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6話 そのライバルは窓に張り付く7

「ぎゃああああああっ!? なんか迫ってきてるぅ!!」


 生徒指導室を出て廊下を歩いていたルシエラ達は、フローレンスの絶叫に慌てて振り返る。

 廊下の先、三角木馬に立ち乗りしたシルミィがざわつく生徒達をかき分け、ルシエラ達へと猛突進していた。


「うわあっ、はっはっはっー!!」

「うおおっ!? なんかやべーことになってるですよ!?」


 逃げ惑う生徒たちなどどこ吹く風で廊下を爆走する木馬。

 その上で投げ縄のように魔力の鎖を振り回すシルミィ、その目はルシエラ達をロックオンしていた。


「ルシエラーっゲットだーっ!」


 すれ違いざまにシルミィが鎖を投げ、ミアがそれを躱し、ルシエラがそれを躱し、フローレンスが躱しそびれて捕まった。


「あ」

「フローレンスさん!」

「やっぱり私なの!? なんでそうなるのっ!?」


 フローレンスの叫び声だけを置き去りにし、フローレンスを捕まえた木馬がベランダに通じる窓を突き破る。

 割れたガラスをまき散らしながら木馬はベランダを疾走。その下にスタンバイしていた鋼鉄の馬車にライドオンする。その衝撃でゴム製の鐙がずれ、シルミィが三角の頂点に股をぶつけて悲鳴をあげた。


