表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》  作者: Siranui
Episode of Future〜叛逆の果て〜
312/313

第二百九十九話「二人のために、出来る事」

 死生の狭間、と呼ばれる場所に……私――鈴白寧音は立っていた。理由はただ一つ。ここの管理を行っていたアカネがあの戦いでこの世を去った。その後継ぎとして私が選ばれたのだ。それが、私の望んだ道。そして、博士が私だけに告げていた結末。


 そして――私だけがあの戦いに参加しなかった理由。



「――寧音ちゃん、今時間あるかい?」

「……ある、よ」


 全員が元利さんの禁忌魔法を通して大蛇君の精神世界に入っていく中、私はマヤネーン博士に声をかけられた。それに対して私は小さく頷く。


「……そいつは入れなくていいのか?」

「うん。今ので全員だよ。ありがとね、元利」

「――ギャラに期待して待ってやるよ」


 そう博士に言いながら元利さんはモニター室の近くの空いた席に座って眠った。実質博士と二人きりになったこの空間で、私はあの真実を告げられる事となった。


「――君を戦いに参加させなかったのには理由がある。それもたった一つだけね。単刀直入に言おう。君はこの戦いが終わると同時に死ぬ」

「……!」


 最初はいきなりそう言われてびっくりした。それも博士が冗談を言うような顔では到底無かったからこそだ。もはやその表情に確信を抱いているくらいには。


「正確には死ぬというより、死者を死後の世に送る……或いは転生者として別の生命体に魂を宿し、現世に送る巫女の役割を担うこととなる。今回の戦いは、そんな転生者である大蛇君の辿ってきた道と今を決別させるための戦い……言わば現実と宿命(ゆめ)の乖離、及びその宿命(ゆめ)を終わらせる戦いだ。信じられないのも無理はない。元々彼の存在自体信じられないものだったんだ。だって、『彼だけ今から過去に遡っていく運命の中で生きている』だなんて言っても信じるはずがないでしょ?」

「……うん」

「だから君だけに言ったんだ。君は鈴白家唯一の禁忌魔法に選ばれし者。そして遥か昔に存在した、女神(ヴィーナス)一族の三女シエスタ・ヴィーナス。更に巫女の役割を担う絶対条件は、女神一族の血を引く者である事。エレイナちゃんは末っ子だから、現状必然的に寧音ちゃんがその後を継ぐことになる。今のアカネちゃんの後にね」

「……」


 次々と語られる事を、私は案外容易に受け入れられていた。理由なんて一つしかない。妹を助けてくれた彼を幸せにするため。今まで伝えられなかった感謝を、恩返しを果たすため。自分の死に、後悔も未練も無い。やっぱり彼の隣は朱音が相応しい。私も……彼の事が好き。でもそれ以上に……あんな兵器にされた妹に、人として……普通の女の子として老いるまで生きてほしい。身体がなければこの身を捧げるつもりだ。私にとって何より大事なその二人を、今は一番に優先したい。


「……分かった。そこまでつれてってほしい」

「は、早いね判断が……やり残したこととか、無いの?」

「……それが、これからやる事だよ……」

「そ、そっか……分かったよ。じゃあ、始めるね。今までありがとね、寧音」

「うん……短かったけど、楽しかった」


 ふわりと笑みを浮かべると、博士もにこりと微笑んだ。その瞳が僅かに潤っていたのは気のせいだろう。


「――元利君」

「……やっとか」


 まるでこの事実を事前に知っていたかのように元利さんが驚くほど速く目覚めては私の後ろまで飛んだ。いや、寝たふりしていた、あれは。


「うん。おまたせ。これが本題だから。僕は今から大蛇君の所へ行ってくるよ……辛いけど、後は頼むね」

「……そっちこそ、あっけなく死んでくれるなよ」

「ははっ、まさか。戻ってからすぐ銀行でお金おろしていかないといけないからね。死にたくても死ねないよ」

「ふっ――お前みたいな奴に、もっと早く出会えていればな」


 口元を緩め、柔らかく微笑んだマヤネーンは目を瞑った瞬間、白い光に包まれて消えていった。ここに残るは私と元利さんのみ。あとはこのままこの命が絶たれるのを待つのみ。


「――」


 元利さんが何かぶつぶつと呟き始めた。詠唱だろうか。分からない。どの道私には知った所でその事実を確かめる事は無いのだから。 


「――」


 剣を召喚する音。手に収まり、その重さがはっきりと伝わるような音が耳に入り込んでくる。まるで処刑だ。


「――あいつに伝えてくれ。弟を……ありがとうってな」

「……!」


 突如元利さんが私に呟き、思わず息を呑んだ。その言葉で、彼もまた彼女に助けられてきたんだと思わせられた。


「――うん。私こそ、妹を……ありがとうって、伝えて」

「……忘れなければな」


 元利さんが剣を頭上に振り翳し、優しく微笑んだ。その頬を伝う涙が見えた瞬間――視界は刎ねられた。





 そして今に至る。今の私は巫女服に身を包み、その役割を全うするべくここにいる。肉体は捨ててきた。今宿っているこの身体は代々受け継がれる初代死生の狭間の巫女の肉体――私の母のものであった。何だか複雑な気持ちだけど、まずは何より――


「――目、覚めた?」

「……お母、様?」


 今この瞬間にもやってきた、この子(朱音)を彼の元へ導くことだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