2-42 さぁ、処遇を決めようか
「……分かった。やるよ。なんでもこいよ。だから能徒はもういいだろ。解放してやってくれ」
やってきた生徒会室で昨日の能徒とのことがバレて要求を受ける静也と、今もなお床に転がされて甘く羞恥の表情を浮かべている能徒。
月乃はその長い前髪の奥から静也を見て、なにやら不敵に口角を上げた。
「唯。もういいよ。良かったね、能徒。でも、次は無いよ?」
「…は……い……」
そうして解放された能徒は頬を赤くしながらも定位置である月乃の横に立った。
実際に能徒にあれやこれやしていた唯はというと、自分の椅子に座ってなにやらにやけ顔をしていた。
「ほら。みんなも自分の席に着いて。今日の生徒会活動を始めるよ」
部屋の隅で小さくなっている愛枷と、それに抱き付いて震えている悟利。そして狩人は相変わらず床で気を失っていた。
まだ時間がかかりそうだと思った静也は、月乃に自分は何をさせられるのかを聞いてみた。しかし、
「それはまた後でね。先に活動をやるよ。能徒がいい物を持ってきてくれたみたいだから」
と言われて今は答えてくれなかった。
それから月乃が全員に向けて早く席に着くようにと言うと、それぞれがなるべく急いで自分の席に着いた。ちなみに気絶している狩人は静也が運んでいつもの席に座らせた。
ということで、どうにか準備が整ったので月乃が話を始めた。
「昨日のスイパラの帰りに静也と能徒が襲われたのはもうみんな知ってると思うけど、そこで能徒が気になるものを捕まえたんだって。それを吟味するよ。―能徒」
「…はい。こちらに」
そうして能徒が先日のあのふわふわした思念体のような丸い生き物が入った結界の箱を取り出すと、全員に見える位置に置いた。
その生き物は今もなお能徒の眠りの能力により眠っていた。
「私が見た限りですと、この生き物は誰かに憑依して悪さをするようです。その憑依された人は五感や意識はあるものの、全ての行動が支配されます。現に無波様は一時乗っ取られ、普段の様子からは想像もつかないことをしていました」
説明をしている能徒はどうにか言葉を選んでいる様子だった。
「ふーん。それじゃ、この生き物はオスなのね。だったら、どうしてあげようかなぁ」
唯は何かを考えている様子を見せる。それがまだ怪しげだったのか怖いのか、隣の席にいる悟利が小さく震えていた。
「どうするかは後でみんなで考えようか。まずはこの生き物から聞き出せることを全部聞き出しちゃおうよ。能徒、起こしてあげて」
「はい。箱の中なので誰かに憑依する心配はありませんので、皆様は普段通りにしていてください」
そうして能徒が眠りを解くと、その生き物が目を覚ました。そして体の表面を覆う程の大きな一つ眼を開眼させた。
「……ンア。ココハドコダ! 我ヲドウスル気ダ!」
「起きましたね。それでは、あなたが眠る前に忠告していた通り、知っていることを全て話していただきましょうか」
能徒を筆頭にセブンスターズ全員の視線がそれに集中した。
もちろん逃げ場は無く、結界によって囲われているので憑依の能力も使えないそいつは焦りの表情を見せる。だがそれでも断固として喋ろうとせずに完全に口を閉じていた。
そこで月乃が問いかけた。
「あなたはどこから来たの? 飼い主は誰?」
「……」
「うーん。そっか。能徒」
「はい。星見様」
すると能徒がその生き物に見えるように右手を出して指を広げると、ゆっくりと握るようにその指を閉じていった。するとその結界の箱が小さく収縮し始めた。
「ナ…ニ……?」
「あなたは私が作りだした箱の中にいるのです。この指が完全に閉じられた時、あなたは潰されその中で弾け飛びます。それでもいいのですか?」
「ドウセハッタリダ。オ前ラハ我ヲ殺サナイ」
すると能徒が一度月乃に目を向けると、月乃は頷いた。
まもなくしてその生き物の下方、体の四分の一程度を範囲として結界の小さな箱が展開された。そして能徒がその小さい箱に照準を合わせて指を広げた。
「オ…オイ、マサカダヨナ……」
「そのまさかですよ」
直後その指が一気にグッと閉じられた。するとその結界の箱は急激に収縮してそこにあった部位を破裂させた。
「イギィャァァァァ!!」
閉じ込められている箱にはなにやらよく分からない液体が飛散し、内部からその色に染めた。
そいつは悲痛な声をあげてのたうち回った。だが収縮している箱の中では満足に動けていないようだった。
「痛いですよね。では次はどうしましようか。星見様」
「そうだね。それじゃ、要は話が出来ればいいんだから、下側のもう四分の一も潰しちゃおうか」
「承知しました」
するとすぐさまその場所にまた小さな箱が出現し、能徒が照準を合わせた。
「マ…待テ……喋ル。何デモ喋ルカラ……」
「そっか。それじゃちゃんと答えてね。まず、あなたの口はどこにあるの?」
