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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第1話 始まりの日

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1-13

 行動開始。

 その言葉を聞いて全員が行動を開始した。


 そんな中でセイヤは今まで誰一人として武器らしい武器を持っていなかったので大丈夫なのかと不安の表情を浮かべる。

 すると各々がポケットなりそれぞれの収納場所から何かを取り出すと、次の瞬間にはそれらは武器に変化した。


「あぁ、そういうやつね。それで、俺は何をすればいいんだ?」

「無波様はここで見ていてください。皆様の、私達の活動を」


 セイヤの隣で静かに答える能徒(のと)


「ひひひひ……それじゃ…やっちゃうよ…ひひひ……」


 長い黒髪を靡かせ、迫りくる亡者達へ一直線に突っ込んでいく深見(ふかみ)

 彼女の手には死神が持つような大鎌が握られていた。


「危ないっ!」

「ご心配にはおよびません。あの方に普通の人の攻撃は当たりませんので。なぜなら―」


 深見に大勢の亡者の魔手が迫り、それらが彼女を捉えたかと思いきや大きく空を切った。

 そして目の前に彼女が立っているのにも関わらず、彼らは周囲をきょろきょろとしていた。


「きひひ……能力……非認知(インビジブル)……」


 直後、深見の瞳が紫色に発光し、手に持った大鎌で亡者達の体を一振りに引き裂いた。

 そして迸る鮮血をその身に浴び、一層スイッチが入ったのか奇声を上げながら敵陣へ駆けて行った。


「深見様は対象の視界から自分の存在を消す事が出来るのです。普通の人では破る事は出来ません」

「へ、へぇ……」

「あらあら、愛枷(まなか)ちゃん。元気ねぇ。それじゃお姉さんも、やっちゃおうかしら」


 そう言った姉ヶ崎の手には巨大なハンマーが握られていた。

 セイヤは彼女のそのおっとりとした性格故にてっきり小型の武器を使うのだろうと思っていたので、まさかこんなゴツイ物を出してくるとは思ってもいなかった。

 そんな姉ヶ崎にも複数の亡者が迫る。


「そんなにみんなで来られたら、お姉さん、悶えちゃうわぁ」


 直後、姉ヶ崎の瞳がピンク色に発光する。

 それにあてられた亡者達は一斉に動きを止めて息を荒らげ始めた。

 その様子はもはや敵意を示したものではなく、まるで生物的欲求を露わにしているようでゆっくりと彼女に近付き始めた。


「お姉さんの魅力。分かってくれたのねぇ。でも、美味しくなさそうだから食べてあげなぁい」


 手に持った巨大なハンマーを天高く振り上げ、えいっという女の子らしい声をあげると一気に地面に振り下ろした。

 すると巨大な地割れが発生し、それらの隙間に亡者達が落ちては身動きが出来なくなってしまった。


悟利(さとり)ちゃん!」

「はいです! いただきますです!」


 そこへ小牧(こまき)が駆けつけると、そんな亡者達の頭なり体の一部に嚙みついた。

 すると、亡者達から邪悪な気配が消え、気を失っては地面に項垂れていった。


「姉ヶ崎様の魅了(チャーム)の能力と物理的な一撃で動きを止め、小牧様の食欲であの者達の欲を食べたのです。あぁ、カニバリズムはしないのでご安心を」

「説明ありがとう。能徒さんは行かなくていいの?」

「はい。私の今日の役目は無波様をお守りする事ですので。それに、私の事は能徒とお呼びください。敬称は不要です」


 能徒は淡々と答えつつも、時折迫る飛び道具や石を全て払いのけてセイヤに一切当たらないようにしている。


「欲しい……欲しい欲しい…その心臓が欲しい」


 その声は金錠(きんじょう)だった。

 例の如く、彼も瞳を緑色に輝かせて持っている長槍で次々と亡者達の心臓を貫いていく。

 1人を屠った直後、彼の背後には数人の亡者が迫り凶悪な手が伸ばされていた。

 しかしそれも一度見ただけで、


「見切った。そんなもの、この僕には通じない。その頭も貰うぞ」


 全ての手をかいくぐり、一瞬で全員の首を刎ね飛ばした。


狩人(かぶと)はね、優れた観察眼と分析の能力で相手の動きとか次の行動を予測出来るの。ちなみに的中率はほぼ100%だよ」

「ツキノ」


 悠然とした様子でツキノがセイヤの隣にやってきた。


「みんなが頑張ってくれてるから私は大丈夫かなって。それにもう少しで終わるみたいだし」


 戦場を見ると敵の数はもう半分を切っていた。

 しかしセイヤはそこで一つの違和感を抱いた。


「あの教祖はどこに行ったんだ?」

「大丈夫。あの人なら―」


 ツキノがその次を言おうとした丁度その時だった。

 1発の銃声が響き、ツキノが地面に倒れてしまったのだ。


「ツキ……ノ……?」

「あぁ…殺してやったぜェェェ! 鬱陶しいんだよお前ら! 全員ここで死ね!」


 その声の方には例の教祖が立っていた。

 手に持っている拳銃からは硝煙が立ち上り、今まさに標的を捉えたばかりといった様子だ。


 彼は続けてセイヤと能徒に向けて発砲する。

