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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第2話 みんなの居場所

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ハロウィンSS 欲祓師たちは遊びたい

「遊びに行きたい」

「急だな」


 今日は朝からGreedの殲滅が重なったためにセブンスターズの面々は拠点である事務所に集まっていた。そしてついさっきそれを終えたところで一人、また一人と事務所に戻ってきてやっと全員が集合したところだった。


 人の欲望が暴走し制御出来なくなった挙句、化け物のように力の限り暴走してしまう存在。それがGreedと呼ばれ、星見月乃(つきの)を筆頭としたセブンスターズは日夜その殲滅を行っているのだ。


「遊びに行きたいって言っても、今から遠出は無理だぞ? もう昼だし」

「分かってるよ。でも最近忙しくてどこにも行けていないし、そろそろみんなで遊びに行きたいなって」


 事務所の最奥の椅子に座っている月乃が幼馴染の無波(ななみ)静也(せいや)にそんなことを言った。


「だったらこの前のスイパラに行きたいです! またいっぱい食べるです!」

「あそこねぇ…… 実は今は改装工事中みたいで休業してるんだよね」

「そんな……わちのおなかは……」


 少し前にそのスイパラで店員を涙目にさせるほどの爆食した小牧悟利(さとり)は、明らかなショックとともに項垂れた。


「そういえば、今日は世間的にはハロウィンね。今頃渋谷では凄いことになっているんじゃないかしら」

「そうだな。毎年あそこは凄い混雑らしいからな」


 包容力溢れる姉ヶ崎唯がそんな悟利を優しく慰めていると、


「ハロウィンか……」

「……ハロ……ウィン……」


 と月乃がその両目を隠すほどに長い前髪の奥でなにやら考えている様子を見せた。

 そして事務所の隅で自分の武器である大鎌を黙々と研いでいた深見愛枷(まなか)が僅かに反応を見せた。


能徒(のと)

「はい。星見様」

「今日は学校で演劇部は活動中だっけ?」

「たしか夕方まで行っていたかと思います」


 問いかけられた万能メイドたる能徒(かなう)が眉一つ動かさずに回答した。


狩人(かぶと)。演劇部が持っている仮装の衣装のリストはある?」

「まぁ、あることにはあるが。まさかそれを借りて渋谷に行こうなんて言うつもりじゃないだろうな?」

「その通りだよ。流石は察しがいいね。それで、リストだと衣装はどういうのがあるの?」

「ハロウィンらしいものはとりあえず一通りあるが、いくつかは現地調達になりそうだぞ」

「そう。それじゃまずは学校に行って衣装を借りるよ。調達についてはその時に考えよう」

「そうか。まぁ行くなら気を付けて行くことだな」


 金錠(きんじょう)狩人はそそくさと帰り支度をし始めた。


「狩人も、みんなで行くんだよ。今日は渋谷で課外活動をするよ」


***


「どうして僕までこんなことを……」

「まぁ月乃が言ったことだ。それに、あの地味な外見で譲らないところは譲らないから仕方ない」


 あれから他のメンバーは嫌がる狩人を強引に連れ出して演劇部から仮装衣装を借りに学校に行った。そしてその脚で渋谷に足を踏み入れたのだ。


 静也は心底帰りたそうな狩人をどうにか落ち着かせて着替えをしている女子を待った。

 着替えをしているといっても公に更衣室があるわけではなく、ここに来た人達は大体スーパーやそれこそ少し離れた施設のトイレを使うのだ。


 ちなみに男二人も仮装をしている。

 狩人は頭に大きな杭が刺さったフランケンシュタインで、静也は付け髭や被り物を駆使した狼男である。ちなみに手には狼の手を模した手袋をはめている。


「おまたせ」


 その声が二人の耳に入ると、そこには見事に仮装を施した女子達がいた。


「どうかな。変じゃないかな?」


 月乃が静也に問いかける姿は烏帽子と黒のマントを纏って箒を持った魔女だった。

 月乃は体型としても元々大きくも小さくもなく、至って普通サイズなので西洋の昔話に出てきそうなオーソドックスな魔女っ娘が完成していた。それに髪形も黒のショートボブなので帽子を被るのにも変に髪型を気にする必要もない様子である。


