2-20 消えた少女
才木秀生の件の次の日。月乃は学校を休んだ。
静也のLINEには『今日、休む』とだけメッセージがあり、彼は昼休みにそれを生徒会室に集まっていた面々に伝えた。
「月乃姉ぇ、心配ですぅ……」
悟利が菓子パンを食べながら言う。
その心配の様子は他の人達にも表れており、一様にしてどこか落ち着きがなかった。
「どうせ風邪だろう。明日か明後日には来るだろう」
狩人もまた心配しているようだが、それを表に出さないようにしていた。
「随分と素直じゃない事を言うな、金錠。本当は心配なんだろ? 真っ先に気絶したから早く謝りたいんだろ? いいんだぜ? そう強がらなくて」
「なっ! 僕は強がってなどいない。まぁ確かに、早々に離脱してしまったのは情けないと思っている。だが、聞くところによれば奴は自己顕示の欲と自らへの暗示で強くなっていたそうじゃないか。何も情報が無いのに勝てるか」
狩人はそう弁明しつつも、やはりセブンスターズの一員として申し訳なさそうだった。
「ごめんなさい。静也くん。お姉さんが不甲斐ないばかりに」
同じくして早々に気絶してしまった唯が頭を下げた。
「いや、あれは才木の力が未知数だったからで、月乃も早めに処理すれば良かったなんて言ってたし、唯が悪いわけじゃないよ」
「貴様! 僕とは態度が全く違うじゃないか!」
「俺に女子をおちょくる趣味は無いんでね。やっても月乃に地味だとか、目が無いとか言うくらいだ」
狩人と言い合いをしている静也はふと周りを見た。
やはり静也が一人こうして気丈に狩人をおちょくっていても他の人達の表情は晴れなかった。
悟利はチョコスティックの菓子パンを暗い顔でもそもそと食べ、能徒はそんな悟利に牛乳を用意しつつも、普段月乃が座っている会長席に度々目を向けていた。
「……わたし……が……もっと……強け……れば………千取を……ヤれた……わたしは……弱い…」
と愛枷に至っては、ずっと机に突っ伏してそんなことをぼそぼそと呟いていた。
長い黒髪が机上に広がり、尚且つその後ろ髪は制服すらも隠すほどに背中に乗っていたため遠目からでは黒い何かが机にかじりついているように見えてしまう。
「ところで、千取って何者なんだ? 月乃の師匠だとか言ってたけど」
静也のその問いに一同は一瞬その答えを渋った。
だが唯が口を開いた。
「千取さんは確かに月乃ちゃんの師匠よ。でも実際はそう呼んでいいのかは微妙ね。静也くんは昔から月乃ちゃんと一緒にいるって聞いてるけど、月乃ちゃんの過去について何か聞いたりしたことはない?」
「いや、何も。俺は聞こうとしないし、月乃も自分から話そうとしなかったな」
「そう…… でも私から詳しく言っていいかは分からないから、これだけ。月乃ちゃんのご両親は昔Gleedになって、その殲滅を月乃ちゃん本人がやったの。まだ陰陽院に入っていなかった頃ね。それで、それを知った陰陽院の千取が月乃ちゃんをスカウトして、断った月乃ちゃんと闘って勝利の末に無理矢理引き入れたの。それから何があったかは知らないけど、月乃ちゃんは千取の英才教育を受けさせられて今の強さを手に入れたのよ」
幼馴染みである静也でも知らない事を唯は少し辛そうに語った。
「そうか。でもその『何があったか』ってところに千取と月乃の確執がありそうだな。他には何か知らないのか?」
と静也が問うと、唯は首を横に振った。
そのまま静也は他の面々に目を向けるが、誰もそれに答えることはなかった。
「分かった。正直あの千取を前にした月乃はおかしかったし、Greedでもない人に躊躇なくブラックホールを使ったのはいつもの月乃なら絶対にしないことだったから、あれは完全にどうかしてた」
「そう思ったところでどうする気だ? まさか千取とやりあうつもりじゃないだろうな?」
狩人が真剣な声音で言った。
「まさか。セブンスターズの誰よりも強い月乃の技が効かなかったんだ。俺に勝ち目なんてないよ」
「だろうな。実際のところ千取の真の実力は定かじゃないが、無波が入る前に星見がぼやいていたことがある。セブンスターズの全員でかかっても勝てるかどうかってな。だからお前の入会は大きな戦力として当時の星見は喜んでいた。だが今のこの有様だ。昨日のことで星見は、このセブンスターズでも勝ち目はないって思ったんだろうな」
いつもの静也ならここで言い返しの一つでも入れていたところだが、あまりにも真剣に言うその様子に何も言うことが出来なかった。
「月乃は今いったい何を考えているのだろう」
静也は掴むことの出来ない問の答えを胸に月乃の席に目を向けた。
「……星見様は何度か私に、『最強を倒す最強は何か』と問われました。無論私には分かりかねましたので答えることは出来ませんでしたが、きっと星見様はいつか千取を討ち取ろうとしているのではないでしょうか」
「仮にそれが本当だったとして、その理由は?」
「それは……分かりません。私の勝手な予想です」
生徒会の万能メイドであり、月乃の傍によくいる能徒でもその答えは分からないようだった。
「……なら、俺が月乃に会って聞いてくる」
「いくら無波様でもそれは無理があるのでは……」
「そうです。今はそっとしておいた方がいいと思うです」
能徒と悟利が止めるも、静也はそんな幼馴染みをこのまま放っておくことは出来なかった。
だが
「静也…くん。月乃ちゃんは……きっと心を…整理……しようとしてる…… だから…もう少しだけ……待って……あげて……」
と愛枷が言った。
いつもなら対象を抹殺するために即行動をするそんな彼女が静也を止めたのだ。
しかもその長い前髪の奥には、自分も待つという決意が宿っていた。
「……分かった。それなら来週まで待ってみよう。それでも学校に来なければ俺が月乃に会いに行ってくる。それでいいな?」
その言葉に全員が頷いた。
***
それから1日、2日と経っていき、ついに7日が経過した。
結局月乃が学校に来ることはなかった。
さらには静也へのLINEすらも無くなって完全に音信不通となった。




