンが鳴った。


「あ、来たみたいだね」


 月乃の声に反応して愛枷がのそのそと玄関に行くと、その扉を開けた。直後男の悲鳴が響いた。

 静也もすぐにそこに行くと、愛枷が袋を持って立っていた。


「ピザ……届いた…よ……」

「あぁ、ありがとう。さっきの悲鳴は?」

「配達の人……私を見て……逃げていった…みたい……」

「あぁ、なるほど」


 愛枷は白のニットワンピとはいえ、黒く長い前髪で顔全体を隠しているのだ。

 きっと某ホラー映画の怨霊が出たんだとびっくりしたんだろうな。そう思った静也は、少ししゅんとなっている愛枷の頭をぽんと撫でた。


「静也…くん……」

「みんなが待ってるぞ。俺が持つから、行こう」

「う…ん……ありが…とう」


 そうして二人はピザを持って部屋に戻った。


「あ、来たんだね」

「なんかやけに重いんだけど、何を頼んだんだ?」

「クリスマスのキャンペーンをやってたからそれを一通りね。これだけ人数がいるんだから食べられるでしょ」


 そうしてテーブルに置かれた袋を開封すると、ピザが入った大きな箱が十箱出てきた。そしてそれらは全てLサイズで、食欲を刺激するようないい匂いが香っては部屋を満たしていった。


「パイとフライドポテトもあるです!」


 悟利が無邪気な子供のようにテーブルに置いていき、並べられたそれらを見て満面の笑みを浮かべた。


「クリスマスチキンにピザ十枚にパイとポテト二十個ずつ。ケーキもあるんだぞ? ここはアメリカじゃないぞ?」

「足りないよりいいよ。それに、悟利がいるんだから残るってことはないと思うよ?」

「まぁ、そうだな。スイパラといいビュッフェといい、毎回食べまくって店員を涙目にしてきたんだもんな」

「そうだよ。だから大丈夫だよ」

「ちなみに、これだけ注文したってことは、かなり高かったんじゃないのか?」

「そこは問題ない」


 と狩人が言った。


「こういう日だからと星見が言うのでな、僕が全て出した。感謝するといい」

「あぁ、そうだ。金錠は会社を持ってるもんな。さすがは社長。ついでに俺はプレゼントでタワーマンションが欲しいなぁ」

「それは自分で買え」


 そんなこんなでやっと部屋が温まってきた。

 能徒がいつの間にか買っていたシャンメリーを開封すると、これまたどこにあったのか分からないオシャレなシャンパングラスに注ぎ始めた。


「あ、能徒。少しいいか?」

「はい」


 と静也が能徒を呼ぶと、なにやら耳打ちをした。それを能徒が承知しましたと頷いた。

 直後、能徒は座っている狩人の隣に座ると


「社長~ 一杯どうぞっ。今日は何もかも忘れて飲み明かしましょうね~」

「ん? なんだ能徒」


 困惑する狩人。だがそれに構わずに能徒が続けた。


「ところで社長~ 私ぃ、欲しいものがあるんだけどぉ~高くて買えないのぉ。これ欲しいなぁ~」


 と能徒がスマホにそれを映し出して猫なで声でねだりだした。


「タワマンじゃないか! 無波、貴様の仕業だな。能徒にこんなキャバ嬢みたいなことをさせやがって、困っているじゃないか」


 たしかに能徒は普段の調子とは真逆なことをさせられているので、恥ずかしさもあって既に若干の涙目になっていた。それでも静也の命令なので一生懸命に役を演じていたのだった。


