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ダークプリンセスはそれでも魔法少女に勝てない  作者: 文月なご
第五章 願い巡るプリズム
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17話 【モノクロームロンド】5

「ほう、貴様がルシエラだったか。我々を謀るとは見事なものだ」

「いやー、見事に騙されたっす。将来は役者さんっすねぇ」


 渋々修練場に出向いたルシエラとミアを、不敵な笑みを浮かべた二人の少女が出迎える。


「それで、わたくしに何の御用ですかしら」

「招待状を届けに来た」


 げんなりしつつも警戒を怠らないルシエラを見て、先輩少女が愉快そうに髪をかきあげる。


「招待状……ですの?」


 大方、ペンダントを狙って来たのだろうと思っていたルシエラは、想定外の回答に思わず聞き返す。


「そうっす。幸運なことに、アンタはアルマ様が作り出す新世界の一員になれる権利を得たっす」

「新世界とは大きく出ましたわね。そんな大仰な単語を口にする輩は、ろくでもないことを目論んでいると相場が決まっていますわ」


 新世界だの、革命だの、次のステップだの、ろくでもない悪事を企む連中は大言壮語を好むものだ。

 ルシエラもダークプリンセス時代、ミアに対して似たような台詞を沢山言って来たからよくわかる。


「フッ。かつてのお前が似た台詞を口にしてきた経験則かな」

「む、何故そのことを知ってますの」

「アルマ様はお前に興味を持っておられるのだよ。かの天空城でプリズムストーンを使い、それでも魔法少女アルカステラに惨敗し、自分で作った次元の狭間に転がり落ちたこともご存じだ」


 ──な、何でそんなことまで知ってますの!?


 恥ずかしい過去を暴露され、ルシエラは赤面しながら動揺する。

 白いアルマが自分の負け方まで知っているのはおかしい。ミアと雌雄を決したあの戦い、詳細を知る者は当事者以外に居ないはずなのだ。


「み、ミアさん! この二人をふん捕まえて情報を聞き出しますわ! 変なことを言いふらされてはたまりませんの!」

「ん、わかった」


 彼女達がどこまで知っているかはわからない。だが、もう一人の当事者であるミアの前で恥ずかしい舞台裏を暴露されては堪らない。

 二人を黙らせて情報を聞き出すべく、ルシエラはミアと共に臨戦態勢に入る。

 慌てるルシエラを見た先輩後輩の二人は、不敵な笑みを浮かべてそれを迎え撃つ。


「その態度、やはりお前が目的のルシエラらしい。ならば遠慮なく招待状を届けるとしよう、行くぞ後輩!」

「はいっす! 先輩!」


 二人は無貌の仮面を着け、極彩色の石がはめ込まれたペンダントを煌めかせる。


「さあ、変身だ」

「変身っす!」


 瞬間、仮面を着けた少女達の体がどろりと白い泥となって溶けた。


「な!?」


 咄嗟に踏みとどまるルシエラの前、二つの白い泥がスライムのようにうねり、再び人の形に捏ね上げられていく。


 ──変身!? これはどう見てもそんな類の代物ではないですの! 異形……いいえ、前回のクロエさんに近いですわ!


