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黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》  作者: Siranui
終章 終着輪廻決戦編
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第二百八十二話「好転、絶望、復活」

 Anomaly:呪命之原獣神・アグリゲートと融合したアズレーン・シューベルの討伐

 遂行者:涼宮凪沙



 上空から人影達がそれぞれ地に足を着ける。私が呼んだわけでは無い。でもこの事を既に知っていた。事前に連絡もしてないし、こんな作戦も練っていない。


 ――ただ、覚悟が出来ただけなのだ。禁忌同士で精神世界にワープするリスクとこれから起こる戦いに対しての、覚悟が。


「――『星暈之流舞(ダンシングプリズム)』!」


 先に攻撃を仕掛けたのは星野羽衣音だった。エメラルド色の双剣を左右の手にそれぞれ握りながら突進し、今にも足に氷が張り憑いて動きが封じられているアズレーンに向けて踊るように舞いながら剣を振る。


「何゛人゛来゛よ゛う゛と゛結゛末゛は゛覆゛せ゛ぬ゛の゛だ゛。我゛の゛理゛に゛変゛革゛は゛訪゛れ゛な゛い゛っ゛!! 『始祖魔宝第五(しそまほうだいご)変颯質死(アクロギスタ)』!」


 地面がビスケットのように粉々に砕け散りながら波打つ。正に大地の津波。あらゆるものを飲み込み、無に帰す。変革を望むイレギュラーを正すための力。


「うわっ、何これぇー!!」


 迫りくる波に全員が一斉に左右に分かれて波を避ける。それに併せてアズレーンを挟み込むように二人の剣士が正面を睨みながら鞘から刀を抜く。


「――『恋鐘之刀(こがねのとう)甜逆之雷刄(てんぎゃくのらいじん)』」

「――『言音之刀(ことねのとう)澄火之波刃(すみかのはじん)』」

 


 恋鐘の青白い刃と言音の朱色の刃がすれ違うように迸り、直後アズレーンの周囲に無数の斬撃が瞬く。しかしアズレーンの身体に傷が何一つつかない。


「そ゛の゛程゛度゛か゛!」

「まだ終わりじゃないよ! 忍法『五月針(さみばり)』!」


 真上からクナイの雨が降り注ぐ。その身を簡単に突き刺し、深々と食い込んでいく。


「紗切ちゃん……!」

「皆、私に続いて!」


 紗切の声掛けで一斉に動き出す。ある者は刃を振りかざし、ある者は弓を引き狙いを定める。そしてある者は――暗きこの世界に朝を見せる。


「届いてっ……『 舞矢之光愛(ディヴァイン・ダンス)』!」


 アイドルのステージ姿のような衣装を纏う少女――丸山雛乃は一度に五本の矢を放ち、アズレーンの身体を中心に矢が舞うように自在に動き回る。


「ち゛っ゛……厄゛介゛な゛氷゛だ゛な゛……!」


 アズレーンが各方向からの連続攻撃をもろに受けながらも、両足に張り付く氷をどうにかしようと抵抗する。だが簡単に禁忌の氷は砕けず。


「――チェックメイト……ね」


 そしてついに、その時が来た。最大のチャンス。ここを逃せば次が来るまでにまた誰かが犠牲になる。それだけは避けなくてはならない。だから、今、ここで仕留める。それが私――涼宮凪沙の覚悟だから。


「君を――撃ち抜く。『蒼雷之魔弾(サタナエル)』」


 氷銃に雷が帯びる。引き金(トリガー)が引かれ、稲妻を纏った氷の弾丸が音速の速さでアズレーンの心臓を撃ち抜いた。


(決まった……!)



 ――勝利を確信したと同時に、その対価に等しい悲劇が待ち受けていた。


「――『始祖魔宝第二(しそまほうだいに)斬界理斯(キル・ディヴィアント)』」


 刹那――斬撃が世界を断った。たった一撃の衝撃波だけで、遊園地がほぼ全てが真っ二つにされ、私を含むメンバー達も斬撃の被害を受ける。


「っ……!」


 氷銃が無数の破片と化し、全身は肉塊になる寸前まで斬り裂かれる。あらゆる感触が消え、激痛へと形を変える。私だけではない。地上(ここ)にいる全メンバーも致命傷を負うレベルで負傷している。たった一撃で。



「恐゛れ゛た゛か゛? 理゛を゛創゛っ゛た゛我゛が゛始゛祖゛の゛力゛を゛」


 始祖の魔術。それがアズレーンの……いや、アグリゲートと融合した今のアズレーンが持つ魔術なのだろう。もしや、始祖神というのが彼なのかもしれない。私達は今、正に絶対神ともいえる存在に武器を構えて戦っているのだ。今思えば、これほど無謀な戦いは無いのだろう。



(あーあ……ほんと、勝ち目のない戦いって、嫌い)

 

 一瞬で広場が血の池と化し、戦場の跡地かと思うほどに切り刻まれたメンバー達が倒れている。いずれにしろ死ぬのは時間の問題だ。



(皮肉だよね。勝ち目が無かったら最初から戦わないでしょ、普通。でも、国のためだとか誰かのためだとかって変に戦うための言い訳をする。もうそんな時代じゃないのに……でも、それでもさ)



