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ダークプリンセスはそれでも魔法少女に勝てない  作者: 文月なご
第一章 魔法少女アルカステラ
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2話 マジカルペットは害獣です9

 ミアがセリカと対峙していた頃、ブリジットに連れられたルシエラは校舎から少し離れた野外演習場へとやって来ていた。


「これだけ大きな街にも、こんな野趣にあふれた場所がありますのね」


 演習場の奥へ奥へと進んでいくブリジットの背中を視界に収めつつ、ルシエラは田舎の風景に少し似た森を見回して言う。


「ええ、上級生になるとここで実戦訓練を行うんですよ」


 ──校舎も木々の合間に隠れてほとんど見えない。そろそろ頃合いですかしら。


「……では、わたくしは今からそれを先輩と一足早く体験できますのね」


 ルシエラは歩く足を止め、すうと小さく息を吸って言う。

 それを聞くや否や、ブリジットは驚きの表情と共に飛び退いて間合いを取った。


「そうだと思いましたわ。やはり荒事のお誘いでしたのね」

「っ! どうして気が付いたの……?」

「田舎で狩人の方が言っておりましたわ、狩人は殺気を消して獲物を待つものだと。その点、先輩は素人のわたくしでも分かるほどの殺気を出しておりましたわよ」


 訝しみながら睨みつけるブリジット。対するルシエラは彼女の心を見透かしたように薄い笑みを浮かべる。

 口では殺気と言ったが、気が付いた理由はそれだけではない。彼女から感じる魔力の流れは全く無駄がないのだ。

 そんな芸当ができるのは余程の大魔法使いか、魔力調律をして他人の魔力運用を効率化できるマジカルペットの補助を受けたかのどちらかだ。

 そして、列車での彼女は大魔法使いのような魔力運用をしていなかった。つまりは後者、ピョコミンの差し金に違いない。


「貴方をけしかけたのはあの害獣でしょう? こんなにも直接的に攻めてくるなんて、ミアさんを奪ったわたくしに余程お冠ですのね」


 ルシエラは腕を組みながら余裕の態度を崩さずに言う。

 いくら魔力効率が最大まで高まっていようとも、それを実際に行使する彼女はまだまだ未熟。ならば自らの敵ではないだろう。


「あら、それを知っていてそんなに余裕でいいんですか?」


 対するブリジットも余裕の態度を崩さない。


「あら、わたくしが脅威に感じる要素などありましたかしら。わたくし、地元で魔物退治を何度もしておりましたの。貴方より戦闘経験はあるつもりですけれど」


 ルシエラの言葉にブリジットは口を歪めると、


「変身!」


 胸元から取り出したペンダントを天に掲げた。


 瞬時、彼女の制服が光の粒子となり、その粒子に照らされるようにその姿が眩く輝く。制服だった光の粒子がアイドルのようなフリルの衣装に組みなおされ、最後にパステルカラーの剣が顕現した。


「魔法少女、ですのっ!」


 ──まさかあの害獣、こうも気軽にマジックアイテムを配っているとは! この世界に悪影響を与えるような行いをして一体何を企んでおりますの!?


