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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第2話 みんなの居場所

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68/162

2-50(終) 進めていたこと

「おはよう、静也(せいや)

「……月乃(つきの)


 静也が目を覚ますと、既に月乃が目を覚ましていた。そしてその寝起きの顔を黒く長い前髪の奥から見て口元をにこっとしていた。


「二回目の朝だね」

「そうだな。これで満足か?」

「うん。今回はね」


 月乃は昨日静也の家に泊まった。そして静也を抱き枕にして眠ったのだ。そんな静也も月乃の匂いに包まれて眠ったのだ。


「静也と一緒に寝ると眠りが深くて目覚めもいいし、安眠効果があるって分かったよ。久しぶりに良く寝れてすっきりしたの」

「そうか」

「それにね、静也は寝ている時に私に抱き付いてきて体の色んなところをまさぐってたよ」

「……まじ?」

「多分嘘だよ。でも私も寝てたから本当のことは分からないね」


 と月乃がいじらしく口角を上げた。

 それから静也が起き上がろうとした時、月乃がその手を引いてベッドから出るのを阻止した。


「学校に遅れるぞ?」

「大丈夫だよ。まだ六時だから」

「そっか。大分早く目が覚めたんだな」


 そうして静也が再びベッドの中に収まると、月乃が昨夜と同じように抱き付いてはしっかりとホールドした。


「あったかい、あったかい」


 穏やかに言う月乃と、そんな月乃から香ってくる匂い。それを静也は感じとると何とも言えない落ち着きと、再びやってきた眠気によって二度寝に入ったのだった。

 それはもちろん月乃も同じで、そのまま二人は再び寝息を立てたのだった。


***


()ぃ。静也兄ぃです」


 あれからいつも通りのアラームで再び目を覚ました二人は、出発の準備を整えて登校を済ませた。そして週初めの授業を終えて放課後に生徒会室にやってきたのだった。

 静也がその扉を開けた時、中にいた悟利(さとり)が二人を見た。そして真っ先に静也のところにやってきた。


「どうした? そんなに心配そうな顔をして」

「わちだけじゃないです。愛枷(まなか)狩人(かぶと)兄ぃも心配してたです」

「別に僕は心配していない。生徒会の雰囲気が荒れるのが嫌なだけだ」


 悟利の言葉に狩人が反応し、そこに静也が目を向けると自分のパソコンの画面に視線を戻した。


「狩人兄ぃは相変わらず素直じゃないです。静也兄ぃ、昨日と一昨日は大丈夫でしたですか?」

「悟利ちゃん。当事者のお姉さんと月乃ちゃんもいるのよぉ?」


 と唯がその奥から言った。

 だが悟利の目は静也から離れなかった。


「大丈夫だよ。私も唯も何もしていないよ。普通にお出かけをしただけだよ。ね? 能徒(のと)


 静也が何かを答える前に月乃が答えた。そしてその信憑性を示すように能徒に答えを託した。その時、唯は先日自分の命令で能徒を動かしたということが既に月乃にバレていると悟った。だからといって月乃も唯を監視するように言っていたので、それに関して二人がお互いに何かを言うでもなかった。

