2-22 語りたくない真実
「月乃!」
静也は真っ暗な部屋の中で横たわる人影に駆け寄った。
それが少しだけ動いたのを確認すると、すぐさまカーテンを開けて室内に陽光を入れた。
瞬時に明るくなったためその差に静也の目が慣れるまで少しの時間を要した。
やっと慣れてきた時、静也はその手に抱きかかえているのが月乃であることを確認して安堵した。
そして彼女はゆっくりと顔を傾けていき、長い前髪の奥の瞳を静也に向けると
「……おなか……すいた……」
と唇を動かした。
再び安堵した静也が一度月乃を寝かせると
「待ってろよ。すぐに何かを持ってきてやるからな」
と言って階段を降り、戸棚や冷蔵庫を開けて食べ物を探しまわった。
そして発見したのは冷凍ごはんと卵だった。
すぐさまレンジで解凍し、簡単な玉子かゆを作って月乃の部屋に持っていった。
あれから動いた様子のない月乃。
静也はそんな彼女の近くにあったテーブルにおかゆを置くと、一口すくって口に運んでやった。
「おいしい……」
すると、月乃はむくっと起き上がってテーブルの上のおかゆを見た。
「ほら。たくさん食べろ。一人で食べられるか?」
「うん。平気」
静也がテーブルを寄せ、窓を開けて換気をしていると月乃はもくもくと食べ始めた。
***
「おいしかった」
綺麗に平らげた月乃は心なしかさっきよりも血色が良くなっていた。
それからそのまま何も言わずにうつむいていたので、静也が問いかけた。
「それで、どうして何も食べなかったんだ?」
まずは学校に来なかったことや連絡が途絶えた事ではなく、答えやすそうなところから聞いてみることにした。
「なんか、面倒くさくて」
「猫は? さっき缶詰あげたけど、かなり腹を空かせてたみたいだったぞ」
「それは……起き上がるのも面倒くさくて」
「そのパジャマは?」
月乃はただでさえ地味なのにも関わらず、着ているそのパジャマも地味なものだった。
「しいたけ。しいたけってなんか可愛いよね」
山吹色の生地に小さな椎茸の絵がランダムに散りばめられていた。しかも上下。
さらにクッションかと思っていた茶色の丸いものを持ってくると、それを頭に被った。
「帽子もあるよ」
その茶色の帽子は頭頂部に十字の模様が入っており、それはまるで鍋とかに入っている椎茸の笠のようだった。
「静也。今日はありがとうね。またね」
「いや、ちょっと待て。俺は帰らないぞ。まだ聞きたい事を聞いてない」
?と椎茸笠を被ったまま首を傾げる月乃。
地味ではあるがなんだか独特な愛らしさを放つその雰囲気に構わず静也が問いかけた。
「どうして学校に来なかったんだ? みんな心配してたぞ」
「それは……ちょっと考え事をしてて」
「才木のことか?」
「うーん……」
「千取か?」
その時月乃の雰囲気が変わった。
どこか重く威圧的、というよりもそれには触れるなと言っているかのような無言の圧を放っていた。
しかし静也は踏み込む。
「唯から少し聞いたぞ。千取は月乃の師匠なんだってな。いや、師匠というよりかは陰陽院に引き入れた人だったんだろ?」
「……」
「それから強くなったんだろ? 俺にはその時何があったかは知らないが、月乃は今もその強さで―」
「この力は千取のお陰じゃない」
その言葉はぴしゃりと遮られた。
「この力は私が自分で手に入れたもの。千取は関係ない」
「ならあいつは月乃に何をしたんだ?」
「千取は……」
それから月乃は俯いてしまった。
その椎茸の帽子で顔全体を隠すようにして。
「なぁ月乃。俺の欲は知ってるだろ? あの時月乃の言葉に背いて俺達の手柄を奪っていったあいつを俺はまだ許してないんだ。排除してやりたい。月乃だってそうだろ? でもあのブラックホールが効かなかった奴だ。相当な手練れで間違いない。それに、月乃はブラックホールを躊躇なく出しただろ? あいつはそれほどまでに消したい男だったんじゃないのか?」
「……」
月乃は答えない。
だが静也もまたその場から動こうとせずにただ月乃の言葉を待った。
「…………千取は悪人だよ」
月乃はむくりと帽子を被った頭を上げ、それでもまだ静也と目を合わせずにボソッと言った。
声は小さかったものの、その声音には月乃の本心がこもっていた。
「私は、千取を絶対に許さない」




