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6話 そのライバルは窓に張り付く4

「はぁ、アンタ達って本当にいつもいつも飽きずにやってるのね」


 翌日、昼休みの中庭。昨夜起こった出来事を聞いたフローレンスは、ルシエラに冷ややかな眼差しを向けて呆れ果てる。

 彼女の態度に少し余裕があるのはテストが終わったからだろう。セリカとフローレンスは先日のトラブルを治めた手腕を高く評価され、そのまま特待生待遇を維持できると決まったらしい。

 結果、彼女達に求められるハードルは今後更に高くなってしまうと思うのだが、テスト明け早々涙目にするのは憚られたのでルシエラはあえて何も言わないことにした。


「しっかし、おめーらいつも頭ん中エロエロですね。少しはエロい事するの抑えろですよ」


 森で助けられたお礼を言いに来ていたセリカが、口の中で飴玉を転がしながら苦言を呈する。


「仕方ないね。ルシエラさんへの愛は止められないから」

「ミアさんっ!」

「はぁ、別に私は姉さんで痴女族に耐性あるからいいんだけど、人前でするのは控えなさいよ。傍目にドン引きなんですからね」

「フローレンスさん、痴女族って何ですの!? わたくしをナスターシャさんと同類にカテゴライズするのは止めてくださいまし!」


 教科書を読みながらサンドウィッチを頬張るフローレンスに、大慌てのルシエラが必死にそう主張する。


「いや、でもおめー、傍から見れば所構わず先輩侍らせてるエロヤローですよ」

「ばれちゃったね、ご主人様」


 呆れ顔したセリカの言葉に、ミアがその豊かな胸を押し付ける様にしてルシエラにぴったりと寄り添った。


「ちょっミアさん! その呼び方を狙うのはいい加減諦めてくださいまし!」

「狙うもなにも、ご主人様であるルシエラさんの命令で対外的にはルシエラさん呼びだけど、心の中ではいつもご主人様呼びしてるよ?」


 ミアに衝撃的な事実を告げられ、ルシエラがひぃと小さく飛び上がった。


「……ルシエラ、おめーマジで変態だったですか」


 軽蔑の眼差しを向けるセリカ。


「ち、ちがっ! 冤罪、冤罪ですの!? 最近冤罪が多すぎますわ! 認識を正してくださいましっ!」


 ルシエラは首を横に振り、誤解を晴らすべく必死に主張するのだが、自らの胸を愛おしそうに頬ずりしているミアを従えていては到底信じて貰えるはずもなかった。


「安心しなさい。私としてはルシエラの所でシルミィをせき止めてくれさえすれば、どんな愛の形でも気にしないわ。セリカもそれで勘弁してあげなさい」


 もう食傷気味だとフローレンスが話題を遮って言う。


「あー、あいつフローレンスを会長引換券と思ってるですからね。おめーにしてみればターゲット移ってラッキーですよね」

「そうなのよ! アイツ、私を虐げると望み通りの展開になるって嫌な成功体験持ってるのよ! 姉さん引換券だと思ってるの! おかげで私はいつも流れ弾受けてるのよう! それにアンタまで加わったら私のターゲッティング頻度は倍じゃないのっ! 射的大会の的よ、的! ハチの巣! 絶望ハニカム構造よっ!」


 フローレンスは座ったまま腰を折り曲げて芝生に頭をつけると、丸まったダンゴ虫のようにコロコロとその場に転がりだした。


「なんといいますか、フローレンスさんもフローレンスさんで苦労なさってますのね……」


 言われてみれば、シルミィと初めて遭遇した時も、ナスターシャの妹だのと言ってフローレンスを付け回していた。

 あんな風に付きまとわれてはフローレンスも堪ったものではないだろう。風通しの良くなった自分の部屋を思い出しつつルシエラはフローレンスに同情する。


「しっかし、ルシエラも好き放題トラブル抱えてくですね。アンゼリカとか言う奴に、シルミィに、風紀委員、もう少し利口に立ち回れですよ」

「アンゼリカさんとシルミィさんはともかく、流石に風紀委員は関係ないと思いますけれど」

「うちのクラスの風紀委員、後でルシエラを生徒指導室に呼び出すとか言ってたですよ」

「まさか、どうしてわたくしが呼び出されますの? わたくし品行方正でご厄介になることなんてしていませんわ」


 思わぬ情報の追加に顔をひきつらせるルシエラ。


「昨日のそれと今のやり取りの後でそう言えるのは中々ふてぶてしいわよ、アンタ」

「ですね」


 フローレンスとセリカは顔を見合わせると揃ってミアを指さす。


「ん、仕方ないね。愛は止められないからね」


 ミアはほんのりと頬を赤らめてルシエラの腕をぎゅっと強く抱きしめた。


「ああ、余所の風紀委員にまで知られてしまってますの。わ、わたくし先んじて事実無根である旨を説明してきますわ……。校内放送で呼び出されては更に要らぬ噂が立ちますもの」


 結局話題が舞い戻ってしまった悲しみと共にルシエラが立ち上がったその時、


『1年12組所属のルシエラさん、1年12組所属のルシエラさん。直ちに生徒指導室までおいでください』


 校内放送で呼び出しのアナウンスが流れた。


「あーあ、予定通り来ちまったですね」

「酷いですわ、この身に誓ってやましいことは一切しておりませんわ。おりませんのに……」


 ──呼び出されるような理由が山ほどあるのが悲しいですわ。


 がっくりとうな垂れるルシエラ。

 破城槌で攻撃された時の下着。あれがルシエラの物だとすれば生徒指導が入っても不思議はない。

 更に昨夜のアンゼリカ。いつから窓に張り付いていたかは知らないが、壊れた部屋を見に行って彼女を見つければ一発アウト。ルシエラだって他人事なら風紀委員に一目散だ。


「ん、仕方ないから行こう。首輪、着けた方がいいかな」

「ミアさん、ミアさんは残っていてくださいまし! 一緒に行ったら余計にややこしくなりますの!」


 至って自然に寄り添うミアをルシエラが急いで引き剥がす。


「そう? 私はご主人様の所有物だって風紀委員にも見せつけたいけど」

「見せつけなくてもいいんですの、むしろ見せつけてはダメなんですの! そもそもこれは事実無根! ですから事情を説明すればちゃんと分かってくださいますわ!」


 自分に聞かせるようにそう言って、ルシエラは生徒指導室へと歩き出す。


「ルシエラ、退学になりそうなら言いなさいよ。私とセリカも謹慎ぐらいで済むよう何とか取りなしてみるから」

「安心して討ち死にしてこいです」

「そこは無実を信じてくださいましっ!」


 ルシエラは振り返って涙目で吼えるのだった。

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