第二百七十一話「遊園地に奏でる刃音」
激しい猛攻を続けるも、全て受け流されてしまう。感情的になりすぎているのか。だが今の俺はそれを頭で分かっていても身体が言う事を聞いてくれない。
「ぐっ……! ぁあああっ!!」
ただひたすら、怒りだけを乗せて剣を振り続ける。しかし弾かれる一方のまま時だけが流れる。
「流石に大蛇君でさえこの事実に冷静さを欠いたか。あれほど戦いにおいて冷静さを失うなと言い聞かせておいたのに……ね!」
「ちぃっ……!」
ジャリィィンッ――と、刃同士が激しく滑り合う音が遊園地上に鳴り響く。刀を持つ右手が頭上に持っていかれ、更にその隙を突くようにアズレーンがこちらに向かいながら跳び、左足による回し蹴りを俺の右頬に喰らわせる。
「っ……!」
身体は激しく後方に吹き飛び、そのままメリーゴーランドの馬を支える細い柱をへし折り、中心にある柱に激しくぶつける。
「野郎っ……」
反撃しようと刀を持ち構えるが、その余裕すら与えてくれずに次の攻撃が迫ってきた。今度は正面から剣を突き刺す気だ。……と、思いきや、アズレーンは目の前で回りだすメリーゴーランドの馬達を横一閃に薙ぎ払って破壊し、馬に飛び乗ってすぐに剣を突き刺す。それを俺はギリギリのところで刀で防ぐ。
「どうした? 元の君を見せておくれよ。これでは君が消していった三百人の命が報われんだろう」
「……人間じゃ不服か?」
「そうだね、今の君は無関係だからね」
回りだすメリーゴーランドの中で再び鍔迫り合いが始まる。両手で掴んでいた刀から左手を離し、隙だらけのアズレーンの腹部に左手を翳す。
「あぁそうかよ……『無獄』」
「……!」
瞬時に掌から火球を生成して爆発させる。寸前それに気づいたアズレーンは前に蹴り、頭上高く跳んで後退する。
(ちっ、外したか……!)
「へぇ……まさか『心技一体』継承者が魔術を使うとはね。それも本来のものでは無く、他人に譲られたものとは……だがそれは私も同じさ」
アズレーンは悪魔のような笑みを浮かべながら左手を翳す。その時、親指にはめられていた指輪が一瞬、青白く煌めいた。
「――『始祖魔宝第五・変颯質死』」
「――!!」
刹那、地面が一気に割れ、凄まじい強風のあまり高波の如く俺に襲いかかる。
迫りゆく地割れの波に飲み込まれながら、刀で目の前に降りかかる障害物を斬っては踏み台にして飛び移り、最後は右足で思い切り蹴って跳ぶ。
「危ねぇ……なぁああ!!」
息を吐くと同時に炎が噴き出し、更に刀が紅に激しく燃え上がる。それに燃え移るように左目の周りから激しく炎が燃え始める。
「――『終無之剣・紅炎』!」
回転で助走をつけながら勢いよく下降する。炎弧を描きながら空を斬る刃の先に見えるはまだ余裕に満ちているアズレーンの顔だった。
――その余裕、一気に焼き尽くしてやる。あんたの生み出した『死の宿命』と共に。
「ぁぁあああああ!!!」
幾多に重ねた回転を纏った一閃を頭上からアズレーンに叩き込む。右手の剣で対抗するも、回転が乗った斬撃に叩き下ろされては縦一直線に地割れが発生する。そんな事など気にも止めずに俺は連撃を繰り出す。衝撃で後ろに吹き飛ぶアズレーンを追うように地を蹴る。偶然入っていったお化け屋敷で刃の交わる音が奏でる。周囲に火花が飛び散る。まさかのお化け側が怖がる貴重なシーンを目にする事となった。
「ふふっ、『指輪』の魔術を避けるどころか利用するなんて。流石は『黒き英雄』と言うべきかな!」
「俺はもう英雄じゃねぇ。てめぇの生み出した宿命に抗うだけの……ただ一つ誓った約束を果たすために生きるだけの、人間だ!」
互いに繰り出す剣戟は更に勢いを増し、突き当たりのお化け屋敷の壁を破壊し、戦場は広場へと移る。
「っ……このっ!」
ここから更に距離を詰めるべく、俺は両足で地を蹴って突進する。一秒も経たない間にアズレーンの剣を抜け、完全に隙を作った。
(ここで、斬るっ……!)
「はぁっ……!」
声を上げながら上半身を捻り、左から刀をアズレーンの首目掛けて振り払う。刃がアズレーンの肌に触れようとしたその刹那――
――悪魔はふと微笑んだ。
「――『千』」
――――瞬間、右手から肩にかけて網目に切り刻まれる。やがて鮮血を噴き出しながら微塵切りにされた右腕が地面に落ちる。
「―――っ」
持っていた刀が宙に舞う。それを手に取ろうとしたアズレーンの左手に、蒼白の閃光が迸る。閃光を纏った拳がアズレーンの左手を後ろに弾き飛ばす。
「なっ――」
「運が悪かったな。俺は手足共に両利きなんだ」
そう言い放つと瞬時に刀を逆手で握り、首ではなく心臓に位置する左胸目掛けて斬り上げる。
――紅の刃が放つ軌跡が、アズレーンの心臓を断ち斬った。




