第2話 みんなの居場所
静也が星条院高校の生徒会に入って一ヶ月が経過した。
今は庶務として生徒会の仕事をする一方で、セブンスターズの構成員として日々Greedと戦う任務を遂行中である。
とはいっても、まだ駆け出しなので誰かのサポートだったり雑用ばかりをしているのである。
それでも要所要所で能力と欲を使い、大きなミスも無いので組織の一員として役に立ってきている。
「みんな。大変な事が起きた」
そんな中、今日も生徒会室に集合した一同が校内の事柄について仕事をしていると、生徒会長の星見月乃がおもむろに口を開いた。
直後全員の動きが止まり、その視線が最奥に座る彼女へと向けられた。
「一体何があったんだ?」
「……中間テストが近い………」
妙に静かな間が生まれ、それを切ったのは副会長の姉ヶ崎唯だった。
「あらあら。もうそんな時期ねぇ」
「なんだ。そんな事か。僕には関係無いね」
「テストォォ! テストォォォ! キィィィィィッッッ!!」
「愛枷姉ぇがご乱心ですぅぅ!」
三者三葉。いや、六者六葉にその反応を示す。
ちなみに静也は無反応で、一つ学年が下の能徒叶はまるで微動だにせず全員にお茶を淹れている。
「静也。緊急のお仕事だよ。中間テストを排除してきて」
「無理に決まってんだろ」
「それなら先生達を一人残らず排除してきて」
「大人しい顔で恐ろしい事を言うな」
「テストォォォテストォォォォ!! ィィィィィッッッ!!」
「まだまだご乱心ですぅぅ!」
どんだけテストが嫌なのだろう。いや、好きな人なんていないか。
生徒会室が次第に混沌に包まれようとしているのに、金錠狩人と唯は冷静だった。
「金錠。お前は平気なのか?」
「ふん。学校のテストなど、この僕にかかれば余裕さ。理数科目だろ?」
「いや、五教科だが」
「なん……だと……?」
「馬鹿だろ」
「馬鹿とはなんだ貴様!」
「あらあら。狩人くんは理数系は出来るけど、文系科目はまるっきり駄目だもんねぇ」
「そういう姉ヶ崎はどうなんだ? まさか余裕だなんて事はないだろうな?」
動揺を隠せない様子の狩人の問に唯は一切崩れない余裕の表情で言う。
「大丈夫。お姉さんはやるときはやるから。だって、保健体育のテストでしょぉ? 余裕よぉ」
「五教科だって。国数理社英だから」
「そん…な……」
静也はこの日このタイミングになって初めて唯の表情が蒼白になったところを見た。
ちなみに星条院高校は毎年難関の国公立大学に進む人が多いため、そのテストは他の高校と違って特殊だ。
高校生の国語といえば、現代文や古典、漢文。数学であれば数IAにIIB、ⅢC。社会は現代社会に日本史と世界史。理科であれば化学と物理、そして生物といったように1科目に対して複数分野がある。
しかしこの高校ではそれら数種類を全てまとめて国語としていたり数学としている。
もちろん理科や社会も同じだ。
つまり、各科目でその包括的な学力が求められるが故に星条院高校のテストは毎回高難易度と言われているのだ。
「貴様。姉ヶ崎には馬鹿だと言わないのか?」
「言ったら色々と問題になりそうだから言わねぇよ。馬鹿は金錠。お前だけだ」
「んだと!」
「みんな落ち着くです! 大丈夫です! 給食の科目ならわちが教えられるですっ!」
「だから五教科だって言ってるだろ。給食って科目はどこの学校にもねぇよ」
「わちは……わちはこれからどうすれば……」
手に持っている菓子パンを落として絶望の表情へと変わる小牧悟利。
ちなみに、悟利が食べ物を落とす様子も静也はこの時になって初めて見た。
静也を除き、六人中三人が馬鹿であると確定。
「国ゥゥ数ゥゥッッ! 理ィィィッッ! 社ァァァ英ィィィッッッ!」