「今ハ関係ナー」
「口、どこにあるの?」
月乃が有無を言わさずに答えるように急かした。それと同時に能徒の指が少しずつ閉じ始めた。それによってじわじわと痛みが伝わっていき、そいつは自分の口の場所を示した。
「そこか。だって、能徒」
「はい。承知しました」
するとその小さい方の箱の位置が少しだけずれて別の場所を包囲した。そしてその直後にはその場所が激しく弾け飛んだ。
「イギィィィャァァァァ!!」
再び悲痛な叫び声が響いた。
それを悟利は震えてながら見物し、愛枷と唯は少し楽しそうに見ていた。
「能徒」
「はい」
そうしてまた別の場所に箱が出現した。
「マ…待テ……頼ムカラ。コレ以上ハ…ヤメテ……」
「ちゃんと正直に喋る?」
「喋ル。約束スル……ダカラ…モウ……」
それを聞いて月乃は能徒にストップをかけた。だが体に出現している小さな箱やそれに合っている照準は解除されなかった。
「少しでも嘘を言ったら、次はそこ、多分頭のどこかかな?が消えるからね」
震えているそいつはそのまま頷くと、流れていく体液に体を濡らしながら月乃を見た。
「それで、誰の差し金なのかな? 目的はなに?」
「ソレハ……」
「能徒」
「はい。星見様」
ほんの少しの躊躇を見せた途端、その指がゆっくりと閉じられていった。それに伴ってそいつに痛みが発生した。
「ワ、分カッタ。千取様ダヨ。千取様ガ我ヲ遣ワシテ皆ヲ始末シロッテ」
「あの野郎、やっぱり俺らを狙ってきやがったのか。来るなら自分で来いってんだ」
「静也、落ち着いて。まぁそうだよね。あの人はそういう人だもんね。ってことは、私達が水晶髑髏を集めようとしていることはもうバレているってことだよね?」
荒ぶった静也を制止させた月乃が続けて問いかけた。
「バレタモ何モ、全テ千取様ノ予想ノ範囲ダ。ダカラ我ヲ遣ワシテ必要ガアレバ月乃トカイウ女以外ハ殺セト言ワレタノダ」
「そっか。でも困ったな。そういうことならあなたは千取に何かしらの報告をしないといけないよね? もしその報告が無かったら、千取のことだから失敗して逆に殺されたって思うよね。そうなったら、本当に私達がクリスタルスカルを集めているってバレるようなものだし。困ったなぁ」
そこで月乃がふと狩人を見た。
だが未だに気絶しているので、静也が無理矢理起こした。
「なんだ? 星見、もうやめるんだ。僕は―」
「金錠。それはもう終わった。今はこいつだ。どう思う?」
「全く話が分からん。まずは説明をしてくれ」
ということで静也がかいつまんで説明をした。そうしてやっと理解した狩人が月乃の視線に気が付いた。
「そうだな。全てが千取の予想の範囲なら、こいつ如きに僕らを始末出来るなんて奴は思ってもいないだろう。もしこいつからの報告が無ければ予想が真であると分かるが、報告があればそれはそれでその真意を知ることが出来る。聞く限りだと奴が本当に知りたいのは、僕らの真意よりもクリスタルスカルを集めようとしているかどうかの情報なのだから、まぁ、昨日の時点で報告が無かったのだから、十中八九僕らの思惑はバレているに違いないだろう」
「やっぱりそうだよね。もう遅いよね」
すると月乃が席を立って能徒の隣に立った。
それからいつもの抑揚の無い声で言った。
「そういうことだからさ、まぁ私もなんとなく予想はしてたけど、千取の仕業だって確定したことだし、これからみんなでこいつをどうするか決めようか」
「ソンナ……我ハ全部話シタ。解放シテクレルンジャナカッタノカ?」
「誰もそんなことは言ってないよ? そういうことだから、みんな。どうしようか」
そいつの言い分は簡単に一蹴され、全員が思い思いの意見を述べた。
逆に利用して千取の動向を探る。生徒会の愛玩動物にする。死ぬまでこき使う。容赦なく殺す。といったものがほとんどだった。もちろん途中でそいつが何かを言っていたが、それは一切聞き入れられることがなかった。
そんな中で月乃が提案した。
「それじゃ、みんなでじゃんけんしようか。それで勝った人が決める。それでどうかな?」
「まぁ埒が明かないしいいんじゃないか」
「わ、わちも」
それに続いて全員が納得した。
「オ前ラ、我ノ命ヲ何ダト思ッテル!」
「それじゃいくよ。ほら、能徒もやるんだよ」
「ですが、私は…」
「いいからいいから」
そこで月乃が微笑みながら能徒の手を引いて勝負に出させた。
「どうなっても恨みっこ無しだからね。それじゃみんな、右手を出して、最初はグー…」
そうして全員がグーを出した直後、その箱が一気に収縮して弾け飛んでしまった。
「あ…」
能徒は唖然とした。だがもうそこには液体しか残っていなかった。
「月乃。こうなるようにわざとじゃんけんにしたな?」
「やっちゃった」
そう言った月乃の口角は上がっていた。
次回は11/27の予定です。




