2-5 決戦前
「お疲れ様でした。ではこのまま採点に入りますので、皆様はしばらくお待ちください。休憩等、ご自由にしていただいて結構ですので」
対中間テストによる模擬テストが終了した。
それから能徒は一旦部屋から出て行った。
「静也兄ぃ。なんかさっきのテスト、よく出来た気がするです! ありがとうです!」
「そうねぇ。お姉さんも、すごい出来たわぁ」
「…私……も……ふひ……」
「ふん。気のせいだと思いたいな」
みんなはどうやら自信があるようだった。
素直な感謝を向けられた静也は嬉しそうにしているものの、少し落ち着かないといった様子である。
さらにしばらくして、能徒が戻ってきた。
「皆様お待たせいたしました。ではお一人ずつ五教科まとめてお返しいたします」
能徒はさながら教師のように一人一人に答案用紙を返却していく。
それぞれは受け取る寸前まで緊張し、全てが終わると全員の顔には安堵の色が現れた。
「おめでとうございます。皆様揃って全教科90点以上でございます。そして無波様。お一人だけ全教科満点でございます。誠に感服致しました」
「静也兄ぃ凄いですぅ!」
「ばっ…馬鹿な。平均しか出せないんじゃなかったのか?」
「出せないんじゃない。出さなかったんだ」
「あらあら。これは本番が楽しみねぇ」
静也はやはり少しだけ心配していた。
もし自分が誰よりも良い結果を出したら、周りはどうなってしまうのか。
月乃に励ましてもらったとはいえ、やはり少しばかりは恐れを抱いてしまっていた。
しかし、今周りにはまるで自分の事のように喜び、賞賛してくれる仲間達がいた。その様子を見て杞憂だったとやっと実感出来た。
「みんな。ありがとう」
「それは私達のセリフだよ。能徒もありがとう。これで本番は十分に戦えるよ」
「私は皆様のお役に立てて光栄でございます」
能徒も月乃も同じくとても嬉しそうである。
「それじゃ、間違えた所を復習するです! より完璧を目指すです!」
今まで見た事が無かった良い結果がとても嬉しかったのか、悟利は一層活気づきそのまま欠点を補いたいと申し出る。
しかし時刻はもうそろそろ夜の9時を過ぎようとしていた。
「小牧様。続きはまた明日に。明日は皆様とご一緒に答え合わせと最後の調整をいたしましょう」
「むぅ。丁度ノってきたところですのに。分かったです。明日を楽しみにするです!」
という事で今日は解散となった。
***
才木秀生は自室で勉強をしていた。
「秀生」
するとそんな呼び声と共に彼の父が入室した。
「勉強は捗っているか?」
「まぁね。これで僕も生徒会に入れるんだ」
「そうか。やっとか」
机から目を離さずに答えた才木。
そんな様子を後ろから見てはその机に近づく父。彼はその出来を確認するかのように息子が書き記していく解答を覗き見る。
「ここ、間違っているぞ」
「あ……」
すると父は才木へ侮蔑の眼差しを向けた。
「秀生。高校程度の問題を間違えるな。お前はこの俺の子なのだ。俺の子であれば生徒会に入り、優秀な成績を修め、主席で卒業していかなければならないのだ。分かっているな?」
「も、もちろんだよ。父さん。これはたまたま間違えただけで、普段はこんなミスはしないんだ」
「どうだかな。見たところ、こっちも間違えているではないか」
「これは……」
すると父が深くため息をついた。
「やはりお前は秀勝とは違うんだな」
秀勝。秀生の兄だ。
兄もかつて星条院高校に在籍していた。そして生徒会長を務め、他を圧倒する成績を修めると主席で卒業していった。
ちなみに今は東京大学医学部に在籍し、そこでも主席の地位をわが物にしている超エリートである。
「そんな事は無い。僕だって兄さんの弟なんだ。エリートの血が入っているはずなんだ」
必死になって弁明する息子を父はまるで期待すらしていないような目で見ている。
「あなた。お電話です」
「分かった。すぐに行く。秀生。もしお前が俺の子でエリートの血が入っているなら、次のテストは全教科満点を獲れるに違いない。不動の学年トップだ。そして生徒会に入り会長になるのだ。分かったな?」
「……うん」
それから父は退室し、まもなくして扉の向こうから話声が聞こえてきた。
「くそっ……」
才木は震える程の力を込めて握った手を机に叩き付けた。
しかし、どんなに悔しくても才木には父を見返せる程の実力は無かった。
兄は日本一の学力を誇る東京大学で主席。父は世界一の学力を誇るハーバート大学を主席で卒業したのちにIT企業を立ち上げ、今では誰もが知る最大手企業の社長だ。
「くそっ……くそっ……僕だって………」
才木は机に置いてある時計に目を向けた。
既に日付が変わり、運命のテストまで残り1日となっていた。
「僕だってエリートなんだ。あんな生徒会になんか負けるはずがないんだ」
父の言葉による悔しさと、なぜ今自分はこんなにも苦しい思いをしているのだろうかという、どこに向けていいか分からない感情がその心の中で渦巻く。
再びペンを取って勉強に励むもそこで才木は気付いてしまった。いや、思い出してしまった。
「満点なんて無理だ……」
星条院高校のテストでは毎回1問だけ超難問が登場する。
一説によれば各担当の教師達が生徒達に満点を獲らせないようにするためのものらしく、その問題を才木は毎回間違えてきたのだ。
試験範囲内の知識を使えばどうにか解けるようにはなっているものの、そもそものテスト自体が難しいのでその難易度は大学受験レベルまで跳ね上がっている。
出来ても1問のみのミス。それが才木の限界だった。
しかし、ここで父の言葉を思い出す。
「満点……主席……」
すると才木はある事を思いついた。
しかし、でもと幾度も考えを改めようとするが、もはや今の才木にはそれ以外に考えられなくなってしまっていた。
そして決断した。
「やるしかない…… 僕はエリートだ。教師達に疑われる事なんて無いだろう。大丈夫だ。僕ならやれる」
才木の目は濁っていた。
まるで成績という重圧に支配された悪鬼のように。




