2-9 優等生の仮面
響き続ける才木秀生の嗤い声。
それは中間テストの順位発表の掲示板を見ている他の生徒達や、少し離れたところにいる人達の視線さえも集めた。
「才木……」
「惜しかったなァ! 無波静也! 君は498点。僕は500点! 満点だ! 僕こそが真の最強。いくら君達が努力をしたところで所詮は馬鹿の集まりに過ぎないんだ! さぁ僕にひれ伏せ! 僕を崇めるんだ!」
才木の瞳はもう完全にどす黒く濁りきり、生徒会へ向ける眼にはもはや人間らしさの欠片も無くなっていた。
それはまるで獣のような目。冷たく鋭く、そして己の欲望に支配された獰猛な眼だ。
下された結果を前に皆は落胆し、彼の言葉に反論出来る者はいなかった。
だが、それでも月乃と愛枷は凛として才木を見ていた。
「才木くん。言いたいことはそれだけ?」
「はぁッ!? 負け犬ごときがこの僕に何か文句でもあるのか?」
「……そう。愛枷」
「きひひ…… 才木…… 生徒会は……誰一人…負けることは……ない。きひひひ……」
愛枷が怪しく口角を上げたその時だった。
「才木秀生君。至急職員室に来なさい。繰り返します。才木秀生君。至急職員室に来なさい」
と校内放送が響き渡った。
「それで才木くん。言いたいことはそれだけかな……? 今ならまだ話を聞いてあげるよ?」
月乃は長く漆黒の前髪の間から紅に光る瞳を覗かせて再び問いかけた。
その目と先の放送があってもなお才木の表情は変わらず、月乃の問いを黙殺した。
「才木」
その時、この騒ぎを聞きつけてやってきた数人の教師が才木を発見すると、その肩に手をかけた。
「何です? 僕が何かしましたか? 僕は模範的でエリートの一生徒ですよ?」
「模範だと? 自分が何をやったのか覚えていないのか?」
「さぁ。何を言っているのか分かりませんね」
教師の厳しい顔に対して才木が向けたのは、まるで見下したかような笑みだった。
「とにかく来てもらう。ほら、他の生徒は結果を見たら帰りなさい」
教師がそう言うと野次馬のように集まってきていた生徒達は皆解散し、教室やら昇降口へと向かって行った。
そして才木は彼らに連れて行かれた。
その時でさえも彼の顔には笑みが張り付いていた。
「みんな、私達も行くよ」
「でもそっちは職員室だろ?」
「うん。今回の、ううん。こういう時はセブンスターズが介入出来ることになってるの。特権ってやつだね。それに、私達も無関係ってわけじゃないんだよ」
静也は頭に疑問符を浮かべながら生徒会の面々について行く。
そんな中で彼は、月乃が一瞬自分達の事を生徒会ではなくセブンスターズと呼称していたことが気になっていた。
***
職員室ではなく、その奥にある応接室に到着した。
担任教師、生徒指導の教師、そして校長が革張りの椅子に座り、その対面に才木が座った。
生徒会は壁際で静聴することになり、その顔には真剣みというか神妙さがうかがえる。
「それで何です? そんな大人数でこの僕に何をしようというのです?」
「とぼけるな。これを見ろ」
と生徒指導の教師が目の前のテーブルに置いたのは、才木の解答用紙のコピーだった。
「正直に言え。お前は今回の試験問題を予め知っていたな?」
「知りませんよ。第一、全生徒は当日になるまで知る手段は無いはずです。そもそも僕はエリートで模範生徒ですよ? 普段の行いからして先生方に目を付けられるような人ではないですよね。それは先生方がよく分かっているはずです」
「こんな事が無ければお前は真面目な生徒だ。だが今回は話が違う。いくら普段が模範的でもこれは見過ごせない」
才木は余裕と、全てを見透かした表情をしている。
「そこまで言うのでしたら、何か証拠でも? 各教科に超難問が出題されるのはウチではもはや恒例。それが全て解かれたから気に食わないだけなのでしょう? 解けるはずがないと高をくくり、生徒達を侮っているからこそ満点の僕を疑っているのでしょう? いいですか? もしも確固たる証拠を出せなければ、先生方のやっていることは教師としてあるまじき行為ですよ」
それを聞いた生徒指導の教師が校長を一度見ると、彼は頷く。
そしてなぜか生徒会の、それも月乃を見た。
月乃は僅かに頷くと、彼は懐からあるものを出して才木に見せた。
「これで知らないとは言わせないぞ」
「これは……」
直後、終始余裕の顔だった才木がついにその表情を崩した。




