表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/164

15話 絢爛飛空舞台プリマステラ5

「あら~?」

「ごせつめーしましょうっ☆」


 マジカルビーストを粉砕したのはバニーガールのような衣装の魔法少女。正体を隠すために変身したシャルロッテだった。


「あらあら、どなた? どういう意味なのか教えてくださる親切さんなのね」

「ミアはマジカルペットに魔力調律された後、ルシエラに何度も魔力調律されてるんだよ。当然、ルシエラの魔力調律は虚弱性なんてなし、乱れも淀みもない完璧な調律。マジカルペットの作った虚弱性なんて消去されてなくなってますっ☆」


 シャルロッテは説明しながらニンジン型のハンマーを拾い上げると、ハンマーでミアを指し示した。


「私、完全にルシエラさんの物になってるんだ。誇らしい、ね」


 身も心も魔力も余すことなくルシエラの物になっている。その事実を聞いたミアは紅潮し、全身を歓喜に震わせた。

 マジカルビーストのものになるなど死んでもごめんだが、ルシエラの所有物だと強固にマーキングされるのならば大歓迎だ。既にミアは身も心もルシエラのものなのだから。


「あらま、ミアちゃんはルシエラちゃんの所有物だったのね~。最近の若い子は進んでるのねぇ」


 アネットは納得したようにうんうんと頷くと、


「とりあえず、ミアちゃんにマジカルビーストを入れるのは諦めて、装置の防衛をしておきましょうか~」


 魔石を取り出し、新たなマジカルビーストを顕現させて長櫃を防衛しようとする。

 が、肝心の長櫃には既に光の剣が刺さっていた。


「あら、あらあら~?」

「そこの兎魔法少女が時間を稼いだおかげで、妾に入りこんだ獣は駆除できたからの。ついでに長櫃は壊しておいた」


 自らに入りこんでいたマジカルビーストを光剣で壁に磔にし、ナスターシャが不機嫌そうな顔で立ち上がる。


「あら、あらあら~。もしかして、今説明してくれたのって時間稼ぎだったりしちゃいます?」

「そうだよっ☆」


 シャルロッテの方に視線を向けて焦るアネットに、シャルロッテは明るく即答した。


「酷いわ~。じゃあ……こっちも逃がしてあーげない」


 アネットが人差し指をくるくると回すと、横で侍っていたマジカルビースト二匹が混ぜ合わされ、合成獣へと変化する。

 さらに出口を塞ぐように魔法障壁を展開した。


「それじゃ貴方達を人質にして、ルシエラちゃんと交渉しちゃうわね~」


 その笑顔に不気味な威圧感を纏わせ、アネットが臨戦態勢をとる。


「ミア、そこの兎魔法少女、来るぞ!」


 二つ首を激しく振り回して襲い掛かるマジカルビーストを躱しつつ、ナスターシャが魔法障壁へと攻撃を仕掛ける。

 だが魔法障壁はナスターシャの魔法を全て受け止め、なお無傷。


「堅い!」

「なら私がやる」


 それを見たミアが入れ替わりに拳で殴りかかるが、紅い魔法障壁はそれも防ぎきってしまう。


「んー、無理だと思うよ。あの人あれでヴェルトロンの現当主だから、ちっとやそっとじゃ倒せないんじゃないかな」

「うふふ、実はそうなのよ~。だから誰も逃げられないわよ~」


 苦戦の予感にミアが内心で焦る。

