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ダークプリンセスはそれでも魔法少女に勝てない  作者: 文月なご
第五章 願い巡るプリズム
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19話 【ナイトパレード】3

「非道ですの、外道ですの、鬼畜ですのっ!」


 無理やり服を脱がされ、部屋の端に追い詰められたルシエラが、まるだしの胸を必死に手で隠しながらミアとアンゼリカを睨みつける。


「ルシエラさんが悪いんだよ。恥ずかしがって脱がないから」


 何故か自らも下着姿になっているミアが、ルシエラの腕を掴んで胸から引きはがそうとする。


「じ、自分で着替えますの! 服だけ、服だけ渡してくださいまし!」


 涙目で首を横に振るルシエラ。


「それじゃあ私達が愉しめないじゃないですか」


 ミアの後ろ、レースの黒い下着を手にしたアンゼリカがそう言い、


「ね」


 半ばルシエラに覆いかぶさっているミアがそれに同意する。


「ね、じゃありませんの! やっぱり私欲ではありませんの!」

「私欲じゃないよ、性欲だよ」


 言いながら、ルシエラの腕を掴むミアの手に力が入る。


「な、猶更悪いですの! 隣の部屋にはクロエさんも居ますの、健全! 健全にお願いしますの!」

「ぐへへ、部屋は消音の魔法がかかってますから大丈夫ですよ~」

「なんなら、そっちの方が盛り上がるし、ね」


 邪な笑みを浮かべてにじり寄る二人。

 ルシエラ必死の主張も、だらしなく顔を綻ばせる二人の行動をエスカレートさせるだけだった。


「止めてくださいまし、止めてくださいましーっ!?」


 結局、ルシエラは着替えが終わるまで二人に容赦なく弄ばれたのだった。




「うへへ、これで私達もやる気が出るってもんですよ」

「ね」


 その後の控え室、着替えを終えたルシエラの横で、ミアとアンゼリカがほくほく顔をしていた。


「うぅ……。トラウマものの容赦ない精神的凌辱行為が行われましたの」


 一方、黒いドレス姿に着替えたルシエラは意気消沈していた。


「別に似合っているではないですか、そんな表情をする必要などないと思いますが」


 そんなルシエラ達を見て、クロエが真顔で的外れな慰めをしてくれる。

 そうではなくて、その過程が問題だったのだと反論しようとするルシエラだったが、自分の母でもある存在にそんなことを言えるはずもなかった。


 ──あら、そう言えばクロエさん、今似合っていると褒めてくださいましたの?


 と、そこでさりげなくクロエが褒めていたことに気づき、ハッと顔をあげてクロエを見るルシエラ。母に褒められるなどいつ以来の出来事だろうか。

 一方のクロエもじっとルシエラの顔を見つめていた。


「……クロエさん?」

「ほんの些細な感傷です。私は魔法の国の宰相として、女王としての貴方を後から見てきました。されどあの時、今と同じように貴方を見れていたのなら、今どうなっていたのだろうかと。それだけです」


 どことなく寂しげな表情で言うクロエ。


 ──クロエさん、仮面の下ではこんな顔をしていたのですわね。


 クロエを見つめたままのルシエラに行動を促すため、ミアとアンゼリカが両脇からバシバシと小突いてくる。


 ──んもう、本当に頼りになるお二人ですわね。さっきまでの酷さと温度差で風邪をひきそうですの。


「どうして過去のことのように話しますの。別に今からでも遅くないでしょう。今のように正面から向き合ってくれるのなら」


 "きっと自分ももう少し素直に向き合えるのに"と、言外にルシエラは続けた。


「そうなのでしょうね。ですが……私も、もう一人の私と同じように触れるのが怖いのですよ。結局、人は人であろうとした私を同胞であると認めなかった。故に人に寄り添い続けることを選んだ時、正体を隠す仮面を着けて紛れることを選んだのかもしれません」


 クロエは遠い目をしてそう言うと、ルシエラに背を向けて部屋扉へと向かう。


「我ながら面白くもない話をしました。随分と待たせてしまったようです」


 言いながらクロエが扉を開けると、そこにはカミナが立っていた。


「おや、カミナさん。そこでずっと待ってたんです?」

「うふふ、それがマナーではなくて? 私は貴方達のように野暮ではないの」

「ん、野暮なのは確かにそう」


 カミナは口元に手を当てて愉快そうに笑う。


「それで……。そこまでして待っていたと言うことは、わたくし達に用事があるのですわね」

「ええ、女王となった貴方に一つ頼みがあるの。私をグリュンベルデの当主に任命して欲しいのよ」


 胸に手を当て、カミナが眼差しを鋭くして言う。


「グリュンベルデの立ち場を維持するため、ですわね」


 その言葉にルシエラが重々しく頷く。

 かつてエズメ・ヴェルトロンがクロエに反旗を翻した時、アネットが事態解決の立役者となることでヴェルトロン家は御三家としての存続を許された。

 そして今、ユーリア・グリュンベルデはアルマに与している。グリュンベルデ家の存続を考えれば、当主となったカミナが先代を打ち倒して事件解決の功労者となった、そんなストーリーがある方が都合がいい。


「勿論、それも理由の一つではあるのだけれどね」

「あら、他にも理由がありますの?」


 カミナは少し顔を俯かせて苦笑する。


「ユーリア・グリュンベルデが着けている当主の仮面を剥ぎ取ってやりたいの。貴方を追放した時も、私を生贄の巫女にした時も、今し方も、その言葉はグリュンベルデとしての務めだけ。自分自身の意志だとは決して言わない」