「あらあら静也くん。女の子を恥ずかしめたら駄目よ? でも、そういう趣味があるなら、お姉さんがなんでも言うことを聞いてあげようか?」

「静也、能徒でも唯でも遊んじゃ駄目だよ? 能徒も断らないと静也は調子に乗っちゃうんだからね?」

「いや、せめて金錠に社長らしくいい思いをさせてやろうと思ってだな。普段が可哀そうなんだし」

「人のことを可哀そうって言うな。ほら、早くしないとピザが冷めるぞ」

「そうです! お腹がすいたです!」


 ということなので静也も悪戯をやめて座ることにした。するとその隣に月乃がいち早く座ると、心なしかその距離を少し近くした。


「どうした?」

「ん? なんでもないよ。私の席に座っただけだよ」


 と月乃が口元をにこっとした。やはりその瞳は前髪に隠されていて見えない。

 すると今度は唯が静也の空いている方の隣に座った。唯も同じく静也との距離を詰めると、その腕をとって抱き寄せた。


「唯もなんだ?」

「こうしていると落ち着くのよぉ」

「腕を取られてたらピザとかが取れないんだけど」

「その時はお姉さんが取って食べさせてあげるから。ね、いいでしょ?」

「唯、腕を離さないと静也が食べられないよ?」


 月乃がじっと唯を見た。それに対して唯はすまし顔で返した。


「なら、わちはここです!」


 と悟利が静也の膝の上に座った。

 体が小さいとはいえ、さすがに前が見えなくなった静也は困り顔を見せた。


「もう……ほら、悟利ちゃんはこっちよ」

「唯姉ぇ。はいです! わちはいつもどおり唯姉ぇの隣です!」


 唯が静也から名残惜しそうに手を離して悟利を自分の隣に移動させた。それを見た月乃がにっと笑った。

 そしていつの間にか全員が座っていたので、月乃が口を開いた。


「それじゃ、今日は急だったけどこうしてクリスマス会が出来て嬉しいよ。せっかくだから、みんなグラスを持ってね」


 グラスを持った全員の顔はとても楽しそうに微笑んでいた。


「それじゃ、乾杯」

「「「「「「乾杯」」」」」」


 そうしてなんやかんやあったクリスマスの宴が開始された。

 直後には開封されたピザを各々が取っていき、チキンやケーキなんかも瞬く間に無くなっていった。同じくパイやフライドポテトも減っていき、見る見るうちにみんなの胃に消えていった。


