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10話 ウサミミランド3

「み、皆さんお早いお帰りですのね。無事でなりよりですの」


 わたわたと挙動不審な動きで三人を出迎えるルシエラ。

 だが、三人の視線は冷ややかなままだった。


「お前、ちょっとエロエロする状況考えろです。先輩抱きしめて何やってるですか」


 フードを目深に被って顔を真っ赤にしたセリカが、未だ抱きついたままのミアを指差す。


「いかがわしい行為をしていた訳ではないですけれど……申し訳ありませんの」


 大人しく謝罪に徹するルシエラ。

 ミアは三人の目もはばからず、今もルシエラの胸を愛おしげに頬ずりしている。どんな申し開きをしても理解してもらえる自信が無かった。


「ま、こ奴等が破廉恥なのはいつものことじゃて気にすることもあるまいよ。それよりもフローレンス、ルシエラに話があるのじゃろ」


 ──ぐぬぬ、痴態の極みのような方にハレンチ呼ばわりされるなんて悔しいですの。ナスターシャさんだけには言われたくありませんでしたわ。


 ルシエラは内心でむっとするが今反論しても分が悪い。言い返すのをぐっと我慢してフローレンスの話とやらを待つ。


「そう、そうなのよ! セリカがバニーガールの仲間にされたの! ちょっとルシエラ、見てちょうだい!」


 フローレンスはセリカの両肩を持つと、ぐいと押してルシエラの前に立たせた。


「バニーの仲間ってセリカさん普通の格好をしておりますわよ」

「セリカもそう思ってるですけど、フローレンス曰く違うらしいです」

「鐘が鳴って元に戻っただけで、アンタ多分心はバニーのままよ、バニー!」


 フローレンスが必死に主張する中、ルシエラは半信半疑のままセリカを調べはじめ、


「……これは、残念ながらフローレンスさんが正しいですわ。シャルロッテさん、本気でわたくしに魔法を使わせたいのですわね」


 その正体に気づいて表情を強張らせた。


「る、ルシエラ。セリカ、そんなにヤベーことになってるですか!?」

「なってますわ」


 恐る恐る尋ねるセリカにルシエラが即答する。


「マジですか」


 絶望的な宣告を受け、一気に青ざめるセリカ。


「……ミアさん、漆黒の世界樹を覚えていますわよね」

「ん、覚えてる。あれ、面倒だったから」


 頬をルシエラの胸に押し付けたままミアが小さく頷く。


「セリカさん……それと恐らくクラスメイトの方々に仕込まれている魔法もそれですわ。厳密に言うと種の方ですわね」

「何じゃその聞き慣れぬ術式は」

「ネガティブビーストが取り込んだ人間から負の感情を供給する原理を応用し、接続した人間の思考を制御しながら魔力を吸い上げ装置と成すもの。簡潔に言ってしまえば人を洗脳しながら結界に取り込み、術者の使う魔力を肩代わりさせる魔法ですわ」

「ん、でも厄介なのはそこじゃないよね」

「ええ、加えて世界樹の影響下で使われた魔法を自動的に解析、行使された魔力残滓を吸収する。つまり、中で魔法が使われる度に魔力が蓄えられ、世界樹本体は魔法に対する強力な耐性を得て自己進化していきますのよ」

「自己進化って何よ!? ちょっと思ってたのの三倍ぐらいヤバいの来たんだけど!?」

「むぅ、魔法の反応をまるで感じ取れぬが。そんな強烈な魔法が掛けられていながら妾が見落とすかの」


 ルシエラの説明を聞いたナスターシャは拗ねるように片腕で胸を持ち上げ、セリカの頭をわしゃわしゃとかき分けはじめる。


「これはわたくしでも間近で確かめなければわからない代物。ナスターシャさんでも知らずに感知するのは難しいですわ。漆黒の世界樹は術式強度、隠密性、影響範囲、全てを兼ね揃えたわたくしの元自信作ですもの」

「…………待ってルシエラ。今、何か変な事言わなかったかしら」


 フローレンスが小さく手をあげ、突き刺すような視線が一斉にルシエラへと注がれる。


「漆黒の世界樹は術式強度、隠密性、影響範囲、全てを兼ね揃えた」

「その後!」


 ルシエラはぎくりと身を震わせ、問い詰めるフローレンスから視線を逸らすと、


「わ、わたくしの……元自信作、ですもの」


 もにょもにょと歯切れ悪くそう言った。


「作ったのおめーかよ!」

「ご、ごめんなさいですの! 若気の至りなんですの! 何しろ十歳にも満たないお子様だったからモラルと言うものを知らなかったんですの!」


 三人に勢いよく詰め寄られ、平謝りするルシエラ。

 ルシエラとしても消したい過去の汚点なのだ。しっかり反省しているので勘弁してほしい。


「で、でもルシエラが作ったってのは考えようによってはプラスだわ、つまり前回と同じ方法で破ればいいだけだものね。ミア、どうやったの」

「ん。タマちゃん達……えと、他の魔法少女と協力して世界樹に穴を開けて、私が核に対して外と中の両方から十万発同時着弾の魔法攻撃した。同時じゃないと魔法無効化されちゃうから、ね」

