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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第2話 みんなの居場所

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2-18 月乃の異変

「ここには才木(さいき)くんの死体があるじゃん」


 月乃(つきの)が不敵に笑うと、物言わぬ屍となった才木を指さして言った。

 口調こそいつも通りの大人しい調子ではあるものの、その佇まいには何かえも言えぬ狂気が宿っているようだった。


「その死体を、どうするんだ?」


 静也(せいや)が少し躊躇いがちに問いかけた。


「だからね、才木くんを利用するんだよ。だってさ、才木家って()()()()に強い執着があるんだよ? ならさ、そのエリート家系の一員が、傍から見れば普通の私達にやられちゃったんだよ? それに、その真相が本人の欲の暴走で、それを止めるために私達が一役買ったなんて向こうが知ったら、誇りの高い一族ならどうにかして周りに広めないようにするはずじゃない?」

「それよりもまずは家族がやられたことに対して怒ると思うけど?」

「それは無いんじゃないかな」


 即答する月乃。


「どうして?」

「だって才木くんの話を聞くに、そのお父さんから見たら子なんて一族を総じてエリートにするための駒なんだよ。なら家族よりも社会的な評価を大事にすると思うんだよね」


 才木秀生は才木家のエリートという評判を守る為の駒にすぎなかった。


 死ぬ間際に言っていた「宿命」と「認めてもらいたかった」という言葉。

 それはまさしく一族が社会的立場を守るための宿()()と、()()()()()()()()()()という純粋な思いがぶつかり、そんな大人の、一族の歯車を知ってか知らずか乗せられていた才木の悲しき運命の象徴だった。


「才木家は自分達の失態を絶対に世に出そうとしない。これは断言してもいいね。そこで問題。そんな一族の汚点ともいえる事を知ってしまっている人が七人もいるわけだけど、さて、才木家当主はバラされる心配もなく今後も平和に過ごすためにはどうするでしょう?」


 突然始まったクイズ。だがこれが示す答えはきっと穏便なものではない。

 静也と愛枷(まなか)、そして近くで聞いていた能徒(のと)が感付く。しかし悟利(さとり)だけはそんな事を思いつくわけもなく


「お話合いです。人は話し合えば必ず分かり合えるのです」


 と平和そのものの答えを発言した。


「そうだね。みんながそうだったら私達みたいな欲祓師(よくふつし)なんかいらないのにね」


 少し悲しそうに言った月乃は次の瞬間には冷たい雰囲気を纏って口を開いた。


「社会的立場の失墜、一族の誇りを損なわせる可能性のある人達には、早くに消えてもらった方が安心だよね」

「……たしかに。なんて……業の…深い……」


 月乃以上に長い前髪で顔全体を隠している愛枷も悲しそうに言った。


「才木家の当主は王手企業の社長だっていう調べはもうついてるの。権力があってお金もある。高校生を七人くらい行方不明か転校ということにして処分するのは難しくないよ。―つまりね、私達はそんな向こうの感情を逆撫でするようにして才木くんの話をするの。で、襲ってきたらそこからはもう正当防衛的に返り討ちにしておしまい。これなら自然的に済むと思うの」


 才木家当主が死んだとして、残る兄は弟の時と同様に一族の汚点を隠すために奔走し、もしかしたら同じように襲ってくるかもしれない。しかしそれも返り討ちにしてしまえばいい。

 さらに、当主に逆らえない才木の母もまた一族の威厳を下げないように何かをしてくるかもしれない。もちろんそれも返り討ちにすればいいだけのこと。

 

 月乃はそんな事を続けざまに流暢に言った。


「才木家は誇りと社会的名誉の維持によって欲が高まりつつある。近い未来でGreedになりそうな人達には早めに退場してもらおう。善は急げ。ということだから、これから才木くんの死体を持ってのりこむよ」


 やはり今の月乃は様子が変だった。

 一見すれば普段と同じだが、会話の内容からしていつもの地味で大人しいという印象からはかけ離れた好戦的な印象を与えていた。


「つ―」

「それは止してもらえますかな」


 せっせと準備を進めている月乃に静也が何かを言いかけた途端、とある声が応接室の入り口から全員の耳に入った。

 一同が目を向けた時、そこにはまるで枝のように細い体躯に白髪混じりの中年の男が立っていた。


「どうしてここに……」


 彼を前に月乃は困惑した。

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