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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第2話 みんなの居場所

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2-45 お姉さんと健康で文化的なお出かけ(中編)

 多種多様な絵画を見た静也(せいや)は唯に手を引かれるまま歩いていった。


 時刻は十五時。

 朝食を食べた時間が時間だったために空腹ではない二人は、そのまま特に何かを食べるでもなく次の場所に到着した。


「映画館?」

「そうよぉ。次は映画を観ようね。調度いいのがやってるのよぉ」


 静也はその言葉に多少の違和感を抱きつつもチケットを買っていると、カウンターの人が二人に問いかけた。


「こちら、カップルの方でしたらカップル割というものがありますが、いかがしますか?」

「えっ…カップルでは―」


 その時唯が静也の腕に自らの腕を絡ませてすり寄った。


「私達、カップルです。そのカップル割でお願いします」

「ゆ、唯…?」

「ん? なぁに?」


 まるで当然でしょとでも言っているかのような目を向ける唯。

 もちろん静也は動揺した。だがチケットが安くなるならとそのまま何も言わずに購入したのだった。


「唯。俺達はカップルなんかじゃ…」

「そういうこと言わないの。安くなったんだから良かったでしょ?」

「まぁ、それはそうだけども」


 そんな会話をしながら席まで移動する間中、唯はずっと静也の腕を抱いていた。そしてその腕を豊満極まりない胸の中に深く沈めては決して離さなかった。

 さらに着席してからは抱いていた腕を解放し、すぐさまその手に自分の手をするすると絡ませてしっかりと握ったのだった。


「そろそろ離してくれても?」

「だぁめ。このまま映画を観るのよ」


 唯はなんとも楽しそうで嬉しそうだ。

 そんな様子に観念した静也は、仕方なくそのまま映画を観ることにした。

 上映が開始されると、何の気なしにチケットを買った事を静也は後悔した。内容としてはさっきの絵画にも負けないような男女の刺激的な愛を表したものだった。


 もちろんそういうシーンもあって静也は恥ずかしくなって目を逸らした。だが唯はしっかりと、それでいて恍惚とした目で観ていた。

 それから約三時間。静也は恥ずかしい気持ちで映画を観たり観なかったりしたのだった。


「いい映画だったわねぇ」

「なんかこう、今日はすごく刺激的な事ばかりな気がする」

「そう? でも()()()勉強になるでしょ?」

()()()って言葉に意味深なものを感じるんだが。そもそも、なんでR18指定になってなかったんだよ」

「なってたよ? でもお姉さんが大人っぽい見た目だからスルー出来たのよ。まぁまぁよくあることだから平気よ」

「俺達が良くても、バレたらむこうの人は大変だぞ」

「ふふ。そうねぇ。そろそろ暗くなるわね。夕食でも食べようか」


 日が落ち始めて辺りが暗くなっていった。

 そこで二人はそれなりの空腹を感じてレストランに入った。そこはチーズフォンデュが有名な店だった。


「静也くん、何にする?」

「初めて来た店だからな、このお勧めの盛り合わせにしようかな」

「そう。ならお姉さんもそれにするわね。飲み物は……どうしようかしらね」

「まさか酒を飲む気じゃないだろうな? さすがに年齢確認をされるぞ?」

「それはしないわよ。でも、()()()()()()()()()()、少しくらい飲んでみようかなぁ」

「駄目だからな。それは俺が止める」

「冗談よぉ。あと三年の辛抱よ」


 それから二人が注文を終えてしばらくすると、テーブルの上には程よく熱せられ続けたチーズの入った鍋と、それを付けて食べる用の具材の盛り合わせが到着した。

 フランスパンにソーセージ、ベーコンにキノコやブロッコリーなどの多種多様なものがあった。


「美味しそうだな」

「そうね。それじゃ何から食べようかしらぁ」


 唯はブロッコリーを専用の串に刺してチーズにくぐらせた。完璧なまでに白くクリーム色のチーズにコーティングされたそれが唯の口に入ると、途端に唯の頬がほころんだ。

 ということで静也も串を取ると、フランスパンにチーズを纏わせて食べた。そしてその顔が緩んだ。


「かなり濃厚で旨いな」

「そうねぇ。それじゃ今度は―」


 ということで唯はキノコを刺してチーズの海に沈めた。そうして掬いだしたそれは、なんとも器用に笠の部分にだけチーズが付いていた。それはとろっとしてキノコの形状に沿うように流れていった。


「ふふふ……おいしそうねぇ……」


 そうしてそのキノコが唯の口に入った。そして唯は恍惚とした表情を浮かべると、口から漏れだしてきたチーズをペロリと舐め取った。


「このキノコ、思ったよりも大きくてしっかりとしていたわぁ。口の中がいっぱいよ」

「そうか。それは良かったな」


 静也はそんな光景の一部始終を見ており、絵画に映画とそういう刺激ばかりのせいで変に慣れてしまっていたので何も思う事はないという様子で言った。


「次は、ソーセージ。これも立派だわぁ」

「立派とか言うな。ただのソーセージだ。チーズフォンデュするやつの」

「そうよ? ただのソーセージよ? もしかして静也くん、別の事を考えていたのかなぁ?」


 唯は意地悪な顔で静也を見た。そこで何も答えない静也に向けて、そのソーセージの先端にのみチーズを纏わせるとわざとその形状に沿って流れていくように持った。そして程よくねっとりと流れていったのを確認し、なんとも妙な声を出して頬張り始めたのだ。