 白い泥はより精緻に人の姿を象り、やがて細部の違う二つの白い人形が完成する。

 完成した二つの泥人形は眩い魔力の光を放ち、修練場を白く塗りつぶしていく。やがて光が掻き消えると、白い人形のあったそこには二人の魔法少女が立っていた。


「えと、魔法少女……?」

「フッ、それ以外の何に見える」


 警戒の眼差しを向けるミアを見て、機械仕掛けの装備を着けた先輩魔法少女が、栗色の髪をかきあげニヤリと笑う。


「んっ、形は確かにそうだけど……」


 二人の動向を注視しながら、その正体を推し量るミア。彼女が警戒するのも無理なからぬ話。

 魔法少女に変身したのではなく、人の姿を真似ていた何かが別の姿に擬態しなおした。これはそう称する方が相応しい。少なくともルシエラの知る魔法少女とは別物だ。


「……何者ですの、貴方達は」

「見ての通り、魔法少女に決まってるっす」

「魔法少女とはアルマ様の巫女であり使徒。その中でも我々は新世界への先導者として選ばれた存在なのだ」

「招待状を渡すに相応しいか見せてもらうっすよ。選ばれた者の力、とくと堪能するがいいっす!」


 瞬間、魔法少女達の姿が消え、ルシエラの視界の端で機械仕掛けの刃が軋みをあげる。


「っ! 問答無用ですわね!?」


 ルシエラは跳ね跳びながら不意の一撃を漆黒剣で受け流し、


「ほう、この程度は捌いて見せるか。では次だ」


 それを確認した先輩魔法少女は腰の短銃を引き抜いて、肉薄しながら魔法弾を連射する。


「通じるものですか! ミアさん!?」

「ん、こっちも大丈夫」


 ルシエラは魔法障壁で防御を固めつつ、先輩魔法少女を蹴り飛ばして攻防を仕切りなおす。

 その隙に隣の攻防を確認、ミアは後輩魔法少女の剣撃を躱し、その腹部に拳を打ちこんでいる所だった。


「ハハッ、軽いっすねぇ!」


 だが、変身していないミアの攻撃は魔法少女に決定打を与えられない。

 後輩魔法少女はミアの拳を強引に体で受けとめながら、機械仕掛けの剣を槍状に組み替えていく。


「んっ!」


 叩きつけるように振り下ろされる機械の槍。

 ミアは転がるように攻撃を躱し、砕かれた修練場の床が勢いよく舞い上がった。


「もう逃げの一手っすか? まだこっちは軽い腕試しっすよ!」


 ジャキンジャキンと音を立て、機械仕掛けの槍をライフルへと組み替えながら後輩魔法少女が嘲笑う。


「どうしたッ! こちらもよそ見をしている暇なないぞ!」


 ルシエラがミアに気を取られている間に、先輩魔法少女が機械仕掛けの刃を高速回転させて迫ってくる。


「賢しいですの!」


 ルシエラは虚空からもう一本漆黒剣を引き抜き、逆手に構えて剣ごと先輩魔法少女を弾き飛ばす。

 先輩魔法少女は踏ん張った両足で床を削り取りながらも、背後に魔法陣を展開させて勢いを殺し、何とか修練場の敷地内に踏みとどまった。


 ──確かに戦闘スタイルは魔法少女、ですけれど!


