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8話 ナイトパレード2

 一方その少し前、ミア達を乗せた魔法列車も影の大巨人と接敵していた。

 既に大巨人はミア達の眼前にあり、巨人ではなく黒く巨大な壁としての威圧感を伴ってそこに在った。


「うむ、先制するぞ。セリカ、そのまま列車を加速させよ! これを運転できるのはお主だけじゃ、お主は体を固定して外に出るでないぞ!」

「わ、わかったです!」

「シルミィ、戦闘は妾とお主の役回りじゃ、覚悟はよいな!」

「言われなくてもわかってる! あのキラキラおめめのハイライトを絶望で消してやる!」


 列車の上で仁王立ちするナスターシャの指示のもと、セリカが列車の動力となる魔石に魔力を追加して列車を一気に加速させる。

 猛加速にレールを軋ませ、車体を左右に振り乱しながら走る列車。


「ミア、ペンダントは妾達がなんとしても取り戻す。あの巨人の始末は任せるぞ!」

「ん、任せて」


 ナスターシャが列車から飛び降り箒に跨ると、


「フローレンス! ペンダントの座標は!」

「右に四!」

「先制攻撃だっ! 消し飛べ!」


 ポケットに詰め込んだ魔力補給用の魔石をじゃらりと鳴らし、シルミィが窓から手を出して雑な絨毯爆撃を開始する。


「うわわっ!? 何か襲って来た、何か襲って来たよ!」


 そのうちの何発かが命中したのだろう、闇の中で慌てふためく底抜けに明るい声が聞こえた。


「そこじゃ! 去ね、邪悪なしいたけまなこ!」


 それでシャルロッテの居場所を確認したナスターシャが上空から箒を垂直降下、箒から飛び降りるようにして箒を振りかぶり、唐竹割りするように一気に振り下ろす。

 シャルロッテが転がる様にそれを躱し、ルシエラのペンダントがあるだろう胸元を狙ってナスターシャが手を伸ばす。


「出た変な人! 全裸ストーカーは犯罪ですっ! ダメ、ダメ、私はお洋服を脱ぎませんっ!」


 ボタンをむしり取られて胸元がはだけたシャルロッテは、胸を揺らしてペンダントを露出させる。だが、ナスターシャがそれを奪い取るには後一歩及ばなかった。


「届かぬか! じゃが場所はわかった!」


 千載一遇のチャンスを逃したことに歯噛みしながらも、ナスターシャは地面に叩きつけたばかりの箒を加速させ一撃離脱。逃げ際に魔力の鎖をシャルロッテへと打ち放つ。


「わっ!」


 シャルロッテがよろめきながらそれを分解、


「やはり魔法を分解してくるのじゃな! シルミィ!」

「わかってる! セリカ、止めろ! 今から打ち合うぞ! ここから先は一切の希望を捨てろ、地獄絵図だっ!」

「おうっ! 後は任せたです!」


 セリカが列車を急停止させ、シルミィが間髪入れずに列車の屋根に飛び乗って雷撃魔法を連打する。


「ちょっと酷いね!? 私何も悪い事してないよっ!? 無害、無害な私ですっ! あーんぜーん!」


 両手をバタつかせて逃げ回るシャルロッテが、頬を膨らめながらぴょんぴょん跳ねて自らの無害さアピールをする。


「姉さん、あいつ滅茶苦茶余裕あるわよ!?」

「忌々しいがわかっておる! 妾達総掛かりでもなお明らかな格上じゃ!」


 ナスターシャが上空から魔力の鎖を降らせる中、乗降口付近に陣を張ったフローレンスが手近な石を拾い上げてはスリングショットで撃ち出して援護射撃する。


「え、タイムタイム! 石混じりダメ、ダメ絶対! それオモチャじゃないよ! 当たったら怪我しちゃうよっ!?」

