2-24 起こりうる未来
「千取は必ず殺すよ」
月乃は抑揚の無い声で言った。
セブンスターズは月乃によって集められた精鋭達だった。そしてそれはいつか千取を殺すために存在し、その目的を静也は今初めて知ったのだった。
「仮にアウルの楽園が千取に乗っ取られたとして、それは俺達に何か影響はあるのか?」
「あるよ。アウルの楽園は実質何をしているのか分からない組織だけど、陰陽院がかなり大きな組織だからその最上位の実態はとても大きいに違いないの。それこそ、陰陽院は世界中に存在していて支部なんてものもあるんだよ。つまりね、その上位組織を手に入れるってことは、世界各地の陰陽院を支配下におくってことなの」
「陰陽院は活動として、発生したGreedを討伐しているわけだろ? なら一見して問題無さそうに思えるんだが」
月乃は首を横に振る。
「人間の欲望ってね、簡単に操る事が出来るの。簡単な例でいえば、空腹の人の前に美味しそうなものを持っていったら食べたいって思うよね? むしゃくしゃした事があれば好きなことでもして発散したいって思うよね? どうしても嫌な人がいてその人に心身共に追い詰められていたら、その人を殺したいって思うよね? つまりね、そういう人のところにそういう機会をもたらしたり、心を刺激するものを出す事でその人の欲望を増幅させて行動に移させることだって出来てしまうんだよ。逆もそう。欲が高まったところで何か鎮静化させるもの出して落ち着かせる事も出来るの」
つまりね、と月乃が続ける。
「人間ってのはね、欲望に弱い生き物なの。陰陽院はその中で欲望を暴走させた状態の人、Gleedだね、それを排除する組織。もしも陰陽院が正常に機能しなくなったら? 欲望を増幅するものや機会を人工的に大量生産出来たら? ね? 恐ろしいでしょ?」
「確かに」
人々の欲望の暴走。
数えきれない人が欲に支配され行動に移せば、そこには大量のGleedが発生する。だがそれを殲滅する陰陽院は千取によって機能せず、当然警察やそれに準ずる公的機関は彼らを抑え込むことは出来ない。
同じく、そこに所属しているセブンスターズのような欲祓師はその膨大な量のGleedを前にいずれ疲弊し、数の暴力に圧殺されるだろう。
そうなってしまえば日本は、いや、世界は破滅の一途を辿るのだ。
「千取はアウルの楽園を手に入れることによって人間達の欲望を支配し完全管理、もしくはある特定の人物が邪魔になった場合は欲望を増幅させてわざとGleed化させて始末するかもしれない。そんな私益で完全管理される世の中が訪れてしまう危険性があるの。それか、完全管理の前に一度世界を滅ぼして再構築するのかもしれないよ」
「それを月乃は止めたいと?」
「うん。あの時は結局私を楽園に引き入れなかったけど、もしも本気で私を引き入れに来た場合は次は実力行使になると思うの。なんなら私だけじゃなくセブンスターズのみんなも吸収されちゃうよ。そうしたらみんなも千取の悪行に手を染めることになるのは明白だよ」
幼い頃の月乃はアウルの楽園に勧誘されつつも、当時は引き入れられなかった。
だがそれから千取の下で強くなったということで今がある。もしもこの先セブンスターズが千取の手に落ちた場合は他のみんなもその教育を受ける可能性は十分にある。
であれば、セブンスターズのメンバーが確実に強くなる。だがその強さはアウルの楽園の奪取と世界の完全管理、及び破壊と再構築に利用されるに違いないのだ。
「よくないね」
静也ははっきりと言った。
「セブンスターズは月乃が集めたメンバーだ。それを機が熟したら吸収なんて非道のやることだ」
「でも、そう思っていてもこの前の一件で今の私達がたとえ全員でかかったとしても勝てるかどうか分からないの。ううん、勝てない可能性の方が高い。私はそれでずっと―」
そこで月乃は口を閉じた。
きっとこの一週間は千取との実力差を思い知って悩んでいたに違いなかった。
「静也がセブンスターズに入ってくれて本当に良かった。これで千取にも勝てるって思っていたのに、これじゃまだ勝てない。誰かの実力が千取に匹敵するくらいになっても、他のみんながそれについてこれていなければ千取は必ずそこを突いてくる。だから全員が強くなければ勝てないの。一番の最善手は私が単身で会って勝てればみんなに迷惑をかけずに済むんだけど、あのブラックホールが効かなかったからそれも無理そう。あの時は本気で力を込めたんだけどなぁ……」
月乃はまた少しうつむいてしまった。
「なぁ月乃。千取は今すぐに殺さなきゃいけない人なのか?」
「今はまだそんなことはないよ。昔、まだ私が千取の下にいた時に聞いたことがあって、アウルの楽園を完全に支配するためには十三個の……えっと、何かが必要みたい。千取はそれを集めているの」
「その何かって?」
「それが思い出せないんだよね。何かすごいものだったってのは知ってるんだけど、とにかくまだそれを集めきっていないんだよね」
「なんでそう言いきれるんだ?」
すると月乃が静也をじっと見た。
「だって、私が最後の鍵だからだよ」




