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15話 絢爛飛空舞台プリマステラ2

「ん、私のルシエラさんが人気で鼻が高いね」

「そうですね。"私の"ルシエラさんが人気で誇らしいです」


 アネットが小細工を始める少し前、後方彼女面する厄介なルシエラファン二名は、運営本部の屋根の上で満足げに頷いていた。


「ほんと、どうして短時間で飛空艇(あんなもの)が作れるのかしら、凄すぎて逆に呆れるわ。ミア、アンタああいうのとよく戦ってたの?」


 一緒に観戦しているフローレンスが、オペラグラスを覗きながらミアに尋ねる。


「あんまり。簡単に壊してたら途中から見なくなった」

「あ、そう。ルシエラも相手が悪かったわね」


 キラキラと目を輝かせて飛空艇を作っていたルシエラを思い出し、更にそれを秒殺されたかつてのルシエラを思い出して、ミアは少しだけ申し訳ない気持ちになった。


「さて、この様子じゃと大勢は決したようじゃな。相手の飛空艇が群衆の上に落ちぬよう、そろそろ準備しておくかの」


 ナスターシャは浮かんだ箒に腰掛け、いつでも動けるよう準備する。

 彼女が言う通り、既にルシエラは多くの観客から支持を勝ち取っており、その影響でセラの乗る白い飛空艇は安定性が失われていた。

 本来ならば破壊を困難にするはずだった核を無くすと言う魔法陣の仕様が、今は完全に裏目に出てしまっている形だ。


「そうだね、今の所は順調みたいだね」


 言いながら、ミアは順風満帆なルシエラの飛空艇から、大荒れの海に漕ぎ出たようなセラの飛空艇へと視線を動かす。

 大好きなルシエラの晴れ舞台なのに純粋に楽しみきれないのは、やはりセラのことが気になるからだろう。

 彼女がミアのことを同類と呼んだように、ミアもセラと自分は同類だと思っている。恐らくルシエラ達が思っているよりも、彼女とミアは紙一重の存在なのだ。

 ミアが今堕ちていないのはルシエラの存在があるからに他ならない。だからミアは"もしも"の自分とも呼べるセラが気がかりでしょうがない。


「でも、これじゃ呆気なさ過ぎます。あのアネットさんが一枚噛んでいて、これにて一件落着だなんて思えませんね」

「ん、私もそう思う」


 アンゼリカの言葉にミアが同意する。

 シャルロッテの話を聞くに、アネットは無策で決戦に挑むタイプではなく、ルシエラに敵愾心を抱くらしいカミナの姿も見えない。

 間違いなく一波乱あるはずだ。


「や、やめなさいよ。こういう時にその手の台詞を言うのは前振りになるのよ!」


 フローレンスが余計なことを喋るなと必死にアピールするのもむなしく、その不吉な予感は的中してしまう。

 急にルシエラの乗っている飛空艇が大きく揺れて不安定になり、それと入れ替わるようにセラが乗る飛空艇の動きが安定して上昇した。


「おお、急に押されたの」

「はぁ、押されてないですけど! むしろ推してますけど! どう見たって私のルシエラさんの方がハイパフォーマンスです。見てください! 観客だってルシエラさんの曲でリズム取ってますからね!」


 不服そうな顔をしたアンゼリカが、大神殿付近に集まる観客を指差す。

 多少のひいき目はあるかもしれないが、ミアの目にもルシエラの方が優勢であるように見えた。


「じゃ、じゃあ、どうしてルシエラの飛空艇が傾いてるのよ! そっちの方が大問題じゃない!」

「そこは今からスタッフさんに問い合わせます。飛空艇のシャルさん! 飛空艇のシャルさん! どうなってるんですか!?」


 アンゼリカは通信用のマジックアイテムであるイヤリングに手を添え、シャルロッテに急ぎ状況を確認する。


『えー。私、知らなーい。ルシエラも元気だし、地上のお客さんもるしるし言ってるから、どっかで魔力中抜きされてない?』


 程なくして、飛空艇内部のシャルロッテからそう返答がきた。


「じゃろうな、地を這う魔力の流れが変わっておる」


 ナスターシャは腕組みをすると、目を閉じたまま周囲を見回して言う。


「もうっ! なんて忌々しい輩なんでしょう! 私のライブ観戦を邪魔するなんて! 全員異次元にしょっ引いて、赤い靴履かせて暗黒盆踊り大会でもさせてやりましょうかねぇ!」