今なお狂乱の叫び声をあげ、真っ黒な長い髪を振り乱している愛枷には聞くまでもないだろう。
「月乃……?」
「……静也。テストなんて最初から無かったの。私達はきっと悪い夢を見ているんだよ」
「現実逃避をするな」
窓の外に広がる青空を見上げる月乃の声には、もはや生徒会長の威厳も余裕も、いつもの地味な声音も無く、あるのはただの虚無だけだった。
「大体、お前はどうなんだ。無波。テストが怖くないのか?」
「金錠様。お言葉ですが、無波様はどんな時でも常に学年の平均点を出しております。恐らく今回も難なく出されることでしょう。ですので問題ないかと」
混沌とした生徒会室で淡々と全員の前にお茶を出し終えた能徒が冷静に言った。
「そういう事だ金錠。残念だったな。結局馬鹿はお前だったんだ」
「くっ……だが、たかだか平均点だろう? 理数なら僕が上だ」
「テストは勝ち負けじゃない。全教科の赤点をどう回避し、いかにしてその後を普通に過ごせるかだ」
「それで面白いのか? 普通でいる事が、平均でいる事が」
「まぁ。俺はこれがデフォルトだからな。それで、どうするんだ? 中間テスト」
静也は狩人だけに言ったつもりだったが、その声は今ここにいる大多数の人の心に深く突き刺さった。
「静也くんは人をいじめるのが好きなのねぇ……」
「終わりィィ! 終わりィィィィッ! この世のォォッ! 終わりィィィッッ!!」
「ううん。まだだよ。私達には最後の希望が残されてるよ」
「そうでした!」
月乃の一声にはっとした一同の希望に満ちた視線がある一点に集中した。
「能徒。私達にはもうあなたしかいないわ」
「待て待て。能徒は一年生だ。俺達二年の範囲なんて分かるわけないだろう?」
「そんなことないよ。ね? 能徒」
次は室内の掃除をしていた能徒は手を止め、まるでこのやり取りに慣れているかのように口を開いた。
「はい。恐れながら、私は既に文理問わず難関国立大学の入試までは対応出来るように備えております。ですので、なんなりと私めにお尋ねください」
「ほら。能徒は凄いんだよ。秀才なんだよ。これで何回赤点を回避出来たことか」
「誇って言えることじゃないぞ、月乃」
「……英雄………メシア………」
「ふん。僕は一人ででも余裕だ」
「あらあら。お姉さんも色々教えてほしいわぁ」
「完璧なのです! わち達は救われたのです!」
まるで『光あれ!』とでも言ったかのような能徒の言葉に全員が安堵し、この教室が息を吹き返したかのように活気づいた。
「あ、ちなみに静也。今回は静也にも教えてもらうからね?」
「なんで俺が?」
「だって平均点を意図的に出せるってことは、言い換えれば赤点を絶対に回避出来るってことでしょ? だからまず静也が私達に最低限の赤点回避の勉強を教える。そのうえで能徒が強化することで、晴れて生徒会は学年上位を総なめに出来るってことになるんだよ」
さっきの現実逃避はどこにいったのやらと言わんばかりに月乃は高らかに言う。
「ということで、静也。今回の任務は私達全員の赤点を回避すること。能徒は底上げをすること。お願いね」
「承知しました。星見様」
「ちょっ…ちょっ……」
「無波様。星見様がそうおっしゃっています。私達は任務を全うしましょう。何卒、よろしくお願いします」
能徒の目にはもはややる以外の選択肢は無いという強い意思が宿っていた。そしてその意思は静也ただ一人に向けられており、決して断れるような雰囲気ではなかった。
「……分かったよ。でも俺は自分に出来る事しか出来ないからな? それこそ上位なんて夢のまた夢だ」
「はい。ありがとうございます。これで今回も生徒会は安泰です」
今回も。
その言いようからして、もはやこれは恒例行事と化していることなんだろうなと静也は悲しくも思ったのだった。




