第二百九十八話「夢の果て」
――意識が脳を伝って身体に感覚を宿らせる。口と鼻を囲うようにマスクのようなものがついている。左腕に僅かな痛みが生じる。だけど、自然と身体は健康なように感じる。
「……」
ゆっくりと瞼を開く。ぼやけた視界が徐々に鮮明になっていく。その先に映るはいつか見たのと似た病院の天井。そしてこの空間を照らす電灯の白い光。そしてその更に目の前で様子を伺う灰緑色の髪の少女と目が合った瞬間、少女は笑みと共に大粒の涙を零した。
「っ……! 良かった……良か゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
力強く俺を抱きしめながら、少女は泣き出した。きっと、心配させたんだろう。長く……ずっと長く、待たせてしまったのだろう。
「……ごめん。ずっと、辛い思いをさせてしまった」
それしか、俺の口から出る言葉はなかった。何も口出したくなかった。今はただ、彼女の苦しみに、悲しみに少しでも寄り添う事しか出来なかった。
「ばかっ……ばかぁっ……! ぜっだいっ……ぐすっ、許゛さ゛な゛い゛ん゛だ゛か゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!」
「……許さなくていいよ。全部、背負うつもりだから。これから少しずつ、最後まで償うよ。君に犯してしまった、最大の過ちを」
「ぐすっ……執行猶予なんか、あげないんだがらっ……!」
「あぁ、だから最後まで監視してくれよ……朱音」
「ぐすっ……脱獄なんて、しないでよねっ」
二人にしか伝わらない判決で、一度失った二つは一つとなった。その日の星空は織姫と彦星が再会を果たしていた――




