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ダークプリンセスはそれでも魔法少女に勝てない  作者: 文月なご
第一章 魔法少女アルカステラ
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4話 女王の凱旋5

 光の中に見えるおぼろげな風景。

 戦闘で壊れたはずの部屋に傷はなく、今はいはずの生活感が残っている。そして、そこに佇む母の面影。


 ──これは走馬灯、それともプリズムストーンの見せる幻ですかしら? ああ、そうですのね。今戦っていたこの部屋、昔はわたくしの部屋だった場所でしたのね。忘れておりましたわ。


 ルシエラにとってその記憶はもう遠い昔。この部屋が自分の居場所だったのはこの城を失うよりも遥に前のこと、母が居た頃までの話だ。

 母はベッドで眠る幼いルシエラに優しい眼差しを向け、自らの首にさげた玉石に手を当て子守歌のように言葉を紡いでいた。


「プリズムストーンは願いの玉石、歴代女王が蓄えた無限の魔力で願いを叶える。無限の魔力は魔法となり奇跡となって願う貴方の力となるでしょう。だから私もこの石に願いを込める。共に歩めぬ貴方の力となる様に」


 ──お母様、申し訳ありませんわ。わたくし、女王に相応しくない、貴方に顔向けできない行いをしてきましたの。けれど最期にその分の禊はできたはずですわ。


 母と幼い自分の幻をじっと眺め、ルシエラは心の内でそう呟く。

 ようやく乗り越えたと思っていた幼い頃の孤独、なのに結局今際に思い出す心残りはこれだったのか。それが少し悔しい。


「そうですか? その割に貴方は随分と悲しげな顔をしているようですが、心残りがあるのではありませんか」


 ルシエラはその言葉に顔をあげて母の幻を見る。

 母の幻はルシエラを見て優しく微笑んだ。


「お母様……」

「プリズムストーンは願いの魔石。私も一つの願いを込めました、それは願う貴方の力となること。さあ問いましょう、貴方の願いは何ですか。その願い、叶えてみせましょう」


 ──わたくしの願いは。


 もっと自分を見て欲しかった。母の面影を見て疼く心が告げるその答えにルシエラは小さく首を横に振る。

 それは昔の自分が願った答えだ。今のルシエラの答えではない。

 今のルシエラはこの疼きを、あの時乗り越えられなかったあの想いを昇華しきることができる。それは今のルシエラが孤独ではないから、皆が居てくれるからだ。ならば答えは一つしかない。


「わたくしは皆を守りたいですわ、願いはそれで十分。これからの道行きにプリズムストーンの力も、思い出の揺り篭も必要ありませんわ」


 それは奇しくも宿命のライバルたるミアと同じ答え。

 ルシエラは凛然とした眼差しで母の面影を見据え、それを見た母の面影がくすりと笑う。


「大きくなりましたね、ルシエラ。ですが少しだけ困りました、それでは私の願いが叶わない。ならばせめてこの場を収める力となりましょう。それが貴方に何もしてやれなかったこの母からの餞別です」


