2-30 暗躍と対抗手段
「才木くんのお父さんが死んだよ」
その一言で全員の意識が月乃に集中した。
才木秀生。
かの戦いで自己顕示の欲を暴発させてGreedと認定後、セブンスターズにより始末された男子生徒である。
才木の死体は件の千取が奪取し、それについて今の今まで音沙汰がなく一切の情報が出てきていなかった。
そんな彼の父が亡くなったのだ。
「どうして急に。俺達の親と同じくらいの年齢なら、まさか老衰ではないだろう?」
「うん。一応ニュースでは事故死ってことになってるの。でもね、死ぬ前に出たニュースによってマスコミが今ある人に疑惑の目を向けてるんだよ」
一同が能徒によって見せられたiPadの画面に注目すると、そこに表示された記事を確認した。
「株式会社AGVテクノロジーがSKインターナショナル株式会社をM&Aに向けて協議中?」
「うん。実はこのSKインターナショナルって才木くんのお父さんの会社なんだよね。で、AGVテクノロジーっていうのは、千取が社長を務める会社なの。才木くんの父はこの王手IT企業、千取の会社は生体科学会社。最近は特にAIだなんだって言われている時代だし、それにそれを人体に適用させる技術も一部では始まっているの。だから千取はその技術や規模の拡大を目的にM&A、吸収合併しようとしたんだろうね」
そこから考え出されることを狩人が言う。
「まさか、才木の父は事故死ではなく、千取に殺されたのか?」
「それを疑ってマスコミが千取に取材をしているんだけど、当の本人は関与していない、偶然だって言っているみたい。現に証拠も何も出てきていないみたいだからね」
「まぁマスコミが疑うのは最もだろう。協議中?ということは、生前の才木の方は合意していなかった可能性が高いわけだしな。で、この社長を失ったSKの方はどうなるんだ?」
「おそらくこのままAGVの方に吸収される流れになると思うよ。噂だと社長以外の役職者は現状の待遇よりも好条件を提示されて合併には賛成していたらしいし」
静也はふとあの時の千取の言葉を思い出した。
―物事には順序というものがあります。才木家を消すのにはまだ早いのです。
「奴は、才木家は政財界や多くの大物とコネがあるって言ってた。あの時既にあれもこれも全てを手に入れる筋書きを立てていたに違いない。だから千取は消すのにはまだ早いって言ったんだ。その準備が整ったから実行に移した。俺達セブンスターズを才木家に突入させないようにしたのはこの為だったんだ。いや、まてよ。まさか―」
静也はさらに思考を巡らせると、その先に考えられる動きや千取の動きを予測した。
「仮に才木の父を殺したのが千取だとしよう。それで何もかも全て奴の筋書き通りだとすれば―」
「うん。そうだよ。千取は確実に残りの水晶髑髏を集める気だよ」
政財界、それに関与した大物とのコネ。そしてITと生体科学。そこから導き出されるAIによる予想。
千取にはクリスタルスカルの情報を集めるために必要なピースが着々と揃ってきていることになるのだ。
「どうする。月乃。俺達学生にはそんなコネも情報戦略も無いぞ」
「そうだね。でも大丈夫だよ。だって私達には狩人がいるんだから」
その言葉に虚を突かれた静也。だがそれは彼だけでなく全員がそうだったようで、まるで嘘だろと言っているかのような目で狩人を見た。
「待て。金錠はただのヘタレボッチの強がり野郎だ。何かあるとは思えない」
「極めて失礼な事を言ってくれるな、無波。それでは聞くが、先日どうして一介の学生である僕がヘッジス・スカルが盗まれたなんていう国家機密レベルの情報を検索出来たのだと思う? それに、スカルによる怪奇現象や超常現象は普通であればオカルトだといって相手にされない、もしくは政府が隠蔽すべき事案だ。それらをなぜこの僕が検索出来たのだと思う?」
「それは……」
「僕はこれでもそこそこ有名な貿易会社の経営と、詳しくは言えないが必要に応じて世界有数の著名人達を顧客に持つ株トレーダーもやっているのだ。その見返りに彼らから情報詮索の権限を貰っている。だから世界の裏側で起きていることだろうが僕にかかれば造作も無く調べることが出来るんだ」
本当か? という目で一同の目が万能メイドたる能徒に向けられた。
「はい。本当です。こう見えて金錠様は幼き頃よりそういった才覚に恵まれ、高校入学前に仰っていた会社を設立し株トレードに関しても独学で修められました。確かに学校の勉学が出来ませんが、こう見えて類まれな才能の持ち主なのです。ちなみに、我が生徒会で使う費用に関しても有事の際は金錠様に融通いただいています。やはりこう見えてセブンスターズにとって非常にお役に立つお方なのです」
「こう見えてってのは余計だ。三回も言うな」
「いや、十分にこう見えてだろ。確かに能徒が言うなら納得だが……でもなぁ、その実態がヘタレボッチなんだよなぁ」