「んあああーーーっ!」


 シルミィは情けない鳴き声をあげながらも気を取り直し、ベランダで唖然と一部始終を見ろしていたルシエラに挑発的な笑みを向けた。


「いいか、ルシエラ! こいつの身柄は私達が預かった! 要求は後でする! 次の連絡を震えて待て!」


 シルミィの宣言と共にフローレンスを吊り下げた馬車が一気に走り出す。


「ぎゃあああーーっ! たーすーけーてー!」

「ミアさん、セリカさん、追いかけましょう! このまま素直に連絡を待っていては、どんなに不条理な要求を突きつけられるか分かったものではありませんわ!」

「そうだね」

「わ、わかったですよ!」


 言いながら、三人は爆走する馬車を走って追いかけようとする。

 だが、既に馬車は魔法学校の敷地外を駆け、もはや魔法無しでは追いかけられないほど遠くを走っていた。


「とは言えどうすれば……」

「ルシエラさん、あれ使おう」


 ミアが指さしたのは花壇脇に置かれたリヤカーだった。


「え?」

「私が押すから。そうすれば魔法を使わなくても追いつけるよ」


 至って普通にそう提案するミア。


「み、ミアさんなら確かに追いつけるでしょうけれども……。かえって目立ちませんの?」


 肥料袋が乗ったままのリヤカーを眺め、ルシエラが逡巡する。

 リアカーに乗って大通りを爆走する自分の姿は想像するだけでちょっと情けない。


「ん、じゃあ魔法使って追いつくのとどっちがいい?」

「う……。ではミアさんにお願いいたしますわ」


 苦渋の選択でそう決めたルシエラがリヤカーに乗り込む。ミアの身体能力は本人が特に隠していないため生徒の間でも知れ渡っている。

 悪目立ちはするがルシエラが魔法を使って追いかけるよりはまだ騒ぎになり難いだろう。


「任せて」

「先輩、リヤカーの弁償と生徒会長に連絡するのはセリカに任せとくですよ!」


 セリカの言葉にミアが頷き、リヤカーを押して先行する馬車を追いかける。

 勢いよく回る車輪が花壇脇の地面を削り、置いてあったスコップを跳ね飛ばしながら舗装された道路へと一気に飛び出す。

 フロートボードで空飛ぶ配達員がバランスを崩しかけ、塀の上で寝ていた猫が驚いて逃げ出し、露店で買い物をしていた母親が慌てて子供を抱き寄せる。


「ミアさん、ここからは他の方も居ます、安全運転でお願いいたしますわ!」

「わかってる」


 驚きざわめく周囲を余所に、リヤカーを押すミアは更に加速する。

 先行する馬車との差がみるみる詰まり、吊るされて涙目になっているフローレンスの表情が確認できるまでに近づいた。


「おいぃぃ!? なんかヤバいことになってるんだが! 人間が馬より速く走っちゃダメだろ!?」


 舗装された郊外の道から森の方へと続く道に差し掛かった頃、ようやくシルミィも異常事態に気がつき、目を丸くして慌てふためいた。


「問答無用ですわ、フローレンスさんを返しなさい!」


 リヤカーに乗ったままだったクワをシルミィに向け、ルシエラが威勢よく啖呵を切る。


「ふん、断る。支部まで逃げ切れば実質こっちの勝ちなんだ、ここで捕まってたまるか!」


 言いながら、シルミィが馬車に乗ったままだった三角木馬を魔法で射出する。


「んっ!」


 馬車の後ろを追っていたミアがそれに気がつき、慌てて右に逸れながらそれを躱す。


「ミアさん! 大丈夫ですの!?」


 吹き飛びそうになったリヤカーの体勢を持ちこたえさせるべく、クワを地面に突き刺しながらルシエラが叫ぶ。


「大丈夫」

「おいいいいーっ! なんだその挙動!? 最新鋭の魔導戦車でもしないんだが!」


 シルミィはルシエラ達と前方を見比べ歯噛みする。

 進路の先、森の奥には小さく建物が見えた。


「くぅぅ、ならこれでもくらえっ!」


 シルミィは馬車に据え付けられた玉座をべりべりと剥がすと、ジャイアントスイングのように玉座を振り回して投げつける。


「ミアさん、また来ますわ!」

「わかってる」


 今度はリヤカーを左に振り、まずはミアが玉座を躱す。


「くらうがいいですわっ!」


 次いでルシエラがクワを振りかぶり、リヤカーの荷台に跳ね転がって来る玉座をシルミィに向けて弾き返した。


「うがああっ!?」


 シルミィが馬車の上で身を丸め、吊るされたフローレンスが衝撃でぶらんぶらんと大きく揺れ動く。


「ちょっとルシエラ! 私まで巻き添えになる所だったんだけど!?」

「も、申し訳ありませんわ!」


 辛うじて玉座の直撃を免れたフローレンスが涙目で憤る。

 だが、玉座を打ち返されたことで馬車の車輪が歪み、ルシエラ達との差は大きく詰まった。


「くっそう! 後少しだって言うのに追いつかれるぞ! なんか、なんか、投げるものは……!」


 前方にある建物は既に目と鼻の先になっている。後少しの距離を稼ごうとシルミィは馬車の上を必死に見回す。

 だが馬車の上に何かある方が異常事態なのだ。投げられるようなものは当然見当たらない。


「そんなものはありませんわ!」


 勝利を確信するルシエラ。


「いや……。あるっ!」


 だがシルミィは諦めず、吊るされたフローレンスの首根っこを摑まえると、


「ちょっと待って! 凄い嫌な予感がするんだけどっ!?」

「ふきとべえええっ!!」


 筋力強化の魔法を使って一気に持ち上げ、ルシエラ達に向かって放り投げた。


「いーーーーやーーーーっ!」


 絶叫と共に飛んでくるフローレンス。

 ミアは咄嗟にリヤカーを右に逸らして躱そうとするが、


「なんですとっ!? み、ミアさん、そのままで! 避けたらフローレンスさんが大怪我をしますの!」

「わかった」


 ミアは両足で地面を踏みしめて急停止。

 フローレンスの落下地点がリヤカーの荷台になるよう調整する。


「今ですのっ!」


 荷台に立ち上がったルシエラは肥料袋を担ぎ上げて魔法付与(エンチャント)。袋に大気の力場を発生させる。

 そこにフローレンスが直撃し、風の詰まったクッションと化した肥料袋がその運動エネルギーを相殺。そのまま肥料袋で押し付けるようにしてフローレンスを荷台へと着地させた。


「フローレンスさん、無事ですの!?」

「ぶ、無事……だと思うわ。午後の授業に出席できないのだけは無事じゃないけど」


 術者から離れた魔力の縄が消失し、自由になったフローレンスが荷台のへりに手をかけてよろよろと立ち上がりながら言う。


「それは仕方ありませんわ。でも今から急いで帰れば最後の授業にだけは間に合うかもしれませんわよ」

「はっはっはっ、余裕じゃないか。だけどそれは無理だな、今回は私の勝ちだ!」

2023/09/2

指摘して頂いた誤字を修正しました。

ありがとうございます。

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