 実はこの勝負、時間制限がある。奉納舞バトルに勝利した後、ルシエラが蓄えた過剰な魔力はミアに魔力調律を施すことで消費される予定になっている。

 ミアが無事に帰還できないと、魔脈を正常化させる次のステップに移行できない。

 長櫃を壊して妨害を止めても、これでは結局行き詰ってしまう。


「そこの兎魔法少女! ミアだけでも逃がすことはできぬか!? 遅れるとこの後に支障が出るのじゃが!」


 全く動かず、観戦に回っているシャルロッテを見て、ナスターシャが苛立ち交じりに言う。


「んー、できると言えばできるねぇ。でも痴女の人、ミアを逃がした後に凄い苦労する覚悟ある?」

「苦労する覚悟も何も、妾はその後じっくり腰を据えて勝つつもりじゃが」

「そっかー、ならいっか。ミア、遠慮せず逃げていいよっ☆」


 襲い掛かるマジカルビーストをニンジンハンマーで軽々粉砕し、シャルロッテが状況を打破すべく動く。


「ん、わかった」


 ミアは小さく頷いて、魔法障壁で封鎖された扉へと一気に駆ける。


「じゃあやるね。ちっく、たっく、ちく、たく。ちくたく、ちくたく」


 それを確認したシャルロッテが時計の針を刻むように呟き、その周囲に幾つもの歯車を顕現させていく。

 顕現した歯車は互いに干渉し、噛み合いながら精緻で複雑な魔法の機構を作り上げていく。


「まさか、その術式……」


 それを見たアネットが動きを止めて目を見開く。


停止(ストップ)


 シャルロッテが指を動かすのに連動して歯車が回り、ミアを追いかけていたマジカルビーストの動きが空中で停止する。


加速(ヘイスト)


 回った歯車が更に他の歯車を回す。

 シャルロッテに襲い掛かるマジカルビーストが経年劣化によって風化し、光の粒子となって霧散した。


時間断層(スラッシュ)


 更に更に歯車が相互作用し、空中で停止していたマジカルビーストの上半身だけが急加速し、停止したままの下半身と分かたれて、その体が分離する。


因果圧縮(バースト)


 最後に空間と時間の歪がアネットの魔法障壁を砕くと、大広間一面にシャルロッテを核とした大時計が組みあがった。


「あら! あらあらあらあらあら!」

「脱出は今のうちでーす」


 シャルロッテが魔法障壁が破壊された扉を指差し、


「ありがとう」


 ミアが扉を開いて大広間から脱出していく。


「なんじゃこの術式……! まさか時間制御か!?」


 行使された正体不明の術式にナスターシャが慄きながら驚く。


「違うわ~、これはそんな非効率的な術式じゃないのよ。この術式の名前は因果時計、私のお姉ちゃん、エズメ・ヴェルトロンのオリジナルである疑似時間制御。過去を推察し、これからを予測し、時間制御した場合の変化だけを相手に押しつけるための術式よ」


 キラキラまなこ更に輝かせ、アネットが早口で解説する。


「貴方、その魔法! どこで覚えたのかしら~」

「企業秘密ですっ」


 シャルロッテが手でバツの字を作って飛び跳ねる。


「あらま~、困っちゃったわ~。この使い慣れていない感じはルシエラちゃんでも、当然お姉ちゃん本人でもないわよねぇ。って言うことは、お姉ちゃんは生きていて貴方は因果時計を教えて貰った誰かさんよね?」


