2-29 甘味のさきの味は
「次です! もっと食べるです!」
次の日、予定していた通りセブンスターズ一行はスイパラに来ていた。
通された一角の席はどの席よりも皿が多く、他のどの客よりも高く積み上がっていた。
「昨日もあれだけ食べたのに、よくそんなに食べられるな」
「甘いものは別腹です! おいしいです!」
と両手にフォークとナイフを持ってご満悦な様子の悟利。
「小牧様。追加のケーキです。あと牛乳です」
「ありがとうです! 能徒もたくさん食べるです! 無くなっちゃうです」
能徒は今日もみんなのメイドとして給仕をしていた。
そんな彼女の手には店員から受け取ったケーキが二つあった。しかもそれらはカットされたものではなく、丸いホールケーキだった。
爆食している悟利とは対照的に、他の面々は各々が思うがままにスイーツを堪能していた。
「月乃。悟利があんなに食べてるけど、お金は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。だってここは二時間食べ放題だから」
月乃はそう言いながら和菓子を食べていた。
しかもそのチョイスが最中と羊羹なので、元々の地味さ加減に拍車がかかっている。
「俺らが大丈夫でも、店員の人は大丈夫ではなさそうだぞ。あの人なんて半分泣いてるし」
「まぁ、そもそも食べ放題って絶対に元が取れないようになっているから、悟利みたいな食欲の権化が来た時の事を考えていなかったみたいだね。今日は運が悪かったんだよ」
さらに積み上がっていく皿を横目に梅昆布茶を啜っている。
静也は他の人にも目を向ける。
唯はブルーベリーソースのチーズケーキを食べながらコーヒーを嗜んでいた。
「お姉さんが気になるのかなぁ? 静也くん」
「いやべつに。なんかお嬢様みたいだなと」
「そう? そんなにお姉さんが綺麗に見えたのねぇ」
今日も静也の隣に座っていた唯がそのまま肩に頭を乗せると、もたれかかるようにして急接近した。
ふわりと香る上品な甘い香りが静也の鼻腔をくすぐった。
「お姉さんね、この前のことまだ少し引きずってるの。だって狩人くんと同じで最初の方にやられちゃったじゃない? 油断さえしていなかったらお姉さんも本当はけっこう強いのよ? ねぇどう思う?」
「どう思うって言われても、それはもう月乃が仕方ないことって言ってなかったっけ?」
「あれは狩人くんに言ったのよ。お姉さんは、何も言われてないよ? だから、傷心中のお姉さんを慰めてほしいな」
それから前にもしていたように静也の手に自分の細い指をゆっくりと絡ませながら這わせていき、そのまま手を通り過ぎると脚の方へすぅ…と下っていった。
そして心なしか唯の目はピンク色に発光を始めていた。
「唯。唯もあの時の事はもういいから。それと、静也は駄目だよ?」
唯とは静也を挟んで隣にいる月乃がそう言うと、途端に唯の瞳の発光が止んで手が引っ込められた。
「月乃ちゃんに言われちゃったら、お姉さんでも納得せざるをえないわねぇ。でも、静也くん」
そして唯は静也の肩から頭を離す直前に
「興味があったら、いつでもいいよ」
と耳元で色っぽく囁いたのだった。
今回はそんな一部始終を悟利は見ていなかった。だが、狩人はそれを一瞬だけ見るとため息をついた。
「なんだ金錠。何か思う事でもあるのか?」
「いや何も。姉ヶ崎も懲りないなと思ってな」
「もう。そう言ってる狩人くんは、実は静也くんが羨ましかったりして?」
「そんなことはない。組織内で恋愛事になれば後々面倒な事になるからな」
「ボッチの極み。いや、僻みか?」
「う、うるさい」
そうして狩人はスパゲティを口に運んだ。
「スイパラでスパゲティって。前のファミレスでも思ったが、甘い物は嫌いなのか?」
「いや、そういうわけではない。ただ単に食べたかっただけだ」
静也はそのままの流れで狩人の隣に座っている愛枷に目を向けた。
相変わらずの長髪をテーブルに垂らして黒ゴマプリンを食べていた。
なんかその黒ゴマプリンの色、本格的にあの映画の井戸みたいな色をしてるぞ。
と静也は思ったけれど何も言わない。
だが、時折その長い髪がプリンと一緒に口に入ってしまっているのが気になった。
「能徒」
「はい、無波様」
呼ばれた能徒が静也から頼み事を受けると、承知しましたと言った。
それから間もなくしてそれは実行された。
「深見様。失礼します」
「な……なにを……して……あ…あ……」
そうして見る見るうちに愛枷の超ロングの黒髪が後ろで一つに結わえられていく。
わずか数分後には端正に整えられたポニーテールが完成した。
「うん。これなら邪魔にならないだろ?」
愛枷が下を向いて食べかけのプリンを見た時、確かにさっきまであった髪がテーブルに垂れることはなくなっていた。
「静也…くん…… 私を……気に…かけて……くれた……」
「まぁ食べにくそうだったからな」
静也は愛枷の顔を今になってはっきりと見た。
月乃に劣らず白く張りのはる肌感に、意外と小さな唇。そして何よりも瞳がとても綺麗だった。同じく普段から目が隠れてしまっている月乃の瞳は黒く円らで愛嬌のある可愛いさがある。しかし愛枷の場合は、そこに理知的さを含み、それでいて吸い込まれそうなほどに深い蒼色をしていた。
ただ唯一、ハイライトだけは無かった。しかしそのマット感もまたクールな印象を放出していた。
そんな瞳が一瞬だけ静也を見た。しかしすぐに下に逸らされた。
「顔を…見られるの……はずかしい……」
すると愛枷はせめて前髪だけでもと元に戻した。
顔全体を隠す程に長い前髪。その奥ではもしかしたら恥ずかしがっているのかもしれない。
静也はそう思うと、悪戯心にその前髪をめくってみたくなるのだった。
「駄目だよ?」
「どうした? 月乃」
「なんでも。ただ、静也が愛枷に何かよからぬ事を考えてる気がしてね」
どうやら見透かされていた様子。
静也はそれをうまく躱すと、注文していた苺のショートケーキが到着したのでそれにありついた。
その時、能徒のスマホがバイブした。
「……星見様。こちらを」
「ん?」
能徒がなんだか神妙な顔つきで月乃にその画面を見せた。
「あー、なるほどね。そういうことだったんだね。それなら納得だね」
「どうしたんだ?」
「何かあったですか? 月乃姉ぇも食べるですか?」
「いや、えっとね……」
その神妙な様子に全員の視線が集中した。
すると、月乃がその口を開いた。
「才木くんのお父さんが死んだよ」




