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13話 巫女まほアイドル4

 一方、先行したミアは脇の部屋を確かめながら、バルコニーの特設ステージを目指して歩いていた。

 カミナはルシエラと二人で話したがっていた。ミアもそれを察したからこそ、ルシエラの指示に従って単独先行した。

 そして簡単に単独行動を許すと言うことは、やはり他にも仲間が居るのだろう。


「あらあら、そこに居るのはどなたかしら~?」


 案の定と言うべきか、バルコニーまで後少しの所で、赤い髪の女性がゆったりとした動きと声でやってくる。

 気配なく現れた声の主にミアが素早く向き直り、その修道女のような格好を見て、神殿の関係者かと思い僅かに警戒を緩める。


「んっ、どなたですか」

「私は奉納舞の責任者、アネットよ~。お話に聞いていた警備の学生さんよね。こっちの警備は大丈夫だから他の所をお願いできるかしら~」


 アネットは緩い動きのまま視線を警備の腕章へと向け、キラキラまなこを細めて微笑んだ。


「えと……警備の手伝いをしているアルマテニア王立魔法学校のミアです。お友達、居なくなっちゃって探して、ます」

「あらま~、困っちゃうちゃんねぇ。でもこの先は本当に立ち入り禁止なのよ~」


 アネットはぽやぽやした笑顔のまま頬に手を当てて小首を傾げ、


「あら、あら、あらあらあら? もしかして……ミアちゃんって、うちのコレットちゃんのお友達のミアちゃんだったりします?」


 そこでミアの正体に勘づいてそう尋ねた。


「ん! ……ヴェルトロン!」


 その問いに一気にミアは最警戒態勢に入る。

 コレットとはミアの友人でありシャルロッテの妹である魔法少女、赤坂環の魔法の国(グランマギア)での名前。つまり目の前の女性は吹き荒れる嵐のど真ん中、魔法の国御三家の赤ヴェルトロン。その当主だ。


「そうそう! ヴェルトロンさん家のコレットちゃん。コレットちゃんから聞いたけど、ミアちゃんって凄い強い魔法少女だったのよね」


 対するアネットはミアの警戒を解こうと、明るく人懐っこい笑顔を作った。


「えと、強いかはわからない、ですけど」

「でもマジカルペットが居なくなって変身できないのよね。もう一度変身できる手段があるんだけど、興味はないかしら~」

「興味ないです」


 ミアはそれが悪魔の誘いだと即座に看破する。アネットが言っているのはルシエラがミアに施している魔力調律とは別の代物だろう。

 ルシエラと再会する前、心折れて魔法少女である自分にしか価値を見出せなかった頃ならいざ知らず、既にマジカルペットや魔法少女の危険性を熟知している今のミアがそれに乗る理由は一切ない。