「おおう、まるで参考にならぬの」

「先輩の魔法が十万発欲しいとか悪魔の術式ですよ。……セリカにはそんなヤベーものが植え付けられてるですか」


 あまりに非現実的な解法にセリカがこの世の終わりのような顔になる。


「だ、大丈夫ですのセリカさん。セリカさんの世界樹はまだ種の状態ですから、今ならナスターシャさんでも解呪できますわ」


 そう言うと、ルシエラはチョークを手に取って黒板に長々とした魔法式を書き綴っていく。


「初期段階解呪用の術式はこれですの。ナスターシャさん、お願いいたしますわ」

「妾でもとは悔しい物言いじゃが……確かに魔力をバカ食いする上に悪夢のような難易度じゃな。初期段階用でこれかよ」


 書き上げられた式を見たナスターシャは不愉快そうな顔をした後、セリカの頭を鷲掴みにして解呪魔法を発動させようとする。


「少し待ってくださいまし、多分解呪の途中でセリカさんが暴れますの。ミアさんが左腕、フローレンスさんが右腕を掴んで拘束してくださいまし」

「うー、怖えーです……」


 ルシエラの指示のもと、両腕をがっちりと拘束されたセリカが涙目で歯を食いしばり、


「準備完了ですわ。ナスターシャさん、はじめてくださいまし」


 仕上げに干し芋を取り出したルシエラが、セリカの前に立って頷いた。


「うむ」


 ナスターシャが詠唱を始め、セリカの頭部が青白く光り出す。

 やがて、魔法少女が変身するようにセリカの姿がバニーガールへと変化した。


「うーさー! バニーの格好をしていない不良共がこんなに居やがるです! このセリカが特待生としてオメー等にもウサミミ着けてやるですよ!」


 バニーの姿になった途端、セリカの様子が豹変し、ルシエラ達にもウサミミを着けようともがきだす。


「起動しましたわね。二人とも力を入れて押さえてくださいまし!」

「わ、わかってるんだけど! 力凄い! なんかセリカの力が凄いんだけど!?」


 バニー姿で暴れようとするセリカは、掴まれたままの右腕で軽々フローレンスを持ち上げる。

 見かねたミアが左手を掴んだまま、セリカの右手首を持って動きを止めた。


「ミア! 助かるわ!」

「ちくしょー! 放しやがれです! 援軍、援軍を呼ぶですよ! うーさ……」

「それはさせませんわ!」


 大声を出そうとするのを見逃さず、ルシエラは開いたセリカの口に干し芋を詰め込み言葉を遮る。


「むごーーっ!?」

「おまけにもう一枚ですのっ! ナスターシャさん、はやく!」


 クチバシのように干し芋を詰め込まれたセリカがじたばたと暴れ、それをミアが押さえつける。

 ナスターシャの詠唱が進むにつれ、セリカのウサミミに亀裂が入り、


「そろそろですわ! ミアさんとフローレンスさんは急ぎ離れてくださいまし!」


 ミアとフローレンスが手を放して飛び退くと同時、


「ぴぎっ!?」


 ウサミミが砕け散り、制服姿に戻ったセリカが勢いよく床に跳ね転がった。


「る、ルシエラ。これで大丈夫なの? セリカ、ひっどい絵面でのた打ち回ってるんだけど」


 パンツ丸出しで床に転がるセリカを指差し、フローレンスが不安気に尋ねる。

 正気に返ったセリカは、知らぬ間に詰め込まれた干し芋をふがふがとさせながら、パニックで床をのた打ち回っていた。


「大丈夫ですわ」

「えと。多分干し芋がパニックの原因、だから」

「ああ。セリカさん、口の中のものは干し芋ですから安心して食べていいですの。我が村のお芋は美味しいですわよ。気に入ったらぜひ買ってくださいまし」

「むぐぐっ!?」


 口を押えて涙目になっているセリカに、ルシエラが笑顔で村の特産品を販促する。

 やがて転がっていたセリカの動きが止まり、今度はうずくまって黙々と干し芋を咀嚼しはじめた。


「うむ、差し当たっては一段落じゃな。じゃが、妾も疲れた。この大仕事を生徒全員にせよと言うのは流石に無理じゃぞ」


 それを見届けたナスターシャはふうと小さくため息をつくと、気だるげに座って足を組んだ。


「わかっておりますわ。既に漆黒の世界樹が展開されているとすれば、今の魔法に耐性がつきましたもの。どの道二度目は通用しませんわ」

「うげぇ、最低の魔法ねこれ」

「ルシエラ、一回こっきりならセリカなおしちゃってよかったですか」


 ようやく干し芋から解放されたセリカが、不安そうな顔で立ち上がって言う。


「勿論ですわ。事態解決のため、セリカさんの働きには期待していますの」

「……わかったです。おめーの期待に応えられるように頑張るですよ。後、干し芋を口に詰めるのは止めろです。マジで人が死ぬです」


 セリカは神妙な面持ちで頷き、ついでに切実な思いを告げた。


「しかし、二度目が通用せぬとなると、一刻も早く漆黒の世界樹とやらの本体を叩かねばならぬの」

「ええ、漆黒の世界樹は時間が経つにつれより強大なものになっていきますわ。影響が個人に留まっている段階で解決したいところですわね」


 このまま放置すれば、漆黒の世界樹は島全体を影響下に置いてしまう。

 そこまで育ってしまえば、例えルシエラであっても迂闊に手出しができない。


「現状、さしもの妾も容易に手出しできぬ。観測魔法を壊してお主が直に壊すしかなかろう」

「ええ、わたくしが魔法を使えなければ、漆黒の世界樹の核を見つけることも困難でしょうね」


 ナスターシャの言葉にルシエラが重々しく頷く。


 ──そう、この術式は作者であるわたくし以外が容易に破壊できるものではない。わたくしをこの場から逃がさないための嫌味なやり口ですわ。


「実働はナスターシャさんが頼りですわ。お願いできますかしら」

「ほ、今更じゃろ。生徒会長としてもこの蛮行は見過ごせぬしの」


 かくして、ルシエラ達は観測魔法を破壊すべく動き出すのだった。

分かり難い展開を読みやすく修正しました

2023/12/30

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