「あいつちょっと必死になりかけてるわ! ルシエラの読み通りね!」


 慌てふためくシャルロッテを見て、フローレンスが小さくガッツポーズする。

 魔力による攻撃と魔力を使わない射撃との波状攻撃は各々単体よりも遥に処理が難しい。この視界劣悪で魔力感知もほとんど利かない中ならば尚更のこと。

 それはシャルロッテでも例外ではないらしく、先程まで明るくはしゃぎ回っていた彼女の口数は目に見えて減っていた。


「おっ、順調じゃないか! このまま一気に押し切って羽交い絞めにして取り押さえて、あとは拷問係にでもくれてやれ!」

「あー、皆止めてくれないんだ! 酷いねっ! もう怒った! 正当防衛しちゃうぞっ!」


 わざとらしくふくれっ面をしたシャルロッテがそう言うや否や、巻き起こった紅い風がナスターシャとシルミィを黒い嵐諸共吹き飛ばした。


「詠唱なしのノーモーションでその威力かよ! しいたけまなこめがっ!」


 ナスターシャは地面を盛大に跳ね転がりつつも手にした箒を加速させ、返す刃で土を抉ってシャルロッテへと弾き飛ばす。


「いったーい! 足にすり傷できちゃった! 早く帰ってお医者様に見せないと!」


 だが苦し紛れの一撃が通用する相手のはずもなく、それはシャルロッテのふくらはぎに僅かなすり傷を作るに止まった。


「なーにがお医者様だ! こっちは転がりまくって骨の一本でも折れてそうな勢いなんだが!?」


 きりもみしながら窪みに(はま)りこんだシルミィが毒を吐きながらのろのろと立ち上がる。


「二人とも無事なの!?」


 一気に満身創痍となった二人を見て、車内に逃げ込み一人難を逃れていたフローレンスが心配そうに尋ねる。


「なんとか、じゃの」

「こっちもギリギリやれる」


 二人はそう答えると同時に左右に散会し、魔法を放ちながらシャルロッテへと突撃する。

 しかし、魔法の余波で辺り一帯の黒い嵐は消え去り、夜の闇と巨人の闇だけが満ちている。つまり視界は開け、魔力感知による補助も機能する。


「もうその手にはのらないよっ!」


 案の定、シャルロッテは指揮者のように手を滑らせると魔法を霧散させ、そのまま二人を列車に叩きつけた。


「姉さん! シルミィ!」


 二人の衝突に列車が魔法障壁を発動させ、その乗降口からフローレンスが石を撃ちだして隙を作ろうと試みるが、それも大気のヴェールに絡めとられて地面に落ちた。


「はい、帰った帰った! 後でちゃんと巨人に取り込んであげるから!」


 シャルロッテの周囲に赤い魔力が実体化し、列車に向けて撃ち放たれる。


「げっ! 姉さん達、ここは車内に避難してっ!」


 慌ててフローレンスが倒れている二人を車内に引っ張ろうとするが、力が足りず間に合わない。


「大丈夫?」


 流石に見かねたミアが手を貸し、フローレンス諸共二人を勢いよく車内に投げ入れる。

 直後、紅い魔力が無数の矢となって飛来し、障壁を展開させた列車を大きく横に揺らした。


「ミア、助かったわ!」

「ん。やっぱり手伝った方が、いいかな」


 ミアはもどかしそうに体を揺らしつつ、陽気にくるくる回っているシャルロッテの方を向く。

 シャルロッテの後ろでは巨人の足先が向きを変え、ゆっくりと列車の方へと迫って来ていた。計画を少し遅らせても邪魔者を排除する算段なのだろう。


「そうはいかぬじゃろ、今のお主は魔力の加減ができんと聞いておる。ただでさえ列車の外は居るだけで魔力をバカ食いする魔境じゃ、ペンダントを取り戻すまでにお主が魔力をすり減らしたら、それで妾達の負けが確定するであろうよ」