 二人の戦い方は機械仕掛けの武器を使っていたセラに近い。

 だがやはり何かが違う、攻防の度にその違和感は強くなっていく。


「さあ、後輩! 狩るぞッ!」

「了解っす!」


 挟撃する形で立つ二人の魔法少女が各々の武器を構え、魔法を撃ち放ちながら真っ直ぐに突撃する。


「どの道、襲い掛かってくるのなら化けの皮を剥がすしかありませんわね。ミアさん!」

「ん、任せて」


 ライフルから打ち出される魔法弾を躱しながらミアが駆ける。


「ハハッ! アンタの攻撃は一度も通じてないっすよ!」


 後輩魔法少女は自らに突撃するミアを嘲笑いながら、ライフルを槍へと組み替える。


「そうだね」


 だが、ミアは武器を変形させる隙を見逃さず、後輩魔法少女の手を掴んで態勢を崩し、後ろから迫る先輩魔法少女と同士討ちさせた。


「ぐはっ!」

「ぐええっ、マジっすか! 先輩ッ!?」


 同志打ちを誘発され、動揺する二人の魔法少女。


「そちらこそ、よそ見をしている暇はありませんわよ」


 そこにルシエラが踏み込み、二人まとめて漆黒剣で両断する。

 機械仕掛けのドレスを横一文字に引き裂かれ、その場に倒れ伏す二人の魔法少女。

 ルシエラは漆黒剣を握ったまま二人を見下ろす。彼女達の正体が人ならざる者ならば、これで終わりではないはずだ。


「変身用のペンダントが壊れても、変身が解除されない……。ミアさん、やはり続きがありそうですわ」

「うん、わかってる」


 警戒する二人の前、倒れた魔法少女達の体が闇の霧となって拡散し、修練場を闇で染め上げていく。

 次いで白い魔力の光が一筋。舞台のスポットライトの如く煌めくその中心で、影絵のような黒い人影が道化のように嘲笑う。


『あらあら凄い、まあ凄い、やっぱり貴方は知ってる通り。だから私は招待状を届けるの、欠片となった私の星の煌めきを。貴方と私、願いの架け橋を』


 魔力の光が消失し、一瞬の暗黒。

 程なくして闇が晴れると、そこには一人の魔法少女が立っていた。

 恐らく年齢は十程度。白い髪、目を隠すバイザーのような黒い仮面、黒い衣装、吹き上がる白い魔力の翼。闇から這い出たようにモノクロームの魔法少女だ。


「これは……どういうこと、ですの?」


 マジカルビーストの類が顕現すると思っていたルシエラは、その魔法少女の姿を見て僅かに動揺する。

 その魔法少女の姿、見覚えがあるどころの話ではない。その姿は間違いなく


「ん、昔の私……アルカステラだね」


 ミアが呟く通り、顔を隠すバイザーとその色を除けば、その姿はかつてダークプリンセスと激突していた頃のアルカステラそのままだった。

 ならばその魔法少女は黒いアルカステラ、ステラノワールととでも呼ぶべきだろうか。


『迷う心の宵闇に、きらり煌めく星一つ……』


 動揺するルシエラの前、ステラノワールが人ならざる声音で決め台詞の一部を呟き、魔力の翼を吹き上がらせて一気に踏み込んでくる。


「っ!! ミアさん、わたくしの後ろに!」

「ん!」


 二本の漆黒剣を十字に構え、ルシエラが薙ぎ払ってくる黒い杖を迎え撃つ。

 ステラノワールの薙いだ杖が漆黒剣と衝突し、生じた魔力の余波が渦を巻く。


 ──重い! たかが偽物だと侮っていましたけどっ!


 竜巻のように瓦礫が巻き上げられ、修練場の壁と屋根が砕け散る中、漆黒剣を持つ手を痺れさせたルシエラが渋面を作る。

 所詮見てくれだけの紛い物、そう高を括っていたルシエラだったが、ステラノワールの一撃は想像以上に強烈だった。


「ルシエラさん」

「大丈夫ですの。多少派手になってでも粉砕してみせますわ!」


 再度繰り出された杖での一撃を痺れた手で受けとめ、ルシエラが力強く宣言する。

 確かにステラノワールは一般魔法少女とは比べるべくもない強敵だ。

 だが、宿命のライバルであるミアの前で彼女の偽物に苦戦する、そんな無様が許されるはずがない。当然、本物のアルカステラは偽物よりも遥かに強いのだから。


「ううん、そうじゃなくて相手の体」


 ルシエラの袖を掴んで制止を促し、ミアが首を横に振る。

 そこで冷静さを取り戻したルシエラは、ステラノワールの一部が白く解け霧散していることに気がつく。


 ──なるほど、体が出力に耐えられませんのね。


 さもありなん。先程の魔法少女やステラノワールを構成するあの白い泥、恐らくその正体はアルマの一部。

 だが、アネット達と共に居るであろう白いアルマは切り離された一部であり、その力も限定的であるはずなのだ。


「ミアさんの言いたいことは理解しましたわ。自壊してくのならば、守りに徹するべきですわね」


 ルシエラは魔法での応戦を中止して受けに徹する。

 攻めあぐねたようで不服ではあるが、ステラノワールと魔法戦をすれば間違いなく被害が広がる。ならば自壊待ちで守りを固めるのが一番安全だ。


 予想通り、ルシエラが漆黒剣で杖の攻撃を防ぐ度、ステラノワールの体は白い粒子となって分解されていく。

 そうして何度目かの打ち合いで、ステラノワールは自らの体を維持しきれなくなり、白い泥となって修練場の床に溶けて消え去った。

 白い泥が消え去った床に落ちていたのは一通の招待状、そして極小さなプリズムストーンの破片だった。


「……ふん、随分と小粋な招待状の渡し方ですわね」


 ルシエラは不愉快そうに鼻を鳴らすと、招待状と破片を拾い上げるのだった。

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