 もちろんそれを察したのは能徒も同じだった。


「はい。星見様も姉ヶ崎様も普通に外出をされ、問題無くご帰宅されました。何もやましいことはありませんでした」

「そうなのですね。分かったです。良かったです。変なことを聞いてごめんなさいです」


 直後、悟利がいつもの無邪気な笑顔に戻った。そしてもはや定位置でもある唯の隣に行くと、唯からお菓子を貰ったのだった。

 そんな光景の中でいつもの自分の席に座っている愛枷もふと静也を見て、なにやら安心したのか()()()と視線を前に戻した。


「みんなひどいよ? 私と唯をなんだと思ってるの?」

「そうよぉ? お姉さんと月乃ちゃんはいたって()()()静也くんとおでかけしただけよぉ?」


 と二人が膨れた。


「そりゃ、能徒にあんなことをしたんだ。それにあんな約束までしておいて今さら普通とは信じられないな」

「まぁ実際色々とあったけど、外出は普通だったんだ。ところで、その約束ってなんだったんだ? 俺は最後の最後まで知らされなかったんだが?」

無波(ななみ)。お前はとぼけているのか? 二人の様子を見ていたら察しがつくだろう」

「いや、分からないから聞いているんだって」


 そこで狩人が深いため息をついた。それとともに能徒も少し呆れているようなそんな雰囲気を発した。


「いいか? そもそも女子はな、男子と二人で出かけるなんてことはしないんだ。それこそ―」

「狩人」


 その続きを言おうとした狩人に対して月乃が言葉を挟んだ。


「また、この前みたいになる?」

「そうよぉ? これ以上言うのは、お姉さんでも見過ごせないなぁ」

「……分かった。僕はもう何も言わない」

「それでいいよ。みんなも、もう何も言わないよね?」


 その言葉に悟利も能徒も愛枷もみんな頷いた。

 どうやらその約束は誰も聞かなかったものとして葬ることになったようだ。


「それじゃ、今日の生徒会活動を始めるよ。とりあえずみんなは自分の席に着こうか」


 そうして月乃が最奥の生徒会長の席に座ると、全員が各々の席に座った。

 どうやら本当にこれ以上の言及は受け付けない様子だ。


「週初めだし、校内での不審な行動とか、それこそ才木くんみたいにGreedになりそうな人はいた?」

「そのような人は生徒と教師含めおりませんでした。それにそのような報告も受けておりません」

「わちもパトロールをしていましたが、上級生含めて問題が無かったです! 購買のおばちゃんも大丈夫だったです!」


 と能徒と悟利が報告した。

 そこからさらに議題が進んでいき、校内の備品やら今後の行事なんかも話し合っていった。そしてそれらの把握や、今後の予定を確認すると生徒会としての話合いは終了した。


「それじゃ、次はセブンスターズとしてだね。能徒」

「はい、星見様」


 まもなくして空気感が変わった月乃を前に、能徒が生徒会室に結界を張った。それが安定したのを確認すると、月乃が狩人に目を向けた。


「狩人。お願いしていたアレは出来た?」

「あぁ、どうにかな。今はその設定を終えて少しずつ流していっている状況だ」

「そう。ありがとう」

「アレってなんだ?」


 と静也が質問した。


「前に話した、私の中にあるヘッジス・スカルが持つらしい固有の電波のことだよ。一昨日に静也と唯がお出かけをしている間に色々とデータを取ってくれたの」

「ほう」

「それでね、普通の人の脳波と比べて異なる点があってね、それを専門の機関に送ってくれたんだ」

「そうだ。星見の言うとおりお前が出かけている間に色々と調べを進めていたんだ。それで、ついさっきその結果が来たからそれを元に似た特徴を持つ電波を作って公共の電波に混ぜて流しているんだ」


 セブンスターズは千取(せんじゅ)が全十三個ある水晶髑髏(クリスタルスカル)を全て集める前に自分達でもそれらを探すことにした。その在処の手がかりとして現在も月乃の頭の中にあるヘッジス・スカルが放つ固有の電波を利用し、その共鳴や異変を察知した所へ赴いて捜索をするという手段をとることにしたのだ。


 だが実際に月乃本人に各地をねり歩いてもらうわけにはいかないので、そのサンプルとなる電波を調べて作りだし、公共の電波に混ぜて各地に流す手段をとった。ちなみに、その電波により各種電気機器に異変をもたらすかというのは、現在も月乃がこの場所で普通に生活をし、周囲に問題を生じさせていないという点から否定されている。