 先程のブリジットのように、今度はルシエラが驚き飛び退く。

 無意識のうちに自らが持つ変身用ペンダントに手を当てるが、変身自体は思いとどまる。

 ルシエラがブリジットを認識できているように、変身時に発動する認識阻害の魔法は認識されていない状態で使わなければ意味がない。

 彼女がピョコミンの手駒だとわかっている以上、正体を露呈させる訳にはいかない。



「うふふっ、ようやく驚いてくれましたね。ピョコミンさんと契約したんですよ、この力を貰う代わりに貴方を再起不能にしろって」


 魔法少女となったブリジットはルシエラに対して手にした武器を向ける。


「契約だのとオブラートに包んでおりますけれど……詰まる所、努力を放棄して安易な力を得ただけのお話でしょう?」


 昂揚した表情で嬉々として語るブリジット。そんな彼女にルシエラは軽蔑の眼差しを向けた。

 ダークプリンセスと言う眼前の脅威に対抗すべく止むを得ず魔法少女になったミア達と違い、彼女に対抗すべき脅威などないはずだ。ならばその力は怠慢の象徴でしかない。


「ふふっ、そう言う口が聞けるのも最後なんです。好きに言っていいですよ。潜在能力を限界まで発揮した私達にはどうせ勝てないんですから」

「御託は結構、さっさとおいでくださいまし。どうせミアさん達にもちょっかいを出しているのでしょう?」


 ルシエラは不愉快そうにそう言って、木々の合間から僅かに見える校舎を一瞥する。

 先程、校舎の上に黒い影が見えた。この少女が魔法少女に変身した以上、あれがネガティブビーストである可能性は極めて高い。ならば戯れている暇はない。


「下級生が偉そうに! ならこっちから行きますよ!」


 ブリジットが手にしたを武器を掲げると、大気が渦巻き木々が葉を揺らしてざわめきだす。

 そして、掲げた武器をルシエラへと向けなおすと同時、渦巻く大気が無数の風刃となってルシエラへと襲い掛かった。


「急に莫大な魔力を行使できるようになった故の全能感ですわね。予想通りの安易な手ですわ」


 対するルシエラはつかつかと歩み出てブリジットとの距離を詰めながら、自らの影から漆黒剣を引き抜く。


「それは──!?」


 それを見たブリジットが驚きの声をあげ終わるよりも早く、ルシエラは漆黒剣を舞わせて風刃を全て斬り伏せると、


「昔からの愛刀ですわ。物騒な代物ですけれど、先に刃を向けたのはそちらであることをお忘れなきよう」


 返す刃で次いで撃ち込まれた氷弾を撃ち落としながらそう答えた。


「魔法斬り! でも、それぐらいなら剣の達人ならできますっ!」


 思わぬ反撃にブリジットは焦りの表情を浮かべつつも、手を滑らせて特大の火球を打ち出す。


「そうですわね。ですが、わたくしの剣技の冴えは甘くありませんわよ」


 そんなことは百も承知。ルシエラはあえて剣の達人ならば可能な範疇で戦っているのだ。それならば、いまだ魔物の闊歩するド田舎で鍛えられた剣技だと言い訳ができる。


「チッ! なら達人さん、これでどうですか!?」


 火球を撃ち終えたブリジットは、それを追い越す速度で突進してルシエラへと斬りかかる。


「確かに半端な達人では勝てない力だと思いますわ。ですが、その力ですることが一学生を痛めつけるだけというのはあまりに情けないですわね」


 魔法と斬撃による高速連携攻撃。

 ルシエラは悠々と火球を避けると、軽く飛び退いて振り下ろされた魔法の刃を躱し、返す刃でブリジットの首にある変身用のペンダントを両断する。


「あっ──!」


 ペンダントを失ったことにより、ブリジットが手にした武器と魔法少女の衣装が光の粒子となって消失し、全裸になったブリジットは真っ赤な顔で胸を隠してその場にしゃがみこんだ。


「大切なことは得た力で何をするかですの。折角得た力、悪行などに使っていては後悔しますわよ。……もっとも、力の由来があの害獣である場合はもれなく悪行になってしまいますけれど」


 ルシエラはブリジットを見下ろしながら、かつての自分を思い出して言う。

 プリズムストーンと変身用ペンダント。母親から貰った二つの力を悪行に使ったことはいまだ悔恨してもし足りない。


「……そうですか。なら貴方はその力、さぞ人の役に立つことに使うんでしょうね」

「勿論、わたくしは悪行に使いませんわ」


 ──今度こそ。


 睨みつけるブリジットにルシエラは即答する。

 今更言うまでもない。今度はその二つの力を正しく使うことでプリズムストーンの汚名を返上し、自らにその力を託した母が間違いでなかったと証明しなければならない。

 悔しげに唇を噛み締めるブリジットに背を向け、ルシエラは学校の敷地へと急ぎ戻るのだった。

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