「だから、僕はボッチじゃないと言っているだろう。なぜなら、僕にはみんながー」
そこで狩人の言葉が止まった。
「みんなが?」
「いや、そんなことはどうでもいい。千取がいかに情報を手に入れようと布陣を固めようが、僕には僕にしか分からないことがある。それに、こちらにも手が無いわけではない。だよな? 星見」
「まぁ、そうだね。でもかなり手間がかかるけど」
「なんだそれは」
すると、月乃は自分の頭に指を置く。狩人もまたパソコンを取り出すとその画面に日本各地の地図を映し出した。
「共鳴現象を利用する」
「共鳴?」
「そうだ。ヘッジス・スカルがモノとして納められていた時には各地で怪奇現象が発生した。それは十中八九それによる干渉があったからだ。ヘッジス・スカルでそうなるということは、もしかすると他のスカルでも同様に微弱でも干渉が起きているのかもしれない。そこにヘッジス・スカルを持って行き星見に判定してもらう。同じオーパーツであれば何かしらの共鳴により星見が察知するかもしれない」
「狩人くん。でもそれは難しいんじゃないかな? だってそのためには月乃ちゃんを全国各地に連れて行くってことでしょ? 狩人くんがいくら社長でお金があったとしても時間がかかりすぎるし、月乃ちゃんの体力がもたないよ?」
「それは……そうだな……」
雄弁に語っていた狩人の言葉が止まった。
「机上の空論か。やっぱり金錠はこう見えての残念ボッチなんだな」
「う、うるさい。何かもっと効率的な方法があるはずだ。今はそれが思い浮かんでいないだけなんだ」
「…この……際……千取を……消す……それが…早い……」
「万事解決の方法ではあるが、今の僕らでは奴には勝てないから無理だ」
ふと静也が月乃を見ると、なんだかしょんぼりしている様子になっていた。
その様子は静也が机上の空論と言う前、それこそ唯が懸念点を言った時からだった。
「月乃。もしかして、金錠の金で全国旅行に行けるって思ってたのか?」
「……そんなこと、ないもん」
少し頬が膨れていた。
どうやら本当に思っていたようだ。
さてどうするか。
狩人によって方法の糸口は示されたものの、それをする為の効率的な手段が見当たらなくなってしまった。
全員が一様に頭を捻っていると
「おかわりです!」
と話を聞きながらもひたすらに食べ続けている悟利が元気に言った。
「しんみりと考えていても仕方ないです。とりあえずは甘いものでも食べて頭を柔らかくするです!」
その無邪気な笑みがこの手詰まりの重い空気感に浸透すると、
「それじゃ、私は栗羊羹にしようかな」
と月乃が注文しようとオーダー用のiPadを操作し始めた。
それに続くようにして
「お姉さんは、練乳チョコバナナパフェね」
「わ……わたし……は……黒ゴマロールケーキ……」
唯と愛枷がそれぞれで注文枠に追加していった。
「なら、俺は白桃のパイ包み」
「あら静也くん。ももが好きなの? それともパイかな?」
「まぁ、両方好きだけど」
「そうなのぉ……へぇ……」
唯の瞳がまた少しピンク色に光った。だが静也はそれを見なかったことにした。
「能徒も何か食べようぜ。ずっと世話をしてばかりで疲れただろ?」
「いえ、私は皆様の給仕をするのが務めですので」
「能徒も食べるです! わちからの命令なのです!」
口元に生クリームを付けた悟利が子供のように言うと、能徒は一度周りを見渡してから
「……では、私はプリンを」
と注文枠に追加した。
「金錠はどうするんだ?」
「そうだな。確かに甘いものでも食べて頭を働かせるか」
そう言って生クリームが乗ったコーヒーゼリーを注文枠に追加した。
「それじゃ揃ったね。注文っと。あれ?」
月乃が注文をタップしても反応しなかった。
「あ、申し訳ございません。一旦解除いたします」
「結界を張っててくれたのね。流石は能徒」
一連の話をし始める前、能徒は盗聴防止策としてこの席の周りに結界を張っていた。
そして結界が解除された時、注文の送信が完了された。
「わち、よく分からないですけど、これってすごいです。ピピって操作して押したら届くですもん。魔法みたいです」
「悟利ちゃん。これはね、電波を出しててむこうに受け取る機械があるのよ」
「そうなんですね。LINEみたいです」
「LINEとかメッセージ系のものは少し違う。店みたいに近距離での通信じゃないからな。それこそ遠い相手には各地の基地局を介してだな―……」
悟利の素朴な疑問を答える唯に補足をするように答えている狩人の言葉が止まった。
「これだ! この手があった!」
と途端に狩人が立ち上がって声をあげた。
「狩人。静かにね。で、何か思いついたの?」
「あぁ、これならいけるかもしれない。いや、いけるに違いない。どうしてこの僕が気付かなかったんだ……」
「こう見えてだからじゃないのか?」
月乃に冷静にたしなめられ、静也に馬鹿にされた狩人はその思いついた事を話し始めた。