「そうか。ちなみに、月乃に変なことはしていないだろうな? それこそ頭を割ったりとか」


 静也が多少の威圧を込めて狩人に問いかけた。


「もちろんだ。僕はあの時の約束を破っていない。証拠として、お前が星見と出かけた時にはその採取は終わっていたわけだが、いつも通りの地味さ加減だっただろう?」

「確かに。それはそうだ。でも一部その地味さに拍車がかかっていたような気がしないでもないが、それはいいだろう。地味であるなら許す」

「なんか二人ともひどいよ?」


 月乃がむっと頬を膨らませた。


「それで、収穫はあったのか?」

「さっき流したばかりだ。そう簡単に結果が出るものではない」


 狩人の机に置いてあるパソコンの画面には、なにやら深海のソナーのような画面が表示されていた。そしてそれは定期的に更新されて異変の有無を知らせていた。

 もちろん今は何も異常は無かった。


「狩人くん。お姉さん思ったんだけど、これで千取さんが持っているクリスタルスカルの在処を特定出来るんじゃない? そうすれば私達で逆に取りに行けば優位に立てるわよ?」

「唯姉ぇの言う通りです。形勢逆転というやつです!」

「まぁ、そうだな。千取がそんな機密性の低い場所に保管していれば、これで特定出来るだろう。だが、もしも僕が千取なら万一のことを考えて秘匿性の高い、それこそどんな電波からでも影響を受けない場所に保管する。アイツも馬鹿じゃない。間違いなくそんなことをしているだろう」

「そうねぇ。確かにお姉さんでもそうするわねぇ」


 唯と悟利は少し残念そうな顔になった。

 そこで月乃が純粋な疑問を投げかけた。


「ちなみにその電波って、日本各地を巡るのにどれくらいかかるの?」

「すぐにとはいかないな。前に話したとおり、この手のことは法としては黒に近いグレーなんだ。だから特別な許可を取ってやっているわけだが、それでも主な電波を邪魔しないように可能な限りのスピードで流してはいる。そうだな。一都六県の範囲までなら二十四時間くらいだと思う。日本全国ともなると早く見積もっても大体一週間くらいかかるかもしれないな」

「そっか」

「もしその範囲で反応があれば音を出してくれるように設定しておいたし、その記録は残るようにしてある。だから万が一にでも見逃すなんてことはないだろう。それに、何かが分かれば先にそっちを探しつつも継続して電波を流し続けていられる。だからここからは現地と電波での捜索との同時進行でいけるはずだ」


