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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第2話 みんなの居場所

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2-23 千取と月乃

千取(せんじゅ)は悪人だよ」


 そう言った月乃(つきの)はゆっくりと頭を上げた。

 それから殺意のこもった声で続ける。


「私は、千取を絶対に許さない」


 月乃は怒気すらも孕んだその声音に相応しくない椎茸の帽子を取って床に置くと、その瞳は紅色に発光し始めていた。

 黒く長い前髪の奥から覗く二つの双眸は、ゆっくりと静也(せいや)の方に向けられる。


「このお話、どうしても聞きたい……?」


 静也はまるで心臓を掴まれたような重圧を感じると、いつの間にか呼吸が浅くなっていた。

 それでも、あの時の月乃の様子とましてや今こうして幼馴染みにまで狂気的な眼光を向けている故に、ただ事では無いと思った静也は


「当然だ。俺はそのために来たんだ。聞くまでは帰らないぞ」


 とその深淵を覗く決意をすると、その禍々しい瞳をまっすぐと見つめた。


「……分かった。なら、教えてあげる。私と千取の出会いと決意を」


 月乃は紅色の瞳を閉じると、次に開かれた時には既に元の黒い瞳に戻っていた。

 その時、窓から入ってきていた風が止んだ。

 そして月乃は語ることを拒んでいたその唇を動かした。


「私の両親はもういないの。私が小さかった頃に二人ともGreedになっちゃって、私が二人を始末したの。それでその時それを見ていた千取が私を、()()()()()()に招待したの」

「アウルの楽園?」

「うん。みんながいるセブンスターズ、表向きは星条院高校の生徒会だけどこれは元々私が創った組織で、これは上位組織の陰陽院に属してるのね。で、アウルの楽園は陰陽院のさらに深部。言うなら最上位組織なの」

「そんなところから幼い月乃が招待されたのはすごい事なんじゃないか?」


 しかしその言葉に月乃は首を横に振った。


「最上位組織って言葉だけ聞けば確かにそうだけど、実際は何をしているのか一切明かされていない謎の組織なんだよ。それでそこから千取が来た。それまでは一度も会ったことがなかったのに、突然私の前に現れたの。怖いと思わない?」

「確かに。で、その誘いには……いや、こうして今もここにいるんだからのってないよな」

「うん。断ったよ。でも千取はどうしても私を引き入れたかったみたいで、自分に一回でも触れたら引き下がるって言ってきたの。で、必死に触ろうとしたけど出来なかったの。それで千取はただ避けていればいいのに、私が何かをする度に暴力を奮ってきてね、死なない程度に痛めつけてからもう一度楽園に誘ってきたの」


 静也はその言葉に反応するかのように体の奥からドクリと排除の欲求が沸き上がっていくのを感じた。そして気が付くとその瞳は赤く開眼していた。


「今更欲を昂らせても仕方ないよ。それでね、まだ私が断るものだからこんな事を言ってきたの。『幼馴染みの無波(ななみ)静也君。あの子は将来的に生かしてはおけませんねぇ』って。もちろん静也のことなんて当時の千取が知っているはずがないんだよ。でも容易く人を殺しそうな目がはったりで言っているなんて思えなくて、この人はなんとしても静也に近づけてはいけないって思って殺す気でかかったよ。でも…やっぱり勝てなかった」

「それで、なし崩し的に楽園を受け入れるしかなかったのか?」

「そうなんだけど、千取は何を思ったか私を楽園に入れるのをやめる代わりに二つ条件を出してきたの。一つは、星条院高校で自分達の最強の組織を作ること。それともう一つは私が千取の下で強くなること。もしそれが出来なければ本当に静也を殺して私をすぐに楽園に幽閉するってね」

「幽閉? 誘っていたのに今度は幽閉かよ。どうしてそんなことを」

「それが分からないんだよ。でも後々知ったことだけど、千取も千取でアウルの楽園に完全な忠誠を誓っていないみたいで、むしろ反逆心をもっていていつかは楽園の全てを手に入れるなんて言っていたの」

「であれば、千取の目的は月乃を使ってアウルの楽園を攻め落とすってことか?」


 多分、でも正確には分からないと首を横に振った。


「千取は今でも静也を狙っている。もちろん私も。もしかしたらセブンスターズも狙っているのかもしれない。それで、手に入れた人達と一緒に本当にアウルの楽園を乗っ取ろうとしているのかもしれないの。そうしたらせっかく私が集めたみんなが悪人になっちゃう。それだけは絶対に許されないの。だからそうなる前に、私は千取を殺そうと決意したんだよ」


 その時静也の脳裏には以前に能徒(のと)から聞いた、()()()()()()()()()()という言葉が過った。


「まさか月乃は、出された条件を飲んだふりをしてセブンスターズとして最強のメンバーを揃えてみんなで千取を殺そうと考えているのか?」


 それに対して月乃は、少しの間を空けてから


「そうだよ」


 と言った。

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