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ダークプリンセスはそれでも魔法少女に勝てない  作者: 文月なご
第五章 願い巡るプリズム
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19話 【ナイトパレード】4


 ──平常心ですの、平常心ですの。村の羊たちを思い出すんですの。いっぴき、にひき、さんびき、めにーめにーですの……。


 クロエの錫杖を手にしたルシエラは、心の中で自己暗示をかけつつ表情を取り繕うと、女王らしい振る舞いを心掛けながら紅い絨毯の敷かれた階段を下る。

 かつては毎日していた所作だが、何しろ五年以上のブランクがある。気を抜けば村に居た頃のような雑な動きになってしまいそうだ。


 そんなルシエラの緊張が逆に程よい威圧感に見えたのか、集まる面々は揃って神妙な顔でごくりと息をのみ、女王の一挙手一投足を無言で待っていた。

 ルシエラは階段を下りて人々の前に立つと、その横にアンゼリカとカミナが控えた。


「此度は我が母アルマが起こした事態、大変心苦しく思いますわ」


 演技っぽくならないよう、努めて優雅かつ自然にを心掛けてルシエラが言う。

 最前列に立つ老紳士がルシエラの言葉で我に返り、両膝をつこうとする、


「今は緊急時、そのような格式ばった作法はお互い不要といたしましょう」


 ルシエラはそれを制止すると、優雅に微笑んで誤魔化す。

 しっかりとした作法で出迎えられてしまえば、当然自分もしっかりとした作法で返さなければならない。

 付け焼刃のルシエラににしてみれば、それはボロを出すリスクが跳ね上がる危険行為。それっぽく理由をつけて避けるのが一番だ、


 ──と言うか、アンゼリカさん達も横に控えているのなら、いいかダメかこっそり教えて欲しいですの。


 魔法にも礼儀作法にも長けた二人ならば、他者にわからぬようこっそりと教えられるはず。

 察してくれないだろうかと、さりげなく視線を二人に向けてみるが、二人は素知らぬ顔の余所行きモードで脇に控えるだけだった。


「や、失礼ながら、貴方は先程のメイドでは……」


 と、一難去ってまた一難。

 気づいてはならない事実に気づいてしまった最前列の貴婦人が、恐る恐るとんでもないことを口に出してしまった。


「ぎくっ!」


 ぎくりと小さく身震いし、内心で慌てふためくルシエラ。

 勘のいい相手なら気付きもするだろう。ルシエラは女王としてこんな登場をするとは思いもよらず、堂々とした方がバレないと開き直って会場を動き回っていたのだ。

 その上、大宮殿に移動する直前、一同の前で勇ましく啖呵まで切ってしまっている。


 ──ぐむむ! なんてことをしでかしてくれましたの、少し前の自分!


「申し訳ありません。わたくし達魔法の国(グランマギア)はこのような事態が起こることを危惧しておりましたの。不作法ながら会場に紛れて人を見極めさせていただきましたわ」


 だが、この状況で動揺を顔に出すことは許されない。

 ルシエラは咄嗟に頭をフル回転させ、何とかそれっぽい理由をこじつける。

 更にツッコまれたら危険だが、この緊迫した状況下で異世界の女王相手にそんな深堀はしてこないだろう。お願いだからしないで欲しい。


「なるほど、そいうことでしたか……。いや、一目で只者ではないメイドだと思いました」


 その願いが通じたらしく、相手は納得した様子で頷いてくれた。

 微妙に想定とは微妙に違う反応だったが、納得してくれたのなら好都合。こういう時はさっさと次の話題に移って会話で押し流すに限る。


「両国の友好を願う場でこのような事態が起こったのは誠に遺憾ですわ。されど起こってしまった以上、今は事態解決のため一致団結すべきでしょう」

「ここに来る直前に言っていた、立ち向かう覚悟と言うことですな」

「ええ。勿論、魔法戦の矢面に立てと言う訳ではありません。直接の決着はわたくしがつけます。されどアルマテニアの民を守り、街を、国を守る。それはわたくし達魔法の国だけでは成し得ませんわ」


