2-33 信頼の証に
「私は皆様が思っている万能メイドなんかではありません。ただの欲祓師のなり損ないなのです」
セブンスターズの万能メイドたる能徒は、夜空に輝く満月を見上げた言った。
その表情はとても物憂げで、底知れない寂しさを孕んでいた。
それからゆっくりと静也に目を向けると
「この度、無波様は他のどなたよりも星見様をご心配なされ、最終的にはご自分の命まで懸けて星見様を助けようとご決断されました。正直私はかなり疑い深い性格なのです。実際のところ、勉強会の時でも無波様を疑っていました。この方は星見様や皆様を裏切らないか、本当にこの方にお任せしてよろしいのかと観察をしていました」
能徒の目は普段通り冷静なものだが、その中にあるのは紛れも無い本心であり、その出で立ちもどこか強張っているというか静也を警戒している様子だった。
だが、それを向けられている静也はまったく構えずに、それこそ月乃を相手にしている時のように隙をだらけである。
「―ですが、それは杞憂だったようです。私は星見様のために尽力される方は知っていますが、このような前代未聞な事態にもかかわらず率先して命を懸けるという方は見たことがありませんでした。なにせ、人はどんなに他人や家族を想っていても結局は自分が一番可愛いものだからです。自分に得が無い限りは安易に命を懸けようとしません」
ですが―と能徒が続ける。
「無波様は嘘偽りなく、ひいては星見様の制止は無駄だと明言したうえでその命を懸けられました。先の戦闘でもそうでした。星見様に危険が迫れば排除欲求を発動させて本気で星見様を守るために敵を排除しようとしていました。ですので、私はもう無波様を完全に信用いたします。だからこそ私のことも知っておいていただけませんか? 私も有事の際にはこの命に代えても星見様をお守りする覚悟を持っています。共通の志を持つお互いの事を知ることでいざという時の連携や言葉を発することが出来ない状況に置かれたとしても、お互いに行動を予測し効率よく星見様や皆様をお守りする最善手をとることが出来るかと思いますので」
「……確かにそうだな。でも本当にいいのか? 俺の事を完全に信用しちまって。それこそ、いざという時にわが身可愛さに裏切るかもしれないぞ?」
「それは無いと思います。もしもそうなった場合は私が必ず無波様を殺し、皆様にご迷惑をおかけした責任として自らの首を地面に切り落として死んでみせましょう。無波様はここまで聞いて、元よりされないかと確信していますが、私が私を殺す未来にならないようにいたしますでしょう?」
「それはそうだな。能徒が死んだら月乃や他の人達が悲しむし、俺も月乃が泣く未来にはしたくないしな」
すると能徒が少しだけ口角を上げて笑った。
「それで、能徒が俺を信用してくれるのは嬉しいけど、能徒自身の事ってなんなんだ?」
「はい。それではお話いたします。欲祓師のなり損ないの私のお話を」
そうして能徒はもう強張ることも警戒する様子もなく静也に語り聞かせた。
自らと星見月乃との過去と、月乃に心酔するわけを。
その瞳が一度過去に向けられた時、やはり再び寂しさや悲しさがそこに宿った。