 ナスターシャは箒を杖にしてよろよろと立ち上がると、巨人を列車に近づけないよう一撃離脱戦法で牽制を続ける。


「シルミィ、任せたぞ。打開手段は分かっておるじゃろうな!」

「姉さん!」

「ふん、ナスターシャの奴も天才様の癖に根性のある立ち回りができるじゃないか、少しだけ見直したぞ。ちょっとだけな」


 ナスターシャに遅れて、這いつくばっていたシルミィが壁につかまりながら立ち上がる。


「でも打開ってどうするのよ! あいつ頭おかしいけど実力は本物よ!? このまま続けてもこっちがジリ貧だわ!」


 フローレンスが言う通り、ナスターシャの攻撃魔法は全てシャルロッテによって分解されている。

 このまま有効打を与えられなければ、迫る巨人に列車諸共踏みつぶされるのが関の山だ。


「ふん、ローズの娘の癖に目の悪いことを言うな。あったじゃないか、勝機がな。マイナス思考だから気がつかないんだぞ」

「どこにあったのよぅ! 完全に手詰まりだったでしょ!?」


 狼狽しながら言うフローレンスを無視してシルミィは列車の外に出ると、


「いや、手はある! んぎぎぎぎぎぎっ! それが、これだっ!」


 魔力強化した筋力で列車の車両を持ち上げる。


「待って! それ何か嫌な既視感があるんだけどっ!? セリカ、歯を食いしばってぇ! 早く、早くうぅぅ!!」


 大きく傾いた車体の中で手をバツの字に交差させて止めて止めてと主張するフローレンス。


「覚悟を決めて行ってこい! 積年の恨みをこの列車に込めて、根こそぎくたばれパワハラ野郎共っ!!」


 だがシルミィは止まらず、魔法障壁付きの車両をシャルロッテへ向けて投げ飛ばし、力尽きてそのままその場に倒れ伏す。


「わわっ!?」


 飛んできた列車に驚き慌てて魔法を撃ち放つシャルロッテ。しかし、ルシエラ謹製の魔法障壁が展開された列車は強固で、彼女の魔法を容易く弾いてしまう。

 魔法では止められないと悟るや否や、シャルロッテはその場から逃げようと急いで走り出す。


「ああ、もう! やるわよ、やるしかないんだもの! なるようになれっ!」


 そこにフローレンスが飛び降りるようにして飛びかかり、シャルロッテの背中に抱きつくようにしてペンダントを奪おうと試みる。


「のっかった! なんか背中にのっかったっ!? あうんっ、胸揉まないでっ!」

「うるさいわね! こっちだって好きでやってるんじゃないわよ!」


 暴れて振りほどこうとするシャルロッテ。

 その背中にしがみついてペンダントを奪おうとするフローレンス。

 少女二人によるロデオが暫し繰り広げられ、ペンダントを奪えぬまま振りほどかれたフローレンスが尻餅をつく。


「はーっ、はーっ、危なかったぁ……」


 たわわな胸を丸出しにしたシャルロッテが、荒い息遣いのまま前かがみになって安堵の吐息をもらす。


 その時、


「届いた」


 その油断を見逃さず、横から駆け込んだミアがシャルロッテからペンダントを奪い返した。


「あっ!?」



「迷う心の宵闇に、きらり煌めく星一つ。心に宿ったほのかな光、照らして守る一番星」



 駆けたままミアがペンダントを構え、ペンダントに仄かな輝きが灯る。


「ああーっ! ドロボーっ! 窃盗は犯罪なんだよっ! 逮捕、逮捕ですっ!」


 まだ呼吸の戻りきらないシャルロッテの叫びと共に、巨人がその足を大きく上げてミアを潰さんと踏み下ろす。


「変身」


 瞬間、ペンダントが眩く輝き、ミアから吹き出す莫大な魔力が黄金の翼となってシャルロッテを吹き飛ばす。


「ぎゃわっ!?」


 眩い光が黄金の羽根となって宵闇を消し飛ばしていく中、光の中から黄金の翼をはためかせた黒衣の天使が顕現する。


 一歩。裏拳爆砕。踏み下ろされる巨人の右足が弾け飛び、その身を斜めに傾ける。


 二歩。横薙ぎ一閃。杖から放たれる光の刃、遠方にある巨人の左足が両断され、傾いた体躯を水平に戻す。


 三歩。崩れ落ちる巨人の前で杖をくるりと回して決めポーズ。


「願いの言葉を紡いで守る魔法少女アルカステラ、流星の如く只今推参。皆の頑張り、ちゃんと届いたよ」

「え、あれがアルカステラ? 私の知ってるアルカステラとまるで強さが違うんだけど……」


 降臨した最強の魔法少女。その雄姿をぽかんと見つめてフローレンスが慄き呟く。

 ミアが攻撃を繰り返すたび、ダルマ落としの要領で影の巨体が削り取られ、見上げるしかなかった紅い双眸がみるみるうちに大地へと近づいていく。


「え、なにこれ? なにこれ?」


 その光景に唖然としていたのはフローレンスだけではない。跳ね飛ばされていたシャルロッテも立ち上がるのを忘れ、突如現れた理不尽をただ茫然と眺めている。

 先程まで暴の化身であったはずの巨体は既に見る影もなく、ミアによってほとんど解体されきってしまっていた。


「あれ魔法少女? 違うよね、魔法少女は未熟な子がごっこ遊びでやるものだから、あんなヤバいの魔法少女じゃないよねっ!?」


 描いていた計画が全て崩れ落ちていく様を感じ取ってしまったのだろう、肌を粟立たせたシャルロッテは自分に言い聞かせるように必死に首を横に振った。


「と、とにかく逃げないと。あんなの相手にしてたら命が危ないよ」


 巨人の核となる破片を砕き終えたミアを尻目に、大慌てで逃げだすシャルロッテ。


「逃げた! ミア、あいつ逃げたわよ!」

「うん、わかってる」


 ミアがシャルロッテを追いかけようとしたその時、魔法陣となっている線路から再び勢いよく闇が噴出した。


「嘘、だって巨人倒したじゃないのよぅ!」

「だからかな。多分、暴走……流れ込んだプリズムストーンの魔力のせいで制御失ってる、ね」


 噴出した闇は荒れ狂う龍のように蠢き、近くにある全てを飲み込もうと手当たり次第に周囲を食い荒らしていた。


「プリズムストーンってほんっととんでもない代物ね!? 魔脈と相性ばっちり過ぎない!?」

「そうだね」


 襲い来る闇のアギトを素手で引き裂きながら、ミアはシルミィとナスターシャの様子を一瞥する。

 シルミィはその場に倒れ伏し、ナスターシャも近くの岩場でぐったりとしていた。このままでは程なくして闇に飲み込まれてしまうだろう。


「ん、私はあの闇を迎え撃つ。被害が外に広がらないようにしないと」


 シャルロッテを追いかける足を止め、荒れ狂う闇を光の翼で絨毯爆撃しながらミアが言う。


「でも、いいの……向こうに居るルシエラ、本調子じゃないのよね?」

「うん、大丈夫。それでも負けないよ。だってあの人は私のライバルだから」


 ミアは力強く断言すると、遠く先にある魔石地帯の方を見やるのだった。

2023/09/2

指摘して頂いた誤字を修正しました。

ありがとうございます。

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