「愛枷。髪にピザソースが付いてるぞ」

「…え?」


 静也が向かいの席にいる愛枷の前髪に手を伸ばしてそれを取ってやった。そしてそのまま自然的に愛枷の前髪を捲りあげた。


「あ……あ……顔見られるの……はずかし……」


 一瞬見えたその顔はとても困惑していて、元々の蒼い瞳は潤んでいた。

 再び顔が隠されると、愛枷は湯気が出そうなくらいに照れて俯いてしまったのだった。

 なんだか面白いな。そう思った静也はまた


「愛枷、髪にマヨネーズが付いてるぞ?」


 と手を伸ばした。だがその手は月乃によって止められた。


「何も付いてないよ? 悪戯しちゃ駄目だよ?」


 月乃の口元はむっとしていた。そんな前髪にもゴミが付いていたので静也が取ってやると、揺れた先に見えた円らな黒い瞳もむっとしていた。


「トランプです!」

「アメリカ大統領が来てるのか?」

「本当です? ハンバーガーを売ってるですか? 食べたいです!」

「いや、いないからね。今頃某SNSの社長と会食でもしてるんじゃないかぁ」

「それこそ知らん」


 と静也の悪戯心に触発された悟利がそんなことを言うと、月乃がツッコミを入れた。だがそれも狩人によってツッコまれてしまった。


「そのトランプじゃないです! みんなでトランプをするです! 今夜は寝かさないです!」


 大量にあった食べ物が見事全て無くなると、悟利が嬉々として言った。


「ふふ。悟利ちゃん。その言葉は簡単に言っちゃ駄目よぉ?」

「どうしてです? みんなで夜通し遊ぶんです!」


 やはり悟利は無邪気に言った。


「それじゃ、負ける度に一枚ずつ脱いでいくってことでどうかしらぁ?」

「駄目だよ」

「ならぁ、勝った人の言うことを何でも聞くってのはどうかしらぁ?」

「それは……いいよ」

「決まりねぇ」

「ちょっと待て」


 月乃と唯が勝手に決めたことに対して静也が待ったをかけた。


()()()の範囲が広すぎるんじゃないか?」

「そうかな? そんな気はしないけど。ね? 唯」

「そうよぉ。気のせいよ」


 唯と月乃が不敵な笑みを浮かべて静也を見ていた。それに対して悪寒のようなものを感じた静也。


「ちなみに何でも言うことを聞くってことは、勝ったらさっきの部屋割りを好きに変えてもいいわよねぇ?」

「もちろんだよ。勝者には全ての権限があるんだよ」

「ならなおさら待て」


 また静也が待ったをかけた。


「なに? 静也は負けるのが怖いの? 勝つ自信がないのかな?」

「そういうんじゃなくて、それじゃさっき決めた意味が無くなっちまうよな?」

「そんなことはないよ。今は今、あの時はあの時で意味があったんだよ。要は勝てばいいんだよ?」


 月乃のその言葉に全員が反応を示したようで、この部屋に異様な覇気や闘気が満ち始めた。


「……分かったよ。勝てばいいだけだもんな」

「そうだよ。勝者には全てを手に入れる権利がある。みんなも異論は無いよね?」

「僕は―」

「よし、決まりだね。それじゃ始めようか」


 言葉を発した狩人の声は一瞬の内に黙殺され、月乃はトランプをシャッフルし始めた。

 もちろん狩人は少し悲しそうな、焦っているような顔をしているのだがそれも黙殺された。


 それから全員は時間が経つのを忘れて勝負に興じたのだった。


*****


「どうなってるの……」


 月乃は困惑した。それと同じくらいに唯も困り果てていた。


「コール。ロイヤルストレートフラッシュです。()()私の勝ちです。次は何にしましょうか。無波様」

「よくやったな。能徒。やっぱり頼って正解だった」

「いえ。お力になれて光栄です」


 あれから静也は嫌な予感に耐えかねて始める前に一つだけ条件を出していた。

 勝者の言うことを何でも聞くことを了承する代わりに、自分と能徒をペアで戦わせてほしいということにしたのだ。つまり二人の内どちらかでも勝てば自分達が勝利したことに出来るわけだ。

 なんだそんなこと?ということで月乃も唯も了承したわけだが、それが間違いだった。


 能徒は慕う主の命令なら必ず達成する性格だ。そしてそれは今まで崩されたことがない。

 それを静也は知っていたために、能徒に命令を下した。

 絶対に負けるな、常に一位を獲り続けるのだ。と。

 そういうことなので、もう何度目かの勝負において能徒が全勝しているのである。


 また、先の条件も生きているために勝つ度にペアである静也が誰かしらに命令を出していた。


「そうだな。それなら、月乃」

「また私?」

「これを着けて、()()()と言うのだ。もちろん手も猫みたいにするんだぞ?」


 と静也が部屋にあった猫耳を月乃に渡した。


「むぅ……静也にそんな趣味があったの?」

「いや、単に俺が見てみたいだけだ。ほら、自分達で決めただろ? 勝者には?」

「…全てを手に入れる権利がある」

「よろしい」


 すると月乃が恥ずかしそうに、悔しそうにして猫耳を付けると手を軽く握って顔の前に構えた。


「……にゃん」

「あぁ…いいなぁ月乃」

「静也兄ぃが悪魔みたいですぅ」


 そう言っている悟利は体操服を着させられていて、なぜかバスケットボールを持たされていた。


「唯も。唯は……」

「お姉さんも辱める気?」

「そうだな。そのまま俺の隣に座っていてもらおうか」


 そうして静也はその唯の太ももに頭を乗せた。

 いわゆる膝枕状態となり、そのむちっとした肉付きのいい太ももに静也の頭が沈んだ。そして調度いい張りと弾力によって太ももが理想的な枕と化した。


「静也くん……これって……」

「いつも悟利にやっているだろ? どんなものなのか気になっていたんだ。案外いいものだな。気持ちがいい」

「あ……あぁ……あぁっあああああっっ!!!」


 すると途端に唯の頬が緩んでは歓喜の表情になった。

 直後、その瞳がピンク色に発光した。


「ねぇ、静也くん。ずっとこのままでもいいのよぉ? それか、もっと気持ちのいいところに乗せる? むしろ触る? いいのよ? お姉さんをめちゃくちゃにしても、いいのよ? ううん、もうお姉さんを―」

「ほら、もうおしまい。静也も起き上がって」


 すっかり蕩けた表情になってしまっている唯から静也を引きはがした月乃は、いまだに猫耳をつけたままむっとした。


「というか、静也ばかりで能徒のやりたいことが出来ていないでしょ? 可哀そうだよ?」

「そうだな。でも能徒は何も無いっていうんだよなぁ」

「はい。私が皆様に命令するなどおこがましくで出来ません。なので、代わりに無波様にやっていただいているのです」

「ほらな」

「にしてもだよ。何かないの?」


 それに対しても能徒は相変わらずの調子で()()と言った。でもさすがにそれも可哀そうだと思った静也は、そんな能徒を自分の横に呼ぶと、そのまま倒して唯の膝枕を堪能させてやった。


「あ、そんな私なんかが……」

「いいだろ? 俺がやったことだ。こうして唯に甘えるのもたまにはいいものだぞ?」


 月乃、唯、能徒はセブンスターズの初期メンバーだ。なんなら二人が能徒を招き入れたので、その時から三人の友情は深い。だが能徒がメイドの立場になってからは友達同士のようなことをほぼしていなかった。