 アネットが見透かすようにキラキラまなこでシャルロッテを見つめ、


「しらなーい」


 シャルロッテが堂々としらばっくれた。


「んもう、本当に困っちゃったわ、お姉ちゃんが生きてるんならちゃんと教えてくれないと。私、のんびりカメさんコースで悪だくみの計画を立てちゃってたのに~」


 アネットは頬に手を当てて、わざとらしく困った困ったと呟くと、周囲に真紅の魔法陣を三つ展開する。

 そこから現れたのは三人の少女だった。


「なんじゃ、あ奴等……目つきが正気ではないぞ」


 アルマ狂信者と同じ白装束を着た少女達の目は皆虚ろ、正気ではないのは明白だった。


「ミルク、ミルクをちょうだい。アネットママ、ミルクが欲しいのっ!」


 三人の少女は荒い息遣いでアネットにミルクをねだる。


「うふふ、ミルクをあげる代わりに、魔法少女になってあの二人の相手をしてくれるかしら~」

「する、なんでもするからっ! ミンチになるまでぶち殺すから、ミルク! 早くミルクをちょうだいっ!」


 声を荒げてミルクをねだる三人の少女。

 アネットは少女達に哺乳瓶を手渡し、彼女達がミルクを飲み終えるのを待たず、少女達の体にマジカルビーストを寄生させていく。


「んあああ! ぎもぢいい! ミルク、ぎもぢいいよぉ!」


 少女達が悲鳴とも歓喜ともとれる奇声を発し、獣のような異形の衣装を身にまとう魔法少女へと姿を変えていく。


「この前の白装束共もミルクを飲んでおったが、これほど厄介な代物じゃったとは! さてはアンプルとやらの中身と同じじゃな!」


 獣のような構えでナスターシャ達へと狙いを定める魔法少女達。

 急ぎ臨戦態勢を取ってそれを迎え撃とうとするナスターシャ。

 だが、その隣に立つシャルロッテは、アネットと睨みあったまま動かない。


「そこの兎魔法少女、呆けておる暇ない。獣の魔法少女が来るぞ!」


 ナスターシャは交差して襲い掛かる魔法少女の突進を躱しつつ、動かないシャルロッテの前に魔法障壁を展開してやる。


「んー、わかってるけど動けない。因果時計の展開中は別の魔法使えないから、有効打を打てないんだよね」

「は? 何を言っておる!? あんな強烈な魔法を使っておいて……ああ! 殺傷力が高すぎるのか!」


 ようやくナスターシャも思い至る。

 因果時計はあまりに殺傷力が高すぎるのだ。どの一撃でも魔法少女に当ててしまえば倒すを通り過ぎて殺めてしまう。


「うふふ、助かっちゃったわ。マジカルビーストは倒せても、流石に人間を殺すのは抵抗があるのね~」


 アネットはこれ幸いと周囲にありったけの魔石を転がし、無数のマジカルビーストを野に放つ。


「お姉ちゃんはこういう相手の手を全部読んだ上で因果時計を使ってたのよ~。次からは頑張りましょうね~、ばいばーい」


 アネットはシャルロッテ向かって手を振ると、マジカルビーストの百鬼夜行に紛れて大広間から抜け出していく。


「っ!」


 ナスターシャは自らに入りこもうとしたマジカルビーストを辛うじて躱すが、その隙を衝いて魔法少女がナスターシャへと襲い掛かった。


「わーお、こうなっちゃったら仕方ないねぇ」


 シャルロッテは因果時計の展開を解除し、襲い来るマジカルビーストを蹴飛ばしながら、ニンジンハンマーを魔法少女に振り下ろす。


「ぐるるあっ!」


 魔法少女は獣のような唸り声をあげて床に転がるが、そのまま受け身を取って飛び掛かってくる。


「すまぬ、助かった! あの獣に触れられぬのは厄介じゃのう! あの三人の魔法少女は妾が受け持つ、お主は外に向かった獣としいたけまなこの親玉を頼めるか!」


 シャルロッテと背中合わせになりながら、ナスターシャがそう提案する。


「ほんとにダイジョブ? あの子達、それなりに手強いよ」

「大丈夫でなくとも、そうせねば今度は外の方が大丈夫でなくなるじゃろ。幸か不幸か、マジカルビーストはほぼ全部外に繰り出しておるしの」


 二人は互いに半歩体勢をずらし、襲い来る魔法少女とマジカルビーストを吹き飛ばす。


「んー、じゃあお願いしますっ☆」


 均衡が崩れた隙にシャルロッテがぴょんと前に跳躍し、大広間の扉へと駆けていく。


「ふん、癪じゃが頼んだぞ。しいたけまなこ」


 ナスターシャはシャルロッテの行く手を遮ろうとしていた魔法少女を魔力の鎖で足止めるすると、自らの周囲に無数の光剣を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