 アンゼリカは怒りで震える手で杖を握りしめる。


『さあ、ここから大逆転いくにゃっ!』


 それを嘲笑うかのように、上空の音響装置からセラの明るい声が聞こえ、白い飛空艇が黒い飛空艇へ体当たりしてダメ押しを決める。

 ぶつけられたルシエラの飛空艇は大きく傾いて高度低下し、いままでの意趣返しでもするように、ディスプレイに映るセラが指を銃の形にしてウィンクした。


「マズいでしょ!? あれじゃルシエラが踊れない!」

「フローレンス、落ち着いて見てみよ。あ奴、至って普通に歌い踊っておるぞ」


 焦るフローレンスの横、ナスターシャが黒い飛空艇のディスプレイに視線を向ける。

 急傾斜となったステージ上、相変わらずルシエラは煌めく表情で歌い踊っていた。ライトの位置取りまで完璧だ。


「たくましいわね……完璧にマスターしてるわ、あいつ」

「勿論です。ルシエラさんは気軽に頂点いけちゃう才能の持ち主ですからね。今のルシエラさんなら年末の歌番組だって狙えちゃいますよ」

「白装束も言ってたけど、本当に才能のハッピーセットね。正直、比較される所に居て欲しくないタイプだわ」

「とはいえ、いくら歌い踊っても肝心の魔力が入って来ねば意味があるまい。ジリ貧なのは変わらぬぞ」

「そうだね。早く手を打たないと」


 ミアはナスターシャの言葉に同意して周囲を見回す。

 ルシエラの魔力はアルマに近しいため、魔脈を活性化させてしまうと聞いている。

 劣勢となり飛空艇の魔力まで奪われかねない現状、ルシエラの魔力を使って飛空艇を飛ばすのは至極危険だ。


「って、いってもどこでどんな小細工されてるのかしら」

「ん、えと……あ、大神殿の上」


 そして、大神殿へと視線を向けた所で上空の異常に気付く。

 大神殿の上空、蜃気楼のように揺らめいて逆さに(そび)えるもう一つの大神殿があった。


「ふうむ、あれがルシエラの言っておった裏神殿か」

「でも、大神殿の上層からしか見ないって言ってたはずよ」

「横槍が入ったせいですね。ルシエラさんは部分的に奪った制御権をその場で行使して、魔脈を安定化させていましたから。それができなくなれば魔脈は荒れる一方です」


 オペラグラスを手にしたアンゼリカは不愉快そうな顔をすると、「邪魔者も大神殿の屋根に居ますね」と付け足してミアにオペラグラスを手渡す。

 ミアは手渡されたオペラグラスを覗き込み、視線を裏神殿から下に動かす。


「あ。白装束の人達、ルシエラさんの飛空艇に乗ろうとしてる」


 大神殿で一番高い屋根の上、白装束の集団がルシエラの飛空艇に飛び移ろうと集まっていた。


「ま、マズいじゃない! あいつ等が乱入したら一気に場がしらけちゃうわ! そうしたら集めた支持は全部パー、制御権を奪う所からやり直しよ!?」

「うん、阻止しないと」

「裏神殿の輪郭も心なしかくっきりとして来た。急いだ方が良さそうじゃな」


 ミア達が頷きあって屋根から降りる中、アンゼリカは一人動かずその場に残っていた。


「どうしたのよ、アンゼリカ?」


 フローレンスが小首を傾げる目の前、アンゼリカの頭上に大剣が振り下ろされる。

 アンゼリカは手にした杖でカミナの大剣を受け止めると、


「こういうことです。先に行っていてください、迷惑なお客さんの相手をしないといけないので」


 そのまま大剣ごとカミナを吹き飛ばし、視線で警戒したままフローレンスに杖を投げ渡す。