 それを察した静也がこんなことをやったのだ。

 能徒の頭を自らの太ももに感じている唯は、まるで聖母のようにその頭を撫でた。


「そうねぇ。たまにはいいんじゃないかしら? お姉さん達は友達でしょ? 能徒」

「は、はい……姉ヶ崎様がそうおっしゃるのなら」


 それを見た月乃もまた微笑んでいた。


「悟利…ちゃん……?」

「……は、はいです。寝てないです! 愛枷、前髪が分けられているです」

「それは……静也くんが……やったの……はずかしい……」


 愛枷が悟利に話しかけると、悟利ははっとして首を左右に振った。

 そんな愛枷の前髪は確かに分けられていて、それはヘアピンで留められていた。


「もうこんな時間だね。そろそろ寝る時間かな?」

「むぅ…まだ寝たくないです……夜通し遊ぶんです……」


 気が付けば日付が変わって深夜の二時になっていた。

 いつもの悟利なら既に寝ている時間である。


「いやまだです。勝つまでやめないです!」

「それじゃ、あと一回にしようか。せっかくだから、最後は静也と能徒のペアは解消するよ」

「え、そんな」

「最後だしいいでしょ? それに、もし能徒が勝てば晴れて能徒から願いを聞けるんだしさ」

「まぁ、そういうことならいいけどさ」


 動揺した静也が同意した。対して能徒はいまだにどうしようかと困っていた。


「能徒。勝てた時のために自分の願い事を考えておくんだよ? 私からの命令だよ」

「……はい。承知しました。そういうことでしたら、決めました」

「ちなみにわざと負けるのは駄目だからね?」

「はい」


 そうしてカードが配られると全員は最後の勝負に臨んだのだった。


******


「それじゃ、寝るぞ?」

「はい」


 全てを終えた一行はそれぞれの部屋で布団に入った。


「というか、この願い事で良かったのかよ?」

「はい。私が自分で決めたことです。こうするのが最も公平なのです」


 最後の勝負はやはり能徒が勝利した。そして望んだことは、静也と二人部屋で寝るということだった。

 もちろん月乃と唯は動揺したが、それでも勝者は能徒であるがゆえに飲むしかなかった。


「星見様と姉ヶ崎様のどちらかが無波様と同室であれば、お互いに落ち着いて寝られないでしょう。最初に決まっていた通りに無波様が五人部屋にいても、お二人はやはり落ち着かないでしょう。きっとお互いを牽制しあってお眠りにならないと思います。であれば、私が無波様と同室になれば()()()()()()もあってお二人はご安心して寝ることが出来ると思いました」