 信じちゃうんだよね。どんだけ勝ち目のない戦いでも、もし僅かでも勝ち目が芽生えたらって――




「――ようやく、この時が来たか」


 何度も戦火の爆風に吹き飛ばされ、最終的にはここ――フリーフォールを囲う柵の前で倒れる未来の自分(黒神大蛇)の姿があった。右腕は肩から指先まで全て失われており、全身に深い切傷や風穴が見受けられる。呼吸も浅すぎてもはやしているかどうかも怪しい。それくらい今の彼は死の崖っぷちにいた。


「……長く、とても長く……俺の我儘に付き合わせてしまった」


 俺があの事件での死から輪廻という形で転生し、この魂を彼の身体に宿した時から、彼は俺という宿命に翻弄され続けた。もう戻ってこない、永久の愛を求め続けて。


「過去の愛を未来でやり直し、叶える……なんて、叶うはずなかった。なのに俺はその遠き理想郷に、お前の肉体を借りて追い求め続けた。ずっと、ずっと追い続けてきた――その結末がこの様とはな」


 あぁ、なんて情けない。彼も俺も、宿命を前に何という様だろうか。倒すべき敵……黒幕はすぐいるのに、倒せない。倒せなかった。今も彼が紡いできた仲間達がお前を救うために戦っている。俺達と同じ結末を辿るのも時間の問題だろう。


「――俺はアカネとの約束を果たすために、お前は今ある大切な仲間達のために一つの身体で同じ敵を葬ってきた。ここまで共に一心同体で生きてきた……そして今、決別の(とき)が来た」


 下半身が透過していく。いつ消えても文句は言えない。でも僅かでも足が見える限りは歩いて彼の元へ寄り添う。左手に黒く禍々しい剣を収めながら。


 そして――その刃は右肩の付け根に切れ込みを入れる。


「……八岐大蛇(おれ)の物語はここで終わりだ。あとはお前が(つづ)れ。宿命にも、過去の約束にも縛られる必要もない。これまでの過ちは全て俺が地獄に持っていってやる。だからもう恐れるな。今度はお前の手で未来(これから)を歩め。俺の歩んだ運命を、お前が終わらせろ」


 ぐっ――と、剣を掴む左手を下に力を入れる。右肩から血が流れだす。痛みなどもう感じない。どの道消える身なのだ。どちらも死ぬくらいなら、少しでも生き残る可能性のある方を助けた方がいいだろう。



「――じゃあな、未来の俺。もう呼んでも助けてやらんからな」


 視界が白く染まる。身体が完全に消えていく。右肩から下の感覚が失われたと同時に――




「――」


 闇が、俺と過去(やつ)が置いていった右腕の断面を一本の糸のように繋げる。やがてその距離は縮まっていき、俺の右肩だった部分と接続する。心臓が激しく脈を打つ。突然首を絞めつけられたかのような衝動が俺を強制的に目覚めさせた。疼く右手を左手で掴み、歯を食いしばる。過去()の記憶が一気に脳に流れ込む。



「ぁ……ぁああああああ!!!」


 流れこんでは泡のように弾けて消える。その繰り返し。記憶が消えるたびに俺の身体にある異変が生まれる。背中から八枚の黒い翼が生え、頭部から禍々しい竜のツノが生える。衣服も黒く染まり、かつての死神と呼ばれた頃を彷彿とさせる。



「――今までありがとう。あとは俺がきっちり決着つけてやるから、地獄で見てろ」



 翼達を瞬時にはためかせ、飛び去った先は――既に消えたはずの焼け跡地だった。何故ここに来たのかは分からない。気づけば身体が先に動いていた。


「これは……」


 その理由は今映った光景が明らかにしていた。そこにはあの鈴白の残骸があったのだ。しかしそれはハロウィン戦争の時に見たのとは全く別物のように思えた。気になって右手を鈴白に触れようとした途端、鈴白が宙に浮き、空中で全ての部品が分解される。


「――!」


 黒い残骸達は徐々に元とは異なる物へと形を変え、組み合わさっていく。煙突にあたる部品の両端に柄と刀身と思われるものを作り出す。無数の部品が収束し、それぞれその形と思われるものを確信に変えていく。

 次第に列車――いや、機神は一振りの剣へと化し、色は違えどその姿に思わず反命剣(リベリオン)の面影を重ねてしまう。


「鈴白、お前……」


 剣が完成し、やがて俺の右手にその重みが伝わる。何故か少し、この剣からとくんっ――と優しい鼓動を感じた。一緒に終わらせよう――と、手を握ってくれている感覚がした。


「……八岐大蛇最後の任務、果たしにいこうじゃねぇか」


 再び羽ばたく。絶望で満ちる広場で戦う仲間を死なせないために。この宿命を、その元凶であるかつての養父を葬るために。



 『黒き英雄』黒神大蛇は、復活した。全てを終わらせる……終焉をもたらす邪竜として。

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