2-43 交わされた約束事
「それで、結局俺は何をすればいいんだ?」
あの球体が完全な液体となってしまって議題が強制終了となった。
そこで静也が気になっていたことをあらためて聞いてみることにした。
「そうだったね。静也には私と唯と出かけてもらうよ」
「三人でか?」
「ううん。それぞれとだよ。もちろん二人だけで」
月乃が淡々と答えた。
だがそんな答えがくるとは思っておらず、能徒があんなことをされていたということもあり、てっきり恐ろしい要求がくるものだと思っていた静也は思わず虚を突かれてしまった。
「そんなことでいいのか?」
「うん。唯と決めたことだから、これがいいんだよ」
「そうねぇ。お姉さんも静也くんと二人きりでお出かけしたいなぁ」
そう言った唯の目が妖しく光り、それを向けられた静也はなんともいえない冷たいものを感じて月乃に目を向けた。だがそんな月乃も長い前髪の奥から静也を見て、にっと静かに口角を上げていた。
「ま、待て。やっていい事と悪いことがあるのは知ってるよな?」
「そ、そうです。狩人兄ぃの言うとおりです。何でもありではないと思うです!」
「…法令…遵守……だめ…絶対……」
二人の様子を見た他三人が口を挟んだ。そして三人がさらなる追い風を求めて能徒に目を向けるも、そんな能徒はメイドとして球体の残骸を処理していた。もちろん、それでも視線に気づいており、さっきの事もあって何も言えなかった。
「みんな、静かにね。今回は大丈夫だよ。私と唯が二人で約束事を決めて同意したから。それを破ったら、ねぇ? 唯」
「そうねぇ。さっきの能徒の比じゃないことになるわねぇ」
「なんか怖いって。俺はいったいどんな約束のもとで出かけることになるんだ」
「なにも怖いことはないよ? 私と唯との間には色んな取り決めがあるだけだよ」
「それが怖いんだって」
その時狩人が何かを言いたげに口を開こうとしたが、それは月乃の視線によって閉じられた。
「どんな取り決めです? 初めに言っておいたほうが静也兄ぃも安心すると思うです!」
「悟利ちゃん。飴舐めててね」
と唯が悟利の開いた口に大きな飴を放り込んでその口を閉じさせた。
そんな事をされた悟利は何かを察してもう何も言わなかった。その目はうるっとして体は震えていた。
「そういうことだから、静也は明日は唯。明後日は私と出かけるからね。丁度週末だし、何も無いでしょ? まぁ、何かあっても来てもらうけどね。さっき静也は自分の口からやるって言ったんだし、それだから能徒を解放してあげたんだからね」
「つまり、もう断る権利は無いと」
「もちろんだよ」
月乃は首を傾げて口角だけで笑った。
相変わらず明らかな表情を晒していないものの、その静かな中にはもう逃さないという確固たる意思が放たれていた。
だからこそ静也はもう何も言わなかった。さらには他の面々もこれ以上の追求をしなかった。
「そういうことだから、もういいよね。静也は週末は私達に付き合ってもらうからね」
「……分かったよ。怖いけど、分かったよ」
「ふふふ…楽しみねぇ……」
「唯。約束は守るんだよ?」
「もちろんよぉ。月乃ちゃんも守るのよ?」
月乃と唯の間で無言のやり取りがあり、それを見ていた静也はなお一層怖くなった。
***
解散となった生徒会一同はそれぞれの帰路に着いた。
ぼろぼろになっている狩人は、多少脚を引きずりながら帰っていった。それを見た静也は悟利に頼んで回復してもらおうかと思ったが、そんな悟利は今も愛枷にしがみついて離れようとしなかったので諦めることとなった。
「月乃」
「ん?」
他の面々が帰っていって最後にはやはり月乃と静也、そして能徒が残った。
そこで静也が問いかけた。
「なんで出かけることにしたんだ? それ以外の願いもあったんじゃないのか?」
「これ以外に無かったからこうなったんだよ。最初は唯と私が願いを出し合って決める予定だったんだけど、第一希望がこれだったから一発で決まりだったの」
「ほう」
「その時に狩人が能徒を庇いだして、それでも私は主として罰を与えなきゃいけなかったのにあーだこーだ言ってね、だから唯と二人で静かにさせたの」
「さらっと恐ろしいことを言ってなかったか?」
「?」
首を傾げて静也を見る月乃。
どうやら素で言っているのだと気付いた静也。それにその言葉によって狩人がぼろぼろだった理由と、他の二人が震えていた理由に察しがついた様子だ。
「というかさ、話の中で能徒は全部を知っているのにも関わらずって言ってたよな? あれはどういう意味なんだ? 能徒は何を知っているんだ?」
「それは……なんでもないもん」
月乃がむっと口を閉ざしたので、それについては答えるつもりはない様子である。
だが、少なくとも何かがあるのは確かなようだ。
「能徒はどうなんだ? その全部というのを知っているんだろ?」
「私の口からはお教えすることは出来ません」
「そう言わずに」
「それは……」
「能徒。言っちゃ、駄目だよ?」
「……はい。何も言いません」
一瞬迷った様子を見せた能徒は、月乃のその言葉によって完全に口を閉ざした。
それから静也が分かれる角となったので月乃が静也にメモを渡した。
「唯の家の住所だよ。明日はここに行ってね」
「分かった」
「ちなみに、二人は明日セブンスターズの仕事に参加しなくていいからね。それじゃ、能徒。また静也の護衛をお願いね。今日はちゃんと帰るんだよ?」
「はい。星見様の仰せの通りに」
やけにかしこまった様子の能徒。
昨日の行いによる生徒会室でのあれがかなり効いているのだと察しられた。
それから能徒と二人で帰り道を歩く静也。
「俺のせいで悪かったな。昨日俺に隙が無かったらこんなことにはならなかったのに」
「いえ、謝るのは私の方です。私が最重要機密事項を漏らしてしまったがために、無波様にはご迷惑をおかけすることになってしまいました。申し訳ございませんでした」
「迷惑だなんて思ってないよ。やっぱり仲間達で責め合うのは見たくないだろ? だから止めさせただけだ。俺がしたいようにしたんだからいいんだよ」
しょんぼりとしていた能徒を優しい言葉で慰める静也。その言葉に少しだけ表情が和らいだ能徒はお礼を言った。
まもなくして先日襲撃を受けた場所にさしかかった。だが今回は何もなく、静也の家まで無事に辿り着く事が出来たのだった。
「それでは私はこちらにて」
「そうか。お茶でも出すぞ?」
「いえ、星見様から言われていますので、お気持ちだけで結構です」
「そうか。それじゃ気を付けてな」
そうして能徒がお辞儀をすると、来た道とは逆方向に進んで角の向こうに消えた。
何事も無く帰宅をした静也のスマホにはLINEが入っていた。
「能徒はちゃんと帰った?」
月乃からだった。
それに対して帰宅した事を伝えるとスタンプが一個送られてきた。
「しいたけのスタンプか…… また地味な」
スマホを閉じた静也はそれからも特に何事もなく平和に過ごし、就寝する前に渡されたメモを確認した。
「明日は十時に唯の家か。当たり前だけど行ったことないんだよなぁ。でもそれから出かけることになっているから、迎えに行けってことだよな」
時計は既に日を跨いでいた。
色々と疲れた静也はそのままベッドに入り眠りにつこうとした。だが、昨日の能徒の香りがまだ僅かに残っていたせいで寝るのに時間がかかったのだった。
次回は来月の初頭です。




