2-27 主の帰還
後日、月乃が静也の家に迎えに行くと、静也は既に登校の準備を終えていてすぐに出発出来る状態だった。
「今日は早いね。何かあったの?」
「もしも月乃が迎えに来なかったら俺から行くつもりだったんだよ」
「流石に昨日の約束を破ったりしないよ」
静也の目には月乃がいつもよりも綺麗に見えた。
黒く長い前髪はいつも通りであるものの、その髪の艶というか漂う雰囲気はまるで清楚美人のようだった。
また、肌艶も良く、美白のそれは硬派な印象を与える黒髪の存在も相まって、そのコントラストを際立たせつつも肌の柔らかそうな弾力を感じさせるには十分だった。
「なんかいつもと違うな。まさか地味な月乃が化粧を?」
「化粧はしてないよ? 昨日あれからお風呂に入ってご飯を食べて寝ただけだよ」
両目が隠れた顔が傾げられ、頭の上にハテナマークが浮かんでいるようだった。
「月乃は元の素材がいいもんな」
「素材とか言わない」
「それじゃ、少し早いけど学校に行くか」
「そうだね」
ということで二人が揃って玄関を出ようとした時、ふと静也の鼻腔を桃のような甘い香りがくすぐった。
「今、におい嗅いだでしょ?」
「香ってきたんだ。なんかいい匂いだな。まさか地味な月乃が香水を?」
「香水なんて付けないよ。これでも生徒会長だし。というか、私の匂いばかり嗅いで、静也はいつからそんな変態になったの?」
どうやら月乃は昨日の事をまだ気にしているようだ。
「今も昨日も不可抗力だ。でも、どっちもいい匂いだったぞ」
「本当に変態になっちゃった、ううん、なり果てたんだね。でも他の人達にはしちゃ駄目だよ? 本当に通報されるから」
「通報って…… でも月乃にならしてもいいのか?」
「それも駄目。私が通報するから」
と言っている月乃は特にむっとしている様子ではなく、どこか楽しそうな雰囲気を醸し出していた。
***
二人が登校すると、時間が早かったこともあって真っ先に生徒会室を訪れた。
すると
「星見様……」
室内を掃除している能徒がいた。
万能メイドたる彼女は月乃がいつ戻ってきてもいいように生徒会長の机や椅子を綺麗にしていたのだ。
そして主である月乃の存在を発見したことで普段はなかなか崩さない表情に歓喜が宿り、そのまま月乃に抱き付いていた。
「お戻りをお待ちしていました……」
「一週間来なかっただけなのに大袈裟だね」
月乃もまた自分よりも背が高い能徒を抱きしめると、そのまま背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「あらぁ。月乃ちゃん戻ってきてくれたのね」
「なんです? 月乃姉ぇが戻ってきてくれたですか?」
唯に悟利にと、次々と生徒会の面々が姿を見せてその帰還を喜んだ。
「月乃……ちゃん……おかえり……」
いつも間にか生徒会室の隅にいた愛枷もまた、その超長髪の黒髪をゆらゆらと揺らして月乃に近寄った。
「みんな、ごめんね。ただいま」
そう言った月乃は申し訳なさはもちろんあったものの、それ以上にとても嬉しそうだった。
「お前も入ってきたらどうだ? 金錠」
静也は生徒会室の外に向けて言った。
まだ顔を見せていない、いや、この雰囲気の中で入りにくくなってしまったのであろう金錠狩人がその影にいた。
「ふん。僕は生徒会室がやけに騒がしいと思って通りがかっただけだ。別に入りたかったわけじゃない」
「そう言いながらもしっかりと入って来てるじゃねぇか」
「う、うるさい。ただその…あれだ。あの時僕は真っ先にやられてしまったから一言言おうと思ったんだ」
狩人が月乃を見ると、一瞬安心した顔を見せた。だが次の瞬間には恥ずかしそうにして出て行こうと踵を返す。しかし
「狩人」
と月乃が止めた。
「狩人も心配してくれていたんだよね。あの静也が狩人の名前を出したからきっとその印象が強くあったんだと思うの。あの時の事は仕方のない事だったんだよ。だから気にすることはないよ。ありがとうね」
「……ふん。まぁでも、これでまたみんなで生徒会活動が出来るな。それじゃな。僕は教室に行く。放課後また来る」
そうして狩人は振り返らずに教室へ向かっていった。
「本当素直じゃねぇんだよな」
「でもそこが狩人らしさでもあるんだよ」
その時ホームルーム開始の予鈴が鳴った。
「それじゃ、また後でね」
****
放課後、再度集まった生徒会。
まずは月乃がこの一週間の不在について謝罪した。
だがもちろん、そんな事を咎める人は誰一人としていなかった。
それから本題を話す前に
「能徒。年の為に結界をお願いね」
「はい。星見様」
能徒によって生徒会室に結界が張られた。
「これで外に情報が洩れることはないね。それじゃ―」
それから月乃が千取の事、そして自身の頭に埋め込まれているヘッジス・スカルの事、さらには陰陽院の最上位組織であるところのアウルの楽園について話した。
「なるほどね。そんなものが入っていて痛くないの?」
「うん。むしろ何も感じないよ」
心配する唯。同じく心配しつつも両手に持った菓子パンを食べ続ける悟利。
他の面々も一様に驚いた様子を見せた。
「それで、要は千取が残りの水晶髑髏を手に入れる前に僕らは僕らで出来る限り他のものを集め、戦力を整えなければいけないということだろう?」
「そうだね」
狩人は狩人で何やらノートパソコンの画面と格闘していた。
「お前は何をしてるんだ? エロゲなら家でやれよ」
「なっ! 僕はそんなものはやらない!」
「あらあら、お盛んねぇ」
「ち、違う! これだ」
そう言って狩人が全員に見えるようにノートパソコンの画面を見せた。
「ヘッジス・スカルは確かに存在した」
「さっきからその話をしていただろう」
「う、うるさい。まぁ最後まで聞け。そのヘッジス・スカルはかつてモノとして存在していた時はその場所に怪奇現象やら、おかしな現象をもたらしていたそうだ。それがとある場所に保管されてから現象が治まり、いつのまにかスカルが無くなっていたという。盗まれたんだな。星見の話と総合すると、その盗んだ人は―」
「千取。ということは、その保管されていた場所はアウルの楽園か」
「そうだ。であればアウルの楽園もまた、消えたヘッジス・スカルを探している可能性がある」
その時静也はとある事を予感してしまった。
「月乃が千取からもアウルの楽園からも狙われる……」
「ほぼ間違いないだろう。だが、盗んだ本人が千取ならその事を誰にも言っていないはずだし、真相を知るまではアウルの楽園はスカルの行方を探すもここに攻め込んでこないだろう。それで、どうする? これはいずれはセブンスターズと千取だけの問題ではなくなるだろう。それに、僕達が他のクリスタルスカルを集めている事がバレた場合、奴らはその回収にやって来るかもしれない。それでもやるのか?」
先日の戦闘で圧倒的な実力差を見せつけられた千取という強敵、そして名前しか知らない陰陽院最上位組織のアウルの楽園。
いずれも難敵であることは間違いなかった。
それぞれの表情には困惑の色が浮かんだ。
だが静也だけは違った。
「俺はやる。月乃が窮地なんだ。ヘッジス・スカルが奪われる事は月乃の死を意味する。なら、俺にはやる以外の選択肢は無い」
「静也……」
「月乃。こればかりは止めても駄目だ。いくら月乃が止めろと言っても絶対にやるからな」
それに―と静也は考えていたとある事を語った。
それは全員の目を見開くものとなった。




