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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第2話 みんなの居場所

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2-38 違和感の正体

「やっと出ましたね。私の目は欺けませんよ」


 情欲に染まった静也(せいや)に強烈な頭突きを入れた能徒(のと)は、そこから飛び出した思念体のようなふわふわとした球体を睨みつけた。

 すると、その球体は体全体を覆う程の一つ眼を開眼した。

 静也はというと、そのままベッドで仰向けになって気絶していた。


「見ツカッタカ。マサカ、最初カラ分カッテイタノカ?」

「当然です。無波(ななみ)様が私に魅力を感じるはずがありません。それに、あの姉ヶ崎様の魅惑にも動じなかったお方です。なお一層私に劣情を抱くなどありえません」


 能徒はメイド服から取り出した二本のナイフを両手に構えると、その瞳を水色に輝かせ始めた。それを見た球体はまるで蔑むかのように半眼で嗤った。


「ダカラ何ダト言ウノダ。コノ男ノ体デ弄ンデカラ殺スツモリダッタガナ。コウナッテシマッテハ、オ前ノ体ヲ新タナ器トシテコノ男ヲ殺スダケダ」

「そんな事が出来るとでも?」

「出来ルトモ。我ニ憑依出来ナイモノハ無イ」


 その直後球体が能徒に向けて突進した。もちろん目的は静也同様にその体を乗っ取ることである。だが能徒はその場から一切動かず、ただ近づいて来る球体にその水色の瞳を向けていた。


「諦メタノカ? 動カナイナラ好都合ダ。コノママ我ニー」


 球体は最後まで言い終える前に能徒の足元にごとりと落ちた。


「諦めていませんよ。ようやく効いてきたようですね」

「何ヲ…シタ……」

「大丈夫です。ただ眠るだけですので。次に目が覚めた時、あなたには皆様が色々と聞くことでしょう。素直に話す事をお勧めします。皆様は私よりも容赦がない方々ですから」

「オ…ノレ……我ハ……」


 そうして球体の一つ眼が閉じられると、それからは一切動かなくなった。


「……終わったのか?」

「無波様。気が付いたのですね」

「能徒が話をしている時にはもう起きてたさ。でも奴に気付かれないように気絶したふりをしていたんだ」

「流石です。あそこで起きてしまわれていたら再び無波様に憑依していたことでしょう。お見事な判断でございました」


 静也は体を起こすと()()と痛む額をさすった。それに対してどこからか冷えたおしぼりを手渡した能徒は、さきの球体の周りを結界で囲んで檻を作り出した。いや、それは檻というよりも厳重な箱だった。


月乃(つきの)達に見せるのか?」

「はい。何かの情報を持っていそうでしたし、尋問すれば得られるものもあるでしょう」

「確かに。というか、そいつは何者なんだ?」

「分かりません。ですが、あの時無波様の中におかしな気配を感じましたので追い出したら出てきたのです。つい先ほどの話を聞く様子だと、少なくとも誰かに憑依してその体でよからぬ事をするのは明らかなようです」

「なるほどな」


 二人はベッドから降りると、そのままリビングに行って能徒が準備したお茶にて落ち着いた。

 今回はもう能徒がカーテン越しに外を気にしている様子はなかった。ちなみに例の球体は結界の箱の中で眠ったままである。


「眠らせたのって能徒の能力だよな?」

「はい。星見様や深見様、小牧様に能力があるように私にもあります。私は見たものを眠らせることが出来るのです。それだけなのですが、戦闘や今回のような捕獲といったときに重宝されます」

「なるほど。そう言われると眠りがあるなら麻痺とか毒もあるのかなって思ってしまうな」

「あります。ですが()()眠りだけです。他はどなたかがもっています。もちろん私の口からは言えませんが」


 セブンスターズは一人一人が欲を使いこなしつつも、いわゆる状態異常系の能力も使えて多才だな。

 そう思った静也だった。


「そういえば、俺から感じたおかしな気配に気が付いたのはいつなんだ?」

「はい。ですがそれをお答えする前に、無波様はどこまで覚えてらっしゃいますか?」

「どこまでというと?」

「そのままの意味です。帰り道での襲撃の後から今に至るまで、いったいどこからどこまでの記憶がはっきりとしていますか?」

「それは……まぁ。いいじゃないか」

「その様子ですと全部ですね? 額の痛覚があったことを考えますと、その他の嗅覚や触覚といった五感にも問題は無かったということでお間違いないですね?」


 能徒の目は先の水色の時とまではいかないまでも、じっと静也を見て事の真偽を明らかにしようと真剣だった。それに対して静也は無言を通すが、それでもじっとりと見つめてくるので流石に観念した。


「全部覚えてるよ。言葉とか体の動き以外には問題がなくて、言うなら体が勝手に動いていたっていう感じだ」

「なるほど。ではベッドでの事は星見様や他の皆様には決してバレるわけにはいきませんね」

「言い方よ。まぁそうだな」


 その時静也の脳裏には、ついさっき自らの下で蕩けた表情と羞恥の声を上げていたメイドの姿がよぎった。それに、見えてしまった太ももとその質感、さらにはその手に感じた熱いものの感触を思い出して無言になった。


「なにか考えてらっしゃいますね? 先ほどのことですか?」

「なんでピンポイントなんだよ」

「このタイミングで考えることといったらそれでしょう。ちなみに言っておきますが、あれは無波様の両手を封じるための演技です。指を絡めたのも手で守らせないようにするための布石ですので」

「やけに必死に弁明するじゃないか。もしあの時の俺が実は乗っ取られていなくて、能徒にそういう目的であんな事をしていたならどうしていたんだ?」

「それは……メイドとして求められている事をするのが私の使命ですので」


 一瞬困り顔になった能徒。それを静也は見逃さなかった。


「悪かった。冗談だよ。セブンスターズにはそんな強引な人はいないから安心しろ。ただな、いくらメイドでもそれは断るんだぞ? 能徒はメイドである以前に一人の女の子なんだから自分を大事にしないとな」

「無波様…… ありがとうございます。私にはもったいないお言葉です」

「もったいなくはないと思うんだよなぁ」


 能徒は深々と頭を下げ、再び上げた時にはその口角が上がっていた。


「月乃みたいな口角の上げ方をするんだな。というか今さらだけど、能徒が俺の中に何かいるって確信する前、それこそ俺がここでテレビを観てたりしてくつろいでいる時に外を気にしてたのって、違和感は外からだって思っていたってこと?」

「おっしゃる通りです。先ほどの答えにもなりますが、こちらにお邪魔してからは常に変な気配がしていました。しかし外にはいっこうに不穏な様子は見られませんでしたのでおかしいと思っていたのです。今思えばあの襲撃で無波様が怪我をされた時にはもう()()()()()()のですね。それに気付けなかった私はまだまだ修行が足りないようです」

「修行って。でもどうにかなったわけだし、もう変な気配はしないんだろ?」

「はい。内も外ももう問題ございません」


 その言葉に静也は安心すると、それを見た能徒も安心した様子を見せた。


「それじゃもう安全みたいだし、あらためて能徒はシャワーを浴びてこいよ。俺は寝室を整えてくるからさ」

「はい。ではお言葉に甘えさせていただきます」

「あ、服は出しておくから今日はそれを着てくれ」

「承知しました。ではお借りします」


 そうして能徒がリビングを出ていった。

 まもなくしてシャワーの音が聞こえてくると、静也は部屋着を脱衣所の扉の前に準備して寝室へと向かった。

次回は11/14の予定です。

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