2-40 一難去ってまた一難
次の日、目覚まし時計によって目が覚めた静也はなんだか体が重いことに気が付いた。それに、なにやらやけに良い匂いと柔らかい感触がすぐ近くにある事にも気が付いた。
そうしてその場所に目を向けると
「のっ…! 能徒!」
思わず声を上げてしまった。
だが静也はそのまま身動きがとれなかった。なぜなら能徒が静也の上に覆い被さるかたちでうつ伏せに寝ており、その腕が静也の首に抱き付くように回されていたからだ。
「……ぁ。無波様。おはよう…ございます」
意外と早起きではない万能メイドが寝ぼけ眼で静也を見た。そしてすぐに事態を把握した。
「も、申し訳ございません! すぐにどきますから」
そうして首に絡みついていた腕を解いて起き上がると、
「能徒!!」
「……あ」
なんと能徒は服を着ていなかったのだ。
華奢で真っ白い全身が静也の瞳に映し出された直後、能徒は一瞬にして顔を真っ赤に染めた。そして上にかかっている毛布に体を包むと逃げるようにして寝室から出て行ってしまった。
***
「それで、どうしてあんなことになってたんだ?」
ようやく落ち着いた様子の能徒は既にメイド服を着ていた。
静也が着替えを済ませてリビングに行った時、既にテーブルには朝食が用意されていた。それを二人で食べている時に静也が訊ねた。
「はい。寝ている私には脱ぎ癖があって、どうやら寝相も悪いようなのです。そのせいで毎朝目が覚めると全裸になっているのです」
「それを先に言っておきなさいよ」
「申し訳ございません。ですが、やはり恥ずかしくてお伝えするタイミングを逃してしまいました」
今は凛として綺麗に朝食を食べているものの、さっきの様子といいスウェットを着ている昨夜の様子といい静也には思う事があった。
「まさかとは思うが、メイド服を着ていないと気が抜けるとか?」
「よくお気づきになりました。その通りです。これも不思議なのですが、メイド服を着ている時は皆様の言う万能メイドとして立ち回る事が出来るのです。しかし昨夜のように一度脱ぐと途端に駄目になってしまうのです。いわゆるダメイドというものです」
「自分で言うんだな。それじゃ自分の家ではさぞかし自堕落なんだろうな」
「それは……ご想像にお任せいたします」
やっぱりそうなんだと静也が納得した。
「ところで、無波様」
「今度はなんだ?」
「さっき、私の裸を見ましたね?」
「起きたばかりでよく覚えてないな」
「実は昨日私は胸に怪我をしたのですが、そのせいで傷痕が残っていないか心配なのです」
「そんなものは無かったから大丈夫だ。……あっ」
静也が気付いた時にはもう遅く、能徒は僅かにしてやったりという表情を浮かべた。
「特に責め立てたりはしません。あれはダメイドの私が起こしたことなのですから。しかし、やはり恥ずかしかったので、これも内密にしていただけると助かります」
「当然だ。誰にも言えるわけないし」
その時静也の脳裏には、不可抗力とはいえばっちりと見てしまった能徒のバランスのとれたスタイルと二つの山々がよみがえった。そしてその山頂はまさに今まで一度も見たことがない神秘さを誇っていた。
「無波様」
「い、いや、何も考えてないぞ。本当に何も」
「……私は、綺麗でしたか?」
「そりゃもちろん。……あっ」
「……今回は良しとします」
それから二人は朝食を食べ終えるとそれぞれで準備を整えた。
「それじゃ忘れ物は無いな?」
「はい。泊めていただいてありがとうございました。無波様について色々な事を知ることが出来ました」
「それは俺もだよ。まさか万能メイドが実はダメイドだったなんてな」
そうして二人が家を出ると学校へ歩きだした。
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それから少しして二人は無事に登校を済ませた。そしてそれぞれの学級にて授業を受け、気が付けばもう放課後になっていた。
月乃は他の面々と先に生徒会室に行ってしまっており、日直の静也は仕事を済ませてから生徒会室に向かった。
「ん? 金錠か?」
静也は道中でLINEの通知に気が付くと、そのまま内容を確認した。
狩人が静也に個人でLINEを送ることなんて滅多にない。だからこそそのメッセージを真剣に読んだ。
「くるなきたら」
「? 悪戯か?」
静也はそのまま何も見なかったことにして生徒会室に通じる廊下の角を曲がった。そして目的地の近くまで来た時、途端に妖気のような重圧のような身の危険すらも感じるものを感じた。
「まさか、敵か!?」
もしかしたら中で月乃やみんなが危険な目に遭っているのかもしれない。それこそさっきの狩人のLINEはそれを知らせようとして途中で何かがあったから変な感じで送られてしまったのかもしれない。
先日の一件を思い出した静也は、そんな危機感の中で判断に迷わずにその扉を一気に開け放った。
次回は11/21の予定です。