「いいと思うぞ。月乃は元々地味だからそういう影っぽいコスプレが良く似合うな」

「それは褒めてるの? まぁ変じゃないならいいけど」


 月乃は唯一の感情のものさしである口元をむっとさせて不服の様子だ。しかしその後はにこっと口角を上げたので怒ってはいないようだ。


「静也くん。お姉さんはどうかな?」

「わちはどうです?」


 そう言って彼の前にやってきたのは唯と悟利だった。

 唯は持ち前の日本人離れしたスタイルを誇示するようにして見せつけ、悟利は無邪気に微笑んでいた。


「唯はなんかこう、すごいとしか言えないな。というかその格好で街を出歩いて大丈夫なのか?」

「多分平気よ。なんならもっと過激で、刺激的な格好をしている人がいるみたいだし。こういう格好、静也くんは嬉しい?」


 唯はぴっちりとした全身黒のボディスーツを身に纏い、そのざっくりと開いた胸元からは豊満極まりない二つの山々が顔を覗かせていた。そして体の線がはっきりと分かるため、見事なくびれの先にある調度いい肉付きを誇った臀部からは引き締まりつつもこれまた適度にむちっとした脚がのびていた。

 ちなみに太腿の部分はスーツから露出しており、白く張りのある柔肌が顔を見せていた。


「嬉しいというか……目のやり場に困る」

「それくらいお姉さんが魅力的ってことね。あ、そうそうこれも付けないとね」


 そうして唯が頭に付けたのは猫耳ならぬ、羊の角だった。そして先端がトランプのスペードのマークに似た形になっている細長い尻尾を付けた。


「今日のお姉さんは悪魔なの。だから、悪い子には悪戯をしちゃうのよ」

「悪魔というかサキュバスに見えてくるんだよな」

「もしかして静也くんはお姉さんにサキュバスになってほしいのかな? いいわよ。どんな格好にだってなってあげる」


 なんだか妖艶に言った唯が静也の手を取ろうとした時、その近くにいた月乃が静也を遠ざけるようにして自分の方に引き寄せた。


「あらあら、月乃ちゃんったら。()()()取らないわよ?」

「今日もこの先も静也は駄目だよ? 何回も言ってるよ?」

「ねぇ、静也()ぃ。わちは? わちはどうです?」


 唯の破壊力に目を奪われていた静也が足元で問いかけてきている悟利に目を向けた。

 悟利は同じ高校生とは思えないくらいに体が小さい。体型も幼児体型でいつも一緒にいる唯と並ぶとまるで姉妹か親子に見えてしまうほどである。そんな悟利はにこやかに笑うとその八重歯が尖っており、頭には小さな角が二本ついていた。また、服装も黒で統一されており小さなマントも着けていた。


「ヴァンパイアか? でもヴァンパイアって角は無かったはずだよな」

「可愛いから付けたです! 似合ってますか?」

「よく似合ってると思うよ。見てるとなんか朗らかな気分になるなぁ」

「良かったです! これで色んな人からお菓子を貰うです!」


 無邪気なその屈託の無い笑顔はまるで日本の宝のように輝いていた。


「あとは、能徒はいつもと変わらないメイド服か。でも髪の先に何かついてるな。……蛇の頭? あぁ、メデューサか」

「はい。星見様のご希望ですので」

「能徒にもメイド服以外を着てほしかったんだけど、衣装が足りなくなっちゃって。それに現地調達も難しかったからせめて髪だけはアレンジしたんだよ」

「そうか。いいと思うぞ」

「光栄です」


 静也は最後にみんなの後ろでぼぅと立っている愛枷を見た。


「愛枷は……いつも通りだな」

「キョンシー……似合う……かな?」


 いつもの白いビックサイズのワンピースではないものの、白いベッドシーツを被っているような服装に、臀部にまで届くほどの超ロングの黒髪が顔全体を覆っていた。だが今日はその奥の顔にお札があったので、静也はかろうじてそれがキョンシーであることを理解したようだ。