 周囲の風景が白い光に包まれていく中、ルシエラは優しく微笑む母の幻に背を向ける。

 やがて視界全てが白く染まり、視界が戻った頃にはルシエラは戦闘で荒れた元自室に戻っていた。


「お母様……貴方の餞別、受け取りましたわ」


 傷が癒え、魔力の戻った自らの体を見たルシエラは、目の前の床に転がったプリズムストーンの破片を拾い上げてそう呟く。

 期待していますよ。いってらっしゃい、ルシエラ。そんな言葉が微かに聞こえた気がした。


   ***


 ミアがその異常に気がづいたのは魔法少女とネガティブビーストを粗方倒し終えた時、いざルシエラの手助けに行こうと思っていた矢先のことだった。

 飛翔していたミアが大広間に足をつけると、先程までは無かった不自然な振動が天空城を揺らしていることに気づく。

 最初、ミアは下で起っている戦闘による振動だと思った。だがその後、大広間が部屋ごと傾いたことでそれが間違いであると思い知る。


「まさか、天空城が傾いてる……?」


 今、天空城は魔法学校上空と次元の狭間の境界上に浮かんでいたはず。

 次元の狭間に墜ちるならばさして問題はない。だが、魔法学校上空に落下したらもう目も当てられない。流石のミアも一人で生徒全員を助けられるはずもない。


「動力室。下のはず……!」


 こうなっている理由はほぼ間違いなく天空城を維持している動力魔石の異常。

 ミアが急ぎ動力室へ向かおうとしたその時、床を勢いよくぶち抜いておぞましい影の異形が姿を現した。


『ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!! 痛ぇペコぉ!! 魔力が漏れ出す! 漏れ出すぅ!! もっと、もっとぉ! もっと魔力を寄こすペコォ!!』

「っ! ピョコミン!? ネガティブビーストになったんだ……!」


 力任せに暴れる影の腕を飛び退いて躱し、ミアはその醜悪極まりない全貌を確認する。

 先に起こっていた戦闘で手痛い一撃を受けたのだろう。その影の体は刻一刻と消失し、ピョコミンはその渇きを癒すためなのか、這いずりながら床やら壁やらを手当たり次第に触手で取り込んでいた。


『PEKOOOOOOOO……。魔力、まりょくぅう……!』


 ピョコミンはミアの呟きにも反応せずに鈴の音を鳴らすと、変身解除され床に転がる少女達を自らの近くへと無理やり呼び寄せ──一気に捕食する。


「んっ!」


 それを見たミアが一気に駆け踏み込んで杖一閃。


『こんなんじゃたりねぇ、たりねぇ、たりねぇペコォ……!』


 うめき声をあげながら、ピョコミンが影の手を振り回してそれを阻む。

 弾かれたミアは空中でくるりとバク転すると体勢を整え、黄金の魔力を纏って再び踏み込もうとするが、ピョコミンの体に気が付きそのまま着地する。

 ピョコミンの体からは誰かの髪や手足など体の一部がはみ出している。恐らく事前に取り込んでいた魔法少女達の体の一部だろう。


「攻めにくい……」


 状況を把握したミアが呟く。

 偶然生まれてしまった肉の盾。彼女達が完全に影に取り込まれていれば何の問題もなかった。しかし、ここまで分離しかけているのなら攻撃の余波で少女達も甚大なダメージを受けてしまうはずだ。