 誰もがこの結果については早く欲しい。だが現状としてこれが精一杯なようなので今は耐えるしかないようだ。


「まぁ、こればかりは仕方ないね。反応があるまでは私達はいつも通りGreedからみんなを守りつつ、やれることをやって待つしかないね」

「そうだな。そもそもセブンスターズはGreedの殲滅とみんなの平和を守ることが目的だしな。万一また千取とか、その刺客が来たら月乃を守りつつ追い返してやるからさ」

「静也…」


 月乃の口元がにこっとほころんだ。


「静也くん。お姉さんは? お姉さんのことは守ってくれないの?」

「もちろん唯もだ。みんなは俺が守ってみせるから」


 唯も嬉しそうに微笑んだ。そして静也の腕を取ろうとした時、その間に月乃が入って阻止した。


「僕はいい。自分の身は自分で守る」

「そうか。それじゃ金錠が死にそうになっても他のみんなは撤退するからな」

「それは助けろ」

「狩人兄ぃは相変わらず素直じゃないです。わちも守ってくれて嬉しいです!」


 複雑な顔をする狩人とは対照的に悟利と能徒もどこか嬉しそうにしていた。

 愛枷はというと、前髪の奥から僅かに見せた蒼い瞳を静也に向けて少しだけ微笑んでいた。


「愛枷が微笑んだです。珍しいことです!」 

「そうなのか?」

「はいです。狂気的に笑うことはあっても微笑むことはそうそうないのです」

「あ………これは……」


 すると愛枷は目線を逸らして下を向くと、長い前髪で顔を隠してしまった。それから恥ずかしいのかもじもじとしていた。

 その時、静也がいじらしい顔になって愛枷に近付いた。だがそうする前に


「どうした? 月乃?」

「愛枷に悪戯しちゃ駄目だよ?」


 と月乃が静也の腕を引いて止めたのだ。

 なぜバレたんだろうと不思議に思った静也は、しぶしぶ諦めることにしたのだった。


 その時、校内に今日最後のチャイムが鳴って最終下校時刻を知らせた。


「それじゃ、今日は帰ろうか」


 月乃の一声によってその日は解散となった。

 それから全員で帰路を歩いていると、最後はやはり月乃と静也と能徒が残った。


「能徒。静也の家に預けてたものがあって、私はそれを取ってから帰るから今日は先に帰ってていいよ」

「承知しました。では、私はこれにて失礼いたします。お二人もどうかお気をつけて」


 そうして能徒が綺麗に一礼をすると二人と別れて帰っていった。


「そういえば荷物が置いたままだったな」

「うん。だから取りに行くよ。それでまた泊まっていくよ」

「取って帰るんじゃないのか?」

「そうだよ? でも()()()帰るなんて言ってないよ?」


 あぁ、能徒もこの言葉の綾で騙されて帰ったんだな。

 そう思った静也に対して月乃はにこっと笑っていた。


「でもまた同じしいたけパジャマを着るんだよな? 着てくれるんだよな?」

「着てほしいの? 二回着たからさすがに変な臭いがすると思うよ?」

「前は一週間も同じしいたけパジャマだっただろ? 大丈夫だ、問題ない」

「そう言ってまた嗅ぐ気でしょ?」

「なら、泊めてやらないぞ?」

「むぅ……」


 月乃が少し考える素振りを見せると


「仕方ないね。本当は静也のパジャマを借りようと思ったんだけど、背に腹は代えられないってやつだね。でも今回は本当に変な臭いがするかもよ?」

「大丈夫だ、問題ない」

「何を言ってもそれで返すつもりなんだね」


 そうして二人が静也の家に到着すると、家にあるもので適当に食事を済ませた。そしてシャワーを終えた月乃の姿はほかほかして温かそうだった。それでも両目は前髪で隠されたままだった。


「時間も時間だし、今日もこのまま寝ようか」

「そうだな。やっぱり同じベッドで寝るんだな?」

「うん」


 月乃が、何か問題でも?という様子だったので、静也はこれ以上の追求はやめた。そして位置は昨日と同じく静也が奥で月乃が手前である。

 ベッドに入った時、昨日よりも濃い月乃の香りが静也の鼻腔をくすぐった。


「静也」

「ん?」

「静也がセブンスターズに入ってからそれなりに経つけど、どう? 慣れた?」

「まぁな。色々なことがあったけど安心して過ごせる場所だって思ってるよ」

「良かった。これからもね、もちろん何も気にしなくていいし、それこそテスト前の時みたいに自分の実力を変に隠したり、わざと普通を装わなくていいんだからね。生徒会は、セブンスターズはみんなの居場所だし、そこで軽蔑したり、静也から離れていったりしないんだから」

「そっか。ありがとうな。月乃」


 静也は少しだけ過去のことを思い出した。だが次の瞬間には、せめて仲間達をといる時くらいは自分に正直でいようと決心したのだった。


 みんなの居場所。

 いままでの静也には月乃くらいしか友人はいなかったし、それこそセブンスターズの一員になってからはそこが自分の居場所だと思えるくらいに友人が一気に増えた。

 だからこそ静也は思った。

 何があってもみんなを守ってやりたいと。


「静也」

「ん?」

「やっぱり着替えていい? やっぱり変な臭いがするかもって思ったら落ち着かなくて」

「大丈夫だ、問題ない。いい匂いだ」


 静也が同じように返すと、月乃はいい加減呆れたのか諦めたのかそのままでいることにした。そして昨日と同じように静也を抱き枕のようにして抱きついた。静也もまたその落ち着きのある匂いを間近に感じて眠りに落ちていった。


「静也? ……もう寝ちゃった。私の匂いがそんなに落ち着くのかなぁ…」


 そうして月乃もそのまま眠りについたのだった。


****


 誰もいない真夜中の生徒会室。

 そこで狩人のパソコンが突如音を発した。

 それは件のヘッジス・スカルの電波による反応だった。そしてそれがデータとして記録されると、再び電波を発して捜索を再開したのだった。




第2話 みんなの居場所

ありがとうござました。

第3話は年明けに開始予定です。


次回は第1話のイッキ読みを予定しており、来たる日にむけてクリスマスSSなんかも構想中です。

そちらも是非。

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