 すると愛枷がすぅ…っと両手を前に出して歩き始めると、


「似合うけど、キョンシーというよりもやっぱり井戸から出てくる怨霊にしか見えないんだよなぁ」

「キット……クル……」


 静也はそんな愛枷をどうにかキョンシーらしく出来ないものかと思い、長い前髪の奥にあるお札を目立たせようとその前髪を上に捲りあげた。そして一旦札を取ると


「……ぁ」


 その奥にある円らで綺麗な蒼い瞳が困った様子で静也を見ていた。そして次第に目が潤んでくると


「前髪を…上げちゃ…駄目……顔見られるの……はずかしい……」


 としおらしい声をあげて戻すように無言で訴えかけた。だが、静也はとりあえずそのまま上げ続けてその瞳を穴が空くほどじっくりと見つめた。


「……ぅぅ。静也くん……もう…やめて……」

「ほら、静也。愛枷が困ってるでしょ?」


 意地悪をしているその手を月乃が引いて前髪を下ろさせると、愛枷は安心したのかいつもの無口でゆらりとした独特な雰囲気に戻った。


「愛枷は目が綺麗だからなんか悪戯したくなっちゃうんだよな」

「……私……きれい……?」

「愛枷。それ、違う妖怪だからね。目が綺麗なのは私もだよ。ほら」


 そうして月乃は自分の前髪を捲って見せた。

 そこには黒曜石のように澄んだ漆黒の瞳があった。丸く庇護欲を掻き立てられるような可愛らしい瞳である。


「そうだな。月乃も確かに綺麗だな。でも捲るのは俺がやりたいんだよな」

「静也くん……意外とS……」

「そういうことじゃなくて、探求心というか悪戯心というかでな。男にはそういうのがあるんだよ」

「そうねぇ。女の子のスカートを捲ってみたくなるみたいな感覚かしらねぇ。静也くんはもしかしたら変態なのかもねぇ」

「その格好をしている唯には言われたくない。でもなんか納得出来てしまう自分が悔しい」

「そっか。それじゃ静也は変態S男なんだね」

「行くならそろそろ行くぞ。ここも混んできた」


 そんな会話をしている中でも狩人は周囲を見ていて次第に混んできた様子を伝えた。そしてそれを聞いた面々は揃って移動を開始した。


****


「すごい混んでるね」

「まぁ毎年恒例だな。でも今年は変に騒ぎまくっている人が少ない気がするな」


 目的地に到着した一行はハロウィンらしくねり歩きつつも食べ歩きをしたり各所で写真を撮ったりした。

 そんな中でついに恐れていたことが起きてしまった。


「君達、少しいいか?」


 とスキンヘッドの強面警官が話しかけた。そしてその目は獰猛に一人一人を見てから唯で止まった。そのまま彼が唯に近付くと、唯は特に臆する事もなくにこやかに立っていた。


「派手すぎねぇか? こんな格好じゃ変な輩が寄ってくるぞ。それに一番後ろの子はなんか怪しいな」

「わ……たし……キョンシー……」

「いや、悪霊だろ」

「お巡りさん。お気遣いありがとうございます。ですが、ここにはみんながいますし、彼が守ってくれるので平気です」

「彼ね……」


 警官が静也を見ると、少しの間を置いて口角を上げた。


「そうかい。なら気を付けて楽しむんだな。何かあったら叫べ。すぐに警察が行くからよ。それじゃあな」


 そうして警官が去って行くと、彼はどこかに連絡を入れている様子だった。


「怖かったですぅ。目が獣みたいだったですぅ」

「大丈夫よ。悪い人じゃないみたいだから。それに、何かあったら静也くんや狩人くんが守ってくれるからね」

「僕よりも姉ヶ崎の方が強いだろう」

「でもお姉さんは女の子よ? 男の子に守ってほしいな。ね? 静也くん」

「ま、まぁ。そういうことは無いと願いたいがな」


 一行が再び歩き出すと、今度はなにやら怪しいというか、高校生の制服を着た変な男がやってきて悟利が話しかけられた。


