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ダークプリンセスはそれでも魔法少女に勝てない  作者: 文月なご
第一章 魔法少女アルカステラ
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2話 マジカルペットは害獣です5

「ホケエェェ! クソぁ! クソぁ! エヌ! ティ! アアアァァル! だから言ってるだろ! ネトラレは脳を破壊するんだよぉおぉぉぉぉぉお!」


 夜の学校、ルシエラやミアの素朴な部屋とは違う、特待生寮の豪奢な一室。ダブルベッドのような広々としたベッドの上で、包帯を巻いたピョコミンが枕を振り回して一人大暴れしていた。


「このウサ公、見てて引くぐらい暴れてるですね」


 この部屋の主であるセリカは暴れ回るピョコミンに冷淡な視線を向けると、ぬいぐるみを抱えたままソファに寝ころび読書をはじめる。


「当たり前ペコ! アルカステラはピョコミンが丹精込めて育てた最高傑作ペコ! 最高の素材に実戦経験を積ませて! 従順になるように入念に心を折って! 完成間近って所で一発ネトラレ! ッザケンナ! ペコラアァ!! そんなん計画に支障が出る前に脳が破壊されるわ! そんなに美少女のおっぱいは最強無敵かよぉぉ!!」


 怒りが収まらないピョコミンはカバーを破いた枕に頭を突っ込むと、更にそのままベッドの上を激しくのた打ち回った。


「ドン引きだからいい加減黙りやがれです。それ、虐げるお前から無事逃げ出せてよかったねって話じゃねーですか」

「シャラアアアップ! アイツの強靭なメンタルぶっ壊すのにどれだけ苦労したと思ってるペコ! ピョコミンは全肯定以外の意見は求めてないペコ!」

「はぁ、ウサ公はマジ器がちーせーです。逃げ出したアルカステラなんてどうでもいいじゃないですか。このセリカが最強の魔法少女になってやってるんだから満足しやがれですよ」


 ピョコミンの方を向かないまま、首からさげている宝石があしらわれたペンダントを弄んでセリカが言う。


「……ペッ、バーカ!」

「なっ! ウサ公如きがこのセリカをバカ呼ばわりしやがりましたね!?」


 バカ呼ばわりされて目尻を吊り上げたセリカは、手にしていた魔法書をピョコミンに投げつけた。


「だからピョコミンは言ってるペコ! ミアちゃんは最ッ高の素材だったんだよぉ! お前みたいな十把一絡げの無才とはスタートラインが違うペコ! 胸囲と同じように小さくなって身の程弁えとけペコ!」

「んな、なななななな! あんな容姿全振りみたいな乳牛にセリカの才能が劣るというですか!?」

「完全劣化品ペコ。更に言えばフローレンスちゃんにすら劣るペコ」

「ななあ! 黙りやがれです、このウサ公!」


 ピョコミンの無礼な態度につられ、頭に血が上ったセリカがソファから立ち上がる。


「セリカはフローレンスと違って真の特待生ですよ! 更にプリズムストーンを持って魔法少女に変身すればこの学校……この国の誰にも負けねーです!」


 セリカは首からさげているペンダントを見せつけながら力一杯に吼える。


「それはピョコミンが変身の時に魔力調律して魔力を最適な状態にチューニングしてやってるからペコ。プリズムストーンの魔力解放もできないお前の手柄じゃないんだペコ。悔しかったら一人で変身してみろペコ。……それができるほどの魔法使いなら、魔法少女に変身する必要なんてないけどなァ!」

「くぐうっ……!」

「ほら、ピョコミンの魔力調律抜きで楽しい学園生活が送れるか考えてみるんだペコ。今まで通りになるのが関の山ペコォ!」


 セリカを舐めきり、煽りに煽るピョコミン。

 対するセリカはピョコミンを睨みつけたまま無言で歯噛みする。


 偶然プリズムストーンを手に入れ、それを知ったピョコミンに魔法少女としてスカウトされてからセリカの生活は一変した。

 この程度の魔法も使えないのかと陰口を叩いていた姉妹達は押し黙り、特待生の座だって悠々と手に入れることができた。

 それよりも何よりも魔法少女に変身した後の全能感。それは魔法使いを志しているセリカにとってあまりに強力な麻薬。それを失い、姉妹達に馬鹿にされる生活などもう考えたくもない。


「ハハッ、その顔は理解できたみたいペコねぇ。今後、ピョコミンに対する口の利き方には気を付けるペコ」


 セリカに対してマウントを取ったことで多少気が晴れたのか、ピョコミンは枕の上にふんぞり返ると高級チョコレートをクッチャクッチャと貪り始める。


「……百歩、百歩譲ってお前抜きじゃ変身できないことは認めてやるです。でも、あの乳牛とフローレンスに……あんな偽特待生に劣ると言ったことだけは許せねーです!」

「ほーん」


 ピョコミンは興味無さげにゲップをすると、チョコレートの空箱をぽいと床に投げ捨てて横になる。

 と、そこで何かをひらめいたらしくむくりと起き上がった。


「じゃあさ、セリカちゃん。それ証明しちゃおうペコ」

「は?」


 笑顔でウィンクするピョコミン。

 ピョコミンの豹変にきょとんとするセリカ。


「ピョコミン、近いうちに面白いイベントがあるって聞いたペコ」

「あー、特待生同士の模擬戦のこと言ってるですね」

「そ、だからさ、そこでボコってセリカちゃんの方が強いって証明しちゃおうよ。フローレンスちゃんも、ミアちゃんも……後! 関係ないけどあの寝取り女ァ! あいつだけはフルボッコじゃ生ぬるいペコォ! ん! ヴぉ! ヴぉ! ヴぉおおおお! 絶対に、ぜぇったいに許せねぇぺっこおおおおおお!」


 絶叫するピョコミン。

 セリカが寝間着姿の寮母にしこたま怒られたのはそれから五分後の出来事だった。

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