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「あ、起きたね」
セイヤは目を覚ますと、その聞こえた声の先にツキノが座っていた。
畳の上に布団が敷かれており、檜の香りの中でセイヤは寝ていた。
「ツキノ…… 俺は何で……」
「うーん。どこまで覚えてるかな?」
「どこまで……?」
セイヤは体を起こすと、自身の記憶を遡る。
そして全てを思い出した。
「ツキノ! 顔は? 腹は? 大丈夫なのか?」
「そこ聞く?」
「当然だろ。俺にとってツキノはなぁ―…」
「なんだ。目が覚めたのか。騒々しい」
焦るセイヤがツキノの体の具合を確かめようと布団から出た時、背後の襖が開いた。
そしてそこから眼鏡をかけた同年代の男が入ってきた。
「お前だ! お前がツキノを殴ったんだ! どうしてくれるんだ! クソ眼鏡!」
「クソ眼鏡だと? お前は普段は普通普通とそんな言葉を並べているようだが、今は血気盛んな異常な動物みたいだな」
「んだと!」
まぁまぁと2人を宥めるツキノ。
セイヤは現れた金錠を今にも掴みかかりそうな勢いで立ち上がると、それに呼応するように金錠はセイヤに鋭い目を向ける。
「やぁやぁ。目が覚めたですね。お腹空いたです? 2人共これを食べるといいです!」
もう1人部屋に入ってきた。小牧悟利である。
その腕には多くの菓子パンが抱えられていた。
それらを2人に渡そうとするも、その視界に小さな彼女は入っていない。
「セイヤ! カブト! 落ち着いて!」
そんな2人を見かねたのか、ツキノが珍しく大声を出した。
「星見。すまない」
「セイヤも!」
「……分かったよ。で、何で俺はまだここにいさせられてるんだ? もうそろそろ帰りたいんだが?」
金錠とセイヤがその声により強制的に鎮静化されると畳に座る。
そしてやっと視界に入った小牧からパンを受け取り、一口頬張った。
「思い出したんでしょ? それならそういう事だよ?」
「なるほど。俺は危険だからここで処分されると?」
「そうだ。曲者」
「んだと、クソ眼鏡」
「飲み物ですね? 飲み物もあげるです!」
「だーかーら! すぐに喧嘩しない!」
再び鎮められる2人。
セイヤと金錠は今のでお互いに察した。これが俗にいう犬猿の仲であると。
そしてそんな2人を気遣ってか、変な勘違いすらしている小牧はどこからか甘い飲み物を出して2人に持たせた。
「誰もセイヤを処分しようなんて思ってないよ? 約束通り私達の仲間になってもらう。それだけだよ?」
「仲間? 正気か? 星見。こんな野蛮で危険な奴を僕達の仲間にだなんて。あり得ないだろう」
「ううん。強い力を求める私達には絶対に必要な存在だよ。それに、もう1人男子がいた方が狩人も寂しくないでしょ?」
「僕は別に。このまま男1人でも寂しくないさ」
「生徒会以外に友達いないのに?」
「それは……」
そこでセイヤは不敵な笑みを浮かべた。
「金錠っていったね? 俺が悪かったよ。今日から俺達は友達だ。だから俺には何でも相談していいんだからね?」
「やめろ! そんな可哀そうなものを見る目で僕を見るな!」
「強がるなって。大丈夫大丈夫。俺はお前の味方だから。これからはボッチじゃないよ」
「だからやめろ! 僕はボッチじゃない!」
「仲良くなってくれて良かった。それじゃこれで決まりだね」
「仲良くない!」
それに対してはセイヤも同じ意見だった。
「そうだ仲良くない。俺の恩情で構ってあげてるだけだ」
「んだと!」
「あらあらぁ、どうしたの? そんなに騒いで」
「ユイ姉ぇ! カブト兄ぃとセイヤ兄ぃが喧嘩してるです。 ツキノ姉ぇじゃ収まらないです」
部屋を訪れてきた姉ヶ崎に抱き付いて助けを求める小牧。