「ねぇ、君、すごく可愛いね。名前はなんていうのかな? 僕は二条(にじょう)遊楽(ゆうが)っていうんだ。良かったら飴食べる?」

「唯()ぇ……この人も怖いですぅ。犯罪者の目をしてるですぅ……」

「あらあら、これからお姉さん達は行くところがあるの。だからごめんなさいね」

「おばさんは黙ってて」

「……ん? なぁに?」


 その声に唯が珍しく顔に影を落とし、悟利の目線に合わせてしゃがんている彼を見下ろした。

 だがそんな視線に気づかない二条は怯える悟利にさらにぐいぐいと接近していくと、にこやかな笑顔を向けた。


「もし僕と一緒にきてくれたら、なんでも買ってあげるよ。美味しいもの全部。だから一緒に行こう?」

「唯姉ぇ……」

「あぁ、本当に可愛いなぁ君は」

「あの、すいませんが、俺達の連れに手を出すのは止めてもらえますか? 警察を呼びますよ?」

「静也兄ぃ……」


 とそれを見かねた静也が二人の間に割って入った。すると、彼が怪訝な顔をするもまもなくして


「二条! 急に走り出したと思ったら一般人に何してんのよ。全部見てたわよ!? あんたって男は幼女なら誰でもいいのか!?」

「一条ちゃん! そんなことはないさ。一条ちゃんが一番さ。でも僕は世界中の幼女を悪から守るという使命を背負っているんだ。だからこの子も魔の手から守ろうとしてたんだ」

「魔の手はあんたよ! ほら、むこう行くわよ! ごめんなさいね。このロリコンが迷惑をかけて」

「そんな。せめて連絡先だけでも」

「うるさい!」


 そうして彼は次にやってきた幼女によって引きずられるようにして去っていった。


「怖かったですぅ…… 渋谷は怖い街ですぅ」

「もう大丈夫よ。静也くんもありがとうね」

「いやいいんだ。ん? 月乃、どうした?」


 月乃は彼らが去っていった方をじっと見ていた。


「ううん。なんかさっきの警察といい変な人達といい、普通の人じゃない感じがしたんだよね。なんかこう、実はめちゃくちゃ強いみたいなそんな」

「そうか? でもGreedとかそういうんじゃないだろ?」

「それはそうだけど、まぁいっか。続きを楽しもう? 悟利、愛枷。向こうに黒ゴマプリンアイスがあるよ」

「食べるです! 愛枷姉ぇも行くです!」

「きゅ……急に走らないで………キョンシーは…走れない……」


 愛枷はどうやらキョンシーをとても気に入っているようだ。


「おいしいです!」

「うん…いい味……」


 その黒ゴマプリンアイスを買えた二人はとても嬉しそうである。

 すると月乃が何かを発見した。


「あ、あれ美味しそう」

「月乃、前髪が長いんだから急に走ったら危ないぞ」

「大丈夫だよ。すぐ近くだか―」


 と言っている側から誰かにぶつかってしまった。


「あ、ごめんなさい」


 そのぶつかられた人は鎌を持っていて、全身黒のマントに覆われた女の子でいかにもな死神の格好をしていた。そしてその隣にはミイラ男の格好をしている男がいた。


「大丈夫?」

「うん。ちゃんと前を見ていなかったから。あなたも大丈夫?」

「平気よ」


 月乃が何を思ったのかじっとその女の子を見て口元をほころばせた。


「死神……のコスプレと、ミイラ男。こっちにはいないなぁ」

「月乃! 先に行ったら危ないだろ?」

「ごめんね。でも死神とミイラ男に会ったよ」


 すると少し遅れて静也が追い付いた。

 それから後ろから全員が到着すると月乃がその中に戻った。


「それじゃあね。死神とミイラ男さん」 


 そうして月乃が手を振るとみんなと去って行った。

 ふとそこで振り返った静也は、ミイラ男の方がなんだか焦っているような顔をしているのが目に入った。だが、それに関して深く考える前に月乃に手を引かれてさらに遠ざかっていった。


