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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第2話 みんなの居場所

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2-12 最強と言うエリート

 禍々しい瘴気を身に纏った才木がセブンスターズの眼前に悠然と立つ。

 その顔にはさっきまでの苦悶の色は一切無く、自分の存在の大きさを示すかのような威勢に満ちていた。


「だからすぐに排除すべきだったんだ」


 と静也(せいや)が苦言を漏らす。


「そうは言ってもね、これでも私は優しいんだよ? Greed(グリード)になるまでその人を救えないかなとか、事と次第によっては慈悲をかけてもいいかなとか考えてるんだよ?」

月乃(つきの)()ぇの最終審判です。毎回こうなのですっ」


 悟利(さとり)はいつもの事のように言った。

 だが、それでも静也は納得がいっていない様子だ。


「まぁ、()()()救いは無かったわけだ。こうなった以上は結末は明白だ。こいつの命を取る。それが僕達の役目だ」


 狩人(かぶと)は既にその瞳を碧色に染めていた。

 その言葉に呼応するように他の面々の瞳にも多種多様な色が宿り、この結界の中の空気に圧が加わった。


「戯言は済んだか?」

「テメェが排除されるまでの時間を延ばしてやったんだ。感謝の一つや二つしたらどうだ?」


 挑発するように言った才木に対して、相変わらずの荒々しい調子で言い返す静也。

 その赤い瞳が才木を捕らえて離さず、才木もまた濁った瞳で静也を見ている。

 

「感謝、ねぇ……」


 才木が白い歯を怪しく見せた次の瞬間、その姿が消え、再び姿を現したところは月乃の目の前だった。

 そしてそのまま予備動作も無く醜悪な拳が月乃の華奢な体に迫った。

 それでも月乃は一切表情を変えずに普段の物静かな様子で佇んでいた。あまりに突然の出来事で動けなかったからではなく、その目が既にある光景をとらえていたからだった。


「だからよォ、俺の前で月乃に手を出せると思うんじゃねぇよ」


 鋭い眼光を発した静也がもうその背後に立っていたのだ。

 直後、月乃に迫っていた拳を腕ごと掴み、引きはがすようにして勢いよく後方へ引いた。それにより拳が月乃の体に触れることはなく、才木はその勢いのままに結界の端まで吹き飛んだ。

 だがー


「あのスピードについてこれたなんて、やっぱり君は目障りだ」


 才木は飛ばされた地面に正確に足裏を付いて着地をすると、そのまま膝を折ってバネのように収縮させた。まもなくしてその膝の力が解放されると、一瞬にして静也のところに戻ってきた。

 そこからは拳や蹴り等の無数の連撃が静也を襲った。


「くっ……」

「この反撃は予想外だったようだな」


 静也は最初こそ巧に防いでは反撃を入れていたが、徐々に速さを増す猛攻により次第に防戦一方となってしまった。

 その後も才木の攻撃は止まる事を知らず、豪雨のように全身を襲い続けた。


「仕方のないやつだ」


 そこで狩人が機を狙って応戦した。

 獲得欲求の彼が狙うのは、無数の連撃を放ち続ける才木の四肢関節。

 かつて静也にやった関節を一瞬にして外す技だ。相手がどんなに速かろうが、どんなに剛力だろうが関節さえ外してしまえばそれらは全く意味を成さなくなるのだ。


「欲しい…欲しい欲しい……」


 狩人がその身に欲求を宿し、ついにその手が目標に近づいた。

 もらったー

 そう思った時だった。


金錠(きんじょう)狩人。見えているぞ」


 静也への攻撃で気を取られているはずの才木が狩人に不気味な笑みを見せたのだ。

 それを狩人が見た時には既にその身に反撃の連打が打ち込まれていた。


「ぐっ……」


 狩人は自身の手が届く事も無く、肺の中の空気を全て吐き出してしまった。そしてそのまま結界の端まで飛ばされると、背中から激突して地面に堕ちた。

 才木がほんの一瞬静也から目を離したにも関わらず、静也は反撃を入れることが出来なかった。それほどまでに連撃が激しく、それでいて狩人に向けた反撃が一瞬すぎたのだ。


「つきー」


 静也は月乃を呼ぼうとして口を閉じた。

 あの宣教師を葬った際に見たブラックホールが頭をよぎったが、あの時セブンスターズは月乃を除いて全員が能徒(のと)の結界に守られるようにしてその中にいたのを思い出したのだ。

 その後結界の外にいた宣教師を含む多くの人は、月乃が発生させたそれに飲まれて消え去った。

 

 あの時の様子から察するに、発動するには()()()()()()()()()()()()()()()()()に違いない。

 しかし現状として、標的である才木を含めた全員がその結界の中にいるため、あのブラックホールを使えないのある。


 それに気が付いた静也の表情を読み取った(ゆい)は、その手に己の武器である大きなハンマーを顕現させて向かってきた。

 唯は静也の目を見た。

 静也はそれが何を意味しているのかを察していまだに猛攻を続ける才木へ強引に反撃を試みた。それと共に能徒にもアイコンタクトをすると、彼女は頷いた。


「無駄だ。僕は強い! 僕は最強のエリートだ! 僕に勝てる奴などいないのだ!」


 その攻撃は静也の胴体をとらえ始め、顔面や胸等にダメージを与えていく。

 だがそれでも静也は唯が来るまで反撃の手を緩めなかった。

 そしてついに唯が到着し、豪快にハンマーを才木の脇腹に命中させた。それと同時に静也が後退して才木から距離をとった。


「唯!」

「まかせて!」


 唯はそのままハンマーを振りぬこうと一気に力を込めた。

 これで才木が吹き飛んでくれればその隙に結界を解除し、すぐさま才木以外が中に収まるようにして結界を再構築。そうなれば後は月乃のブラックホールで決着だ。


 どうだ?

 祈るような目で事の行く末を見守る一同。

 しかし才木はまるでそんな思いを嘲笑うかのようにハンマーを受け止め、完全にその勢いを受け止めてみせたのだ。


「そんな……」


 これには普段はおっとりとしている唯の表情すらも曇った。

 まもなくしてそのハンマーは才木によって抱えられ、逆に唯をハンマーごと投げ飛ばした。

 まだ解除されていない結界に激突した唯はそのままへたりこむようにして地面に崩れた。


「だから何度も言わせるな。僕は最強なんだ。最強のエリートなんだ」


 才木はまだまだ余裕と言っているかのように笑っていた。


「月乃。これはどうなってんだ? あいつはいったい……」

「やっぱり静也の言う通りすぐに排除すべきだったよ。あれは、才木くんの欲は自己顕示の欲。自分を良く見せ、同時に自分に強い暗示をかける。最強と言えば本当に最強になれる厄介な欲だよ」


 僅かに揺れた月乃の前髪の奥に見えた瞳には動揺の色がうかがえた。

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