 言って、ルシエラがエントランスを見渡せば、皆の瞳には確かな決意と戦意が宿っていた。

 大宮殿に乗り込む前に言っていたように、一同の覚悟は決まっているということだろう。


「セリカ、アンタの出番よ。一応王族なんだからアルマテニアを代表して、一発話を締めてきなさいよ」

「おい、バカ! 押すなです! ここでセリカがしゃしゃり出たら、出たがりのバカ殿ムーブじゃねーですか!」


 フローレンスに背中を押されたセリカは、慌てて踏ん張って立ち止まり、フローレンスを非難する。


「だって、皆やる気満々だけど、独断専行したんじゃ責任の所在とかで後々面倒ごとになりそうじゃない。その点、アルマテニア王家が決めたんなら外野も文句言えないでしょ」

「ばっちゃが決めたならそうですけど、決めたのがセリカじゃ結局同じことですよ!」

「全く、お主達には呆れるのう。仕方あるまい、その役目、妾が代わってやるとするかの」


 エントランスホールの隅で言い争う二人を見て苦笑しつつ、ナスターシャが人をかき分けてルシエラの前へと歩み出る。


「な、なんというか、奇抜な格好だ。魔法の国には個性的な方がいらっしゃいますな……」

「バカ、あれはブランヴァイス家の長女だ」

「あ、ああ……。あれが天才だか天災だかわからないと評判の……」

「ウチの所も、将官が叩きのめされて泣きじゃくっていたぞ」

「あの性格でとびきりの天才なのが本当に始末に負えん」

「魔法の国の方々に我が国が誤解されないだろうか、心配だ」


 その姿を見た人々はひそひそと囁き合い、ナスターシャがアンタッチャブルな生き物であると共通認識が作り上げられていく。


「妾達アルマテニア魔法総省は魔法の国と協力し、白きアルマの打倒に協力する。妾は魔法総省長官の代理としてこの場に居る。これは魔法総省としての正式な決定じゃ」


 そんな共通認識なぞどこ吹く風、ナスターシャはローズから預かっているブローチを見せつけると、いつも通り自信満々の顔でそう宣言する。


「魔法総省は全ての魔法災害に緊急対応できる権限と責任を有する。超高度であろうとこれは魔法による災害の一種じゃ、越権行為とは言わせぬぞ」

「言わんとも、よく言った! 恥ずかしき恰好の若人! 我々アルマテニア大神殿もその意見を支持する! 我々の信仰すべきアルマ様はあの禍々しき白い方ではない!」


 それに続いて一歩前に進み出たのは、アルマテニア法王の男だった。


「ハッ、だから狂信者は困るんだ。いつも一人だけで盛り上がっているが、白きアルマ様に立ち向かう覚悟はこの場に居る全員が持っているんだからな」


 魔法科学大臣をしている男もそれに並び立つ。


「そう言うことです。守るべきは我らがアルマテニアの大地、微力ながらお手伝いをさせていただきたい」

「勿論、我々も」

「ご安心いただきたい、我等の中に臆する腑抜けはおりません。先程貴方に問われた時、全員が戦うと覚悟を決めております」


 次々と前に進み出るパーティの参加者達。


 ──なんとも、たくましい方々ですの。流石はこの国を担って来た方々ですわね。


 昨日まで使っていた魔法と別物とも言える代物を見せられながら、こうも早く戦う気力を取り戻せることにルシエラは感服する。きっと、これがアルマテニアと言う大国の意地なのだろう。

 そう感心していたルシエラの影が伸び、黒い影となったクロエがルシエラのドレスを伝って這いあがって来る。


「ルシエラ、急ぎ彼等を地上へ返しなさい。せっかく昂揚した士気が無に帰りますよ」


 そして、そのまま耳元まで這い上がると、クロエは影の姿のままそう囁いた。


「クロエさん?」

「もう一人の私が動き出しました。彼等を大宮殿に残さぬ方がいいでしょう」


 ルシエラがナスターシャに目配せし、ナスターシャがそれに頷く。


「それでは一度皆様を地上に送り届けますわ。これから何が起こるかわかりません、まずは民に寄り添い不安を取り除いてあげてくださいまし」


 ルシエラはそれっぽい言葉でまとめると、錫杖を一突きし、極大の転移魔法陣を展開。

 有無を言わさずパーティの参加者を地上へと転送する。


 直後、大宮殿に激しい衝撃が走り、大きく揺れた。

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