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14話 マザコン洗脳アイドルバトル6

「な、なんですの。この方々は!?」


 慌てて外に飛び出したルシエラは、運営本部を取り囲む異様な一団を見てぎょっとする。

 覆面白装束の一団は松明を手にし、儀式でも始めるかのようにぐるりぐるりと運営本部の周りを回っていた。


「これが件のアルマ信奉者共じゃ。宮廷魔術師が混ざっておるが、まあ誤差程度で大した問題ではなかろう」

「ルシエラ、責任もってさっさと処分しろー。ただでさえ忙しいのに仕事が増えて迷惑なんだが」

「なんて他人事な! 流石にこの方々の行動まで責任を問われる筋合いはないですの!」

「そうかぁ?」

「そうですわ!」


 シルミィが怪訝そうな顔をし、それは不服だとルシエラが憤る。

 その目の前、回っていた白装束達の動きが止まり、運営本部を取り囲む輪の中から数人の白装束達が前に歩み出た。


「アルマテニア王立魔法学校のルシエラ!」


 中央の白装束がルシエラの名を呼び、


「お前は自らの容姿が優れているのをいい事に、特待生から奉納舞の役割を奪い、挙句の果てに我らがアイドルであるセラにゃんに挑戦状を叩きつけた!」


 続いてその右脇に立つ白装束が言葉を繋げた。


「奴さん、お前をご指名だが」

「うぅ、冤罪もいいところですの……」


 ──しかも、この声には聞き覚えがありますわ。


 この声は魔石飾りの件で揉めたクラスメイトだろう。

 またあの続きが始まってしまうのかと、ルシエラはげんなりとした顔で肩を落とす。


「あ、挑戦状まで叩きつけたことになってるんだ」

「尾ひれってこうやってつけられてくのね。他人事ながら同情するわ」


 同情する二人。だが、ルシエラを糾弾する白装束の言葉はそこで止まらなかった。


「更には街を破壊するテロ紛いの行為に、美少女ハーレム! その罪、万死に値する! だいたい、美少女侍らして遊び歩いてる癖に成績いいなんて許せない! 天は二物を与えずっていうのにどうして全部盛りしてるのよ! ハッピーセットだってもう少し慎ましいってのよ!」


 更に左脇に立つ白装束が私怨に満ちた台詞を矢継ぎ早に吐き出していく。


「こ、これは、洗脳のせいですわよね?」


 不条理な嫉妬をぶつけられ、おろおろしたルシエラがミアとフローレンスの顔を見て必死に同意を求める。


「ん、どうだろ」

「アンタが才能の暴力で殴るスタイルなのは事実じゃない。多少の妬みは贅沢税だと思って諦めなさいよ」

「い、いつからそんな不名誉スタイルになっておりますの! わたくしのウリはめげない努力家な所だと自負しておりますの!」

「……アンタ、今後人前でそれ言っちゃダメですからね。努力してる人に失礼よ」

「そうだね」

「み、ミアさんまで!? 毎回わたくしに勝利しているミアさんにだけには言われたくないですの!」

「ほーら、早速おはじめなすった! 私なんて眼中にないって言うのね! はいはいはいはい! そりゃ、私の成績は下から数えた方が早いわよ! 田舎者の癖に、高貴なオーラまでまとってお高くとまっちゃって!」


