2-21 家の中の違和感
「月乃。いるんだろ?」
静也はこの日、一週間学校に来なかった月乃の家に来ていた。
無論、生徒会の面々も同行を名乗り出たのだが、静也が『二人で話す』と言って断った。
だから月乃の家の前にいるのは静也だけである。
「月乃!」
インターホンを鳴らしても反応が無かったのでそのまま呼びかけているわけだが、窓のカーテンには人影はおろか揺れる気配すらも無かった。
ということで静也は一か八かで家の扉に手をかけて引いてみた。
すると開いた。
「不用心すぎるぞ。ここは田舎じゃないんだから」
そうして静也は家の中に入った。もちろん扉にはちゃんと鍵をかけて。
淀んだ空気と、真っ暗でしんと静まり返った室内がそこにはあった。
現時刻は昼の十二時。
素直に月乃が出てきてくれたらそのまま昼食に引っ張り出そうとしていたのである。
「ここか?」
静也が一階にある扉に手をかけて開けようとしたが、それは開かなかった。
だがその隙間からは風が出てきており、その先があることだけは分かった。そしてその扉に耳を当てた時、そこはひんやりとして気のせいか奥から声のような音が聞こえたのだった。
まさかここにはいないだろうとその扉をスルーすると、それからくまなく一階を探した。
しかし他に鍵のかかった部屋は無く、どの部屋にも誰もいなかった。
「にゃ~…」
静也はそんな鳴き声と何かをひっかいている音が聞こえたのでその場所に向かうと、そこはキッチンだった。
電気を点けて見渡すと、その一カ所の扉を猫がひっかいていたのだ。
静也がその猫に近寄ると、猫は初めは警戒していたものの少ししてその足にすり寄った。
「にゃ~……」
その鳴き声とその視線はさっきの扉に向けられてから静也に向けられた。
気になった静也がその扉を開けてみると、中からはチャットフードの缶詰が出てきた。
「腹が減っているのか?」
「にゃ~………」
猫がその内の一つを手で突いたので、静也はそれを適当な皿にあけて床に置いてやった。
それはみるみるうちに少なくなっていき、まもなくして無くなってしまった。
猫は皿を手で突いておかわりをねだった。
「月乃、飯をあげてなかったのか?」
台所のゴミ箱が目に入ったのでその中を見ると、中にはいくつかの空のキャットフード缶が洗われた状態で捨ててあった。
しかしその数は不自然なほどに少なかった。
ビンと缶のゴミの日は週に一回。それは明日なので、つまりここには先週の分も混ざっているということになる。
「缶が乾いている。これはしばらく飯をあげてないな」
皿を押して静也の足元まで持っていった猫。
静也はもう一つ缶詰を皿にあけてやった。
それもたちまち無くなっていき、猫は最後に一度鳴くとどこかに行ってしまった。
「にゃ~」
静也が皿を洗い終えると、また猫の鳴き声が耳に入った。
なんだろうとそこへ向かうと、猫は階段の前にいて静也の姿を見るやいなや上って行ってしまった。
「一階は探し終えたし、二階に行ってみるか」
と階段に足をかけた時、気のせいかさっき開けようとして開かなかった例の扉から物音が鳴ったので振り返って目を向けた。だがやはり気のせいだろうと、静也はそのまま暗い階段を上って行った。
「にゃ~…」
静也はそのまま二階を捜索していると、一つの扉をひっかいている猫を発見した。
そして猫は静也を見ると、再び鳴いた。
「ここに月乃がいるのか?」
扉の隙間から光が漏れ出していないことから、中は暗くカーテンすらも開けられていないということが予想出来た。
「月乃?」
呼びかけるも返事は無かった。
そして静也を見上げる猫の目には心配の色が浮かんでいた。
「お前も心配なんだな」
「…にゃ~」
静也がドアノブに手をかけた。
そこは鍵がかかっておらず、回すと玄関の時のようにすんなりと奥へ開いた。
中は真っ暗で静也には何も見えなかった。
猫が先に中に入るとカーテンに飛びついて揺らした。すると一瞬だけ室内に光が入り、それは僅かに人影を照らした。
それは床に横たわっていた。
「月乃!」
静也はその場所に駆け寄った。




