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彼岸花のものがたり

作者: 雑賀崎紫蘭

むかしむかし、あるところに、一人の魔法使いの男がいました。

その魔法使いは、長年、自分が魔法使いであることを隠して旅をしていました。

彼の本当の名は、彼以外誰も知りません。

彼は旅先では、ジョルジオと名乗っていました。



ある秋の日、ジョルジオは、小さくてのどかなある村を訪れました。

村の人々はみな優しく、ジョルジオを手厚くもてなしました。


中でも特に優しくしてくれた女がいました。

メグという名で、二十歳、この村の人としては珍しく一人っ子で、両親とは歳が離れていました。

メグは献身的で、老いた両親の世話もしながら、ジョルジオのことも気にかけてくれていました。


ジョルジオは彼女に恋をしてしまいました。


ジョルジオは、彼女にアプローチをしました。

しかし結果は惨敗。

なぜなら、彼女は同じ村の、マッシモという男に恋をしていたからです。



マッシモは、村の中で三番目くらいの男でした。

三番目、というのは彼の財力についてです。

村の女性を見ていると、自分の家柄や容姿に自信のある女性は、村一番の御曹司であるミケーレに、

そこまでの自信がない女性は二番目であるマッテオに夢中です。

マッシモは三番目とはいえ、あまり村の女性に注目されることはない男でした。


メグは、身分ではなくその性格をもって彼を愛していたのです。


その点が、ジョルジオは気に入りませんでした。

ジョルジオはそのマッシモという男のことが気になり、彼に近づいてみることにしました。


マッシモは、とにかく気さくで、いわゆる「いいやつ」でした。

自分の身分が村で一番ではなく、三番目であるからといって卑屈になっているわけでもなく、ただひたすら自分が生まれた環境をそれが運命なのだと素直に受け入れ、目の前の農作業に快く従事していました。

心優しいメグは、彼のそんな姿に惚れたのだと思いました。

そしてそこで、マッシモがメグのことを愛していることを知りました。

「僕は好きでこの仕事をしているんだ。ただ両親は、このままだと僕のところに嫁なんて来ないと思っている。僕としてはそれでも別にいいんだ。ただ、うちの村のメグだけは、僕のことを気にかけてくれていてね。僕は彼女を、実は愛しているんだ。」



そこでひねくれたジョルジオは、メグにマッシモの悪口を言いました。

「ねえ、メグ。実は昨夜、道端でたまたま耳に入ってしまったんだが、マッシモが君のことを悪く言っていたよ。君本人に言えるような内容ではない、それはそれはひどいことだ。君は彼のことを愛しているようだが、その気持ちは早々にしずめた方がいい。」

しかし彼女は、ジョルジオの言葉に反発しました。

「あのマッシモがそんなことを言うはずがないわ。その対象が私であろうが、他の村の女性であろうが。彼はそんなことは決して言わない。ジョルジオ、それはきっとあなたの見間違いだわ。」

ジョルジオは、メグのそのマッシモを信じる姿勢に苛立ちを覚えました。

そしてこれ以上彼女に何を言っても無駄だと察しました。


そこでジョルジオは今度は、マッシモに対してメグの悪口を言いました。

「ねえ、マッシモ。実は昨日、河原でたまたま耳に入ってしまったんだが、メグが君のことを悪く言っていたよ。君本人に言えるような内容ではない、それはそれはひどいことだ。君は彼女のことを愛しているようだが、その気持ちは早々にしずめた方がいい。」

しかし彼は、ジョルジオの言葉に反発しました。

「あのメグがそんなことを言うはずがない。その対象が僕であろうが、他の村人の男であろうが、彼女はそんなことは決して言わない。ジョルジオ、それはきっと君の見当違いだよ。」



なんなんだ、こいつらは…!

ジョルジオの怒りは、収まるどころか膨らむ一方です。

そこでジョルジオは考えました。魔法を使ってやろうと。



ある日、ジョルジオは、メグとマッシモを森に呼び寄せました。

そして二人に魔法をかけました。


「お前たち。そんなに互いのことを愛しているのなら、一緒になるがいい。

ただし、お前たちは決して会うことはできない。

お前たちは永遠に、会えない中で互いを想い続けるがいいのだ!」


メグとマッシモは、ある植物になりました。

メグは花に、マッシモは葉に。


メグとマッシモが変えさせられたのは、スパイダーリリー。

この時期に咲く、強く美しい花。


しかし花が出ている時には葉は出てこず、花が枯れてから葉が出てくる植物。

このことから「花は葉を想い、葉は花を想う」と言われている。


彼らは植物に姿を変えられ、会うことさえかなわずとも、今でも互いに想い合っているのである。





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