 ミア達と会話を始めたルシエラに、糾弾していた白装束の少女が苛立ち声を荒げる。


「いけません、それ以上はいけません。サフラン同士、妬心に満ちた怒りはいけません。人は皆、アルマママの前ではピュアなベイビーでなければ」


 言って、中央に立つ隊長格の白装束が哺乳瓶を取り出し、嫉妬の炎を燃やす少女に手渡す。

 クラスメイトの白装束は、覆面の下から哺乳瓶をちゅぱちゅぱと一心不乱に飲み干すと、


「んあああーーっ。心がおぎゃおぎゃするのーっ。ばぶばぶばぶーっ」


 両手をだらんと下げ、ミルクのオーバードーズで呂律が回らないまま赤子の泣き真似をした。


「イェス! グッドオギャリティ! この迷える子羊にも無事アルマママの愛が届いたようです」


 それを見届けた周囲の白装束達がサムズアップを決めた。


「よかったわね、ルシエラ。やっぱりアレ洗脳されてるわ」

「あ、当たり前ですの! あれで正気だったらそれこそとんでもないことですの! さっきの罵詈雑言にわたくし涙目ですの!」


 既にちょっぴり涙目になっているルシエラが白装束を指差して主張する。


「さあ、貴方達にもミルクをあげましょう! 特に黒髪の貴方、貴方には類稀なマザコンの才能を感じます。一緒にマザコン界のスターダムをのし上がりましょう」


 そんなルシエラ達へ隊長格の白装束が歩み寄り、その後ろに控える白装束が哺乳瓶を差し出す。


「断固拒否ですの! 勝手にろくでもない才能を見出さないでくださいましっ!」


 ルシエラは差し出された哺乳瓶をはたいて叩き落とす。

 地面に転がった哺乳瓶から白い液体が零れ落ち、取り囲む白装束達がどよめき嗚咽が広がる。


「何と言うことだ……。我等の祈りも、偉大なるアルマママの母性も分からないなんて……。おお、偉大なる神祖アルマ。まだ、我々の祈りは足りないのですね」


 隊長格の白装束はわざとらしく肩を震わせ、仰々しく天を仰ぐと、


「おい、その連中を捕まえろ。我々の集会所にお連れして理解してもらうまで帰すな」


 先程とは違う低い声でそう指示を出した。


「イイイイイッ!」


 それに呼応し、取り囲む白装束の輪が狭まり、白いリボンを手にした白装束がルシエラ達を捕まえようと迫り来る。


「ぴゃあああっ! 拉致される! 拉致されるっ!?」

「拉致ではない! 招待だ! インビテーションッ! そこを間違えるな!」


 そう叫んだ白装束がフローレンスに飛びかかり、


「ん」


 ミアがそれを裏拳で迎撃し、白装束が運営本部の壁に頭からめり込んだ。


「くっ! 怯むな! 次っ!」


 隊長の指示と共に今度はミアの左右から白装束が飛びかかり、


「ん」


 瞬く間に運営本部の壁に突き刺さった。


「何だこの少女!? あの見た目でパワー系だぞ!」


 それを見た白装束達が慄き狼狽する。


「怯むな! お前等、落ち着くにゃ!」


 それを一喝したのはセラだった。

 向かいの建物の上に立つ彼女の格好はアイドル衣装ではなく、黒いボディスーツに猫耳の衣装があしらわれたバイザー。

 全身に吸い付いたようにぴっちりとしたボディスーツは、彼女のボディラインを隠すことなく露わにしている。露出度は低い癖に裸同然の格好だった。


「そうだ! まだ我々には切り札がある!」


 セラに一喝され正気を取り戻した白装束が取り出したのは極彩色に輝く薬瓶。


「グリッター! あ奴等、まだ隠し持っておったか!」


 ──グリッター、ですの!? 現存しているものがまだ数点あるとは聞いていましたけれど!


「ナスターシャ、連中がこんなもの持ってるんなら早く言え! そうと知ってたら悠長に構えず速攻でボコってたんだが!?」


 それを見たシルミィがグリッターを奪い取るべくモップに乗って突進。


「祝福を喰らえっ!」

「ぺっ!?」


 だがそれよりも早く、白装束はルシエラの顔にグリッターをぶっかけた。

 予想外の展開に、グリッターまみれになったルシエラの動きが止まる。


 ──こんなことをして何の意味がありますの!? もしかして嫌がらせ、嫌がらせの為だけですのっ!?


 僅かに口に含んでしまったグリッターを吐き出しながら、ルシエラはハンカチで顔を拭う。


「ルシエラ!? 大丈夫!? 急いでぺっしなさい! ぺっ!」

「だ、大丈夫ですわ」


 オーバーランしたシルミィが白装束達を薙ぎ払う横、心配して駆け寄ってくるフローレンスをルシエラは手で制止する。

 グリッターの原料であるプリズムストーンの魔力はルシエラ含む歴代女王由来のもの。

 溶かしている薬液は高い魔法耐性を持つルシエラには意味を成さず、むしろ魔力を一時的に限界以上に蓄えただけだ。


「大丈夫かどうかはこの後決めるんだにゃ! マジックドレイン! 起動にゃ!」


 セラの掛け声と共に狂信者達が横一列に整列し、足を肩幅に開く。


「各員斉唱ッ!」

「あー、いつもトキメキ胸きゅんきゅん! キミの笑顔はいつだってバイオレンスーッ! キラめく手刀ボクの胸に突き刺し、心鷲掴みにするーッ!

 ラブラブラブラブ恋のマジカル魔法をかけてーッ! ハーッ! ハイハイハイハイハイ、イェア! イェイェイェア!」

「連中、なんか色んな意味でイタイ歌熱唱し始めたんだけど!?」

「ね、心臓抜き取られそう」


 突如始まった音程なんてお構いなしの大合唱。

 思わずルシエラ達も渋面を作り、緊張が途切れかけたその瞬間だった。

 街のあちこちが青白く発光し、何かに吸い寄せられるように青い光が街を駆け抜け、幾つもの光の帯を作った。

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