「……んっ……おおきい……」

「普通に食べなさい」


 一口を食べた時、唯の口がソーセージから離され、その間にはねっとりとした架け橋が出来ていた。

 そんなこんなで時折静也が注意をしながらも食事は続き、最後の具材とチーズを食べきったのだった。


 二人が店を出た時はもう外は暗くなっており、完全に夜になっていた。


「それじゃ時間も時間だし、今日はもう帰るのか?」

「そうねぇ。あ、でも最後に寄っておきたいところがあるから、いいかな?」

「まぁいいけど」


 そうして歩くこと数分。

 繁華街の賑わいとは別の意味で賑わっている場所に到着した。


「ここは?」

「最近問題になっている、新宿東宝ビルの横。通称トー横よ」


 少し先には独特なファッションをした人だったり、見るからに二人よりも年下の子が騒いでいた。また、地面にはチューハイやエナジードリンクの空き缶が捨てられ、他には薬が包装されていたであろうパッケージなんかも散乱していた。

 流石に深部までは行かずにそれらを遠目から見ている唯はなんだか悲しそうな目をしていた。そして真面目に語り始めた。


「ここにいる子達はみんな寂しい思いをしている子達なのよ。家庭に問題があったり、学校や友達、それに取り返しのつかないことに手を出して誰にも頼る事が出来なくてどうにもならなくなってしまった子。そんな子達が見ず知らずの人同士で騒ぐことでそんな辛い現実を忘れようとしている。言うなら、そうね。日本の子供達の闇とでもいうのかな。光があるなら闇があるなんて言うじゃない? お姉さんはこういう闇の部分を見る度に、こんな思いをしている子達をどうにかしてあげたいって思うのよ」

「なるほどな。確かに問題になっているとはいえ、世間は追い出したり問題視をするばかりだもんな。その子達にはその子達の問題があって、それが解決しないことには闇の部分は消えないのに、大人達は小手先でどうにかしようとしているばかりで根本的な解決をしているようには見えないよな。俺だって唯の言う通り、そういう思いをしている子達をどうにか出来たらいいなって思うし、そんな未来になってほしいって思うよ」

「静也くん……」


 その言葉を聞いて唯は少し驚いた顔をして静也を見た。そしてさっきまで見せていた悲しそうな顔を嬉しそうな顔に変えた。


「まさかそう言ってくれるなんて思わなかったよ。お姉さんは嬉しいわ」

「俺もまさか唯はここをそんなふうに思っていたなんて思いもしなかったよ。というか、今日は唯の意外な一面ばかりを見ている気がするな」

「どれも新発見でいいでしょ?」

「それはまぁ、そうだな。どれもこれも唯だけど、今日は特に唯のことがよく分かる日だよ」

「こういうお姉さんは嫌?」

「別に嫌じゃないけど、少し驚く事もあるよ。でもみんな違ってみんないいって言葉があるだろ? だから唯はそういう自分の好きなものに正直でいるからいいと思うぞ」


 その言葉に唯はまた少し驚いた。

 それからお互いに何も言わずに少しすると、唯はまた静也の腕を抱いた。

 この一日で慣れてしまった静也はもう何も驚くことなく唯に目を向けた。すると、唯の目がなんだかピンク色に光っていっているように見えた。


「次は……こっちよ」

「ここが最後じゃなかったのか?」


 その問いに唯は答えなかった。そしてトー横をあとにした二人はなんとも異様な場所に出た。

 そこは色とりどりのネオンや看板が立ち並んだやけに男女が多い路地だった。


「唯……ここって……」

「静也くん。ごめんね。お姉さんね、月乃(つきの)ちゃんと約束していたんだけど、やっぱり駄目みたい。今日は静也くんにお姉さんの色々な一面を見てもらおうって思ってて、その反応を見るのが楽しみだったの。それだけの予定だったの。でもね、お姉さん、もう抑えられないの……だから」


 すると唯が静也の腕を抱く力がさらに強くなった。


「……いいよね? 静也くんをお姉さんのものにしても、いいよね……?」


 その目はもう完全にピンク色に発光していた。そして蕩けた表情と吐息がじわじわと静也の自制心を乱し始め、静也が次にその瞳を見た時、不思議な感覚のもとで頭がぼぅとしてきてしまった。


「……ゆ…い………」

「ここ、入ろう?」


 唯は健康的で肉付きの良い太ももをもじもじさせて頬を朱に染めた。そして恍惚とした表情とピンク色の瞳が静也をとらえると、決して離すことはなかった。

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