『コヒュウ……。どうしてミアちゃんがアルカステラに変身しているペコ? お前はピョコミン抜きじゃ無価値でないといけないんだペコ』


 ミアが攻撃をためらっている隙にピョコミンは捕食を終え、魔法少女を取り込んで僅かに平常心を取り戻してしまう。


「私には……ルシエラさんが、皆が居るから」

『黙れ! お前は無価値ペコ! 無価値に戻れペコおぉ!!』


 ピョコミンが魔力砲の光線を放ち、それをミアが杖で両断。霧散させる。


「……今のは天空城の防衛機構。やっぱりこの異常の原因はピョコミン、だったね」


 あの様子では動力となる魔石も取り込んでいるのだろう。ならば一刻も早く無力化する必要がある。


『はーっ、はーっ……。たりねええ! たりねええええ! たった一発で腹が減ってたまんねぇよおぉお! まりょく! まりょく! まああありょくうううう!!』


 ピョコミンが絶叫し、周囲にレーザーを放ちながら影の手を振り回す。

 それに合わせて城の壁が激しく崩れ、傾いていた天空城の床が更に大きく傾いていく。


「ピョコミンが天空城の動力を使ってるんだ。急がないと……!」


 もはや事態は一刻の猶予もない。アルカステラに変身しているミアにとって、天空城の傾きなど戦闘には一切影響しない。

 だが、落下を遅らせるためには天空城の動力を早々にピョコミンから切り離す必要があり、それをすれば肉盾となっている少女達が巻き添えとなってしまう。

 時間制限がある中、一人でそれをすることなど到底不可能。ミアはピョコミンの攻撃を躱しながら唇を噛み締める。


「でも、諦めない……!」


 自らの弱い心を打ち砕くようにミアは力強くそう言うと、魔力の翼をより一層激しく吹き上がらせる。

 大規模攻撃で少女達を巻き添えにしてしまうのならば、素早く動いて一片毎に切り刻めばいいだけのこと。後は時間との勝負だ。


「それでこそ我が宿命のライバルです。ですが、誰かを頼ることもお忘れなく。貴方も独りではありませんのよ」


 その言葉にミアが足を止めて視線を移す。


 そこにはルシエラが悠然と立っていた。その立ち姿はいつも通り凛然そのもの、先程までの怪我の影響は微塵も感じない。


「ルシエラさん。無事だったんだね、良かった」

「ええ、今成すべき事も分かっていますわ。天空城の落下を阻止する為にあの害獣を駆除する。勿論、取り込まれた方々も助けてですわよね」


 言いながらルシエラはミアの横に並び立つと、自らの影から漆黒剣を引き抜く。


「ルシエラさん、まだ戦えるの……?」

「ええ、プリズムストーンの欠片のおかげで完調ですわ。おかげでずっと心に刺さっていた棘も抜けましたし……遠い昔の願いが、ようやく叶いましたの」


 ミアの問いに、手にした欠片を見せてルシエラが微笑む。


「ん、そう。ルシエラさんが一緒なら怖いもの、無いね」


 それを見たミアは前に向き直り、暴れ回るピョコミンを見据える。


「それじゃ……どうやってアレを倒そう?」

「簡単ですわ。影も残らぬほどに照らしてやればいいだけのこと。プリズムストーンよりも眩しいわたくし達の輝きで!」


 ルシエラは手にしていたプリズムストーンの欠片を握り砕く。

 瞬間、ルシエラの漆黒剣がプリズムストーンと同じ眩い光へと変化した。


「さあ、わたくしが影を払いますわ! ミアさんはその隙に動力魔石と魔法少女を繋げているプリズムストーンの残骸を壊してくださいまし!」


 言い終えるのを待たず、ピョコミンへ向けて駆けるルシエラ。


「分かった!」


 ミアも頷いてそれに続く。


『まりょく! まりょくぅぅぅ! 強大な魔力うぅぅぅ! それをよこせ! よこせ! それはピョコミンのものだ! さっさとよこすぺこおおおおおお!』


 二人の莫大な魔力に反応し、力任せに暴れていたピョコミンが向き直って一斉に触手を伸ばす。


「笑止! 求める願いもなく、ただ単に力を求める貴方ではどんな力も宝の持ち腐れですわ!」


 ルシエラは眩く輝く剣で触手を打ち払い、一直線にピョコミン本体へと迫ると、


「さらば! 我が孤独なる過去! プリズムストーンと天空城と共に舞い散るがいいですわ!」


 眩い光の嵐となった剣を振り下ろし、ピョコミンの纏う影全てを、プリズムストーンと接続されていた魔法少女達全てを吹き飛ばす。


「今ですわ、ミアさん!」

「ん、分かった!」


 同時、天高く跳躍していたミアが身を捻って杖を構え、


「人の心の願い星! 闇を切り裂く流れ星! 輝け想いの一等星! アルカステラ! 今、成敗っ!!」


 黄金の翼をロケット噴射のように吹き出しながら垂直降下。


『UWAAAAAAA! POWERRRRRRRRRRRR! PEKOAAAAAAAAAAA!!』


 一筋の光となったミアが衝撃波と魔力の奔流を伴ってプリズムストーンの残骸を霧散させ、それに接続していたピョコミン諸共光の中へと消し飛ばした。

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[良い点] 何だと思うけどまじで展開が熱くてかっこいい
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