 だが能徒も武器を顕現し弾丸を弾き続けてセイヤを守る。

 セイヤは地面に倒れて動かなくなってしまったツキノに歩み寄る。


 一瞬の出来事で思考が追い付かない。

 そんな様子だったが、彼女の頭部からの出血を確認すると全てを理解した。


「ツキノ! ツキノ! 目を開けろ! ツキノ!」

「無波様。落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか! 早く救急車を!」


 焦りと不安に満ちた様子で言うセイヤは直後、あの時のような衝動を全身に感じた。

 そして赤く発光する瞳が開眼し、教祖を睨みつけた。


「ツキノ……待ってろ。あのゲスは俺が排除してやるからよ」

「無波様。今回はあなたが手を下す必要はありません」

「俺の邪魔をするのか? 能徒。いくら仲間になったばかりでも容赦しねぇぞ?」

「そうだよ? セイヤは今日は何もしなくていいんだってば」

「えっ……」


 セイヤはすぐ近くから聞こえたなじみのある声に全ての思考が停止した。


「いたた。やっぱり弾は痛いね。でもこれで私も仕事をしなきゃいけないって分かったよ」

「ツキノ? どうして……?」

「私ね、死なないの。ほら。大丈夫でしょ?」


 ツキノはそんな信じがたい事を言うと、さっき撃たれた場所をセイヤに見せる。

 側頭部だったみたいだが、そこには弾痕はおろか傷一つ付いていなかった。


「死なないって……血が……」

「うーん、そうだね。また今度教えてあげるね。そろそろ能徒もみんなも疲れてきちゃうと思うし」


 ツキノは立ち上がると全員に告げた。


「みんな、ありがとう。これから一気にいくから下がっていいよ。ううん、下がらないと、絶対に死ぬからね?」

「まずい。星見の奴アレをやる気だ」

「あらあら」

「まずいです!」

「きひひ……撤退……」


 直後全員がすぐに戦闘を中止した。

 そして焦ってその場から撤収しツキノの周囲に集まった。


「能徒」

「はい。二重フィールド展開。これより私達は時間と空間から独立します。皆様。絶対にその場を動かないでください。動いてしまった場合は確実に死にますので」


 まもなくしてキィィィという金属音にも似た音と激しい地鳴りが発生した。

 そんな中でも亡者達と教祖は一ヶ所に集まったセブンスターズを一網打尽にしようと迫りくる。


「馬鹿め! これでおしまいだァァ!」

「うん。あなた達がね」


 そしてツキノの瞳が紅に発光し、その目線の先に小さな黒い球体を発生させた。

 それは見る見るうちに大きくなっていき、ついに数メートルの大きさにまで達した。


「ばいばい」


 能徒が展開したフィールド内では特に何も起きていないが、外側では強風が吹き荒れているのか、その暗黒の球体に次々と亡者達や、周囲に転がる廃材等が吸い込まれては消えていった。


「なんなんだあれは」

「我々セブンスターズが誇る最強戦力、星見様の能力です。回復操作(リカバリー・マスター)。星見様が定めた地点においてあらゆる回復作用がもたらされます。人体、建物、もちろん空間や時間も例外ではありません」


 球体が亡者達を飲みこみ終えると、ついに教祖だけとなる。

 だが彼はしぶとく柱にしがみついていた。


「死んでたまるかよォ…!」

「ううん。死ぬんだよ。絶対に殺すから」


 ツキノが彼の方を見ると、それに呼応したように球体も移動を始める。


「空間の一部に強烈な回復作用がもたらされると、そこには時空の歪みが発生します。周囲の元の空間はそれを元通りに戻そうとするので、そこには強力な引力が発生します。つまりあの球体は小型なブラックホールとでもいいましょうか。ちなみに星見様が止めるまで治まることはないので対象はあれに吸い込まれて確実に死ぬのです」

「なんて恐ろしい」

「恐ろしいなんてものじゃない。敵味方関係なく吸い込んじまうんだから、予告無しにやられたらたまったものじゃない」


 セイヤは全員の顔色から、金錠が言った事がいかに本質を突いているのかを理解した。


「うわああああああああああああああああああああああァァァァ! おのれおのれおのれェェェッッ!」


 まもなくして教祖を覆うように球体がそこを通り過ぎると、もうそこに彼の姿は無くなっていた。


「はい、おしまい」


 対象の完全消失を確認すると、ツキノは球体を消滅させた。

 少しして能徒のフィールドも解除された。

 一ヶ所に集まったセブンスターズの周囲の地面には円形の跡が残り、廃工場においては綺麗に無くなってしまっていた。


 それでももちろん、最初に言っていた殺してはいけない人だけはその周囲に同じような円状の跡を残してその場に放置されていた。


「みんな。お疲れ様。これにて本日の生徒会活動は終わりだよ。あ、そうそう。言い忘れてた事があったんだった」


 ツキノはそう言うと、セイヤの前に立つ。

 それに合わせるように他の皆も彼を見る。


「ようこそ。セブンスターズに。そして生徒会に」


 ツキノの、生徒会のメンバーは皆月光に照らされ、各々で妖しく光る瞳をもってセイヤを歓迎した。

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