2-4 静也の見た景色
それからの日々はあっという間だった。
日中は学校で授業を受け、生徒会やセブンスターズの活動があればすぐさま終わらせて放課後は事務所で勉強会。
そんな毎日が過ぎること五日。中間テストを明後日に控えた日となった。
「うーん……分かるようで分からないような……」
「そうねぇ……」
「エネルギー切れですぅ……」
「…限………界……」
各教科を満遍なく勉強していてもやはり個人の得意不得意が大きく影響するため、大詰めになればなるほどその苦悩は増していく。
それを順番で教えていく静也と能徒も自分の勉強もやらなければいけないので大変だ。
ちなみに月乃と唯は理科の化学分野、悟利は数学、狩人は国語の古典分野、愛枷は社会の歴史分野だ。
ただ、全員に共通して伸び悩んでいる教科があった。
英語である。
やはり大多数の人が苦手とする科目なだけあって、いまいちしっくりとこないといった状況だ。
「小牧様はこの公式で考え直してみてください。星見様はこのページを参考に。姉ヶ崎様は化学式を見直して頂ければ解決出来るかと。金錠様は文章をよくお読みください。文系科目はどこかに答えのヒントがある場合が多いです。深見様は語呂合わせでしたり、出来事を物語と思って覚えるとよろしいかと」
「…なんと殺伐……平城京…… 泣かぬなら……泣かせて殺せ……キヒヒヒヒ……」
「そこは範囲ではありません」
そんな中でも能徒は一切疲労の色を見せずに的確にアドバイスをしている。
事実、全員の実力は既に赤点回避を確実なものとしている。
あとはどこまで詰めて伸ばせるかや、才木に勝つためにどれだけ頑張るかである。
「無波様。いかがなされましたか?」
「いや、何も」
静也はひたすらに頑張る仲間達の姿をまるで何か思うところでもあるような目で見ていた。
「静也。ちょっと来て」
そんな時、静也は月乃に呼ばれて廊下に出た。
「どうした? 月乃」
「どうしたもなにも。何か悩んでる?」
「悩んでるというか……」
長い前髪で隠れた月乃の瞳ははっきりと見えないけれど、静也を心配しているようだ。
「前にちゃんとやるかって言った時も何かあるみたいな顔してたよね? もし何か心配な事があるなら話してほしいな」
月乃は責めるでもなく威圧的とかでも決してなく、ただ昔からの幼馴染みとして心配しているといった様子で問いかける。
その様子に静也は少しの間迷っていたが、意を決したようにようやく口を開いた。
「俺がちゃんとやったらみんなはどうなるのかなって」
「?」
「出る杭は打たれるって言葉があるだろ? 覚えてると思うけど、俺は中学二年生までは常に学年トップだったんだ。傍から見ればトップは皆から羨望の眼差しを向けられるはずなんだけど、実際は年々妬みが増していって、次第に自分にとって都合のいい時にしか頼ってこない卑しい人ばかりが俺の周りに集まったんだよ。試しに順位を落としてみたら皆は見限ったかのように急に離れていったよ。俺はそんな汚い人をたくさん見てきたんだ」
静也はあの日を思い返すように窓の外の庭に目を向けた。
そこには蟻にたかられてもがく虫がいた。
「だから波風立てずに、普通で平均的にやっていこうって決めたの?」
「そう。人間は皆一様にどこかしらに醜い部分を持っている。俺はそれが嫌で嫌で仕方ないんだ」
もしかしたら今いる生徒会も、月乃でさえも自分が本来の実力を示したらあの時の人達みたいな醜悪な姿を見せてくるかもしれない。
そんなのはもうまっぴらだ。
静也はそう思うが、口には出さなかった。いや、出せなかった。
なぜなら次に言葉が出そうになった時には既に月乃がそれを否定していたからだ。
「私達生徒会は、セブンスターズはそんな事は絶対にしないよ。だって私達は強い人や優秀な人を常に求めてるから。静也はさっき、出る杭は打たれるって言ったよね? ウチはその逆、出る杭は伸ばせなの。優秀であれば優秀な程いい。能ある鷹は爪隠すなんて言葉もあるけど、能があるなら爪を隠すな、堂々としていなさい。それが私達だよ。みんなそうだよ? だから私達は大丈夫。何も恐れる事はないんだよ?」
静也は地味で大人しい月乃がこんなにも真剣に真っ直ぐとした声で言葉を発したのを初めて聞いた。
それ故に、その言葉は静也の心の芯に深く刺さった。
「そうか。分かった。ありがとうな月乃。そう言ってくれて肩の荷が下りたよ。俺も才木に負けるわけにいかないし、せっかく出来た仲間達の誰か一人が欠けるのだって見たくない。俺も本気を出す事にするよ」
「うん。その意気だよ。みんなで一緒に生徒会を守ろう? それで才木君をぎゃふんと言わせてやろうよ」
前髪が靡いて一瞬だけ見えた月乃の瞳はとても嬉しそうだった。
そしてそれは再び隠れた前髪の奥から静也に期待の眼差しを向けていた。
「当然だ。いつも平均の俺が本気を出したらどうなるか教えてやらないとな。よし、俺も基礎だけじゃなくて確実に点数が取れて理解も出来るとっておきの方法を皆に教えてやるかな」
「そんなのがあるの? なら私の英語と理科をどうにかしてよ」
「もちろんだ。完璧にしてやる」
静也の顔にはもう迷いや憂いは無い。
あるのは今から少し先の未来へ向けた希望と、それに立ち向かう覚悟だった。
「みんな! 静也がとっておきの勉強法を教えてくれるって! これでみんな満点だよ!」
「ま、満点ですとぉ!です」
「あらあら、お姉さんも知りたいわぁ」
「満点……ま…満点満点満点………っ!」
「ふん。僕はいい。どうせろくなものじゃないだろう」
「それじゃ金錠は無しな。今まで楽しかったぜ」
「だから一人だけ負けたみたいにするな。分かった。仕方ないから聞いてやる。とっとと話せ」
戻って来た静也と月乃を囲むようにワイワイと活気付く。
それを見ている能徒もとても楽しそうだ。
「では、ここからは私ではなく無波様に。今日までの分で要注意の箇所と出題の可能性が高い部分は全て終了です。確認としまして、後ほど無波様含め皆様には模擬テストを行って頂きます。明日はテスト前最終日なので、その復習と深い所の対策を行います」
「うん、分かった」
「ちなみにですが、模擬テストの難易度は少し高めに設定してあります。本物の中間テストだと思って取り組んで頂きますようお願いします」
間もなくして静也の教えが始まり、目から鱗といった情報や勉強法、詰め方を教わり、終わった頃にはみんなは自信に満ち溢れた顔になっていた。
「ではよろしいですか?」
「いつでもいいよ」
そして終了後、能徒以外は皆席に着いて模擬テストを始めた。
この部屋にはもうペンを走らせる音しかしない。
全員がこの数日間でやった事を思い出し、模擬とはいえ良い点数が出るように真剣な面持ちで挑んだ。




