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それから午後の授業も何事も無く終わり、セイヤはツキノと一緒に帰路についていた。
「今日返ってきた確認テストどうだった?」
「あぁあれか。69点。平均点だな」
「やっぱり。本当は満点出せるのに、あえて平均点を出すなんて凄いのか凄くないのか」
「まぁいいんだよ。俺は普通で平均の男だから。波風立てず、可もなく不可も無く。これが俺のポリシーだよ」
「でも私の事になるとすぐに頭に血がのぼるよね」
「それは別」
事実、セイヤは中学生以来ずっとこうだ。
テストをやれば全教科平均点で順位も真ん中。運動やその他全てにおいて人並の結果。
優劣に関わるものは何においても全て意図的に平均点を出しているのだ。
それは全国模試や高校受験においても例外ではない。
「たまには1位を獲ってもいいんじゃない?」
「いや、俺はいいや。何かと面倒だし、俺にとって1位は不名誉な称号だし」
「理由、私にも教えてくれないよね? 昔に何かあったの?」
「…なんでもないよ。でもやらなきゃいけない時はしっかりやる。やらなくてもいい時は人並で。それで十分だから」
セイヤは遠い目をしていた。
まるで辛い過去を見ているかのような、そんな悲しい目だ。
もう少し歩くと分かれ道が現れる。
一方はセイヤの家、もう一方はツキノの家の方に伸びている。
「それじゃ、今日はありがとうね。怒ってくれて」
「ツキノの為なら当然だ。あの場でどうにかしても良かったんだけど、生徒会が来ちまったから何も出来なかったけどな」
「どうもしなくていいって。でもどうして私にはそこまでしてくれるの? 他の人に何かあっても何もしないのに」
「そりゃツキノは俺がこっちに越してくる時に一緒に来てくれたからな。高校進学で地元を出るのは少し寂しかったんだ。他の人とはわけが違う」
セイヤとツキノは中学生までは地方にいた。
当時セイヤは都内の星条院高校に推薦入学が決まり、ツキノは心配だからと別で推薦を取っていた私立高校を辞退して同じ高校に進むことを決めたのだ。
だから今は二人とも親元を離れて一人暮らしである。
それでいて、今日みたいにツキノは毎朝セイヤの家に迎えに行き、登下校を一緒にする。
付き合っているわけではないが、それが入学以降ずっと続いている。
「そっか。目が無いのに私の事はよく見てくれているんだね」
「目は細いだけだ。ツキノも目が無いのに俺の事をよく見ているだろ」
「それは私がしっかり見ていないと、セイヤは何をしでかすか分からないし」
「俺は子供じゃねぇ」
日が大分陰り、街灯も点き始める。
「そろそろ帰るか。それじゃまた明日な」
「うん。そう言えばここ最近変な事件が起きてるみたいだから気を付けてね」
「変な事件?」
「通り魔っていうのかな。人気の無い所で人が殺されているんだって。しかも活発気質の学生ばかりを狙ってるって」
「活発か。なら俺は当てはまらないな。普通の人だし。でもツキノは生徒会長だから活発に見えて狙われるかもな」
「怖いよ?」
「冗談。ツキノみたいな地味で普通の子は誰も狙わないって」
「それも酷いよ」
「はは。でも大丈夫。大声を出してくれたら俺がすぐに駆けつけてやるからさ」
「ありがとう。それじゃまたね」
それから二人は手を振りお互いの家に帰宅した。
「通り魔…か………」
セイヤは帰宅後そう呟く。
その声は真っ暗な空間の中に消えていくが、セイヤの心には残り続ける。
「―…ッ。またか…」
セイヤは時々変な動悸を起こすことがある。
そしてその鼓動は心臓に留まらず、次第に全身へと広がっていき、最終的には全ての細胞が脈動しているような感覚に陥る。
医者に行ったりもしたが、健康状態に問題は見られず成長期特有のものとして結論付けられた。
そしてこの状態になってしまった後に訪れるのは、とある衝動と何人かの人の顔。
「大川と……堀……か」
今回は昼間にツキノにちょっかいを出したあの二人の顔が浮かんだ。
衝動とは言っても自我を保てなくなる程ではない。
だがそれでも何かしたい。そんな獣のような衝動が心に生まれるのだ。
「ツキノ。俺は通り魔に殺されない。殺される事はありえないんだ。俺もツキノも。絶対にな」
太陽が完全に沈み、月明かりが差し込む部屋でセイヤは大きく目を開いた。
赤き瞳が闇の中で妖しく発光する。
まもなくして全身黒の服に着替えを済ませると、身支度を整えて静かに家を出た。