 夕方に近付くにつれて街にはさらに色んな人が増えていった。


「なぁ月乃。こんな中でもGreedになりそうな人とかっているのか?」

「うーん。なんかいないんだよね。さっき見かけたんだけど、その人は警察に捕まってたし。あとはなんか色んなアニメのコスプレをした覆面っぽい人が何人かいるっぽくて、その人達が街を守っているみたい。だからみんなGreedになる前の()の状態で確保されているんだよね」

「そうか。それならいいんだが。あと、さっきの死神の人なんだけど、やけにじっと見てたよな。何か気になることでもあったのか」

「あぁ、それね」


 するとその話題が気になるのか、他の人達も耳を傾け始めた。


「多分普通の人間じゃない気がするんだよね。変な人から感じたあれとは別で、この世のものじゃないようなそんなね」

「まさか幽霊か何かってことか? そんな非科学的な」


 狩人が全く信じていないような雰囲気を出す。

 しかし唯と能徒は逆に神妙な顔つきとなった。


「科学も非科学も、結局は信じるか信じないかはあなた次第ってこともあるよ? でね、そもそもハロウィンっていうのは一説ではこの世の者じゃない何かが現世にやってきて、人間の仮装に紛れて出没する日っていう都市伝説があるんだよ。それがもし本当なら、あの二人はもしかするとそうなのかもね」

「それも信じるか信じないかはってやつだ。僕は信じないぞ」

「怖いのか?」

「ち、違う。ただそういう事は科学で証明されつつあるんだ。そんなことなどあるはずがない」

「まぁ、そうだね。結局はその人次第だからどうとも言えないよね」

「星見様。私は信じます。宇宙人や未来人、超能力者までいるかもしれない時代です。この世ならざる世界や存在があったとしても不思議ではありません」

「そうだよね。能徒は分かってくれるなぁ」


 さらに歩き続ける一行は、やけに繁盛している店の前で立ち止まった。


「あぁ、ここは激安で有名な店だ。俺達の住んでるところには無いよな。入ってみるか?」

「うん。すごい混んでるけど気になるよ」


 そうして入店した一行はその大混雑具合に絶句してしまった。だが、せっかく来たのだからと見れるものは見て気になるものは手に取った。


「私はこれを買おうかな。能徒がカゴを持ってるからみんなも欲しいのがあったらそこに入れてね」

「はいです」


 それからその安さに驚き、色々な物が次々とカゴに入っていった。

 それを見かねた静也が能徒からカゴを取った。


「持つよ」

「いえ、無波様のお手を煩わせるわけには」

「でも重そうだから。なら能徒は俺が取ってほしいものを取ってくれ」

「…はい。そういうことでしたら。ありがとうございます」


 そういうことで一通りカゴに物が入ると、満足した一行はレジに並んだ。大混雑の店内ゆえにその列も長蛇である。

 すると悟利が少し先にいるロリコンの男と、彼と一緒にいた幼女を発見して唯の後ろに隠れた。また、月乃はあの死神の女の子とミイラ男を発見して少し見ていた。

 

