エピローグ
エピローグ
眩い光が空へとあふれ出し、轟音と共に天空城が大きく揺れる。
木っ端微塵に砕かれたプリズムストーンの細かい粒子が流星群のように青空から降り注ぐ中、青空へ傾いていた天空城が徐々に次元の狭間へと消え去っていく。
それから程なくして、シャボン玉のような光の膜につつまれた少女達が一人、また一人と空から学校の敷地へと降り立ち、紙を片手に忙しなく動き回るセリカが帰還者をリストにしてチェックしていく。
「ん、終わったね」
校舎の屋上、ルシエラと並んで空を見上げていたミアが呟く。
「ええ、ミアさんのおかげですわ」
ミアと並んで空を見上げるルシエラが言う。
「ううん、二人の……皆の力」
「それは承知しておりますわ。けれど、それでも貴方のおかげと言わせて欲しいですの」
「ん、そう……。気にしないで愛だから。うん、愛だね、ご褒美だね、エロスだね」
ミアは頬を赤らめると少しだけ背伸びをしてルシエラの唇を奪おうとする。
「待ってくださいまし! 日の高いうちからそれは止めてくださいまし!」
ルシエラは慌ててミアのおでこを押さえてそれを必死に防ぐ。
「おおう、相も変わらずじゃのう主達は。これの直後にそれとは大物過ぎて言葉も出ぬわ」
空からフローレンスと共に箒に跨って降りて来たナスターシャが呆れた顔をする。
「ナスターシャさん、皆さん無事でしたかしら」
ミアのおでこを押さえつつ、顔だけナスターシャの方を向いてルシエラが尋ねる。
「うむ、生徒達は全員帰還。フローレンスが言うには連れてこられた魔法少女共も無事らしいの」
言って、ナスターシャが肘でフローレンスを小突く。
フローレンスはバツが悪そうな顔をしてもじもじとすると、
「えっと……。ごめんなさい、二人とも。私の短慮のせいで凄い迷惑をかけたわね」
深々と頭を下げてそう謝った。
「お気になさらず。おかげでわたくしも過去の因縁と決着をつけられましたから」
「ん、そうだね。気にしなくていいよ」
「そう。そう言って貰えると助かるわ」
「して、フローレンス。謝る相手を一人忘れておらぬかの?」
ほっと胸を撫で下ろすフローレンスを見ながら、ナスターシャがにやにやした顔で自らを指さす。
「はぁ? 私、姉さんには謝らないから」
「ほほう、誰とは言うておらぬのじゃがのう。あれかの、ちゃんと自覚はしておるのかの?」
「状況判断よ。姉さんの浅慮なんてお見通しですからねーだ」
毎度お馴染みの言い争いを始める二人。
そこに思いもよらぬ人物が現れた。
「おーい、元気かね皆の衆」
慌ただしい周囲などどこ吹く風と、にこやかに手をあげてやって来るローズ。
「ローズさん! どうしてここに?」
思わぬ再会にルシエラが目を丸くする。
「ルシエラさん。この人、誰?」
そんなルシエラにミアが小さく首を傾げた。
「私? 田舎のお得意様でルシちゃんを入学させた張本人。プリズムストーンの在処を知ってけしかけた張本人でもあるかな。でもここまで派手な解決だとは思ってなかったよ。はははぁ、こりゃ後始末が思いやられるねぇ!」
ローズは田舎の酒場で会った時と同じように、あっけらかんとした笑顔で言う。
「ローズさん……。もしかしてプリズムストーンの危険性を知っていて、解決のためにわたくしを入学させましたの?」
「そりゃあ、勿論。ルシちゃんの凄さは流石に想定外だったけどさ、嬉しい誤算だよね。あれっ、もしかして私って影の功労者じゃない? 誰か褒めてよ」
「くは! のこのこ遅れてきた愚物が世迷いごとをのたもうておるわ!」
「ほんっとう! 今の今までほっつき歩いていたくせに! いけしゃあしゃあとよく言えるわね、このダメ人間!」
言い争っていたナスターシャとフローレンスが揃ってローズの方へと向き直り、容赦ない言葉を浴びせていく。
「あら、お二人もローズさんと知り合いですの?」
「知り合いも何も、あのダメ人間はこの国の魔法を統括する魔法総省の長官で……」
腕を組んでローズを睨みつけるフローレンス。
「更におぞましいことに妾達の母親じゃ」
同じように腕を組んでローズを睨みつけ、ナスターシャが言う。
「え、えええっ!?」
──若い、若いですわ。ローズさん! おいくつなんですの!?
「ま、そう言うこと。ちょっと反抗期な姉妹だけど根はいい子達だからさ、仲良くしてあげてよ二人とも」
ローズは嫌そうな顔をするナスターシャとフローレンスを抱き寄せると、にんまりと笑ってみせる。
「さあさあ、ナスちゃんとフロちゃんは後始末手伝ってよ。どう考えてもこれから酷い重労働になるんだよー」
ローズがナスターシャとフローレンスの背中を押し、二人がぶつくさ言いながら屋上を後にしていく。
「なんとも……。愉快な一家ですわね」
「ん」
それを呆然と見送るミアとルシエラ。
と、そこに何かを思い出したらしいローズが戻って来た。
「そうだそうだ、大切なことを忘れてた。ルシちゃんの目的は達成したんだよね。なら、この学校に留まる理由もない訳で……これからどうするつもりだい?」
戻ってきたローズは、真剣な顔をしてルシエラにそう尋ねる。
ルシエラはミアと顔を見合わせ、ミアが頷く。
「どうするも何も、このまま学生生活を送らせていただきますわ。わたくし、因縁だけではなく郷土の期待も背負って来ておりますから」
「……そっかそっか、そりゃそうだ。君には村の皆も居るんだもんね、いやぁ我ながら愚問だったなぁ。じゃあ私から君に贈る言葉はこれ一つで充分だよね」
ルシエラの言葉を聞いたローズは嬉しそうに笑って咳ばらいをする。
「入学おめでとう。仲間と一緒に学生生活を楽しんでおいで」
今回で第一章完結となります
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