2-3 対策開始
「というか思ったんだけど、あの才木を排除しちまった方が早いし平和に終わるんじゃねぇか? 月乃を臆病クソ女呼ばわりしたんだし重罪だろ?」
「同感だな。それが一番効率的だ」
セブンスターズの事務所に到着する。
これから勉強会という時に珍しく静也と狩人の意見が合った。
「こぉらっ。そういうこと言わないのっ」
「そうです! とりあえずご飯を食べて落ち着くです!」
「でもアレはどうするんだ? こっちに来てからずっとあんなんだぞ?」
そう言う静也が指差した先では、自分の武器である大鎌を研いでいる愛枷がいた。
長い髪を下に垂らして研いでいる手元や表情は見えないが、しゅ…っしゅ…っという砥石の音を鳴らしながら不気味に呟いている。
「みんな……守る……私が…守る……他の人……いらない……鬼死死死……」
「愛枷ちゃん。そろそろ勉強するから戻っておいでぇ」
「キシシ……ふひっ……ふひひひ……」
「愛枷。こっちおいで」
唯の呼びかけに少し反応を示したようだがそれでもしゅ…っしゅ…っという音を止めず、月乃が呼んでやっと席に着いた。
静也にとってこの光景は新鮮そのものだった。
今まで勉強をするとしても一人でやるか、いても月乃くらいだったのでここまで大人数でというのは初めてなのである。
「それじゃ、静也始めて」
「分かった。まずは赤点回避からだな」
ということで、即席で用意された円卓に静也と能徒以外が座る中で静也はこれまた間に合わせで用意された、足にコロコロが付いているホワイトボードに書き連ねていく。
今回は初回なので大まかにおさえておきたい範囲と予想される難易度、あとは問題傾向くらいをだ。
それを見ているみんなの様子を時々見ると、各々で分かりやすくメモをしていたり集中を絶やさないようにそれぞれで工夫しているようだった。
「―とまぁ、今回の中間テストだとこれくらいが平均なんじゃないかなと思う」
「ちなみに、無波の言う平均ってのはどれくらい信用出来るんだ?」
素直な疑問をぶつける狩人。
「大体は。そこそこ信用していいと思う」
「それじゃ分からん。それに、ヤマを張って失敗したら取り返しがつかないだろう」
「狩人。それは私が保証するよ。静也は今まで平均とか普通関係の予想を外した事がないからね」
月乃がそう言うと、どこからか静也の勉強ノートと過去のテスト問題を照らし合わせたデータを全員の前に示した。
「あらぁ。見事に全部平均ねぇ」
「す、凄いです。何を食べたらこんな事が出来るですか?」
「……きひひ」
「……ふん。まぁ、信用に値するという事か」
「どうも。テストまで残り1週間だから、最低限これを完璧にしておけば赤点は免れるはずだ。でも、全員が平均じゃ才木には勝てないんだよなぁ」
静也が困ったように言う。
才木の学力の高さは学年の誰もが知っている。
具体的には、五教科全てにおいて常に90点以上をマークし、今までの定期テストでは合計450点を下回った事が無い。
学年順位ではほぼ毎回上位3位以内に入っているというまさに秀才なのだから。
「皆様。その平均をさらに底上げするために私がいます。必ずや皆様に勝利をもたらしてみせましょう」
と能徒が冷静な口調で言う。
「ほほう。なら、才木でも殺ってくれるのか?」
「ご要望とあれば」
「こらこら、それじゃ駄目でしょぉ?」
軽い冗談を言う狩人の額を小突く唯。
「それじゃ能徒。改めて仕事をお願いするね。私達全員の五教科平均点を95点以上にして」
「承知しました。必ずや」
「おいおい。流石にそれは無理だろ。 生徒会で上位全てを獲るレベルじゃないか」
「こうでもしないと勝てないと思うよ? 今回ばかりは向こうも本気でくるだろうし、せっかく集めた仲間を解体されるのは嫌だもん」
「………みんなで……勝つ……誰も…とらせない……ひひひ」
月乃の一声に呼応するように全員の顔には強い意志が宿る。
「……そうだな。月乃が言うならたまには俺もちゃんとやるか」
「え? いつもちゃんとやってなかったの?」
「当たり前だろ? 俺は優劣とか競走が嫌いなんだ。普通が一番。だから平均を取ってたんだ。でも……」
「でも?」
「いや、なんでもない。俺が言うのもあれだけど、絶対に勝とうな」
静也が一瞬だけ見せた影を含んだ表情に月乃は違和感を得た。
しかし今は追究しないでおくことにして口を閉じた。
「それじゃ、能徒。ここからはお願いね」
「承知しました。では―」
能徒は1年生とは思えないくらいに理路整然と話し、尚且つ全員が理解しやすいように説明している。
さらに、その話し方といい教え方といい、全てにおいて個々人を飽きさせることの無い見事なものだった。同時に今後も億劫に思わせないようなスケジュールと、日ごとの明確な目標まで掲げてみせた。
「分かったです。明日からも頑張れそうです!」
「お役に立てて光栄です」
「これじゃ無波の方はいらないんじゃないか?」
「金錠様。お言葉ですが、私の方はあくまで基礎と普通が出来てこそ活きるのです。ですので無波様の基礎に関する教えは必要不可欠なのです」
「そうだよ? 基礎をしっかり固めてこそ応用が強くなるんだよ?」
「まぁ、金錠がそこまでして俺の方はいらないって言うなら応用で盛大にコケるといいさ。お前の事は忘れないぜ」
「負けみたいに言うな。くっ……仕方ない。僕だって生徒会から抜けるのは嫌だからな。今回はお前のも信じてやる」
狩人は眼鏡をくいっと上げると、再び集中モードに入った。
それを見るやいなや、他の全員もその視線を能徒と静也に向けた。
「いかがなされたのです? 本日のカリキュラムは終了となりますが」
「能徒。みんなはまだ頑張りたいみたいだよ? もう少しだけやらない?」
時刻は既に19時を過ぎていた。
最初からとばすと後々息切れして長続きしない可能性がある。
能徒はそう思って今日はきりあげようとしているのだが、目の前の仲間達の嬉々とした視線を前になかなか断りづらくなっていた。
「ならあと1時間だけな。いいだろ? 能徒」
そこで静也が追加の時間を告げてそんな彼女を見た。
「無波様。……まぁそうですね、皆様が望まれるのでしたら私は使命を全うするまでです」
「やった」
「これでまた賢くなれるです! アイムハングリー精神です!」
やれやれといった顔を見せる能徒であったが、どこか嬉しそうな表情も浮かべていた。
それは静也も同じで、その細い糸目の表情もどこか和らぐ。
「それじゃ、基礎からの応用の順でいくからな?」
「はいです!」
「うん。よろしくね」
勉強というのは本来つまらないものである。
でも大勢でやる勉強会がこんなにも楽しいものだったなんて静也は知らなかった。
それもあって静也はもちろん、みんなは時が経つのを忘れてこの時間を楽しんだのだった。