セイヤはさっき小牧により兄呼びされた事には気付いていない様子である。
「そっかぁ。そういうことなら、お姉さんの出番だねぇ」
すると姉ヶ崎はおもむろにセイヤを抱きしめたかと思いきや、自らの巨大な双丘へ誘った。
その柔らかくも弾力のある胸はもはや凶器だった。
女の子特有の甘い匂いと頭部全体で感じる感触はセイヤの思考を一気に停止させた。
あぁ……俺は一体何をしていたんだろう。
もう……どうでもいいや。
母なる大地。無限の大空。遥か彼方の地平線。
あぁ……俺は一体何をそんなに怒っていたんだろう。
「よしよーし。お姉さんに全部任せてねぇ」
姉ヶ崎は自らの胸に埋まってすっかり大人しくなったセイヤの頭を優しく撫で続ける。
そしてその目は慈愛に満ちており、まさに聖母のようだった。
「どうだ無波! 欲に抗えない動物めが!」
「こぉらっ。狩人くんもそういう事言わないのっ」
すっかり大人しくなったセイヤを離した姉ヶ崎は、次に金錠も同じように包みこむ。
そして彼も同じように静かになったので離した。
「ユイ姉ぇ流石です!」
「ありがとう、ユイ」
「いいのよ。お姉さん、こういうの好きだから」
姉ヶ崎もその場に座る。
小牧はそんな彼女に膝枕を要求し、そのむっちりとした肉付きの良い健康的な太ももに頭を乗せた。
「そろそろ本題に戻るね。セイヤ、約束通り私達の仲間になってもらうからね?」
「……」
セイヤは覚えていた。
あの時金錠に四肢の関節を全て外されて地面に倒れてしまった事を。
そしてその後はツキノがどうにか止めてくれた事を。
金錠に負け、ツキノに救われた。
今のセイヤに断る事など出来るわけがなかった。
しかしセイヤにはどうしても納得の出来ていない事があった。
「仲間になるのは分かった。でもどうしてコイツはツキノを殴ったんだ? 俺はそれが許せない」
「……そうだね。それは私がそうするように言っておいたの。セイヤの中の欲の力を皆にもちゃんと見てもらう為にね」
「欲の力?」
「うん。今までセイヤが誰かを襲った時の力とか、あの時の力は全てセイヤ自身の欲の力なの」
セイヤはあの時金錠が言っていた『獲得の欲求』というものに近いものだろうかと考えてみるが、もちろん全く分からなかった。
「欲ってね、当然だけど誰にでもあるんだよ。でもそれについてはまた今度教えてあげる。それで、セイヤが許せないなら、どうすれば許してくれる?」
「コイツを殴らせてほしい」
「だって。狩人」
「嫌に決まっているだろう。これは作戦の一部だ。昔からその責任は長にあると決まっている」
「なら私だね。セイヤ。いいよ。私を殴って?」
「絶対にやらない」
「だよね」
そうなると思って言った金錠にセイヤは鋭い目を向けるが、彼は澄ました顔をしていた。
「でもセイヤは許せないんでしょ? ならどうするの?」
「……いいよ。今はいい。ただし金錠。いつか必ずその顔面を殴ってやるからな?」
「ふん。出来るものならやってみろ。楽しみに待っておいてやる」
セイヤはあの時金錠の頬を思い切り殴ったことだけは覚えていないようだった。
「それじゃ決まりだね。セイヤは今日から私達、セブンスターズの仲間だよ」
「不本意だけどな」
一息つこうとした丁度その時だった。
「星見様。近くでGreedの存在を複数確認しました。皆で討つのが効率的かと」
「ありがとう。能徒。それじゃ早速だけど、セイヤも一緒に行くよ」
「俺も?」
「うん。これから仲間になるんだからさ。あ、今日は見てるだけでいいよ」
「そういう事ですので、無波様もご一緒に」
知らせに来た能徒叶に案内されてその後をついて行くセイヤ。
そして建物を出ると、既にそこには他の生徒会メンバーが集まっていた。
「それじゃ、みんな。生徒会活動の時間だね」