「使っていいですよ。そこの人、道具に頼らないと荒事は厳しいでしょう?」

「アンタも立て込んでるのに悪いわね!」

「いえいえ、お気になさらず。愛するルシエラさんのためですから」


 フローレンスは受け取った杖を抱きかかえるようにして走り出す。

 アンゼリカはそれを確認すると、大剣を構えなおすカミナへと魔法弾を打ち放つ。


「ピンクの人、神殿で細工をしているだろうアネットさんを探してください。あれだけ急速に裏神殿が顕現しているのなら、相応の場所で魔脈を弄っているはずです」

「わかった。アンゼリカさん、よろしく、ね」


 足を止めていたミアは振り返らずに小さく頷くと、ナスターシャ達を追って神殿へと急ぐ。

 それを止めようと動くカミナ。


「と、いう訳です。カミナさん、邪魔はさせませんよ」


 だが、アンゼリカが蒼い魔法障壁を展開して行く手を遮った。


「ええ、構わないわ。私はアンゼリカの足止めをしたかっただけだもの」


 魔法障壁に弾かれて宙を舞ったカミナは、くるりと回って手品のように大剣から日傘に持ち替える。


「貴方が動かなければ私は戦わないわ。観劇したいのでしょう? してもいいのよ」


 そう言って空を見上げるカミナ。

 その優雅な佇まいは今の今まで大剣を振り回していたようには到底見えない。


「はぁ。カミナさん、急にどういうつもりですか。女王の座には興味がないって言っていた癖に」


 アンゼリカは彼女の動きに警戒しつつも、臨戦態勢を解いてルシエラの飛空艇へと視線を移す。

 不意打ちはするが騙し討ちはしない、カミナとはそんな少女であることをアンゼリカはよく知っているからだ。


「ええ、我がグリュンベルデは王位継承戦に不参加、それは変わらないわよ」

「クロエさんと一緒に王位継承戦の黒幕をしているから、ですか」


 その言葉にカミナは向き直り、感心した顔をアンゼリカへ向ける。


「あら、気がついていたのね。それなのに参加していたなんて、酔狂と褒めるべきかしら」

「私にとって王位継承戦はルシエラさんに見てもらうための場でしたから。そっちこそ、本気でアルマの復活なんて画策している訳じゃないですよね」

「ええ、それは勿論よ。魔法の国グランマギアとは、偉大なる古き神アルマの加護を受けた永遠無窮の揺り篭。そして、グリュンベルデとは歴代女王の守護者ではなく、正しくはアルマの守護者なの……少なくとも現当主はそう考えているわ」


 悪戯っぽく笑うカミナ。


「カミナさん……? それって……」


 アンゼリカは一瞬呆気に取られていたが、やがてその意味を理解し驚愕する。


「待ってください! それ正気で言ってますか!?」

「うふふ。正気も正気、聡い貴方の想像通りよ。己が身を幾重にも分けられる古き神に人の尺度の生死はない。だから復活の画策なんて不要なのよ」

「っ! だからグリュンベルデはルシエラさんを嫌うんですね! アルマ様本人ではないから!」


 一目散に大神殿へ駆け付けようとするアンゼリカ。


「あら。アンゼリカ、流石にそれはマナー違反ではないかしら。これは貴方が足止めに付き合ってくれている対価。対価を支払った以上、しばらく私と戯れていて貰わなければ困るのだけれど」


 だが、自らの影を蠢かせたカミナが獣の眼光と共にそれを遮った。

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