「あら~、残念」

「だから、その手段に使おうとしてる私の友達、返してください」


 大袈裟に残念がるアネットに切り込むように、ミアはそう言葉を続けた。


「あら! あら、あらあら!」


 細めていた目を僅かに開き、アネットは意外そうにミアの顔を見つめると、そのまま小さく手を滑らせる。

 ミアはそれに先んじて大きく一歩踏み込み、アネットの脇腹目掛けフックを打ち込む。

 その後ろで魔力の鎖が暴れる様に跳ねまわり、ミアの拳が半透明の紅い魔法障壁によって防がれる。


「あらあら、コレットちゃんが言ってた通り、本当に勘がいいのねぇ」

「えと、コレットちゃんのお母さんにごめんなさい」

「うふふ、遠慮しなくていいのよ。本当は当主が女王争いに干渉しちゃいけないんだけど、こうなっちゃうとこっちも遠慮できないから」


 魔法障壁に弾かれるようにミアが飛び退き、またもミアが居た場所に魔力の鎖が跳ね暴れた。


「あらま、本当に勘がいいのね~。でも本当に魔法少女に戻れなくてもいいのかしら~」

「構わないけど」

「ですって。二つ返事で協力してくれたセラちゃんとは真逆ね」


 その言葉にミアが咄嗟に側転し、後ろから襲い掛かったセラの蹴撃を間一髪の所で躱す。

 砕けた床に手をついて後ろに向き直ると、そこには先程ステージでみた少女、セラが居た。その小脇には縛られ猿轡噛ませられたフローレンスの姿もある。


「あ、フローレンスさん」

「へぇ。アネさん、コイツも元魔法少女にゃ?」


 臨戦態勢のミアを一瞥し、余裕綽々といった顔をしたセラがアネットに尋ねる。


「ええ、すっごく強かったらしいわよ~。セラちゃんでも苦戦しちゃうかも」

「ハハッ、まさかぁ。まあ……試してみるかにゃっ!」


 邪悪な笑みを浮かべ、フローレンスを抱えたまま再び蹴撃を繰り出すセラ。

 ミアはそれを足で受け止め、返しでボディブローを叩きこんだ。


「うぐっ! お前っ、まさか私と同じように変身なしで身体強化されてるにゃ!?」


 フローレンスを抱えて防御が疎かになっていたセラは直撃を受け、鈍いうめき声と共に体をくの字に折れ曲がらせる。


「そうだけど」


 ミアとアネットを交互に見比べるセラに対し、ミアは静かに肯定した。


「にわか魔法少女じゃなくて本物のご同類かよ。なるほど……わかったにゃ。お前は私が本気でボコってやるにゃァ!」


 セラが敵意に満ちた眼差しをミアに向け、捕まえていたフローレンスを床に転がす。

 そして、ミアに向かって突進しようとしたその時、


「ミアさん! 無事ですの!?」


 ルシエラの投擲した漆黒剣が眼前に突き刺さり、セラがたたらを踏んだ。

 その隙を衝いてミアが床に転がったフローレンスをすかさず回収。一気にルシエラへと駆け戻って合流を果たす。


「チッ! お前、最低のタイミングで横槍を入れてくれたにゃあ!」

「あらら~、ルシエラちゃんまで来ちゃったわ。セラちゃん、今日はお開きね~」


 セラが恨めしそうにルシエラを睨みつけ、頬に手を当てたアネットが困ったように眉を寄せる。


「アネさん、私はまだ不完全燃焼にゃ! ニャンピィ使って黒髪の足止めさせて貰うにゃ!」


 だが同類を前にして熱くなったセラは、撤退を促すアネットに対して戦闘継続を訴えた。


「あら~、仕方ないわねぇ。支障がでない程度にお願いね~」


 アネットがそれを渋々承諾し、セラがアネットに魔石のついたマイクを投げ渡す。

 アネットは投げ渡されたマイクから魔石を取り外すと、そのまま空間転移で姿を消してしまう。


「って訳だにゃ。ピンクのお前には居残りでセラにゃんと戦って貰うにゃ。お前に魔法少女がどんなものかわからせてやるにゃ」

「別にいい、もう知ってるから」


 フローレンスの猿轡を外しながら、ミアがにべもなく言い放つ。


「ハッ、わかってないにゃ。そんな無警戒にそいつの拘束解いてるんだからにゃあ!」


 見下したようなセラの言葉。


「っ!」


 ルシエラが咄嗟にミアの手を引っ張り、フローレンスから引き離す。


「ルシエラさん?」

「カミナさんが言っていましたの! フローレンスさんに細工がされているって!」

「そうなの! 二人とも気を付けて、私入ってる! 入ってるの!」


 猿轡を外されて早々、自由に喋れるようになったフローレンスが恐怖に満ちた震える声音で必死に訴える。


「フローレンスさん!? 入っているとは、何がですの!?」

「私の中に何かが! 私、何かを入れられちゃったのよぅ!」

「何かって……」


 なんですの、とルシエラが続けようとしたその瞬間、びくんとフローレンスが仰け反った。

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