「そうか。まぁ、能徒がそれでいいなら俺はいいんだけどさ。電気、消すぞ?」

「はい」


 今回は布団が二組あった。そして双方の間は月乃と唯が納得出来るくらいにしっかりと離されていた。


「風呂は明日起きたらみんなで行こうな。この時間じゃどこもやってないし」

「はい、そうですね」


 静也は少ししてふと能徒の方を見た。それに気が付いたのか能徒も静也の方を見た。


「無波様。今日は駄目ですからね?」

「何も言ってないだろ」

「無波様は女子の匂いを嗅ぐのが趣味なのだと星見様が言っていました。今の私はシャワーを浴びていません。きっと良い匂いはしないでしょう」

「月乃がそんなことを言ってたのか。まるで俺が変態みたいじゃないか」

「はい。そうとも言っていました。先ほど星見様にあんなことをさせていましたので、これは事実でしょう」


 そこで能徒がふっと笑った。


「無波様」

「ん?」

「今日もとても楽しかったです。こんな日がいつまでも続けばいいと思っています」

「なんか死亡フラグみたいになるからやめて。でもそうだな。俺も楽しかったよ。これからもまたみんなで遊ぼうな」

「はい」


 そして今度はとても嬉しそうに笑ったのだった。

 夜はさらに更けていき、しんと静まりかえった部屋で二人は眠りに落ちた。




「愛枷、どうだった?」

「うん……今ちょうど……寝た…よ」

「別々の布団で、よね?」

「うん……」


 五人部屋となった月乃と唯。悟利と狩人はもう寝てしまってるわけだが、二人はどうにも寝つけずに愛枷にあることを依頼したのだ。

 非認知(インビジブル)を使って二人が寝るまで見張りをして、何かあれば止めるようにと。

 そして静也と能徒が寝たという報告を受けた月乃と唯は胸を撫で下ろしたのだった。


「でも能徒はもう何もしないんじゃない?」

「分からないわよ? 状況が状況だったとはいえ前科があるんだし」

「まぁ、そうだよね」

「月乃ちゃんも嫌でしょ? 静也くんが誰か別の女の子と寝るなんてこと」

「まぁ……そうだね。静也に限って自分から何かをしようだなんてことにはならないと思うけど……」


 そこで月乃はかつて自分の匂いを嗅がれた時のことを思い出した。


「いや、何かはするかもね」

「でしょ」

「でももう寝たみたいだし、私達も寝るよ。愛枷も角に佇んでないで布団で寝るんだよ?」

「う…ん……でも私は……こっちのほうが…おちつく……」

「そうやって見下ろされてたら私達が落ち着かないの。ほら、布団で寝るよ?」

「分かった……」


 愛枷はのそっと布団に入ると、それを見届けた唯と月乃が次第に寝息を立て始めた。


「今日は……みんなで……楽しかった……なぁ…」


 愛枷がそう呟くと、同じく眠りについた。



*******



「静也。何か言うことはある?」

「待て、月乃。俺は何もしていない」


 翌朝、静也は大声をあげて目を覚ました。それを聞きつけてやってきた月乃と唯は見てしまったのだ。

 能徒が静也の布団に入って寝ていたところを。しかもメイド服どころか何も着ていなかったのだ。思い返せば寝る時にはもうメイド服から寝巻に着替えていた。それを静也や他の全員は失念していたのだ。

 

 つまり、昨夜から今に至るまで能徒は万能メイドから()()()()になっていたわけだ。メイド服を纏っていない能徒がそうなるということを前々から知っていた二人は、やはり昨日は止めるべきだったと後悔した。


 寝ている時に脱ぎ癖があり、寝相も悪い能徒が全裸で静也の布団にもぐりこむことはもはや必然だったのだ。


「星見様……」

「戻ってきたね」


 そんな時、別室でメイド服に着替えを済ませた能徒が戻ってきた。その顔は蒼白とし、月乃と唯と目を合わせなかった。

 そしてそのまま静也の隣に座って身を小さくすると、僅かに震わせた。


「能徒。一応聞くけど、()()無かったんだよね?」

「はい。私はもちろん、無波様も何もしていません。皆様に誓って何もしていません」

「静也は?」

「俺も何もしていない。本当に何もしていない。だからそんな怖い目はしないでくれ」


 月乃は紅色に光る瞳を二人に向け、唯もまた顔に影を差して悔しそうに見下ろしていた。


「唯、どうしようか」

「そうねぇ……極刑」

「そんな……」

「―にはしないわよ。でも能徒。一応()()するから、むこうで服を脱いでもらうわよ」

「はい」

「何を確認するんだ? まさかあの時みたいに手荒なことはしないよな?」

「能徒の純潔を確認するのよ。それが確認出来ないと、お姉さんは信用出来ないなぁ。静也くんは、絶対に来ちゃ駄目よ?」

「分かった……」


 ということで唯が能徒の手を引いて立たせると、部屋の外に連れて行こうと引っ張った。だがそんな時だった。


「月乃姉ぇ! 唯姉ぇ! 近くでGreedが暴れてるです! セブンスターズの出番です!」


 と悟利が緊急の様子でやってきた。

 それを聞いた二人はため息一つ。


「クリスマス本番だよ? 昨日は平和だったのになんでかなぁ。でも行くしかないね」

「そうです! 出動です! 愛枷も狩人兄ぃも準備が出来てるです!」


 すると唯が能徒を見た。


「また後で見るからね?」

「はい」


 すると待ちかねていた狩人と愛枷も部屋にやってきた。


「それじゃ、行こうか。セブンスターズが今日もみんなの平和を守りにいくよ。あ、お風呂はその後に行こうね」


 そうして七人の欲祓師は事務所を出て現場に急行するのだった。

クリスマスSSをお読みいただき、ありがとうございました。

前回のハロウィンSSよりも増量した結果となりました。


ちなみに、今回も別の世界線の作品と一部リンクしています。

詳しくは作者のX(旧Twitter)アカウントの@khf_t にて。


次回の更新は年末となります。

そこでも年末SSを企画しております。

年明けは第1話のイッキ読みも出す予定です。第2話のイッキ読みは未定です。

それらも是非よろしくお願いします。


なお、本編につきましては年明け2週目からの更新となるかと思います。

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