「本音を……聞きたいのですわね」

「ええ、本当にそう思っているのなら解放してあげたい。それがエゴのための方便なら叩き潰してあげたい。どちらにせよ、仮面を着けて逃げられていては向き合えないでしょう?」


 カミナの言葉にルシエラがクロエを一瞥し、クロエが僅かに苦い顔をした。

 確かにクロエの顔が見えるようになり、ルシエラとクロエの距離は少しだけ縮んだ気がする。


「理由はわかりましたわ。……ならばカミナさん、背負う覚悟はありますかしら」


 グリュンベルデを背負う覚悟、魔法の国の御三家である覚悟、実の母親と戦う覚悟。カミナには多くの覚悟が必要となる。

 無論、カミナがこの場に居る以上、回答はわかっている。だが今一度問う、問わなければならない。


「あるわ。今更問われるまでもないと思うのだけれど」


 己の目を見て問うてくるルシエラから目を逸らさず、カミナはいつものように優雅に笑った。


「そうでしょうね。クロエさん、記録をお願いいたします」

「やれやれ。このクロエに書記の真似事をさせるとは、それが再び女王となった貴方の初仕事なのですか」


 クロエは悪態をつきながら足元に黒い魔法陣を展開し、虚空から取り出した専用の容姿に魔力で文字を焼き付けていく。

 ルシエラはそれを確認すると、小さく息をはいて凛とした表情を作る。


「カミナさん、貴方をグリュンベルデ当主と認めます。正式な手順での承認ではありませんが、これは間違いなくグランマギア女王による正当な承認ですわ」


 言って、ルシエラが虚空から取り出した漆黒剣を差し出し、


「我がグリュンベルデの忠誠、この世界が果てるまで女王陛下と共にあり続けましょう」


 カミナがそれを恭しく受け取った。

 あまりに簡略化された任命式だが、状況が状況なのだから仕方ない。


「……カミナさん、本当に世界が滅びかねないこの状況で、その文言はどうかと思いますの」

「あら、皮肉めいていて素敵でしょう」


 苦言を呈するルシエラに、カミナが悪戯っぽく笑ってみせる。


「カミナさんらしいと言えなくもないですわね。さ、急ぎましょう。ここでゆっくりし過ぎて、本当に世界の終わりが来たら元の木阿弥ですの」


 ここから先のルシエラは魔法の国の女王であらなければならない。

 ルシエラは部屋の一同を順々に見ると、両頬を軽く叩いて表情を引き締め、魔法の国の女王として部屋を出るのだった。



  ***



「ルシエラの奴、皆をほったらかして何してるのかしら」


 大宮殿のエントランス、フローレンスが不安そうな顔でセリカに愚痴る。

 パーティの参加者を連れてここまで来たはいいものの、それっきりルシエラ達からの音沙汰はない。

 そこかしこに浮かんでいるホログラムに『少々お待ちください』と表示され続けているだけだ。

 空調が行き届いている分、外よりも快適ではあるのだが、緊迫したこの状況で悠長にしている図太さは持ち合わせていない。そろそろアクションが欲しかった。


「皆物珍しそうにあちこち見てて退屈はしてないっぽいですけど、遅れるなら遅れるって言って欲しいです」

「なんじゃお主達、揃って辛気臭い顔をしておるのう」


 不安がる二人の前、いつも通りマイペースな様子のナスターシャがやって来る。


「姉さん、来てたの!?」


 フローレンスは急いでナスターシャに駆け寄ると、セリカと一緒に部屋の隅へと追い詰めていく。


「なんじゃ、なんじゃ?」

「来るなら服着て来なさいよ!」

「会長、こんな状況で余計な手間をかけさせるなです」


 二人はナスターシャを隠すように立って、そう非難する。


「別に肌は見せて減るものでもなかろうに」

「増減で論じないでちょうだい。世の中にはドレスコードってものがあるのよ!」

「今日の妾は余所行きじゃが」


 眉を吊り上げるフローレンスを見て、ナスターシャは困った顔で自らの腕に巻かれた紐を見せる。

 その紐はいつもの学年を示すリボンではなく、黒いレースの紐だった。


「だから毎回言うけど、それを服と認識しているのは姉さんだけなの!」

「おおう、ああ言えばこう言う、不条理じゃのう……」


 全く悪びれないナスターシャに、フローレンスは頭を抱えた。


「フローレンス、どうせ無駄だから諦めろです。それよりも会長、ルシエラ達を見かけなかったですか?」

「さっき一緒に戦って来たばかりじゃが」

「外で何かあったの!?」


 驚くフローレンスの口をセリカが慌てて塞ぐ。


「しーっ、せっかく落ち着いてるんだから止めろです」

「うむ、白い触手が襲って来ての。アルマテニアに害を及ぼさぬよう、撃退ついでにこの大宮殿で次元の蓋をしたそうじゃ」

「そんなことが起こってたですか、全く気付かなかったです」

「そこまで大事にはならんかったからの。後始末に時間がかかる様子もなかった故、心配せずともルシエラ達ももうすぐ来るじゃろ」


 そこまで言って、ナスターシャは自らの胸を持ち上げるように腕を組む。

 その脇でホログラムの表示が『少々お待ちください』から『女王が参ります』に切り替わった。


「フローレンス、女王来るらしいです」

「女王って……。ルシエラなのよね、多分」


 振り返るセリカ達。


「ようそこ、我が居城へ。魔法の国グランマギアの女王として歓迎いたしますわ」


 直後、エントランスに聞き慣れた声が響いた。

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