 そんな時だった。

 店内に男の怒号が響いた。彼はなにやら待つことに対して大層ご立腹の様子で周囲に当たり散らしていた。


「あれは俺達がどうにかしなくていいのか? Greedになったら面倒そうだぞ?」

「いいんだよ。ほら、もう向かっている人がいるよ。さっきのスキンヘッドの警官だね」


 その通りかのスキンヘッドの強面の警官がすぐにその男に迫って少し話をすると、一瞬にして手錠をかけた。それから引きずるようにして店外に連れ出していったのだ。


「あの人、凄いな」

「正義感に満ちた人だよね。適正があればウチに欲しいくらいだよ」

「でもいかにもなおじさんだったぞ」

「そこは残念だね。でも生徒会の顧問とかでもいいかもしれないね」


 それからほどなくして一行の番になった。


「月乃姉ぇ。これもです!」


 悟利がずっと持っていた棒付きのぺろぺろキャンディを月乃に渡すと、それは店員の彼の手に渡った。それからその頭を撫でた唯は彼の視線を感じた。


「あら? もしかしてお姉さんに興味があるの?」


 そんな事を言われた彼の目はなんだかとろんとして、ぼぅ…と唯の瞳を見ていた。


「唯。店員さんを困らせちゃ駄目だよ」

「ふふ。冗談よ。お兄さん。お会計、お願いね」

「いえその……すいません。会計しますね」


 唯が目を閉じて笑顔になると、途端に彼は我に返ったようで会計を進めた。

 それを終えて一行が立ち去る時、最後尾の愛枷が少しだけ立ち止まって会釈をした。

 買ったものを袋に詰めている時、月乃がまた何かを発見した。


「あ、静也。あれ。勇者と魔法使いエルフがいるよ。あと、裁判ゲームの人も」

「クオリティ的に異議は無いな」

「どうしてもっと早くに気が付かなかったんだろうね」

「上手いこと言ったつもりだな?」


 すると月乃の口元がにっと静かに笑った。


*****


「そろそろ暗くなってきたね」

「そうだな。もう十八時だ。なんか警察の動きも活発化してきた気がするし、見るからに変な人が増えてきたな。そろそろ帰るか?」

「そうだね。悟利も歩き疲れて寝ちゃってるし」


 休み休みで散策していたものの、悟利は疲れて唯におんぶをされて寝ていた。その平和そうな寝顔は今日の満足度を表しているようで一行はなんだかほっこりした気持ちになった。


「それじゃ、今日の課外活動はここまでにして帰るよ。楽しかったね」

「そうねぇ。この時期に渋谷に来たことがなかったから、色々なものが見れて楽しかったわね」

「ふん。たまにはいいだろう」

「素直じゃないな、金錠」

「私も皆様にお供出来て楽しかったです」

「わ……たしも。でも……前髪は……はずかしかった……」

「それは、善処を検討するよ」

「その言葉は直さない時に使うやつだよ」

「ノーコメントで」


 そうして一行は渋谷の街から撤退し行きの時に寄った所で着替えを済ませた。また、その衣装を返すために学校に寄ると既に演劇部は活動を終えており、部室には鍵がかかっていた。


「また明日返そうか。今は生徒会室に置いておこう」


 生徒会室の扉を開けて中に入ると、唯は寝ている悟利をソファに寝かせて隣に座った。そして狩人や愛枷も椅子に座ってくつろぎ始めた。


「お茶でも淹れます」

「うん。ありがとう」


 月乃もその最奥にある生徒会長の椅子に座ると、一息ついた。

 静也はそんな皆の様子を見ると、なんだか今日は疲れたけど楽しかったとしみじみと感じたのだった。

 少しして能徒が全員の前にお茶を用意すると


「それじゃ、次はどこに遊びに行こうか」


 と月乃が言った。


「……すいぱら……たべるで……す……」

「タイミングのいい寝言だな。そうとう気に入ったみたいだな」


 悟利は今もなお気持ちよさそうに唯に膝枕をされて静かに寝息をたてていた。


「また今度行くか」

「そうだね。またみんなで行こうね」


 そうして唯が、愛枷が、能徒が、狩人もみんなが微笑んだのだった。

ハロウィンSSありがとうございました。


実は今回のお話は別世界線とリンクしています。

他ネット小説でもハロウィンSSを公開しているので、そちらも読んでいただくとその仕掛けに気付きます。


詳しくは作者のX(旧Twitter)にて → @khf_t で検索


次回は明日、通常の物語に戻ります。

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