第二百六十一話「格上の実力」
漆黒の光刃が空を裂き、この模擬戦闘室を闇に染め上げ、やがて巨大な爆発を起こした。
爆風でその場にいた全員がそれぞれ壁に強く背中をぶつけ、爆発に呑まれる――と思いきや、俺の右手に持つ剣がそれをも呑むように吸収し、元の空間へと戻った。
「――おい黒坊! いくら何でもやりすぎだろうが!! あのヒーローも流石に……」
「――俺が、どうかしたのか?」
「は……?」
刹那、油断した正義の背後をゼロヴィオンが捉え、炎を纏った左足で踵から正義の右頬目掛けて蹴り飛ばす。
「んぐっ……」
間一髪で刀を右頬近くに構えたお陰で直撃を免れたものの、正義自体は大きく吹っ飛んで派手に転がる。
「バケモンかよ……あれ喰らって生きてるどこかほぼ無傷じゃねぇかよ!」
「正義、前だ!」
「はっ……!!?」
今度はさっきまで動かなかったはずのベディヴィエルが頭上に剣を構えて叩き降ろそうとしていた。
「ったく……『倍速遅延』!」
「っ……!?」
正義の前に出た亜玲澄が左足で地面を強く踏みつけたと同時にベディヴィエルの動きが著しく遅くなる。その隙に正義の左腕を掴んで勢いよく引っ張る。直後、亜玲澄の魔術が解除され、ベディヴィエルの斬撃が先程までいたはずの正義の壁を一直線に叩き斬った。
「外したかっ……連携の上手さが一歩先に行かれたか」
ふっと笑いながら聖剣を肩に担ぎ、ふと振り返った先にはかつて死闘を繰り広げた青年の姿があった。
「――待ってたよ、大蛇君」
黒と蒼白の剣をそれぞれ両手携えるその姿を見て、ベディヴィエルは再び笑みを浮かべる。
それにつられて俺もふっ、と鼻で笑う。剣血喝祭は見られなかった、ベディヴィエル本来の目の輝きを目にしたその時に。
「……もうあんたの目に北条の濁りは残ってないようで安心したぜ、ベディヴィエル」
「ははっ、あの時は共に北条を倒すって言ってたっけ。でももうあの人はいない……ようやく、真の意味で正々堂々戦えるね」
「仮にも特訓っていう建前だが……なっ!」
両手を広げたまま地を蹴り、全身を捻って一回転しながら二本の剣を左上に平行に構え、正面で聖剣を構えるベディヴィエル目掛けて振り下ろす。
「っ……!」
「ふふっ……それにしても、まさか君があの人の背負ってたナンバーを受継ぐなんてね! 偶然にも皮肉なものだね!」
「あぁ……まったくだっ!」
刹那、両者共に剣が互いの衝撃で弾かれる。その後すぐに無数の剣戟を繰り出す。斬り掛かっては弾かれ、弾いては別方向から斬りだす。攻撃と防御の繰り返しが互いに永遠に繰り広げられる。
「――流石はアルスタリア学院が誇る生徒会のリーダーと言った所か」
「――君の方こそ、そんな私と互角に張り合えるのだから、誇ってもいいよ……君はすごいってね!」
「ちっ……!」
突如ベディヴィエルが左足で地を蹴って突進し、勢いのままに俺の腹目掛けて右足で蹴りを繰り出す。それを防ぎきれずに直撃し、大きく吹き飛ばされては壁にぶつかる寸前まで踏みとどまる。
が、その背後には炎を纏った紅のヒーローが立ち伏せていた。
「――『衝炎波動拳』」
「ちっ……!」
ゼロヴィオンの右手から激しい衝撃と共に炎の渦が発生する。同時に俺は左手の刀を逆手に持ち、小指と薬指だけで支える。空いた三本の指をゼロヴィオンに向け、同じように衝撃波を発生させる。
「『暴飲暴喰』――」
闇と炎の渦が衝突し合い、魔力爆発を起こす。両者多少後ろに飛ばされるも、それでも怯む事無く、俺はエリミネイトと刀の二刀を携え、ゼロヴィオンとベディヴィエルの二人と対峙する。
――と思っていた矢先。
「――少しはこっち見てよ、オロチ」
「寧々さんっ……!?」
ふと後ろを向き、見上げたその先には灰色がかった緑の長髪をなびかせながら微笑む少女の姿があった。
「見せて、ほしいな……妹を助けてくれた、君の力……『晴差天光』」
「っ――!!」
「黒坊っ……させるかぁああああ!」
突如迫った危機に正義が俺の名を呼びながら凄まじい速さで地を蹴って走り、刀を構える。
だが、それも時すでに遅し。寧々さんの右手が俺に翳されると同時に頭上から無数の光の槍が降り注いだ。
「くっそぉおおおお!!!!」
「ちっ……!!」
(まずいっ……両手の剣はベディヴィエルと零さんに塞がれてる。このままでは直撃する――!)
そんな俺にさえ容赦なく、光槍の雨は降り注ぐ――




